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冒大付属の磁力使い  作者: 高瀬義雄
序章 純人の立場
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第8話 彼と彼女の決着

メイフォンは最初の攻防を見て期待外れかと思ったが、すぐに期待通りだと気づいた。


(流石に向こうの方が速いかな。)


セイズはそもそも元来殴り合いをするタイプではなく、爪による斬撃を主軸にしていた。


魔族とチーターの混血である彼女は、魔族特有の魔力弾を放ちながら爪による爪撃を放っていた。


そっちも好物である彼女は一歩も引かなかった。


四聖南雀流(しせいなじゃくりゅう) 朱雀爪


脚に集まる魔力に嫌な予感を感じたセイズは、蹴りを放たれた脚から、さらに伸びてくる爪を辛うじて躱すことができた。


(こいつ!拳どころか爪も得意か!足からも伸ばして来やがるなんて!)


無理な動きで姿勢が崩れたその隙に矢継ぎ早に畳み掛ける。


四聖西虎流(しせいせいくりゅう) 白虎爪


腕に集まり印を成す魔力に応え、両腕から本人の爪の上にさらに魔力の爪が形作られる。


西虎双爪撃(せいこそうそうげき)


伸びた魔力の双爪による斬撃から身を捩りながら、セイズはここでやらなければ殺られると感じ、躊躇なく獣化を行った。


チーター特有の斑模様がその身に浮き出て、発達した四肢の筋肉が浮き出る。


その爪が敵を切り裂き、その牙が敵を噛みちぎるのに十分な長さを持つほど大きくなった。


切り札を先に切らされた彼女はこの隙に仕留めると動いたが、やったことは相手も同じだった。


少しだけ掠った爪から魔力を消しながら、 

不吉な黒猫が彼女にその視線を突き刺していた。


(こうなればこちらの方が速い!)


全速力で突っ込んだ彼女は、自分の速度が相手を上回っている確信があり、それは間違っていなかった。


しかし、相手の獣化の本質を見誤っていた彼女は、

強烈な悪寒とともにその場を飛び退いた。


自分がいた場所に正確無比な爪が振り下ろされたのを見ると、自分は相手より速いが、相手は自分より疾いことに気づいた。


(出が疾すぎる!辛うじて見えるが接近戦は危険だ!)


獣化したチーターの獣人である自分でようやく反応できる速さである。わざわざリスクを取る必要はない。


距離を取った彼女は魔力を放つ大技を撃てずにいたが、相手も追いつけないので膠着状態になっている。


(どうすればいい?今はこちらに注意が向けられているが、こいつを逃がせば他に行く可能性もある。)


既に自らでは倒せる算段を思いつかない彼女が、最悪の可能性に思い至る。そしてこちらが思いつくことは向こうも思いついた。


逃げる彼女を追うが、向こうには射程の長い技は見えない。こうなればこちらが魔力弾を撃つだけで相手に傷が増えて行くはずだ。そして最後には大技で仕留める。


しかし彼女が大きく息を吸い込んだのを見て考えを改める。この距離で何かしてくる!


四聖東龍流(しせいとうりんりゅう) 青龍息


喉に浮かんだ四聖の印が龍の喉袋を現す。

破壊的な龍の息吹が再現され、セイズは己も大技を放たざるを得なかった。


角に込めていた魔力を解放する。解放された魔力から一直線に魔力線が放出される。凄まじき魔力の奔流同士がぶつかり合い、お互いを吹き飛ばしていた。


転がりながら体勢を整え、魔力を角に込め直す。


(あんなものまで隠していたか!ひとまず距離を取る。)


しかし背後に感じた悪寒から、既に向こうの射程圏内だと察した彼女は、やられるくらいならば相打ちを選んだ。


(ここで引けるか!)


