第2話 推薦枠の duble bukkingなんてあるのか
母親の知り合いだというエルフのお偉いさんから電話を受けてから数日が経った。
朝から働いている鳥人の飛行配達便を見ながら電車に向かう。
少ない荷物とともに東京郊外から電車に揺られて数時間、田舎者である航平は都立が誇る最新設備が揃えられた環境に圧倒されていた。
道中の自動運転のバスでは受験期のためそこまで学生は見受けられないが気になった二人組の竜人がいた。
彼らのうち片方は学生ではあるが竜人らしく高校生の体格ではない。
蒼い角を持ち、種族関係なく鍛えている雰囲気がある。もう一人はその保護者という感じだ。
そのうちの一人はなぜか分からないが困惑しているようにも見えた。
「ええいなぜこのタイミングで••••••仕方ない多少•••••手を使うしかないか。いいな必ず••••••」
誰かと通話していたがそこまで大きな声でもないし、バスの中でもうるさくはないので気にしなかった。
そのうち目的地に着いたのが分かり自動ドアから降り
て周りを物珍しそうに見ていた。
(魔術と科学技術の粋が詰まった最新式のVRバトル設備に電子図書館ねえ······完全に場違いだ)
バスから降りて少しの間一人でお登りさんと化していると、待ち合わせ場所のバス停にゆっくりと現れたのは一般的なエルフだった。
つい先日の出来事に比べれば衝撃が少ない方であった。
癖のない金髪にエメラルドの目、その美貌は世界的なモデルに比較的エルフが多いことを考えれば決して侮られるものではないだろう。
だが直前にそれ以上の衝撃を受けていた彼はそこまでうろたえずに済んだ。
「こんにちは、はじめまして。君が麻宮航平くんでいいかな?私は冒大付属高校の理事長を務めさせて貰ってるリーナ・アルフレッドです。電話だと分からなかったけどやっぱりどことなく面影があるね。取り敢えず本校舎の応接室に行こうか。ついて来てね。」
「こんにちは、麻宮航平です。今日はよろしくお願いします。聞きたかったんですが母とどこでお知り合いになったんですか?」
流石に人の目があるのであんな口調ではないようでホッとしたが逆にこちらが少し緊張してしまった。
「最初に聞くのがそれなんだね。昔危うい所を助けて貰ってそれ以来の中でね。まだしばらくは会えそうにないかな、時々連絡は取ってるけど。彼女は今でも元気でやってるかい?」
「むしろ元気過ぎるぐらいですね。昔から牧場が忙しくてそんなに誰かと会っているイメージが無かったので。」
軽い雑談をしながらも校舎の設備に目を奪われているとエレベーターに乗り、気がついたらもう応接室にまで来ていた。
時間が流れるのが速いなと感じ、間違いなく人生で初めて高級なソファーに座る。
(うわあふかふかだ。こりゃすごい。うちのメースの羊毛椅子に匹敵するな。)
「実は元々君の推薦枠は用意してあったんだよね。
アンナに頼み込まれていてね。【私と変わらん頭だから何とかしてくれ】と言われてるんだ。だから別に
そこまで恐縮しなくてもいいよ。」
「え、そんなこと母さんから一回も言われなかったけど。」
「推薦枠で受かると言われるとまともに勉強しなくなる可能性があるから敢えて伝えていなかったと聞いてるよ。そんなことしなくてもいいのにね。相変わらずひょうきんだねえ。」
今までの自分の努力は何だったのかと一気にテンションが氷点下まで下がってしまった。
わざわざ貯めたお金でハーフリングの塾まで行っていたのに。
「まあ君が拒否する理由がないし例え他に受かっても行くことは無さそうだしね。十分実力はあると聞いてるから。実際美味しい話ではあると思うよ。ハンターって大変だけどね。」
「まあB級以上のドラゴンとか狩って来いって言われるのでも無ければ。」
(魔物狩りの大変さは身にしみているからなあ。
割と何度か死にかけたけど。)
「流石にそこまでは言わないよ。今どき野生のドラゴンなんてそうそういないしね。
ここにサインして後はおしまい。元々決まってたことだし後は自由に館内設備を回って見るといいよ。私は忙しくてちょっと構えないんだけどごめんね。オススメはVRB鑑賞かなあ。ここはVRの中でも科学と魔術の両方の技術を高い水準で揃えているからね。」
忙しそうにしているので早めに退出しようと思ったところで応接室がノックされた。
「こちらにリーナ理事長はいらっしゃいませんか?
