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冒大付属の磁力使い  作者: 高瀬義雄
序章 純人の立場
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第1話 氷結晶の竜姫

特別試験の日から数ヶ月を経て、全ての手続きを終えた航平は新品の制服を着ながら入学式に向かっていた。


(正直な所小中とまともな学校に行ってた記憶はないんだよな。認定試験は取ったけど。自分と同年代の人間と大勢で集団行動するのなんて初めてじゃないかな。)


一般的な義務教育をほとんど受けられなかった割には健闘している成績と言えるかもしれない。これは父親が最低限度の教育をしてくれたおかげでもあった。


(おかげでもしかしたら常識とかずれてる可能性ありそうで怖いけど、そこはもう出たとこ勝負だな。)


そんなことを思っていると自動運転のバスが開き、目的地に到着したのが分かる。


いつもの日課のメルやメースの世話をしていたので遅れてしまった。

最後の便だったがなんとか間に合いそうだ。


速く入学式が行われる体育館へ行かねばと気持ち急いでいると、明らかに見たことのある水色の角が絡まれているのを発見した。


(もう入学式始まりそうなのに何やってんだろう。)


やはり絡んでいる方も竜人であり相当目立っている。

緑の角を持ち、発達した翼を持っているのが分かる。


「アリアさん。なんで氷結晶の竜姫がこんな遠方の高校へ来たのですか。考え直して下さい。

あなたに相応しい場所はこんなところではないはずだ。」


今時聞いたことのないようなふざけた異名を放っているのは明らかにこの学校の生徒ではない。

思春期の中二病患者かな。


正直俺も人のことを言えるかは怪しい物があるかもしれない。ガウスキャノンだなんて言ってるし。

まあ名付けたの父さんだけど。


しかし彼女は()()を否定する訳ではないようでそれとは別に純粋に彼が嫌いらしい。

全身に嫌悪のオーラが出ている。


「他校の入学式にまで派閥の勧誘ですか。

余っ程暇なんですね。

私の事はもう放っておいて貰えますか。」


素っ気なく返されたが彼はまだ諦めるつもりはないようである。しかし彼女に嫌われたい訳ではないようだ。


「私の立場も考えて欲しいのですが。そもそもあなたが欲しくない派閥なんて存在しないと思いますか?」


どうしたものかと見ていると、奥から彼女に負けず劣らずの美少女二人が歩いて来たのが分かる。

例によって竜人なので知り合いのようだ。


彼女が彼らを見た途端、

「あ、先輩助けて下さい。もういい加減諦めてほしいんですよね。昔よりはましになったけど。」


そのまま新しく来た2人の方に逃げていく。


そのうちの一方ははエルフでありながら緑の角を持っている竜人だ。


もう一方は赤い角を持ち、筋骨隆々の身体を持っている。


「もう諦めな、エルグ。お前もよく粘ってんなあ。その諦めの悪さだけは見習いたいぜ。」


赤い角の彼女はかなり砕けた口調で気安く話している。どうやら今回が初めてではないようだ。


「まあ、あなたにも立場があるでしょうけど。わざわざ他校にお邪魔してまで来るなんて思わなかったわ。まだ諦めていないのね。そっちの派閥は。」


丁寧な言葉遣いで落ち着いた口調なのが見て取れる。

割と正反対な性格なのに仲は悪くなさそうだ。

息がピッタリである。


「私だってできるものならそうしているさ。

だがなぜよりによって貴方がたの所なんだ。

私は混血を否定する訳ではないが余計に派閥を刺激していることぐらいは分かるだろう。」


「そりゃあスポンサーがアリアの親父さんだしここ以外に来るわけなくね?まあ刺激してるのは確かにそうだが、んなの今更だしな。」


「私はこれでも穏健派でなんとか頭の硬い連中を止めているんだ。こちらの身にもなってくれ。

だが流石にここまでくれば何もできんだろう。

君たちは立場を理解した上でそこにいるなら私は言うことはないさ。じゃあな。」


そう言うと本当に最後なのかあっさりとした態度で去っていった。向こうもトラブルは御免なのだろう。


その後は何事もなく入学式に間に合い、

相変わらず長い校長先生の話を終えたところで解散となった。


ーー問題は彼女の志望は()()()()()だったということだろう。


特待生に成れるような学生がらわざわざハンター以外成れないようなハンター科を志望する理由は、関係者以外には想像がつかなかった。


「私、魔物肉が食べたいんです!」


純粋にただの食欲だった。


普通の竜人より()()()()()()食欲が強い彼女は在学中から仮ハンター免許が取れるハンター科を志望したというだけであった。


おまけにこれに先輩二人は面食らうどころか賛成していたのである。


「私たちもそっちが良かったって後悔してるとこなのよー。免許ないと危険地域行けないしねえ。

その辺の魔物になんか負けるわけないのに。

昔は狩場制限なんて無かったのになー。」


どちかというと狩場の占有が問題なのは、グレイス・オルグ・フレイズも分かっているが不満はある。


「よし、ムカついたからまたVRいっちょ荒らしてくっか。」


エリア・アルボス・トライフィーゼは腹いせにVRBでストレス発散するつもりとみた親友を見て、いつものことかとスルーする。


「でもアリアちゃんの実家だったら狩場ぐらい用意できるんじゃない?」


「正直狩場どうこうじゃなくてもう竜国にいるの嫌だったので。外国の美味しいものいっぱい食べたいしお父さんなんとか説得してこっちに来たんです。」


そもそも彼女たちは竜国ではどちらかというとはみ出し者である。純血が悪いという訳ではないが好き好んでいたい訳ではない。


「お、じゃあ取り敢えず一緒に飯食いに行こうぜ。

ここの学食は中々旨いぜ。」


「え、本当ですか。楽しみです。」


頭の中がお肉や色々な好物に染められて行く中、

流石に入学式におやつを持ち込まない程度の分別があった彼らは思い出したように急いで食堂へ向かった。


(グレイスさんが美味しいっていうくらいだから期待できますねこれは。)


