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冒大付属の磁力使い  作者: 高瀬義雄
第1章  VRBトーナメント 動乱の春大会編 前編
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第13話 旧世の忌み子 ライア・レーヴァテイン・レイフォース

赤子が焔の中で泣いている。


火に塗れてもやまぬ産声を放つその幼子は、呪いに喘いでいるのか、祝福に歓喜しているのか。


産まれた時から人でないものに取り憑かれていた彼女はいまでもソレと寝所を共にしている。


ソレが彼女に惹かれたのは本当に偶然であった。


赤竜家の()()として生を受けた彼女の両親はナニカが自分の娘に憑いているのを理解した。


聡い彼らは慌てずに赤竜家の優秀な軍属神官たちに助言を乞うた。


しかし返ってきたのは彼らをもってしても


 「ソレがナニであるか理解する事叶わず。」


というものであった。


実害が無いからいいものの只管に不気味であることに

代わりは無かった。


他に頼れるものも無かった彼らはは遂に炎神龍に直談判する事となる。


結果としては正解だったが最終的に親含め彼女は分家に左遷されたという体で今に至る。


赤竜家としては珍しく娘の身を真に案じる彼らは、それに唯々諾々として従った。


幸い本家からミドルネームだけは名乗る事を許された。


しかし忌み子に訪れる運命が平凡なものでないことだけは確かであった。





港の一角が炎獄と化していることは既に他の者も気付いていた。


近づくことが端から選択肢に無かっただけで。


余りの熱に周囲のコンクリートが溶融し始め、赤熱した黒泥は溶岩の如き色合いを放っている。


だが白炎竜は涼しい眼で対面の動きを見据えていた。


彼の周りだけは適温が保たれているが故に。


向こうは氷魔術まで使って無理矢理温度を下げているのを見ると限界はそう遠くないように見える。


敵の魔術の回避に徹してこちらからは決して仕掛けない。


このまま相手が音を上げるまで気温を上げ続ければこ

ちらが負けることはない。



だから必ず何処かで仕掛けてくるだろう。



こちらは派手な手を打たずじっくりと詰める。



逆に敵が痺れを切らしたその時が最大の好機だ。



だが決着を急ぐ敵に比べこちらの方が有利であるのにそれを感じ取れていない。


それは偏に相手の火力が高過ぎるせいだろう。


今も数メートル先で火柱を放つ(つるぎ)が唸りを上げている。


剣の切れ味など関係ない角度で振るわれた炎の柱は辺り一面を全て焦土と化す。


(本当に亜神ではないのか?だがだとしたら一体なんなんだこいつは?)


先程の反応から向こうに話すつもりはないと見た。


相手は亜竜戦争で赤竜家を襲った部隊を()()屠ったと噂を聞いたことがある。


ジャマー影響下で齢十にも満たぬ子女の功績であったため当初は騒がれたが今ではほぼ話を聞かない。


実力は高いが気紛れで気分屋である故に本国にも寄り付かず日本(ここ)に来ているらしい。


昔の伝手である程度実家の情報は入ってくる。


だがいくらなんでも現役の傭兵に殴り込みをかけられる程優秀とは聞いていない。


今でこそ主力が抜け没落しているが、それでもこの傭兵団は天竜家次期当主の飼い犬だったのだ。


竜国の軍籍学生でもない子女に遅れを取る理由はない。


だが赤竜家の子女であるため元より情報が正しくない可能性もある。


どちらにせよここは絶対に死守しなければならない。


自分は迎撃兼囮要因で防衛は得意としていないが。


本陣の防衛はゲルツのおやっさんの得手でありそれ以前に負ける想像は付かないが万が一はある。


自分はこの娘をさっさと排除して応援に向かうのが理想だろう。


そしてついに待ち望んだその時が来る。


痺れを切らした巨人が持つ剣に周囲の魔力が根こそぎ集まっていく。


既に練り込まれた魔力をこちらが先に解放する。


凝縮された魔力が白い魔力光を帯び始める。


使い慣れた銃口から収束された光の束が顔を出す。


白熱光線(ホワイトレイ)


