↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒大付属の磁力使い  作者: 高瀬義雄
序章 純人の立場
24/42

第18話 コキュートスの名を冠する者

エルグは彼女が同世代でいきなり頭角を現した時

自分達の情報網に一切引っかからなかった理由が

分からなかった。


ディルク少佐の娘が天賦の才を持つが病弱であり、

病院から離れられない程の病を患っていることは周知の事実だった。


可哀想だが竜人の子供として病弱であれば

戦いを是とする彼らの中では最早いないものとして

扱われる。


だが齢にして14の夏、戻れるはずのない

彼女は戻ってきた。


その暴才で周りの全てを凍て尽くしながら。


竜人にとって人生の破滅を意味する、

魔力先天性の自己免疫疾患を、

その原因である結晶魔術の全てを支配して。


壮絶な幼少期を過ごした筈の女傑は今眼の前にいる。


今でもその勢力は成長を続けているが嘗て竜人派閥で最も勢いがあったディルク少佐は、


娘を政争の道具に使うどころか自らの派閥にも

積極的に関わらせず、彼女が思うがままに

振る舞うことを良しとした。


婚姻の相手どころか婚約まで完全に拒否し

彼女がその気になるまで触れることはないと

宣言したのだ。


竜人派閥の長としては異例と言える。

例えそれでも彼は軍人としてではなく父親として

愛娘の幸せを願ったのだろう。


そしてその判断を押し通せる程の勢力と才が

あったのも事実だ。


同世代どころか誰もが彼女に惹かれた筈だ。


それでもその眩しさを諦めきれなかったから

自分はここにいるのだ。


その彼女に確かに届くと言える程の努力はした。

血の滲むような修練の末彼女に追い縋ったのだ。

それが実るかは分からないが。


だがこの試合で風竜は過去に竜姫が同世代に対して

本気どころか半分も力を出していなかったことを思い知ることになる。



開幕からお互いは拮抗していたように見えたが、

自在に空を舞う風竜に対して翼を持たないアリアは

制空権を完全に握られており、

不利にしか見えなかった。


(相変わらず素ばしっこいですね。)


頭上を飛び回る蝿をそろそろ叩き落とそうとしていた彼女はメイフォンがあそこまでやったのならば自分もあれぐらいは問題ないと感じた。


だから彼女はその魔術を唱えた。


氷結晶時代(クリスタルエイジ)


圧倒的な魔力が展開されフィールドが氷と結晶に覆い尽くされてゆく。


大地は凍てつき地表の温度は氷点下をとうに過ぎ去り

全ての生物を拒否する永久凍土の世界が展開される。


すぐに上空に退避した風竜は上空にも展開される

巨大な結晶の塊に嫌な予感がして

即座に遠方へ離脱した。


空にまで展開された氷結晶は天候すら操作し

雪と氷の結晶が降り始める。

 

(どうやら現役プロが来ているらしいですが、

丁度いいです相手の評価をボロボロにしてあげましょう。)


このタイミングでそんなことをすればあちらのチームは阿鼻叫喚だろうが彼女には手加減をする理由は

無かった。


しかし風竜もやられっぱなしでは無い、

敵の魔術に対して対抗策を準備していた。


大竜巻群(トルネードスワーム)!


