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冒大付属の磁力使い  作者: 高瀬義雄
序章 純人の立場
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第7話 獲物はどちら?

リン・メイフォンは運が良かった。


使える伝手を最大限駆使してハンター科に入ったは良いものの、彼女は人の心に取り入る術は知らなかったからだ。


どうしたものかと首をひねっていたら向こうから接触して来てくれたのだ。


彼女に拒む理由はなかった。


情報源として頼れる人物が欲しかったので、これを機にディルク少佐まで伝手を作れるといいのだが。


しかし彼は信用してもいいだろうが彼が自分の欲しい情報を持っているとは限らない。


ならば知っていそうな人間に直接聞くのが一番である。教えてくれなかったらその時は向こうの情報をばら撒くなりすればいいだろう。


そういう手はいくつも習ったからだ。

まあそもそも知らない可能性もあるが。


ーー迎えたVR合同訓練当日、


アリアは一応全員何ができるのか聞いておいた。

相打ちになってしまったりしないように。


スポンサー権限によりVR施設を優先的に貸してもらうと、


「私と彼は見ていた人なら知ってるでしょうけど。改めて。」


各自魔術を適当に使って大体の適正と実力を見る。


その結果、航平とアリアは中衛でそれ以外全員が前衛であった。どちらかと言うと射程が長いのが2人しかいないためである。


「改めて見るとこんな綺麗な魔術始めて見たな。氷と結晶の魔術だなんて。」


「そうでしょう。そうでしょう。もっと褒めてもいいんんですよ。自慢ですから。」


「てか航平ずるいぞ。こんなかっけえことできるなんて。磁力砲だなんて初めて見たぜ。」


「俺の場合は固有魔術でこれと鉄の創造魔術以外ほとんど使えないからなあ。」


ある程度手の内を知っているアリアは確かに嘘は言っていないなと冷めた目で見ていた。


同時にそれを言いふらさない程度の常識はあった。

基本的に魔術はその人の飯のタネでもあるからだ。


「ーー皆結構すごいね。これなら確かに勝てるかも。」


「いやいやメイフォンちゃんがそれ言うか。俺と殴り合えるのすげえぞ。」


「••••••族長が言っていたことは本当だったな。ここまで世界が広いとは。」


「「頑張れー!応援してるよー!」」


ささやかながら応援団もいた。


アリアは軍とやり合えたとは言え学生相手に本気を出したかは分からないし、今回のメンツであれば少なくともボロ負けすることはないと踏んでいて、それはある意味では合っていた。