こちらを一撃で仕留めるつもりだと気づいた時には、伸びてきた手に対して、カウンターになるよう爪を振りかぶっていた。


(そこだね。)


メイフォンはわざと相手の反撃を誘った。

相手の反撃に合わせるために。


既に振りかぶり伸びてきた手を見て、間にあわないのにどうするつもりだと訝しんだセイズは、彼女の手の甲に浮かんだ印を見て、敗北を悟った。


四聖北玄流(しせいほくげんりゅう) 玄武甲


玄武の甲羅の如き硬さの盾が手の甲に展開される。


突き出された拳と爪がぶつかり合い、一方が折れ、そのまま顔面を叩きつける。


衝撃に身を打ち据えられ、次に目を覚ます時はVRの外だと彼女は察した。また傲慢な自分の主人に何をされるかたまったものではないと、自分の未来を儚んだ。 


(ふう。思ったよりも時間かかっちゃった。)


想像よりも時間がかかったメイフォンは、これならいい練習台になるなと、時々相手をしてもらおうか考えていた。



ガルグは元々中国の中では田舎者であった。

そもそも地元の進学校に行かずに冒大付属に来ている時点で、あまり地元からは歓迎されていないのが分かる。


中国の上層部からは扱いに困る立場であった。

しかしその実力は本物で、特進科に来ている時点で優秀な部類なのが分かる。


そのガルグをして目の前の光景は異質だった。

狼の形を象った魔力が何匹も現れ、自分を包囲している。自分と同じ召喚術ではないしそもそもここはVRである。


(思ったよりも面倒くさそうだな。)


こちらが1人に対して相手は集団で攻めてくる。

問題は倒しても倒してもきりがないことだった。

ガルグは尽きない狼に痺れを切らしそうになる。


(そもそもこれは固有魔術だ。向こうが先に息切れするとは思えねえな。)


ーーヴォルフはやはり向こうはこちらを覚えていなかったなと分かってはいたが落胆した。

いいさならば思い出させてやると心に決めて。


自身の一族に継承された魔術を用い、既に亡き先代の相棒たちの霊を形どる。魔力さえあればVRで再現できるのだから、最近の技術の発達は著しいなと感じていた。


「どうした?こちらはまだまだ燃料切れにはほど遠いぞ?」


「ふん。てめえは強えな。だがつくづく勿体ねえな。こんだけ駒があるのに宝の持ち腐れじゃねえのか?」


「それはどういう意味だ?そもそもこちらが全力だと思っているのか?」


ガルグ本人が特に優れているのは、獅子の獣人特有の指揮能力と、竜人との混血から来る本人の膂力である。


獣人の方の血が濃いため、角が生えているぐらいしか種族的な特徴を持ってはいないが。


「タイマンになると思ってやりたかったんだが、てめえがそう来るならこっちにもやりようはあるさ。」


ガルグは召喚術を駆使し子飼いの魔物を引っ張り出す。問題はこいつらはVRお構い無しに対価を要求してくる点だ。


登録しておけばVRでも召喚が可能なのは有り難いが。だからできればタイマンでやりたかったのだ。


「ブレードライガー。Cランクの魔物か。それが10体。どんな対価を与えているか気になるが。中々の量と質だな。」


こちらの戦力を冷静に分析した狼人に対して、微塵も恐れていないことを感じとったガルグは、相手の戦力を上方修正した。


(だが狼一匹ずつはこいつらには敵わねえはずだ。なぜ余裕でいられる。)


「ようやく本気を出したか、ではこちらも行くぞ。」


次の光景はガルグも目を見張るものだった。

無数の狼が同族と重なり合い、その身体を膨らませ、こちらと同じ10体ほどになった。


「もはや何でもアリだな。どういう対価を支払ってんのか想像もつかねえが、てめえが普通の魔術師じゃねえのはよく理解できた。」


「俺ぐらいで驚いていては他の連中に度肝を抜かれるぞ。あの純人なんかとても見た目通りではなかったからな。」


「あん?純人なんざ最弱の種族だろうに。そこまで気を配る必要なんざあるか?」


彼の中では航平はただの砲台であった。

近づいてぶん殴ればいいだけである。

実際それは大きく間違ってはいない。


「考え方の問題だな。だからこそだ。まともにやりたくはないと感じただけだ。」


(チーム戦をする前に、そもそも狙撃で終わらせてしまえと言われた時は流石に面食らったが。)


