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冒大付属の磁力使い  作者: 高瀬義雄
第1章  VRBトーナメント 動乱の春大会編
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第4話 籠の中の鳥は巣立つ

航平は部活が終わった後、電子図書館で魔物図鑑を眺めるのが日課になっていた。


疲れた身体と心を癒し、そろそろ帰るかと校門へと向かう。


今日は天人の様子がおかしかったが、竜姫が心配して付き添っていたので何かあれば分かるだろう。


そこまで親しい訳ではない航平が口を挟むことではないと考え、バス停へと向かう。


もう時間も遅く、暗闇の中からまだ部員は残っているのかなと部室の方を見てみる。


黒い塊が魔術で塀を越えて部室に突き刺さる。


目の前の異常事態を見た彼は落ち着いて様子を見る。


明らかに人のようなものを跳ね飛ばしたトラックから、武装しているように見える連中が出てくる。


彼はそこで誰かに連絡するつもりだったが、連中の中に見覚えのある傷を認めて辞めた。


自身の家族の仇を忘れた事など一度もない。


家族の命を奪った男をその眼に捉えた彼は魔術の準備をするが上手くいかない。


ジャマーで妨害されている感覚を久し振りに感じ歯ぎしりする。


あのトラックの荷台が原因と感覚で当たりをつけ、距離を取ることで物理的に妨害の範囲外に出る。


人生でも久し振りの身体強化全力疾走でひた走る。


VRB部での基礎鍛錬が早速生きていた。


魔術を準備している内に知り合いがトラックに連れ込まれそうになる。


ぎりぎりで間に合った大規模な魔術を放つ。


練り上げられた魔力が発光現象を起こす。


大型のライフル弾を模した鉄塊が回転し始める。


スコープ無しでこの距離の補正は久し振りに感じる。


磁力狙撃(ガウススナイパー)(キャノン)