全てが凍る零下の世界に都市をまるごと飲み込めそうな竜巻の群れが出現する。


10を超える竜巻の群れが氷の巨大な結晶の群れと

食い合い朽ちてゆく。


純粋な魔力量では明らかに今までのスケールを

超えるエネルギーが激突している。


ゼルクの木材人形は事前に樹海を展開できたからこそ

あそこまでの量を揃えられたのだ。

それに対して素で魔術を唱えた彼らは

常軌を逸していると言える。


こんな魔術はとてもではないが町中では使えない。

戦場でもそうはお目にかかれないだろう。


VRだからこそできる最大級の魔術合戦が展開された。


ただ彼女はもう何れは自分の事もバレるのならば

一緒にやってしまおうと考えた。

風竜王はようやくこちらを諦めてくれたのだ。


なら真実を知らされずに振り回されたその跡取りが

それを知る権利はあると考えた。


ーーエルグはこの規模の魔術を唱えてなお、敵が何をしてくるかを予測し、事前に彼女の情報収集をした結果から、まだ敵の底は見えていないと判断していた。


現代において神龍の名をミドルネームに冠することは

既に忘れ去られた慣習として久しい。


それでも喧嘩を売るのを躊躇う程度の威嚇としては十分である。


神龍のネームバリューは伊達ではない。


だがそれは現代の人類の感覚である。

悠久の時を生きているとされる神龍にとって

それはなお彼らの中では重要な意味を持つ。


逆に神龍の名前を騙るような愚か者がいなかったせいでその意味は人々の頭から消えていった。


そもそも過去数千年神龍に認められるような傑物が

人間社会に殆どいなかったのだ。


だから一部の彼らに近い竜人以外は

神龍の名を冠する真の意味を知らなかった。


それが今日ここに証明された。


異質過ぎる魔力が彼女を別人と誤認させる。


神(・)龍(・)の(・)魔(・)力(・)を(・)纏(・)っ(・)た(・)竜(・)姫(・)が地上から空にいる筈の風竜を見下ろしている。


神(ディヴァイン)龍魔装(ドラゴニックフォース)


無いはずのない翼を魔力で形成し、白銀の魔力が

彼女の身体を包み込んでいた。


白銀の瞳に白銀の魔力鱗を生やし、神龍の覇気を

漂わせた龍姫が風竜を圧倒する。



エルグは神龍の魔力を見たことがあった。

自らの派閥が信仰する神龍テュポーンの御姿を

見たのは自分が跡継ぎとして身を立てる時だった。


その荘厳な魔力を前に萎縮してしまったことを

思い出したが自らが倒すべき竜人はそれと同じ気配を纏っている。


集めていた情報は正しかったのだ。

だが父はなぜこの事を黙っていたのだろう。


この事を知れば

自分とて彼女を放って置くわけがない。

しかし父は既に諦めたのだ。


ディルク少佐とは竜国の空軍として

少なからず親交を持つ。


決して悪い仲では無かった我々でも竜姫との婚約は

認めてもらえなかったのだ。


ただ付き合い故に向こうも全てを断ることは

できなかった。


だから我々の派閥だけが今も接触を許されていたのだろう。


ゼルクは本人が執着を捨てきれなかっただけだ。

確かにその美貌だけでも値千金の価値がある。


だが余計な思考をしている暇は無かった。


白銀の魔力を纏った龍姫が空を滑り、こちら目掛けて

龍魔力を練る。


その右手に見たことのない魔術印が出る。

彼女は練った魔力を昇華し、息吹として放った。


氷獄息吹(コキュートスブレス)!


右手から放たれた魔術は神龍の息吹を模して

進路の全てを凍らせながら風竜へ

極低温の息吹を吐いた。


ーーウェイン含め他の竜人はそれが神龍の魔力であるという事を理解できた者は少なかったが、


エルグにとって確実に不利な状況になった事だけは

分かった。


彼はこうなれば形振りなど

構っていられなかった。


己の魔力を賭して切り札を切った。


風(ウィンド)竜魔装(ドラゴンフォース)!


ウィンドフォール家に伝わる空戦特化型の竜魔装に

より自身の最高速度まで一気に達したエルグは、


極低温の息吹を避けながら敵がさらに追撃を放ってくるのを見据えこちらも反撃を行うつもりだった。


だが龍姫が既に左手に魔力を込め終わり魔術を

放とうとしているのを見て、


即座にその場から撤退を選択した。


氷獄(コキュートス)吹雪(ブリザード)!


