第3話 初めてのVRB
「あっはっはっは!面白そう!あいつのやりそうなことだ!私も観たかったなー。」
早朝から草原に響くバカ笑いをしている女性がいる。
少し癖っ毛だが頭にゴーグルを着け、ハンター特有の銃を持っている。
もう仕事は終わっており、ゆっくりと家への帰路についている途中であった。
「最近実戦からは大分遠ざかってるけど最悪万が一でもなんとかするって言ってたから大丈夫でしょ!」
彼女以外に人はいないがよく見ると近くの魔物に向けて喋っているのが分かる。
魔物狩りを生業とするとハンターだが彼女の近くにいるものたちは皆使い魔登録のタグを持っているのが分かる。
「さーて楽しみだな。帰ってきたらこってり絞ってやろうっと!」
仮にも自分の息子にかける言葉としては少々厳しいものが感じられるが、これが彼女なりの親としての愛情である。まあ向けられる本人としてはたまったものではないが。
その後東京都内のホテルにてーー
「良いかレイン。相手はあの理事長が我ら竜人にとって不足なしとみなしている学生だ。
間違いなく普通の純人ではあるまい。」
レインはライルデン教諭の子供の中でも選りすぐりであり将来は軍籍が確定している。
「しかし本当に開幕から本気でやってしまってよろしいのでしょうか?」
「構わん。理事長の顔を潰してしまうことになるだろうが後はこちらで上手く調整する。心配はいらん。」
(最低でもあの男の娘の動向はしらべておかねばならんからな。
流石に学生として入ってしまえば拒むことはできんだろう。
教諭として入ったはいいが現状ほぼ切り崩しは難しいものがある。他の派閥に先を越される前に。)
ーー迎えた特別試験と称したVRB当日。
航平はまずVR空間に慣れるところから始めたが意外にも上手くいき拍子抜けしていた。
(これならなんとかなるだろう。ここの施設がVRの中でも最先端を行っていると言うのは事実だったらしいな。ここ以外ではまた話が別になってくるかもしれないが。)
となると問題は相手の実力になってくるが正直なところ出たとこ勝負だろう。
銃の使用は許可されておらず魔術と肉弾戦になるだろう。たいがいの竜人なら自分の得意な魔術か接近戦をしかけてくるのが定石と言える。
ぱっと見翼はあるがどこまで使いこなせるのか分からないし竜人はそこまで空を飛ぶのが得意ではないはず。
空に逃げられると厄介だがその時はこちらも全力を出せばいいだろう。
一方その頃ーー
アリア・コキュートス・エリストールは人生最大レベルのピンチを迎えていた。
「竜人•••••••お断りって!!どうしてですか!!??」
本人にとっては非常に不本意ながら、お昼ご飯の焼肉食べ放題は竜人への種族差別により風前の灯火と化していた。
傾国レベルの美女が血の涙を流しそうな勢いで懇願しているのを見ると、大概の男は何でも言うことを聞きたくなるが彼らも流石に破産したくはない。
かつて店の全ての肉を1時間で平らげた竜人の団体客の悪夢を忘れることはない。
あの時は危うく倒産の憂き目にあったがあれからなんとか復活できたのだ。
竜人でもまともな客は店のペースをしっかり考えてくれるが、逆に言えばしっかり考えてくれないと容易に店の在庫を消し飛ばせるという事である。
お昼ご飯第1戦は真に残念ながらアリアの敗北で終わったがこんなもので彼女は諦めなかった。
自分の持てる力の全てを結集し竜人お断りでない焼肉食べ放題店を発見し、ちょっとだけお値段が張ったが許容範囲内である。
今日のお昼ご飯は絶対に焼肉食べ放題を食べるとキメていた彼女は最終的には勝利した。
(ふう、大満足です。)
想定外のハプニングにより、思わぬ時間がかかったが
今日は特待生枠の面接である。
消臭魔術で焼肉の匂いを消しながら冒大付属に向かう。
今日は面白いものが見られるからリーナさんが面接が終わったらVRBコロシアムに来るといいよと言われたのを思い出す。
誰かが戦うのであろうか。自分は実践経験はそこまで持っていないが見世物としてのVRBは大好きである。
むしろ嫌いな人を探すのが珍しいレベルで人気があるのだが。
既に下見はしているのでバスから降りて待っているとそこには待ち人の姿があった。
「ひっさしぶり~アリアちゃーん。元気だったー?
まあしばらく見ない間に一段と大きくなって。
アリサは元気にしてる?」
理事長の立場なのに、公衆の面前でこんなにフレンドリーでいいのだろうかと思ったがいつものことらしい。
「元気一杯ですよ。お母さんもよろしくって言ってました。ひどいんですよ。聞いてください、私の焼肉食べ放題が••••••」
お喋りを続けながらお昼の戦いを語っていると応接室に着いた。
「でもいくら特待生でもほぼ試験免除じゃないですか。いくらお父さんがスポンサーだからって大丈夫なんですか?」
「いや形式的なものだしそもそも君が落ちるわけないんだからいいのいいの。」
(というかそもそも満点だし別にこっちが何かしなくても受かってるしねえ。多少面倒を省いただけだし。)
「そういえば何か面白い物が見られるって言ってましたけど誰かがVRBでもするんですか?私も実家で散々やってましたけど久し振りにまたやりたいなぁ。」
「ちょっとね。裏道を使って親友の子供を助けてあげようとしたらそんなに上手くいかなかったよ。やっぱり悪いことできないように龍神様は見てるんだろうね。それでハンター科の特別試験として学生同士でVRBさせようという話になったんだ。」
実際にハンター科の試験として似たようなものがあるので例外という訳でもない。
「そろそろ始まるからね。行こうか。」
親友の子供とは言えリーナさんがわざわざ推薦枠を使ってまでここに入って欲しい人物とはどのような人物なのか気になる彼女であった。
自分の能力と貰った情報を照らし合わせて自分の頭で
どのように戦うのかシミュレーションしてみる。
(ここのVRB設備が最新の物で良かった。相手は竜人だし明らかにVR慣れしているであろう雰囲気だった。もしここ以外であれば慣れるのにそれなりの時間がかかったに違いない。)
審判は機械がやってくれるので問題ない。
後は開始の合図を待つのみとなった。
その時客席にギャラリーとして入って来た人物を見て
不思議な巡り合わせがあるものだと思ったが思考は
既に目の前の戦いに最適化されていった。
カプセルに入りお互いの準備が整うと開始の合図が
機械により行われる。
(ルールは標準的なVRBで3本勝負。部位欠損表現は無し。判定は頭部の部位欠損と身体によるダメージ判定により執り行われ、身体が動かなくなるまでが限界。)
ルールを思い出していたがギャラリーとして理事長と他の人がいるのならあまり卑怯な手を使うのはやめた方がいいと思い最初は正面から速攻で行くと決めた。
「VRBReadyーーGo!!」
ビープ音と共に使われる身体強化魔術を見てお互いに
これは長い戦いになるなと感じていた。