慣れた仕草で中距離の対象を捉えた鉄の塊は、


狙い違わずトラックを半壊させた。


ジパングが開発した忌むべき発明を完璧に破壊した彼は、状況を見てからそのまま狙撃を続けた。


今から走って向かうよりはこちらで援護するべきだ。


標的周辺は氷の要塞が生えており、暗くてあまり撃てなかったが。


結局仇は逃してしまったのに気づく。


ジャマーを破壊しなければ魔術も使えないし仕方ないが。


一応現場に向かおうとしたが警察が来ると面倒なことになる。


よく考えたらここは日本でやっていることは正当防衛だろうが、完全に犯罪である。


辺境育ちが悪い方面に出てしまった。


母ならいいぞもっとやれと言うのであろうが。


警察にはここで魔術を使ったのがバレるだろうが、

最悪リーナ理事長に泣きつこう。


捕まっても正当防衛で問題は起きない筈だし。


ただ流石にリーナさんには連絡を入れておこう。


過去に似たような事があった彼は緩く考えていた。






徒神(アダガミ)と周りから呼ばれているその偉丈夫は遠方から高濃度の魔力を感じ取った。


それはどこかで覚えがあった魔力であり、轟音が聞こえた時、今回の襲撃は失敗したと悟った。


元は精密機械だった鉄屑を見て一瞬で魔術を行使した。


目標の竜人がほとんど同じ速度で大規模な魔術を展開している。


辛うじて氷の檻に囚われず、彼は急いでその場を離れた。


しかし肉壁を放り出した赤角がこちらにありったけの炎弾を放ちながら追い縋る。


ジパング謹製の念動魔術により、空中でジグザグに回避しながら突撃銃をばら撒く。


障壁魔術を出力任せに展開しながら竜人の女がこちらに突き進んでくる。


両翼から爆炎を噴きながら迫る女に対して仕方ねえなと懐からジャマー手榴弾(グレネード)を放る。


数秒後魔術が使えなくなる事を見越した彼女は、勢いそのまま突撃した。


しかし彼は手慣れた様子で小銃を相手目掛けて放り投げ、体重を感じさせない柔らかさで着地する。


それを弾いた力任せの竜人女の拳を左に避けて、


体勢を整え右腰に差している大型拳銃を早撃ち(クイックドロウ)で撃つ。


分かっていた彼女は横に飛び退るが鉛弾が左足をを食い破った。


止めを刺すために連射した弾丸は氷の壁に弾かれる。


また遠距離から邪魔をされた彼は改善が必要だと独りごちる。


使用可能になった魔術で逃走ルートを思い描き、最速で逃げていく。


あのガキは死んだがまあいいかと他人事のように嘯いていた。




アリアは妨害が消えた刹那、ツムギごと銀髪の純人を捉える氷の檻を顕現させた。


もちろん他の人を守るよう氷壁を展開した上で。


そこかしこで発砲音が響き渡るが、魔術の枷が解き放たれたエルフは、親友の分も含めて植物でテロリストの身体を圧し折った。


氷牢の外にいた敵は何ものかに狙撃され崩れ落ちる。


悲鳴が響き渡るが手加減などされるはずも無い。



「彼女を、離してください。」



普段の彼女からは考えられない冷たい声でそう言った。


既に下半身が半分以上氷に覆われている男は、それでも天人を離さない。


敵の首魁を追いかけていったコーチが撃たれるのを見た彼女は、遠隔に力技で壁を展開した。




淡島は人生の終焉を悟り、まだ無事な右手でこめかみに銃口を添えた。


(ちっ。ここまでか。)


いきなり遠方で高出力の魔力を確認したと思ったら

妨害装置が消し飛んだ。


あまりにも理不尽な現状を前にできることは無かった。


自分を飼っていた男は目敏く、既に姿が見えない。


竜姫にとっては別だが、この天人は他のやつに対して人質の価値などない。


テロリストの狗になってまで親の無念を晴らそうとした時点で間違っていたのだろう。


だが当時自分にはこれしか選べなかったのだ。


何の後ろ盾も無いのにジパングに喧嘩を売ることなどできない。


しかしだからといってディルク少佐の娘に手を出して生きていくのは無理だ。


元より人生死ぬか生きるかだったのだから変わらないが。


まあ良くて死亡、悪くて一生拷問だろう。


せめて死に時は自分の手で選ばせてくれ。


注意が赤角の竜人に逸れた時、引き金に力を入れる。



だが人質の筈の天人は宣った。


「生きて。死んじゃ駄目だよ。」


自らがもう死にそうな顔をしているのに何故こちらの心配をしているのか。


意味が分からないがこのバカは本気らしい。


調べた情報からとっくに壊れている筈なのに。


狼狽して隙を晒した彼は拳銃ごと意識も凍らされた。




部室の奥にいた菅原が最優先で行ったのは増援を呼ぶことだった。


魔術が使用不能の状態で、武装した純人のテロリスト十数名と交戦するのは余りにも分が悪過ぎる。


レイズが応戦している時には、既に彼はテロリストから死角になる窓を割り、這い出ていた。



自身の雇い主に端末で直ぐ様連絡を取ろうとするが、

魔術が使用されている端末では動かない。


持てる全速力を駆使して理事長室へ向かう。


ノックもせずに扉を開いたことで中の人物は驚いたことだろう。


だがそこには既に状況を把握していた理事長が、こちらを見て手招きしていた。


「菅原は無事だったのね。もう竜国側、ディルク少佐には事態を伝えたところよ。」


ハイエルフの傍系である理事長ならば大概のことは植物が教えてくれる。


植物に宿る精霊が彼女に頭を垂れるおかげだ。


この学園は敢えて緑を少なく見せているが、実はそこかしこに草木が隠れている。


「ただ向こうにも同じタイミングで情報が渡ったみたいでね。こちらに求められたのは下手に動かないこと。警察に知らせると動きにくくなるから今は辞めてくれってことだね。」


向こうにも監視の目はいたのだろう。要人と変わらない護衛が付いているらしい。


後に現場周辺に野次馬がいないことが分かり、対応は向こうで行うからこちらは重症者の手当てを頼むように言われた。


向こうの合図で救急を呼んで欲しいとのことで少し時間がかかると踏んでいたリーナは、合図が1分も経たずに帰って来たのを見て訝しむ。


(あれ、もう制圧したのかしら。いくら何でも疾すぎない?)