一筋の白線が夜の闇を真一文字に切り裂く。


白い針が貫通した物質に熱の波を伝えて周囲を溶融させる。


所謂熱線と呼ばれる光が透過した物質の尽くを白に染め上げる。


(これを初見で避けられるか。厄介な。)


経験を含めこちらの方が有利である事を疑った方がいいかもしれない。


だがそれもこれも相手を殺さずこちらの大事なものを狙われない前提だ。


お上品な傭兵である自分達が竜人の学生を殺す事になれば色々と問題ではある。


団長は苦笑いだったが否定はしなかった。


捕縛して身代金を取るのが理想だがそれをさせてくれるような相手では無かったという事だ。


自分は魔術特性上生死問わず(オールキル)の依頼しか向いていないのが難点と言える。


白い雨(ホワイトレイン)


加減をせずに放った白線が辺りを根こそぎ白夜に変える。


白い光が瞬いた跡にはもう何もかも残っていなかった。


炎に漂白された地面に残っていたのは僅かばかりの魔力跡のみ。


(上か!しかしどうやって避けた?初見でここまで避けられるとなると何か訳があるな。)


いや違うか、先程まで高熱の剣を振りかざしていた巨人がいない。


上空に現れた早すぎる日光に対して眼光を向ける。


そこには華奢な体躯に心臓として太陽を組み込んだ凡そ人間とはかけ離れた存在が鎮座していた。





ーーここまでヤバい相手だと思ってなかったな。


長い付き合いの相棒に自分だけでは避けられないと告

げられた彼女は不承不承手を打った。


相棒の力を自らの痩躯に無理矢理突っ込んで鍵をかける。


巨人の心臓(レーヴァン・レオニス)


魔力が物理的に影響を与える程に圧縮されて身体中を駆け巡る。


さらに身体の各部に巨人が身に纏っていたであろう甲冑が顕現していく。


鮮やかな新緑の鱗に紅い甲冑が自己主張の強さを代弁している。


最後に魔力の核たる紅い刀身が翻る。


こうすれば暑さ等どうにでもなる。


ぶっちゃけこの姿は長く保たないので使いたくはなかったが。


それをしなければ勝てない相手なのであれば仕方がない。


しかしこの相手は冗談でも軍籍学生の採用試験で出していいような敵ではない。


(まあいいか。保険はあるらしいし。)


その程度にしか考えていない辺り彼女の無法振りが伺える。


それが許される程の力をこの齢で持っているのだが。


それでも彼女の場合は特殊に過ぎる。


自分が死んだら赤竜宗家は喜ぶ人の方が多いだろう。


得体の知れない力など実害が無くても近くに置いておきたい輩はいないからだ。


「……無茶苦茶な。その年でそこまでできるか。」


明らかに過剰な魔力を身に宿しているのに無事な状態を維持できているのが気になるようだ。


「そっちの方が無茶苦茶だよ。あれ一発でも当たったら即死でしょ。」


スルトが警告していなければ自分も今頃丸焼きだろう。


「だから今度はこっちの番だね。」


見ても分かる程に膨れた魔力が発散する。


頭上に掲げた右腕から紅剣が放たれる。


薔薇の様な刀身が数千本の針に分かたれ、標的に切っ先を固定する。


千の紅雨(サウザンド・レーヴァ)


右腕を振り下ろすと同時に紅い奔流の輝きが木霊する。


赤針が地表に突き刺さる傍から火柱が湧き上がる。


漂白された地表に炎の華が乱舞する。


最早原型を留めていない港より先程から気になっていた()も逃げ出していく。


スルトが”()()“から余り手の内を見せ過ぎるなと小言ばかり言われたのだ。


ずっと付いてくる羽虫が消えてせいせいした。


しかしこれはお互いに火力が高過ぎる。


VRでならともかく現実でやるには流石に自分も自重する。


互いに延焼を嫌って地表を避け空に舞う。


(あいつは銃からも火を噴いて移動してるなあ。)