氷獄の吹雪が左手から放射され、


こちらを飲まんとするが風竜魔装の機動力により


ある程度の余裕を持って避ける。


問題は敵がさらに右手に魔術を構えていることで


あった。


(次の魔術への切り替えが速すぎる!ここまで魔術の詠唱速度に差があっては勝負にならん!だがあの状態もそこまで長くは保たないはずだ。)


実際にその見立ては間違っておらず彼女はこの龍魔装

を長く続けるつもりはなかった。

時間を稼がれると面倒ではあった。


だがその目論見は暴力的なまでに濃縮された魔力によってこちらへ加速してきた龍姫が、殴り合いを選んだことで瓦解する。


至近距離から白銀の魔力を纏った拳が飛んでくる。


神(ディヴァイン)龍闘術 神龍拳


高速の銀線がこちらを掠っただけで吹き飛ばす。

空中で体勢を整えた時には次の銀線が飛んでくる。


空にいる筈なのに地上で殴り合いをしているような

感覚に陥いるが、どうせ逃げられないのであれば

こちらも接近戦をすれば良い。


竜闘術 風竜拳


風の拳が白銀の龍姫を撃ち抜く。


だが彼女はそれを無理矢理左手の白銀の魔力で反らして己の攻めを優先した。


至近距離で拳を握り込みながら魔術を展開する。


氷獄波(コキュートスウェイブ)!


近距離で避けようのない魔術が展開されたが

風竜は冷静に準備しておいた自らの魔術をぶつける。


風竜波(ウィンドウェーブ)!


押し負けたこちらが氷の波に飲まれそうになるが


翼から風を噴射して退避する。


撒き散らされた冷気を見て自らの身体の動きが鈍り始めのを自覚する。


このままではこちらの方が先に限界が来ると感じて

奥の手を切った。


大台風(ゲイルズ・タイフーン)!


全てを飲み込む台風が顕れる。


風の暴威を示すその災害は技術が発達した現在でも

国を脅かす自然の脅威だった。


その台風の目である中心で風竜は自身を要とした

大規模魔術を行使し続ける。


敵を見据え熱帯低気圧の塊を制御しながらこの戦いの終わりが近いことを察知していた。



アリアは最初この試合で神龍の魔力を使うつもりは

なかった。


また同世代に引かれ、惹かれるのを恐れたのだ。


彼女は突然降って湧いた原石で同性からの

遠慮なき嫉妬や異性からの飽くなき羨望をその身に受け、自らの異質性を理解できていた。


それでも踏み込んだのは自らが掴み取った環境で大切な友人に対して虚像を纏いたくなかったのだ。


親の介護で一般的な女子高生の趣味がない天人や

金のためにフルタイムで働いている羊人を見ていると

逃げているだけの自分が馬鹿らしくなった。


彼女達は同世代に対して必死に隠し通したかった

それを、父の情報網で既に知ってしまっていた彼女は

決めたのだ。


彼女達の実像を知っていながら

虚像を身につける自らを恥じて。


もしそれで嫌われたら泣くがその時は陰から

自分に持てる範囲で彼女達の生活を支援しようと。


それ故に彼女は行使する。

自らも始めて人に使う魔術を。


氷獄世界(ニブルヘイム)


虚像であるVR世界が全て氷に彩られていく。

世界が一瞬で銀世界と化した。

雪人でもなければ生きられない地獄が

現世に姿を現した。


台風は抗ったが氷と風では相克は起こらず、

より魔力の強い方が一方的に勝つだけだ。


空気中の水分が凍てつき始めた段階で

身体の半身を氷に埋めながらもまだ届かないかと

自身の力を儚んだ風竜はそれでも抗う。


炎台風(フレイムタイフーン)!


台風の魔力を燃料として焼き付く風を展開しながら

龍姫に突撃する。


だがそこまでだった。

自らの右拳を振るう時には既に火は凍え尽きていた。


眼前で手を振り被った状態で作られた風竜の氷像を

見ながら、人に使ってはいけない魔術がまた一つ増えたと龍姫はその使い道を考えていた。


ーー現実に帰還した時周りの反応は完全に凍えていたと思ったがそこまで自分の選んだ友達は冷たくはなかった。


「アリアちゃん。もう私はついて行けないよ。

私の身に何かあったら真っ先にアリアちゃんを

頼るよ。ウワーキレイな氷ダナー。」


代わりに現実から逃避していたが。


「ウワースゴーイ。かき氷食べ放題ですねー。

私の羊毛ならあの世界でもイキテイケルカナー。」


あんな世界雪人でもごめん被るだろう。


風竜は魔術を行使した時にはもう既に意識は飛んでおり自らの敗北を悟っていた。


(ここまでの差があるか。神龍の名を冠するということは彼らから認められ、その力の一端を渡されているという昔話は本当だったか。)