流石は竜国の精鋭かと思ったが、やはり現実は異なっていた。


トラックの潜伏場所まで追いかけて突入作戦を行うつもりだったが、何と学生だけでジャマーを破壊してしまったらしい。


魔術妨害さえなければ武装した純人なぞ物の数ではない。


学生だけで返り討ちにしてしまったようだ。


ただ重症者多数とのことで急いで医療関係者を手配する。


問題はこの後の記者会見やら何やらで首が回らなくなることだ。


いっそ闇に葬りたいが被害に合った学生の事を考えるとそういう訳にもいかない。


ただディルク少佐の対応次第ではそうなる可能性も充分存在していた。




2方向からの伝手で状況を把握したディルク少佐は、転移装置の緊急承認を躊躇無く行い、最悪事後承諾で済ますつもりでいた。


いくら竜人の精鋭でも1人で魔術使用不能の中人質の奪還は無理がある。


しかし部隊を招集しようとした彼は監視から状況が終了したと報告を受けた。


「詳細を。」


簡潔に先を促す。


「遠方から何者かがジャマーを破壊、現有戦力だけで襲撃者を制圧。抹殺対象(レッドターゲット)は逃走を開始。追跡は?」


「敵はジャマーをまだ所持していたか?」


「グレネードの使用を確認しています。」


「了解。深追いはせず、ジャマーを破壊した何者かを探れ。後日こちらに報告を。」


了解(イエス・サー)。」


レッドリストに乗っている者をみすみす逃がすが現地の戦力では心許ない。


逃走ルートを探ってもいいがリスクが高過ぎる。


しかし妨害装置を破壊した者の思惑が気になる。


こちらの敵ではないことは分かるが、味方にそんな知り合いはいない。


他の竜国の監視かと思ったが対応が余りにも早すぎるし、そんなことをする理由もない。


状況を見て現場判断で即遠方からジャマーを破壊など、確実に軍人ではない。


では一体誰なのかと首を捻らざるを得ない。


そのうち情報と事情を把握した彼は少し思案した後に、リーナ理事長は娘の護衛として彼を高校に入れたのではないかと結論づけた。


完全に無関係だったが彼はそれ以外に思いつかなかった。


何れにせよ直接会ってみる必要があると感じた彼は、積もる仕事を終わらせるために手を動かした。




アリアは怪我人が運ばれていき全てが終わった後、父に繋いだ。


開口一番で、


「お父様。私はディルク・シュバルツ・エリストールの娘として軍籍を得たいと思います。」


「そうか。もう決めたのだな。怪我はないのかい?」


自らの得意分野とあまり被らないかもしれないが、


娘が同じ道を歩むのならばできるだけの援助をするつもりだ。


「私には一つも。でも先輩や周りには重症者が多数出ています。」


そもそも軍籍は一般的な竜人なら大概得ている筈のものである。


親が軍の高官であるなら尚更だ。


彼女が手に入れていないのは、人生の大半を病院にいたせいで、軍閥政治に不可欠な人脈作り含め、何もできる時間がなかったからだ。


彼女の存在を覚えているのは家族と親しい友人程度だった。


本来ならば小学から派閥の関係上付き合える人間関係を把握し、中学では人脈作りに励む。


しかし彼女は親の権力は強いが、同世代に味方がいないという非常に面倒な存在となってしまった。


味方に引き込めば権力上こちらが下手に回らざるを得ない。


だが子供の頃は親の権力より頭数の方が強い。


それに病み上がりでお荷物の彼女を歓迎する派閥など存在しなかった。


結局どの派閥にも入れてもらえず、孤独な学生時代を過ごした。


籠の鳥であった彼女が、友達の輪に順応するのにも時間がかかった。


だがずっと引き籠もっていた鳥が、すぐに羽ばたけることなど誰も想像すらしていなかった。


彼女はその才を発揮する頃には、彼らに靡く理由など無かった。


復帰してから数ヶ月で竜人としての基礎を叩き込み、

満足に身体が動かせているのは、彼女が天賦の才を持っていたからに他ならない。


卒業する頃には手のひらを返し始めた連中から距離を置いた。


