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冒大付属の磁力使い  作者: 高瀬義雄
序章 純人の立場
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第5話 獣人達の事情

高校生の本分は勉強である。VRBばかりしているわけにもいかない。


歴史の授業という催眠音波を聞きながら、ぎりぎりで睡魔に打ち勝った航平は、隣で爆睡している侍の寝顔を見て悩んでいた。


(よく考えたら学生のうちに実戦なんてそうそうない。義務教育も終えていない人間を戦わせるなら、VR以外でまともな手段なんて存在しないから、ここまでの設備が用意されてるんだな。)


場所によっては人の命が毎秒消えているようなこの世界で、いかに平和が享受できているかを理解できた航平は、種族関係なく親がこの国に逃げてきた理由が理解できた。

知り合いがこの国に伝手を持っていたのもあるだろうが。


「今日の世界史では隣国の歴史についてです。中国という国は獣人の国であり、今でこそ栄華を極めていますが、かつては種族的な優位性を持っているわけではありませんでした。」


自分の種族に関して説明している教師は、黎明期の時代を知っているのか、ある程度感情を込めた言葉が出てくる。


ジパングによって科学技術が発達し、銃器が広まり戦闘種族の強靭な皮膚を貫ける前までも、獣人は多種多様で動きは素早く、天性の狩人であった。


しかし世界の覇者には今一つ手が足りなかった。


しかし銃という兵器の発達によって、他種族多産の筆頭である昆虫人が種族特性の独裁に苦しむ中、

獣化(ビーストアウト)による高機動、高火力を維持できた獣人たちは、次第に大陸の中心になるのに時間はかからなかった。


種族が多すぎるが故のまとまりのなさを、実力だけで纏めることができた獣王は、竜国にすら喧嘩を売って生き延びることができたという。


「今現在彼の国が栄華を誇っている理由は、我が校の命題でもある保有するハンターの増加にあります。はるか昔から野生で狩りをしていた習性は、獣人という種のDNAに刻み込まれているのでしょう。」


科学と魔術双方の技術の発達により、魔物素材を生活の糧としてではなく、素材の一部として活かせるようにようになった現代では、需要と供給のバランスが極端に傾き始めている。


「私も一度だけ調理された魔物肉を食べさせて貰えたことがありましたが、あれはハンターになるのに十分な理由とだと言っておきます。」


退屈な内容であっても最終的には生徒を煽ることに繋げるこの教師の教鞭は、ハンター科の授業であっても手を抜いていないことの証明である。


どちらかと言うと私情が混じっているかも知れないが。


話が終わると同時にチャイムが鳴り、教師の最後の言葉を聞いたアリアは、ここに来た一番の理由を再確認して、自分の判断が間違っていなかったことを確信した。


「さーツムギちゃん。ご飯に行きましょう!私もまた速く魔物料理を食べたいです!」


完全に頭の中がご飯で埋まっている彼女は全速力で友達の手を取り、一番乗りで食堂に到着した。


台風に手を取られて食堂に飛ばされたツムギは、眠すぎて気がついたらなぜか食堂にいた。


「ほんっとっーにご飯食べるの好きだよねアリアちゃん。私魔物肉なんて高過ぎてとてもじゃないけど食べるの無理だよー。でも確かあれってすぐに腐るし高いしでハンターか超高級店でしか食べられないんでしょ?」


なぜか眠気が飛んでいたが気にしないことにして、

今日も目の前の大盛り唐揚げ定食を見ながら自分の注文したうどんをすする。


最近では最早見慣れた光景であり、食欲が減退することもなくなっていた。


「でも歴史の授業は眠いよー。なんで皆真面目に聞いてるの。」


どちらかというと殆どの人が寝ているが本人の意識が無いので分からないだけである。


「あの先生の言うことは結構ためになりますよ。今度世界の美味しいものを紹介していたたけないか、交渉してみようかと思うぐらいには。」


完全に欲望から出る悩みだったが割と本気で考えていた。



ヴォルフ・シュトーデンは族長の言葉を疑っていた過去の自分を呪っていた。


灰色の毛並みを持ち、その顔立ちから獣人の中でも狼人(ワーウルフ)に属する彼は、世界の広さに歯がゆさを隠しきれなかった。


(なぜ神龍の名を冠するものがこんなところにいる!

他にも明らかに戦い慣れている者たちが多い。ジャパンは侍の国とは言え、平和ボケした国ではなかったのか!)