推薦枠の件で話し合いをしたいという方がここにいらっしゃっているのですが。」
どうやら物事はそう簡単にはいかないらしい。
自分はどうなるのだろうかと思ったがリーナ理事長は
多少眉を寄せただけで大丈夫と口でジャスチャーしながら出ていった。
それからVRB鑑賞やら電子と図書館で多少暇を潰しているとまた鳴き声がなった。
「ごめんね。麻宮くん。少し面倒なことになったかも。まだ校内にいるならこちらに来てもらえないかな。」
やはり何か面倒事かとトラブルにはある程度慣れているが早めに終わるといいなと他人事で感じていた。
応接室に戻ってみるとバスに乗っていた二人組の竜人がどうやら推薦枠を譲り渡してもらいたいとのことだった。
一般枠の応募は既に締め切られており、今から募集するのならば推薦枠の応募もとうに締切を過ぎている。
しかし自分が今日初めて推薦枠を貰ったようにしか見えないので相手方の言葉を振り切れなかったらしい。なんてこった。
完全な横槍だが向こうにも一応言い分があるので難しい。
「ですからこの子はまだ学生で純人ですがしっかりと実戦経験を持っています。いきなり現れてそのようなことを言うとはこれからのあなたの評価にも影響が出ますよ、ライルデン教諭。」
「そこをなんとかできないかリーナ理事長。私としても横槍なのは理解しているが上からの要望なのだ。
これは貸しにして構わない。」
どうにも話し合いは並行線のようだ。
正直将来有望そうな竜人よりも魔術障害持ちの純人を取るのは確かにおかしくはある。
このままではこちらの分が悪いと見たリーナはそれならばと一計を案じることにした。
「ならば2人をVRBで戦わせれば良いのではないでしょうか。勝った方が推薦枠を勝ち取るということで。」
え。まじで。戦闘種族と真面目に戦うの?ちょ勝手に決めないで。リーナさん、顔は笑ってるけど目が笑ってないんだけど。
その瞬間竜人の機嫌が一気に悪くなり文字通り竜の逆鱗を突いたようだった。
「それは我々にケンカを売っているのかね?学生の身で純人が竜人にかなうとでも?いかな理事長でも無礼ですな。」
しかし彼女はそれを全く意に介さなかった。
もちろん俺は縮こまっています。
「勘違いしないで下さい。私は彼が種族差関係なく実力で当校の推薦枠にふさわしいと感じています。」
「そこまで言うのならいいでしょう。その条件を飲みます。ルールは話し合いましょう。構わない、レイン本気で相手してあげなさい。
「はい。分かりました。ライルデン先生。」
(我々がただの学生相手に本気を出してしまったらいくらVRとは言え相手のメンタルが心配になるレベルだぞ
······理事長は一体何を考えている?わざわざVRコロシアムを使ってまで彼の実力を証明したいのか?)
(あのアンナの子供が竜人の学生に負けるかなあ。正直彼の実力は見たことなかったから私が見たいのもあるのよね。
正規の軍人ではないとは言えライルデン教諭の跡継ぎは軍属になる予定だし。まあ万が一負けてもアンナなら【そりゃ負けたあいつが悪い】って言うでしょうし。)
その後なんであんな啖呵を切ったのか問い詰めた。
「なんであんなことを言ったんですか?わざわざVRBまでしようなんて。」
流石にこんなことになるとは予想もしていなかった。
「ぶっちゃけると私が見たいんだよね。君と彼の実力。彼の方は大体知ってるけど、君は本当に未知数だから。」
確かにやってやれなくはないだろうがVRBなんてやったことないし流石に勝手が違うのではないだろうか?
「大丈夫大丈夫。万が一負けても私が最悪何とかするからー。」
「えええー!本当ですかそれ!」
「あのままだとぶっちゃけ旗色悪かったしね。
カタログスペックじゃ勝ち目ないでしょ?」
確かにまだこっちの方が有利······なのだろうか?
流石に不安になってきた。