リーナ理事長からも太鼓判を押されていたが、やはり竜人の感覚では量が心配だったのだ。


HR(ホームルーム)までは食堂で食べ明かすと決めた彼女たちは厨房から悲鳴が聞こえるまでご馳走を平らげたのだった。


都内でも評判だったあの店の焼肉食べ放題を逃したのは記憶に新しい。


そこまで高級な店ではないがそういう店こそが美味しいということを知っている彼女は落胆せざるを得なかったのだ。種族差別許すまじ。


入学式が終わった後航平はブラブラしながら適当に時間を潰していたがHR(ホームルーム)の時間に気持ち早めに向かった。


(購買で見ていたがハンター科で扱うような武器は無かったな。銃器に関してはVR訓練でしか扱えないのかもしれない。)


そもそも銃法違反になるから当然かと思いながら教室に入ると既にある程度学生の集団(グループ)が固まっているのが分かる。


少し出遅れたかなと思ったが、純人がいきなり他種族に絡んでいい顔をしてくれるかは分からない。

ただでさえ斜陽の種族なのだから。


周りを見回してみると中々の多種多様な種族が揃っている。獣人(ビーストマン)海人(マーマン)、土人、昆虫人(インセクター)など大体この世界の主要種族が殆どだ。


中でも一番多いのはやはり獣人だ。獣人の中にさらに分岐した多様な種族を持ち、地上の人類の約30%に属していると言える。


種類で言えば昆虫人も負けてはいないが彼らは未だに種族特性による王政が敷かれている国があり、民主主義には程遠い。


しかし他種族に対しては寛容で積極的な観光事業なども行っている。


他にも一見ではどの種族だか分からないような学生が多いが、やはり一番目立っているのは彼女だった。


特待生と聞いていたのになぜハンター科なのか分からないが本人はそれを気にした表情には見えない。


席順は背の高さで決まるので自分はかなり前の方になる。HRのチャイムが鳴ると先生が入って来て自己紹介から始まった。


「私がハンター科担当の菅原誠也だ。見ての通り純人で今年で34歳になる。私は主に体術クラスを担当させてもらう。各自自己紹介を頼む。」


かなり簡潔とした自己紹介だったが、元々影の薄いタイプなのかもしれない。


髪色も本人の真面目さを示すように黒く、短く刈り上げられている。


しかし身のこなしは確かで、ハンター科の教員をするに不足は感じられない。純人の教師は今時珍しいと思うが。


(元々日本は純人の国だったけど、他種族に比べて特に利点を持たず、魔術を得意としていない純人が、数を減らしていくのは当然の帰結だったって言われていたな。)


ジパングのように純人主義に染まるよりはましなのかもしれないが。


そう考えるとこのクラスに純人が教員含めて4人もいるのは珍しいと言えるかもしれない。


自分の番が来て、名前と当り障りのない自己紹介を行う。注目を集めるような人間ではないのであっさりと片付いた。


そのうち彼女の番が回ってきた。

やはりどうあがいても目立つのは避けられない容姿であるため、皆の視線が集中する。


「アリア・()()()()()()・エリストールです。趣味は美味しいものを食べることです。これからよろしくお願いします。」


少しだけざわついている生徒もいるが、コキュートスの名を知らない人はいないだろう。


そしてこの世界で絶対に喧嘩を売ってはいけない神龍の名前の一つをミドルネームに冠するということの意味を。


(なるほど氷結晶の竜姫なんて大げさでもなんでもなかった訳だ。)


HRが終わると、やはり彼女は質問攻めに会っている。

当然だろうが本人は慣れているのかむしろ気安く返している。


あの年齢であんなに大人びている学生を見るのは初めてかもしれない。


出自から自分も十分大人びていると言えなくもない航平がそんなことを思っていた。


その中にいる一人は海人の中でも甲殻人(クラブマン)に属する硬い甲殻に包まれた学生がいた。


なんとか口説こうと頑張っている様に見えるが全く相手にされていない。速攻で玉砕したが悪気は感じない男のようで険悪な雰囲気にはなっていない。


そもそもコキュートスの名を冠する女性を口説こうとする時点で、相当な覚悟がいるのだからただのナンパ男ではないのだろう。


今日は初日なのでたいした授業もなく、少しレクリエーションをして解散となった。


明日からは本格的に高校生活が始まる。さっさと帰ってメルやミストを撫でてやらねばと思い、席をたつ。


彼は誘われれば行くぐらいの社交性はあるが、やはり学校生活が短かったせいであまり友達作りは上手くなかった。元よりボッチ気質なのかもしれないが。



菅原は教師としての自信はそこまではないが、

第二の人生を提供してくれた恩人のためならばこの程度はたいしたことではなかった。


(あれが氷結晶の竜姫か。大学を飛び級で卒業できる頭脳を持っていながら竜国の教育機関を全て蹴ってこちらに来たというのは本当のようだ。

理事長の知り合いならば問題はないだろうが。)


彼は本来の仕事をすることがないように学生達の平穏を願った。


もう二度とあのような悲劇を起こさないために。










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