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冒大付属の磁力使い  作者: 高瀬義雄
序章 純人の立場
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第6話 狩人と獲物

「ガルグさん。女性を呼ぶ時にお前と呼ぶのはいい加減やめてください。流石に失礼が過ぎます。」


そう言ったのは彼の斜め後ろで控えている、内側に湾曲した角の生えたチーターの女獣人だった。


「そうゆうの苦手って何度も言ってんだろ。確か言葉遣い気にするタイプじゃないって聞いてるぜ、なあ?」


「向こうが良くても貴方の社会的評価の方が問題です。申し遅れました。セイズ・オルケン・テンダーと申します。この度は我が主が失礼を。

ですが彼も悪気がある訳ではないのでご容赦ください。」


見事な礼と共に自分の仕える人物の非礼を詫びた。


「大丈夫ですよ。戦場帰りの人の物言いには慣れてますから。」


悪気は感じられない代わりに傲慢さしか感じられないが。


もう一人の角の生えた虎獣人は会話をする気がないらしく、現状を黙って俯瞰していた。


「お前俺の女にならないか?そんなタマにゃあ見えねえが。」


「断られると分かっているのになぜそんなことを言うんですか?」


彼女も一歩も引いていない。ツムギとメリルは当の昔に逃げ出していた。


「まあいいや。んなことのために来たわけじゃねえ。

ただの顔合わせだ。取り敢えず顔だけは繋いどけってうるせえからな。邪魔したな。」


どう見ても顔を繋ぐどころか絶縁レベルだが。

そう言いながら振り向き帰っていくが、最後にこちらをチラリと見る。


「あ、そうそうなんか合同でVRやるらしいからそん時お前ちょっと相手してくれよ。戦ってみたかったんだよな。」


その途端今までのやる気のない表情から肉食獣のそれへと変わる。纏う覇気から明らかな魔力が迸る。


「いい加減にして下さい。行きますよ。ガルグさん。こんな所で魔術を使う気ですか。」


いつの間にやら彼を追い越して食堂の外にいたセイズに言われ、流石に不味いと感じたのか魔力は霧散し、

ようやく退散していった。


(学生に見えなかったぞ。戦場帰りって言ってたし。しかもあいつ合同VR訓練あるって言ってなかったか?)


航平は目を着けられないようにしようと思ったが、それが上手くいく気がしない程度にはトラブルに愛されている自覚があった。


「あ、あれ誰?アリアちゃん。あんな失礼なやつ始めて見たよ!しかもなんかヤバい感じしかしないし。大体主ってどういうこと?何かの王様?」


アリアは彼女たちを巻き込む可能性があったが、もう手遅れだと感じ素直に話すことにした。


「詳しいことは省きますが、あれは学生にして竜人の軍とやりあえる練度を持っています。

そして本物の王族の血を引いているらしく、所謂高貴な出自の方だそうです。」


(しかし何が目的だったんでしょう?口調はアレですけどそこまで馬鹿なはずはないですし。)

アリアにもよくわかっていなかった。


ーーガルグは意外と面白くなりそうだと感じていた。


「なぜあそこまで威嚇したんですか?ガルグさん。

やり過ぎですよ。そもそも彼女個人ならともかくチーム戦では話にならないでしょうし。」


「いや、あれの周りにいたぜ。面白そうなのがそれなりに。護衛っていう訳じゃねえみてえだがな。まあ雑魚もいたが。そうだろ?アイン?」


食堂では一言も発しなかった銀の角を持つ虎獣人が反応する。


アイン・ゼルツ・ボーゲンはどちらかというと寡黙な男だが、護衛として彼の主の言葉には逆らわなかった。


「確かにヤバいのが一人いた。なぜここにいるかは分からんが。あれだけは一人でやらない方がいい。」


「アァ、それはもしかして俺が負けるって言いてえのか?」


不機嫌さを隠そうともしない口調で珍しく自らに逆らった護衛兼親友に檄を飛ばす。


「ああ、危険だ。」


彼にしては珍しく即決だった。


それを聞いてガルグは目の前の親友を疑おうとしたが

その目を見て認識を改めた。


嘘をついている目じゃねえ。


「なにもんだそいつは?なぜこんなとこにいる?」


「分からん。だがディルク少佐の子飼いか何かかもしれん。気をつけた方がいい。」


人の目利きには自信があったガルグだが、自分の実力が足りていなければ素直に従うだけの判断力を併せ持っていた。


(まあちょっとVRBで揉んでやるだけだしな。気にはなるがやれば分かるだろ。)