大陸でも田舎者と言える彼は使える伝手を頼り、一族再興のためにわざわざ海を渡ったのだ。


地元での生活を続けることは出来ても、衰退する一族の実情をただ見ているだけというのは我慢できずに。


まずは獣人のグループに入り発言権を得ると決めた彼は自分以上にキャラの濃い彼らに振り回される側だった。


メリル・ガイズ・フォーレンは獣人の中では大人しい方であった。


獣人の中でも羊人(シープメン)である彼女はハンター科にいるが接客業ばかり達者になっていた。


羊人には珍しく巻き角ではない純白の角と金髪で、

女性にしては高めの身長と高校生らしからぬスタイルを持っている。


(えーと次のバイトのシフトは夜からですね。速く帰って宿題もしないと。)


彼女は苦学生であり、バイトをすることでなんとか食いつないでいる状況であった。


だから周りの友達が自分とは無縁な話題を出すたびに

自分の境遇を呪っていたが、これもハンターになるまでの辛抱であると我慢していた。


最近では新しい友達もできたし、自分の生活が良い方に向かっているのを感じて調子が良かった。食堂で待ち合わせをしていると待ち人が来た。


「あ、メリルちゃん!こっちこっち。アリアちゃん紹介します。メリルちゃんです。」


気がついたら友達を作っているこの人懐っこさがアリアは羨ましく感じることがある。


「こんにちは知ってると思うけど。アリア・コキュートス・エリストールです。アリアと呼んでください。」


「こちらこそ。メリル・フォーレンです。メリルと呼んでくださいね。相変わらず綺麗ですねー。アリアちゃん。」


「ありがとう。でもメリルちゃんも悪くないと思いますよ。」


「いいなー。私もそんなこと言われたいなー。私なんてこんなちんちくりんだし。」


スタイルの話ではないのだが年頃の女子高校生としてはどうしても気になるものである。


「大丈夫です。ツムギちゃんは可愛いですから。」


そういう可愛いはツムギが求めているものではない。


まだまだ大人の色気が出るには程遠い彼女は子供扱いされるとむくれるのが余計に可愛く感じるのである。


そんなこと言ってると拗ねるので適当なところでやめるとまたお喋りに花を咲かせていた。


ーーえお前ら全くアリアちゃんを誘ってないのか!?

とナンパばかりしては撃沈している甲殻類がほざいている。


「いや、そんなことしたら確実に神龍に骨の髄まで凍らされるだろ。」


航平は竜人の強さも嫌という程知っているし、神龍にも睨まれたくないのでそんな気分になったことは一時も無かった。


「鏡月は!?お前なら俺の気持ち分かってくれるだろ?」


「そもそもあの娘たぶん俺たちをそういう対象として見てないぞ。せっかく勇気を出して話しかけても沈没してるやつしか見たことないし。」


そもそも純人が他種族にモテるとは思えない。

魔術を満足に使えなかったからこそ、ジパングという国は科学技術に特化したのだ。


「どいつもこいつも情けねえやつしかいねえなあ。全く男なら武勇伝の一つもなきゃ一生可愛い子寄って来ねえぜ?」


そんなこと言ってる本人の戦績が終わってるので説得力は無かった。


故郷じゃそれなりにモテてたんだぞーと怒りながら、アホなことを考えていた男子を見ているアリアは、こちらも似たような話題をしているのに気がついた。


「え、じゃあ別にホントにただの練習台として彼と戦ってただけなの?」


彼女も自分の美貌は理解しているが完全に色気より食い気である。


「彼は私を見ても警戒心の方が勝るようで、丁度良かったんですよ。」


少しだけ思わせぶりに言ったが結果はあんなんだったのであまり効果は無かったのだろう。


ほんとーに少しだけ自分の自信を無くした。

いつか意趣返してやろうと決めている。


「そういうツムギちゃんはどうなんですか?鏡月くんとかどうなんです?」


「私は授業についていくので精一杯でそれどころじゃないよ〜。今度勉強教えてよー。」


もちろんいいですよーと言い、故郷のようにしつこい男がいない環境にリラックスしていると、やはりそういう時に限って厄介事がやって来る。


食堂の自動ドアが開き、雰囲気と態度から自信どころか傲慢さが溢れ出ている獣人が、数人の取り巻きを侍らせながらこちら目掛けて歩いてきた。


アリアは立ち上がりリストに入っていた人物を頭の中から引っ張り出す。


(ちょっと面倒ですね。適当にあしらえる程の小物じゃないか。)


わざわざハンター科にしたのはこういう面倒と距離を置きたかったからなのだが、相手の方から来るのでは仕方がない。


戸惑うツムギやメリルに大丈夫と伝える。


「こんな言葉遣いで失礼するぜ。お前が氷結晶の竜姫か。なんでハンター科になんざ行ったのか知らねえがお前にだけは挨拶しとけって煩いんでな。

ガルグ・エンレイド・ウォーレンだ。確かにいい女だなお前。」


その傲慢さに見合う端正な顔つきで、角の生えたライオンの獣人が気怠げに言い放った。

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