唯一誤算があったとすれば、この日の合同訓練は一般科、特進科、ハンター科全員の合同訓練だったことだろう。


派閥の影響を考える必要のない遊び相手は竜人なら誰でも欲していた。


竜人の軍閥政治では勝敗による影響力を考えなければならず、それを煩わしく思うのはアリアだけでは無かったのだから。


自分が楽しむためならば派閥の影響力を利用して、相手を見繕うのに躊躇いのないガルグであった。

しかしまともに戦ってくれる相手は久し振りなので、珍しく機嫌が良かった。


「おい、ヤウェンさっさと行くぞ。ようやく暴れられるんだからな。」


ヤウェン・オーヴェスト・ライノールは暴れられるなら割となんでも良かった。


混血のヤギの獣人でありながら、それに見合わない気性を持つ彼女は、同族の間ではあまり歓迎されていなかった。


存分に暴れても文句が出なければ、一緒にいる人間には頓着しなかった。


「あいよー。ホントに好きにやっていいの?」


彼女は表情があまり出るタイプではないが、その目は草食獣人のそれではなかった。


割と戦闘狂ではあるが、馬鹿になれなかった彼女は最近鬱憤が溜まりに溜まっていたのだ。


「お前もだ。イリア。暴れたいだろ?」


イリア・ラステル・アーヴェイドは学生の身でありながら狂犬として有名だった。


この混血のイタチの獣人はほとんど鉄砲玉だったせいで、故郷からは疎まれていた。


「あたしはやれれば何でもいいんだよ!好きにやらしてくれるんだよね?」


その実力が無ければ素行不良でここにも受からなかっただろう。


「構わねえ。おいエイグも来い。一応てめえもな。」


エイグ・オルウェン・ストールは混血のハイエナの獣人であり、この中では参謀を務めるタイプだったが、別に自分がいなくてもと思って行く気はなかった。


「えー俺も行くんすか?面倒な。」


ガルグはこの軽薄な男が自分よりも狡猾で、相手の強さに敏感であることを高く評価していた。


「エイグ。お前はいい加減その態度をなんとかしろ。仮にも獣王の血を引く方にその無礼は許さん。」


セイズは血に誇りを持っているようで元より彼とは相性が悪い。


「構わんさ。どうせ遊びだ。好きにやれ。」


「でもそんなに面白そうなの?ハンター科なんて聞いたこと無いよ?」


「面白そうだったぜえ。ま、行きゃあ分かる。」


その強さで出身のハンデをものともせず、獣王の再来と呼ばれた男が動き出す。


ーー合同訓練のメニューが終わり、後は自由時間となった時、纏う気配で自然と戦う相手は理解できた。


エイグは臆病だが無能ではない。これが実戦でなくてホッとした。


「ガルグさん。あいつらナニモンですか?」


実戦以来久し振りの真面目な目になって問いただす。


「お前もそう思うだろ?まさか逃げろっていうのか?」


ガルグはそんなこと微塵もするつもりはなかった。


「いや、()()()()()()方がいいっすね。あれは。」


あんなのとVRでやれるならむしろ願ってもない機会(チャンス)だと。


彼は決してガルグに心酔している訳ではないが、強者の情報には敏感だ。自分が生き残るために。


「なあるほど。ますます面白そうだ!」


お互いに利用し合う関係が一番好みであるという意味ではこの2人は意見が一致していた。


ーー始めの合図とかはどうします?


アリアが全く躊躇せずに言うと、そっちが決めていいぜと言われたので応援団にお任せした。


自然とギャラリーもできているが巻き込まれても自業自得だろう。


「その綺麗な面に吠え面かかせてやるよ!」


男の傲慢な言葉を合図にはじめー!と乾いた声が響くと、一番最初に動いたのは航平だった。


彼は相手の気配を見た瞬間、全力どころか奥の手も出す羽目になると理解し、文字通り狙いもつけずに最速で磁力砲を放った。


これに対してガルグ達は好きにやっていいと言われたので、できれば1対1(タイマン)で心行くまで遊びたい者が多かった。


だから各自すぐに散開した。


航平が放った初手に当たるような間抜けはいなかったようだが、それを見越して散弾を放っていたので、相手側の動きを固くさせることはできた。


(なるほど。あの純人が砲台か。なら先に潰さねえとな。)


横槍を入れられるのを嫌った彼らは最初の標的を決める。


その場合事が終わった後1人余るがそこは既に気にしていなかった。戦場での優先順位を間違える程、油断していい相手ではないことを自然と理解していた。


そこに結晶の吹雪が叩きつけられる。


アリアはこの時点で個人でやるよりも集団戦をした方がいいと判断した。


「囲まれないように後退して下さい!ある程度は任せます!」


しかしこれはまずい。連携では確実に向こうの方が上だろう。こちらは付け焼き刃のパーティである。


彼をフリーにさせるとは思えない。

純人の身体能力では狙われたら逃げ切れないだろう。


乱戦では間違いなくこちらの方が不利と感じたザルツは、突っ込みたい衝動と戦っていた。


(俺と鏡月で突っ込めば止められるが、相手は接近戦でも連携できそうな連中だ。流石にそうなったら鏡月はキチイだろう。)