特進科の連中は影響力を考えて真面目に相手をしてくれないし、久し振りに渇きを癒せるかと思うと上機嫌になった。


(派閥のパワーバランスを考えなくていいVRBなんて願ってもねえぜ。)


得物を見つけたライオンが今か今かとその日を待ちわびていた。


ーーライオンに目を着けられた獲物たちは作戦会議をしていた。


「も、もしかして俺たちも顔覚えられてる?」


航平は嫌な予感がした時点でとっとと逃げれば良かったと後悔した。


「俺はいいぜ。任せな。面白そうだ。」


鏡月は自信満々に言った。


「仮にも女性にお前なんて言うやつは俺がボコボコにしてやんよ!」


ザルツももちろんやる気満々である。


「すいません。私のせいで多分あなた達まで巻き込みました。顔を見られていますし。私の取り巻きだと思われているでしょう。」


こういうことがあるから派閥を離れたのに、これでは意味がないとアリアは嘆いていた。


「わ、私流石に戦えないよ。あんなのと。」


「私も何が何やら。」


ツムギとメリルは最初から白旗を揚げている。


「問題はチーム戦なことです。私一人だったら何の問題も無かったんですけどね。それに間違いなく彼らの派閥は3人ではないでしょう。」


「ていうか別に負けたからといって何かされる訳じゃないだろ?じゃあ逃げ回ってればいいんじゃないか?」


航平か現実的な意見をする。


「あ、そっか。そもそも別に戦わなければいいじゃん。」


ツムギはホッとしているがアリアは浮かない顔だ。


「それは問題があるかもしれません。ハンター科の人にとっては関係ありませんが私の父にとっては良くないのです。」


「え、なんで?」


「少し長くなります。竜国が軍閥政治なのは知っていますね?私の父は軍属なのですがこの冒大のスポンサーでもあるんです。

ハンター科にはいませんが特進科や一般科には他の竜人がいます。

彼らは父と敵対派閥ではありませんが、完全な味方という訳でもありません。

身内はそもそも地元にいるのが殆どですから。

問題はあの時君たちが私の派閥だと見なされていることです。

竜人は軍閥政治の関係上戦いで負けることは政治的な意味があるのです。

ここまでくればもう分かるでしょう。」


本当に非常に面倒なことになったと航平はリアルに頭を抱えた。


「私としてはそういう派閥の性が煩わしくてハンター科に来たのです。ですがVR合同訓練では仕方がありません。」


「1回負けたぐらいでそんなに不味いの?そもそも私達学生だよ?」


「多少負けたぐらいでは問題ないのですが戦える戦力があるのに敵前逃亡は竜人にとってはご法度です。

作戦ならいいのですが。それがVRならおさらです。

学生でもその家からは取引相手がいなくなります。

問題は多少の差でなく負けた場合です。

あの男の性格から絶対に自慢するでしょう。

そうなれば父の影響力がどうやっても落ちます。」


「で、でもスポンサーなんだしそれぐらい何とかできないの?」


どうにかすることはできるだろうが父が忙しいと言っていたこの時期に余計な面倒を作りたくはない。


「最大の問題は私は派閥を作っていないのに私自身の価値が高いことにあります。

だから君たちが私の派閥だと誤解させてしまいました。

これは私の落ち度です。すみません。」


美人に謝らせると世の男は何でも許してあげたくなるというのがよくわかる。


どうしたものかと思っていると、そこにハンター科で見覚えのある狼人が現れた。


「なあ、あんたらさっきあのガルグに喧嘩売られてたよな。俺はヴォルフ・シュトーデン。俺もその話1枚噛ませてくれないか。あいつには借りがあるんだ。」


どうやら話は思ってもない方向に行きそうだ。


「それは貴方が私の派閥として戦ってくれるということですか?話を聞いていたんでしょう?」