疾うの昔に廃れた慣習だがそれを調べあげた彼の

情報網は確かであったことが分かる。


「すまないウェイン。私の見立てが甘かったのだ。

彼女が神龍の魔力を持っていることは想像がついていた。対処法があるならば私も聞きたいが。」


現状ではどうやっても勝てないと断言できる魔術の差にVRでは勝ち目は感じられない。


「••••••俺もあんなものを見せられては何も言えんさ。

神龍の魔力なぞどうやったら得られるのだろうな。」


自分の生まれでは得ようのない力だろうが

どうすれば対策できるのだろうか。


しかしこれでこちらが負け越している。

スカウトが来ている今日はそれだけは不味い。


最悪相手の純人にトラウマを植え付け兼ねないが

こうなれば仕方ない。


ディルク少佐にすら一目置かれた傑物が勝利のために

体裁にこだわらないことを決めた。


(悪く思うなよ純人、俺の未来がかかっている。)



「すっげえなアリアちゃん、あんなことされたらどうしようもねえや。」


自分と同等以上の化け物が近くにいた事が分からなかった甲殻類は素直に心の中で賞賛した。


(隠してたんだろうな。ありゃ引かれかねねえ。)


「マジかよー。絶対勝てないじゃん俺。上位互換じゃねえか。」


侍は同じ属性を扱うからそんな方に宣っているがそれどころではないだろう。


「••••••同世代にこんなやつがいるのか。流石に想像もしていなかったぞ。」


狼人は負けたのもあり少し弱気になっているようだ。

あのゴーレム相手によくやったと思うが。


「ーーやっぱりディルク少佐の娘さんだね。

でもそこまで隠す意味あるかな。」


黒猫は陰で呟いているがかなり悩んでいるようだ。

彼女にしては珍しい。


「次は君ですね。頑張って下さい。」


ドヤ顔が憎たらしいがそれをしていいだけの力も

美貌もあるのが羨ましいものだ。


次に来る自分の試合はあれに比べたら地味になってしまうだろう。トリなのに盛り下がってしまうか。

彼女は悪くないが理不尽を感じる。


神龍の魔力に関してはよく分からなかった航平だが

絶対に怒らせちゃいけない人だというのは分かった。


ちょっと昔に戦車砲撃ったのを後悔した。

それ以来自分に厳しいが仕方ないと割り切る。


「まあ向こうをがっかりさせないようにするよ。」


スカウトが来ていることを知っている岩竜は追い詰められていてそれどころではないが。


そして最後の試合が始まる。


「レインを破ったと聞いて気になっていたが悪いな

純人の青年。こちらは加減する訳には行かなくなった。ウェイン・ハーヴェスト・オルノールだ。」


竜国の諜報部に属する黒曜竜に認められた岩の竜人が

自らの将来を左右するであろう絶対に負けられない戦いを前に、彼にしては余裕のない言葉を使う。


「元々されると思ってないさ。麻宮航平だ。

1戦前があんなんだったからな。先に謝っとくとあれより派手な試合はできないぜ。」


前回の試合を見て自らの魔術をどこまで切るかなんて

考える必要はなくなった航平は引かれるのを覚悟で

殺す気でやるかと考える。


辺境で毎日が戦いだった純人と悲惨な生まれでありながらその実力でここまでのし上がった岩の竜人が

相まみえる。


一つ前の試合に比べれば派手さにはかけるが壮絶な戦いが幕を開けた。


ただウェインは価値観の違いを理解していなかった。


毎日が戦場だった航平にとって負けは死ぬことと同義であったことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。