第4話 開幕の強化魔術で大体は実力がわかる
開幕早々レインはこの純人は理事長が推すだけの実力を持っていると確信した。
(あまり純人との実戦経験はないが強化魔術のかけ方が非常に滑らかだ。警戒心を一段上に引き上げる。)
本当に速攻で決めるつもりだったがこれでは確実に対応される。一旦落ち着いて相手の動きを見極めることにした。
ーーさて何をしてくる?
航平は相手が余程速くなければ開幕からぶっ放すと決めていた。
幸いにして自分の許容範囲内だったので予定通りに行く。
創造魔術により無骨な鉄の塊を作り出す。
それを弾丸として磁力を吸い飛ばすように展開する。
|磁力銃発射
持てる最速の動きでいつも通りぶっ放した航平は刹那
相手に当たったか確認するかを悩んだ。
しかし相手の練度を思い出し思考は次の動きに最適化した。
展開した魔力量からそこまで大きな魔術ではないと判断したレインはその感覚は合っていたがその目論見は外れたことが分かった。
何かがこちらに向けて速射されたと見るやいなや即動かなければ確実に開幕の一発を貰っていただろう。
(速い!動きを止めては不味い!)
ある程度不規則に回避行動を取りながら初めてみる魔術にどう動くべきか悩ませる。
開幕はお互い15m離れた場所から始まり向こう方はその距離で承諾したのを思い出す。
あれ程の速射ができるのであればハンデにはなっていなかったようだ。
(このVR空間は最新の設備であり、比較的広い方だが半径15m程の大きなドーム状になっている。広さは十分だがこちらにとってはむしろ不利か。)
航平は開幕の一発を避けられてからある程度撃っていたがこのままでは当たらないと見てギアを一段上げる。
いつもの魔術に回転を加え磁力回転砲を撃つ。
弾速が上がりかすったようで少し相手の動きが止まった。これなら希望が見えるがかもしれないが相手は恐らくトップスピードではない。
相手は現状回避しながらこちらの出方を伺っているようだが開幕から少し離れ相手までは約20mはある。
こうなると千日手だがまだ向こうは何をしてくるかは分からない。
(問題は2本先取だからな。分からん殺しできなければ
次が辛くなる。VR慣れしてないことを考えると体力がいつまで持つかは分からない。)
長期戦はこちらの方が不利と判断した航平は自分の手札を先に切った。
今まで速射を優先していた相手は当たらないと見るや
動きを止めた。
(明らかに魔力を溜めている。不味い!こちらも出し惜しみしている場合ではない!)
こちらも持てる魔力を身体強化に全て注ぎ込み最速で動く。竜人のような戦闘種族は他の種族と違い身体に込められる身体強化の限界値が大きい。
他の種族ではそもそも身体が耐えられないのだ。
単純に頑丈であるだけだがそれだけで有利といえる。
航平は辺境育ちであり魔物との戦いが当たり前であった。
あまり人類生存圏にいなかった彼がそれでも生き残れたのは親が魔物たちを飼い慣らす魔物使いであったためだ。
文字通弱肉強食の世界で生きてきた彼が一番恐れていたのは初見殺しだった。
どんなに強くても死ねば終わりなのだから。
だから相手が人間でも手加減というものを考えなかったためにそれは起こった。
込められた魔力が漏れて発光現象を起こすまでになるとそれは放たれた。
磁力砲発射
感じる魔力の量から中級魔術相当だったがレインは回避を選択した。
しかし咄嗟に先程魔力量からくる錯覚をしていた彼は、嫌な予感を感じ、気持ち大きめに身体を捩った。
数秒後、彼の勘は正しいことが証明されたが、判断を誤った。
体積3立方m程の鉄の塊が飛んできて避けきれず、レインの意識は闇に沈んだ。
ーー開幕からギャラリーとして見ていたラインデル教諭は自分の養子が警戒心を引き上げたことに及第点を送った。
(なんだ?何が起きている?開幕で何かを射出したのは見えたが何かを創造魔法で作ってから打ち出しているように見える。しかしそこまでの威力はないようだな。)
自分も戦闘種族の端くれ、あの流暢な身体強化を見ればあの純人がそれなりの実戦経験を積んでいることは分かる。油断できる相手でないことは一目で理解できた。
だが射出しているのはただの鉄の塊のようでそこまでの貫通力は持っていない。当たったところで痛いぐらいで済むだろう。負けるとは思ってもいなかった。
次の瞬間バカデカい鉄の塊がぶっ飛んで来てレインの身体を吹き飛ばすまでは。
「は?」
「勝者ーー麻宮航平!」
機械音によって1戦目が終わったことが分かったがすぐに動けるものはいなかった。
(あ、やべやりすぎた。)
心のなかで相手に謝っているがそうでもしないと当たる気がしなかったのだから自己正当化する。
淑女らしからぬ口を開けながらリーナは少しだけ放心していた。
(ええええええー!どう見ても人めがけて撃つものじゃないよそれーー!)
明らかにオーバーキルであることは本人も理解していたようだがVRでなければ完全にスプラッタどころかゾンビにすらならず粉微塵である。
ーー味付きサラマンポテトを食べながらアリアは最初の身体強化を見た時点でこの試合を観に来て良かったと感じた。
(確実に実戦を知っている動き、これは面白そうですね。)
最初は少し面白そうと感じたが、それ以降は単調になってしまっている。
しかしどちらも慎重なタイプであり、すぐに状況が動きそうにないと感じたその時だった。
いくらVRとは言え人体から確実に起きちゃいけない音が鳴りながら、人が吹き飛んで行くのを見たのは初めてかもしれない。
ちらりと横を見ると流石にやり過ぎだったようでリーナさんも面食らっている。
「あはは。ま、まあこれが私の親友の子の実力ってことだよ。流石に想像もしてなかったけど。」
色々言いたいことはあるがあれは確実にーー
「固有魔術ですね、あれ。私と同じような。」
消費魔力に釣り合わない現象を観ながら彼女は少しだけ興味が湧いた。