そもそも喧嘩を売られてまともに戦う必要ないんじゃないかと言っていた。


確かに言われてみればそうだが、竜人の評価的に騙し討ちで終わらせるのは問題があるらしい。


「そろそろこちらもやろうか。何より思い出してもらうぞ。シュトーデン一族の誇りを汚したことを!」


「なんだ。敵討ちか何かか?わりいがそんなのいちいち覚えてねえぜ。」


第一VRでそんなことやる意味もない。


「構わんさ。俺個人の問題だからな!」


「じゃあもう一度てめえの誇りを折ってやるよ!」


感情的な言葉とは裏腹に、ガルグは慎重に駒を動かした。この口調にあわない慎重さこそが彼の実力に繋がっていた。


正面から3体のブレードライガーが突っ込んで行き、それに対して同数の狼が対応する。


それぞれの力は拮抗しており、すぐには決着も付きそうにない。


もう3体のブレードライガーに魔力を送り、右斜め後方から突っ込ませる。

そのまま左斜め後方からも同数を送る。

そして自らも一匹と共に突貫する。


これに対してヴォルフも全く同じ対応をし、魔物の指揮に慣れているのがわかる。


ようやく人暴れに身体を動かすことができたガルグは、渾身の一撃を放った。


獅子穿孔拳!


真っ直ぐに放たれた拳は空気を叩きながら振り抜かれた。


それを見たヴォルフは受けることはせず、流した。

自慢の毛皮に魔力を含ませ、左手で受け流しながら右の爪を振るう。


ガルグはその対応を見て本気の自分の打ち込みを相手が耐えられるか分からないと見た。


毛皮のことを考えると相手には打撃の方が良いと感じ、次の動きを決める。


そこに相手の狼が突っ込んできたのをこちらのブレードライガーが止める。


実質タイマンであればこちらの方が有利と感じたガルグが、相手の爪を弾きながら、一気に距離を詰める。


(このまま獣化を切るか?いやあいつも同じであれば先にこちらが切るのはまずい。)


このまま畳み掛けると決めて次を放つ。


獅子崩撃拳!


身長差を活かし、上から打ち下ろすように打つ。


(これなら流せねえだろ!この距離で避けられるかよ!)


避けられないと感じたヴォルフはここに来て手札を一つ切った。


自らに侍らせていた狼一体を自分の魔力として回収し、その分強化された身体能力によりぎりぎりで避けた。


しかしその分フリーになったブレードライガーがこちらにそのまま突撃する。


今度こそ一撃を入れたと感じた時、

ヴォルフはその回収した魔力を狼として放ち、ブレードライガーごと吹き飛ばす。


(ふざけんな!こいつあまりにも手慣れてやがる!というかあまりにも使い勝手が良すぎだろその魔術!)


実際にガルグはここまで汎用性の高い魔術を見たことがなかった。


そもそもこんな死霊術(ネクロマンシー)に片足を突っ込んだような術は本来は使えない。


問題は相手が魔力の塊なのにこちらのブレードライガーは召喚獣であり、消耗品なことだ。


同調(リンク)した感覚からそろそろ決めないとブレードライガーの消耗も激しい。


ここで切らないと不味いと感じたガルグは獣化を行い、先手を打った。


ライオンとしての牙や鬣が生え、爪はより強靭となり、体格も一回り増大した。


(これで仕留める!)


膂力で上回るであろうこちらの拳を当てられれば、勝てると踏んでいたガルグの読みは確かだった。


獅子豪絶拳!


完全な力技であるが、空気を叩いた音がはっきりと聞こえるレベルの拳撃が、ヴォルフ目掛けて落ちてきていた。


ヴォルフは実はこの時点で既に窮地に立たされていた。

自身の魂魔術はそろそろ底をつきそうで敵にはまだブレードライガーが残っている。


本人の意識を奪えば召喚術は消えるらしいがそもそも

やつはかなりタフだ。


一発で決めるにはこちらも全力を出す必要がある。


しかしここで彼に戸惑う理由はなかった。


自らの相棒の墓を荒らした責任はとってもらう。


狼として放っていた魔力を全て自身に戻し、右の爪に集中させることで対応した。


こうなれば先に手を打った方が速い。



ガルグはここで詰みだと感じていた。

まだ向こうは獣化を切っていないのだから。


(ちっ。負けかよ。まあそれなりに楽しめたからいいとするか。今度は現実でやろうぜ。VRなんて紛い物じゃなくてなあ。)


ところがヴォルフは、ガルグの拳が顔面に当たり意識が消えるその時まで何もしなかった。


その理由を問いただす前に、遅れて爪が首を切り裂いたガルグの意識も、暗雲の中に消え失せた。



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