そんな彼女が国外に出るのは必然だったのだろう。


「私は今まで甘えていたのでしょう。お父様が守ってくれていたのが理解できました。」


監視の目は常に張り巡らされているようだ。


いるのは分かっていたがそれを悟らせない腕が有るのだろう。


しかしそれとは別に彼女は彼が父の手の者だと勝手に納得していた。


盛大な勘違いをしている娘を前にそれも無理もないと悟る。


余りにもタイミングが良すぎた。


「言っておくと彼は私の派閥のものでは無い。」


「え。」


流石に意味が分からない。どういうことなのだろう。


「恐らくリーナ理事長の手の者なのだろう。だがそれにしては距離感が普通の高校生にしか見えない。」


それだとわざわざ特別試験をしている理由もよく分からない。


「詳しいことはリーナ理事長に聞いた方が早いだろう。今回は彼女の息のかかった組織に後始末を頼んだ。」


結局リーナは警察は呼ばず、自らの手の者で話を付けることができた。


調査の結果相手が国際指名手配されているテロリストであり、被害者が殆ど軍関係者だったためである。


テロリストの存在などいきなり公にしてもパニックになるだけだし、被害者は全員命に別状は無かったのもあった。


そもそもディルク少佐の縄張りである日本では、情報操作はお手の物である。


ここに来ているのは実家の権力が弱い者が殆どなのもある。


彼らの親に連絡を取り補償と情報提供をした上で、納得を取り付けた。


本人達にも手厚い補償を行い、逆に感謝されたらしい。


口止め料込みだが桁がおかしかったようだ。


「分かりました。それとは別に私はここの同級生を自派閥として取り込みたいと思っています。そのまま彼らと一緒に今回の黒幕にお礼をするつもりです。」


派閥を立てるのなら当然と言える。


実際彼女の周りには自分がスカウトしてもいいレベルの戦力が揃っている。


それぞれの思惑は知れないが。


娘に危害を加えるような存在でないのは既に把握している。


もし彼らに何かあっても彼女がいればどうにかなるだろう。


「彼らが本当に信用できるかは精査してからになると思いますが、どうかお力添えをして頂けないでしょうか?」


その程度ならば苦労している愛娘に力を貸すなど造作もない。


「構わないよ。使いをそちらに送るから存分にこき使ってあげてくれ。」


むしろ喜ぶだろう。彼女に助けられた者の方が部隊には多い。


「有り難う御座います。また追って連絡します。」


名残惜しいが別れを告げ、積み上がる仕事を消すことを優先する。


愛娘を傷つけようとした連中に報復をする準備は整いつつある。


何れは向こうにも足を伸ばさねばならない。


やる事は幾らでもある。




ーー父に別れの挨拶をした後彼女は考えていた。


彼女は今回の件はできるだけ親族に頼らず、自身とその派閥で蹴りを付けるつもりでいた。


親の七光りで舐められているのならば、派閥の長として、こちらに報復能力がある事を証明せねばならない。


彼女は竜人だが戦争が嫌いだった。


美味しいご飯が食べられなくなる。


だから軍人になるつもりは無かった。


自身の病気の原因の可能性もある戦禍から離れた場所にいたかった。


だが親が軍の精鋭であり、自らも才を持っているならば逃れようのない運命だろう。


我儘でどうにかなっていた今迄がおかしかっただけだ。


己の道を阻む障害になるのなら、それを蹂躙するまでと竜姫は決意する。


巻き込まれた傷心の友人は、自分でも想像を絶する環境でも諦めなかった。


ならば環境は恵まれている自分が逃げるなど許されるものかと。



氷結晶の竜姫はここに立つ。


報復を躊躇うことのない同胞と共に。




今回の事件を引き金に竜国の勢力図は変化し始める。


新たな勢力が盤上に駒を進める。


それに呼応して各勢力も蠢き出す。


第三次世界大戦以来の、動乱の時代が、やって来る。

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