「おいおい、逃げるだけかよ。つまんねえなあ。速くやろうぜえ!」


狩人が獲物を追いかける中、状況を動かしたのは目敏いハイエナだった。


航平に向けて仕込んでいた魔術を解放する。

一般的な火の魔術である火球を避けられないタイミングで放ろうとした。


不味いと感じたその時、タイミングを図っていたのはメイフォンも同じだった。


注意が標的に逸れた刹那突っ込んだ。


四聖西虎流(しせいせいくりゅう) 白虎脚


両脚に集中した魔力が四聖を結びながら瞬いた。


トップスピードで奔ったメイフォンは、ハイエナの顔面に当たる軌道で型に入った拳を振り被る。


(あ、やっべ。避けきれねえ。)


エイグは自分の勘も平和ボケしたと思い、一番ヤバいヤツを見逃したと最近の怠惰な生活を後悔していた。


それに対応できたのは獣人最速を誇るチーターだけだった。


ぎりぎりで彼女の拳を弾いたセイズは、VRでの遊びと思っていた自分を戒め、相手の拳の重さに驚愕した。


(この速度でこの重さ!?)


この時点で対応できる速さを持つのはセイズだけであることがわかり、彼女の敵は決定した。


メイフォンは‘‘おいで‘‘と余裕で挑発すると二人だけの世界に入っていった。


それを見ていたガルグは、珍しくエイグがやらかしたのかと思ったが、余計な事は思考の外に追い出した。


二人がいなくなると、各々やりたい相手を見定めて、個人戦をしたがるのは相手も同じだと感じたからだ。


狼人がここ一番の魔力を纏めて吶喊してきている。


「おいおいおいおい、マジで面白れェじゃねえか!」


セイズと同等の速さを誇る獣人なぞ久しく見たことがなかった。

目の前の狼人も見たことの無い魔術を使おうとしている。

これがVRで良かったと思えた。実戦だったら絶対に我慢できなかったであろうから。


ーー航平は状況が動いた時、タイプ的に自分の相手はあのハイエナになるだろうと感じていた。


だから不意を打たれた時に対応できる手は残していた。


火球をなんとか鉄の壁で逸らすと、ヤギの獣人が距離を詰めてくる。


アリアは冷静に吹雪で押し返すがそこに火球が放り込まれる。


(こっちは2対2ぐらいが丁度いいですね。)


彼と上手く連携ができるかは分からないが現状はこれが最善だろう。


ーーザルツは相手の中で一番できそうなのとやるつもりだった。あのライオンも面白そうだが先約がいるらしいので諦めた。


しかし一番強いのを引けたのは変わらなかったので満足していた。


「あんなかで一番強えの、お前だろ?」


「ーーどうだかな。やれば分かるだろ。それはこちらのセリフでもあるな。」


否定ではない時点でもう認めているようなものだが、

今日はマジでやるかと拳に魔力を込めた。


アインは一応護衛だが少々自己中心的な所のある親友を戒める立場にあった。


しかしここはVRで彼は好きにしていいと言ったのだ。

ならばこちらも普段の鬱憤を文句なく晴らせるものだ。


軍の相手をした時は立場もあったのだ。そのような柵

を取っ払って好きに戦えると知れれば相手が誰でも歓迎する。


普段護衛として抑えている虎獣人としての本能が、相手が自分にとって不足なしの強敵だと吠えていた。


鏡月は空気を読んで自分にこの相手をぶつけてくれた

味方に感謝していた。


別に何かした訳ではなく自然とそうなっただけなのたが。


「さっさとやろうぜ。どんな剣技見せてくれるのか楽しみだ。」


「んなことどうでもいいんだよ!サア!ヤろう!」


獲物を見定めたイタチが爪に魔力を込めて吠える。

彼女は相手なんて誰でも良かった。好きに切り刻めれば。


遂に始まったVRBは教師やギャラリーが見守る中、派閥の立場から好きに振る舞えない者たちの心を揺さぶるには十分だった。

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