察するに向こうの方が小回りが効くだろう。


となると遠隔で仕留めるのは無理かも。


ならばこうなる。


レーヴァテインを()()()そっちはスルトに任せる。


爆翼術で一直線に突撃する。


自分は近接(こっち)の方が好きなので丁度いい。


反応して使ってくるのは白い(ほのお)


好都合なのでそのまま叩き潰す。


握り込んだ右腕から魔力が迸る。


巨人の剛腕(レーヴァン・アムニス)


斜め上から振り下ろされた巨人の腕は魔力体であり白炎を透過して標的に肉薄する。


「ちえ、空振りか。」


手応えの無さから目と鼻の先にいた敵に外した事を悟る。


接近戦を嫌って一気に距離を離されたようだ。


スルトの補助を頼りに白い帯から逃げ惑う。


幾重もの光条がこちらを突き刺さんと踊り来る。


こう引き撃ちに徹されるとかなり面倒だ。


だが単純な出力であればこちらの方が上と見た。


(いい加減次で決めたいな。)


採用試験である以上終わればこちらの安全は保証される筈だ。


どう見ても倒せずとも合格だが。


軍籍学生でこいつに勝てる奴がゴロゴロいたら竜国は世界を征服しているだろう。


速度で勝っているこちらが少しずつ距離を縮める。


そして遂に交錯する。


白い帯が脇を通り過ぎた間を縫って飛び込んだ。


至近距離まで近づけば回避できない類の攻撃をすればいい。


巨人の閃光(レーヴァン・フレア)


自身を起点に魔力が収束する。


身体を包んだ球形の魔力から外に対して熱の波が放たれる。


白炎竜も溜めていた魔力を銃口から解放する。


しかし銃口から出てきたのは魔術のみであり釣られた事に気付く。


(温度を下げられてる!こいつ今まで全力じゃなかったな!)


堅実な白炎竜が選んだのは相手の熱波を止めるための操熱魔術であった。


竜人であれば耐えられる程度にまで低下した熱では致命傷には程遠い。


彼は得体の知れない巨人の力で接近戦をされる方が余程怖かったのだ。


鉄の穴から放たれた弾丸が自らを貫く未来を夢想する。


だがそれは虚空から実体化した巨人の手の甲により弾かれる。


自分の意思とは無関係に守ってくれる味方に感謝すると共に敵を撃滅する事だけに思考を制限する。


しかし()()より湧き上がる魔力に虚を突かれる。


(いつ仕込まれた!?)


白炎竜が地面を白に染めたのは自身の魔力痕を隠すのが真の狙いであった。


事前に弾として撃ち込んでおいた術式が正常に発動する。


そして起動式となる弾丸をもう一方の銃から撃ち込む。


魔光現象により漏れ出た魔力が白と赤の軌跡を描く。


白炎を媒介とした魔法陣により大規模魔術が行使される。


皓燿(ヴェオルグ・)業火(インフェルノ)


術式と地表の魔法陣が共鳴して込められた魔力以上の結果を引き起こす。


白き山の様に隆起する白炎がライアを包み込む刹那、


彼女の眼は自分を襲う炎(そんなもの)等見ていなかった。


敵から見て死角になる位置、自身の上後方に投げていた相棒の魔力の核が解放される。


自身の被害等微塵も考えていない動きに白炎竜が失策を悟る。


端からこいつはそのつもりだったと。


魔光現象により赤と緑の魔力の光が渦巻く。


剣の紅核が輝き出す。


収束された魔力が紅い大剣を形作る。


巨人が振るうに相応しい巨剣へと変貌したその刀身はより物理的な補強が優先されていた。


熱よりも物理(そちら)の方がこいつには効くと感じて。


巨人の剛閃(レーヴァン・レーゲン)


大質量が有りったけの力技で振るわれる。


紅い山が袈裟懸けで落ちていく。


港の一角に轟音と共に激震が走る。


白炎竜は叩きつけられた衝撃に逆らわなかった。


薄れゆく意識の中で敗因は相手の性格(タイプ)を見誤った事であると冷静に分析できていた。



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