「ああ、その通りだ。別にあんたに取り入りたい訳じゃない。あいつさえぶちのめせれば文句はない。それで縁が切れればどうでもいい。」


いきなり現れて都合のいいことを言うこの狼人をどう信用したものかと思ったが、その目は獲物しか見えていないようだ。


「情報も提供しよう。あいつらは大体6人のはずだ。後一人いれば取り敢えず戦いにはなる。

俺のことをいきなり信用しろと思っても難しいだろうから、俺の魔術を見せる。

それで信用してくれないか。」


まさか魔術まで見せるとは思わなかったアリアは少し面食らった。


「どんな事情があるのですか?それを言えないなら信用はしません。」


彼女はこういう時重要なのは実力ではなく動機の方だと分かっていた。


「俺は中国のビサリヤ高原の出身でな。

あいつの部族と俺の部族は過去に争ったことがある。その時以来の因縁だ。頼む。この通りだ。」


頭まで下げられたアリアはある程度までは信用することにして、


「いいですよ。でも連携なんてできるわけないので個人で戦ってもらいますけどいいですか?」


「当然だ。それが一番最善だろう。

分断する方法は考えなければならんが。

ガルグとやれればなんでもいい。」


途中から話についていけなくなったツムギはメリルと一緒に現実逃避をしていた。


「ねえ、メリルちゃん私達高校生で学生だよね?」


「ツムギちゃん。戻ってきてくださーい大丈夫ですよ。私達は何もしなくていいってアリアちゃんが言ってますから。」


「あれ、俺の意志は?」


「ここでまさか逃げる訳ないだろ?航平?」


「ここで逃げるなんてアリアちゃんに一生モテねえぞ航平?」


(まあ失うものがある訳でもなしいいんだが。問題は終わった後あいつに目をつけられたままだと面倒くさそうなんだよな。)


「問題はそれでも一人足りないことだな。実は一人アテが無いこともない。」


「誰ですか?知り合いのようですが。」


「リン・メイフォンていう猫の獣人なんだが。知っているか?」


「聞いたことはありますがなぜその子なのですか?」


()()()()()()()()()。」


彼ははっきりと言った。


「なぜ貴方よりも強いと?」


「一度VRでやったが俺よりも強かった。あれは確実に実戦の経験者だろう。」


彼が自分よりも強いというが彼の実力を知らないので判断のしようがない。

しかし他に当てがあるわけでもない。


「そもそも信用できるのですか?そちらの方が問題だと思いますが。」


「それに関しては俺も確証がない。すまん。だが悪いやつではない。」


取り敢えず本人に会ってみなければ分からないので放課後に紹介してもらった。


「すまない。メイフォンだったな。できれば力を貸してくれないか。事情があってな。」


一見彼女は典型的な猫の獣人であり、特別何かが優れているようには見えない。


黒髪黒目以外に派手な特徴はないようだ。


しかし見るものが見れば分かるがその身体は靭やかで鍛えられているのがわかる。


彼女は事情を聞いた後、割と二つ返事で了承した。

口数は少ないタイプのようだ。


「ーーうん。いいよ。でもその代わりーー

ガルグだっけ。終わったら彼と2人で話をさせて。」


「それは彼次第になりますが。正直こちらの要求を飲んでくれるタイプには見えませんから。」


「いいよ、それでも。2人で話したいだけだから。」


人払いをお願いしたいだけらしいが、そんなんでいいのだろうか。


そもそもどこまで信用していいのかも分からない。


こちらからお願いしているのでどちらかというと向こうのセリフだが。


そんな訳で6人目は確保できた。


まあどうせ負けたからといって推薦枠を落とす訳でも死ぬ訳でもない。


航平は本気ではあるが全力を出すつもりはなかった。




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