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第83話 一発逆転のその後

『絶喰』。

 それは、魔術師にとって天敵といっても過言ではない代物だ。

 何せ、どんな攻撃魔術を放とうと分解され、魔力として吸収されてしまう。まさに、魔術師泣かせである。


 そんな『絶喰』の弱点。

 それは『瞬放』を使用中には、発動しないという点だ。


 そして、だからこそそのタイミングでならば魔術をステインにぶつけることができる。これは、かつてレオン・オルフォウスも導き出した答えであり、ずっとステインに勝とうと持っていたリューネからすれば、とっくの昔に理解していたこと。


 無論、簡単なことではない。

 そもそも『瞬放』を使った高速移動の攻撃を予測し、タイミングを合わせる、などという高等技術をおいそれとできるはずがない。


 けれども、もしもそれを可能にすれば?

 不可能に近い。無理にも程がある。それの上で、だ。

 そのもしもを実行できれば、ステインにも魔術をぶつけることができる。


 そして、リューネはそれを実現させた。

 それも、リューネが使える魔術の中で最も効果的で凶悪な代物を。


【チェンジリング】。自分と相手の状態をまるっと入れ替える高等魔術。

 リューネは魔術を使う度に身体にダメージが入る。故に、使い続ければ、いつか身体の限界を迎えてしまう。それを克服するための魔術である。


 これによって、リューネはボロボロの状態になった途端、別の人間と自身の状態を入れ替えてきたのだ。

 魔術を使えば身体にダメージを受ける彼女にとってこれはある意味奥の手ともいえるべきもの。


 リューネが当初からこの魔術を使わなかった理由は二つ。

 一つ目は、タイミング。ステインが『瞬放』を使った攻撃をする瞬間を狙うため。

 二つ目は、自身の状態。そして、先ほどまでのリューネはまさに瀕死の状態。それを全て、ステインに押し付けたのだ。


 それら二つの条件が揃った時、【チェンジリング】は最大の効果でステインに襲い掛かる。

 事実、ステインの身体からは大量の血しぶきが噴き出した。つまり、【チェンジリング】がステインに通用した証。


 勝った。

 この瞬間、リューネは心の底から確信した。絶体絶命のところからの一発逆転。自分がずっと思い描いていた打倒ステインの作戦。

 それが成功したのだ。

 それは慢心や油断からくるものではない。

 誰だって、ずっと夢見てきたことが叶えば、そう思うに決まっているし、それは悪いことではない。


 たとえそれが……未だ甘い作戦だったとしても。


「―――ふんっ」


 次の瞬間。

 まるで、何事もなかったかのように、ステインは続けざまにリューネの頬に拳を叩き込んだ。


「ごはっ……!?」


 直撃……ではない。まずいと思い、一歩後ろに引いていたのが功を奏し、リューネはステインの一撃を軽減させることができた。

 加えて、今のステインの状態。傷だらけであり、それもあってか、本来のステインの一撃よりもかなり弱いものになっていた。


 だが、そんなことはどうでもいい。

 リューネはこれ以上なく驚いていた。

 それは痛みからくるものではない。目の前にいる血塗れの男が殴ってきたという事実に対してのものであった。


「う、そ……なん、で……」


 何度も言うようだが、今のステインは先ほどまでのリューネと同じ状態だ。身体中から血が流れ出しており、その痛みは絶大。はっきり言って、発狂レベルのものであり、本来ならば速攻で気を失う代物だ。

 だというのに、あろうことか、ステインはそんな状態で何の動揺もなく、リューネに殴りかかってきたのだ。


 信じられない。

 まさにその一言に尽きる。


「その状態で、どうして攻撃できるんだ……拳を握れるんだ……いや、そもそも何で、立っていられるんだ……!!」

「あ? どうしてもクソもあるか。多少体中から血が出てるからって何ら問題ねぇだろ」


 などと。

 まるでさも当然と言わんばかりの態度でステインは言い放った。


「っていうか、そもそもテメェだって、さっきまでこの状態で戦ってただろうが。なら、俺が倒れる道理はどこにもねぇだろ」


 言われ、リューネははっとなる。

 そうだ。自分は先ほどまでボロボロの状態でそれでも尚、戦うことができていた。ならば、目の前の男が……自分が倒したいと思っていた強者が同じく立って戦うことができるとどうして思わなかったのか。


 甘く見ていた。

 考えが足りなかった。

 そもそもにして思い違いをしていた。

 ああそうだ……この男が、【恐拳】ステイン・ソウルウッドが、この程度の傷で倒れるなどと。

 そんな奴であるのなら、自分は彼と戦うことなど望むわけがなかったというのに。


「無茶苦茶だな……全く」

「はっ。そりゃお互い様だろ」


 言いながら、ステインは拳を鳴らす。


 そんな彼を前に、リューネは考える。

 ボロボロなステインとほぼ全快の自分。どちらの状態が優位なのかは明白。

 だが、精神的なことを言えば、確実にリューネが下回っていた。当然だ。自分が長年考えた作戦がほぼ通用していないのだから。


 それは言いすぎ? 成功はしている?

 確かに。ステインは血を流しすぎている。確実に動きに影響が出るのは明白。


 だが、そんなもの些細なことだ。

 何せ……目の前にいる男の闘志はこれ以上なく燃えているだから。


「さて……んじゃ、続き、始めるとするか―――!!」


 そして。

 ステインとリューネの最後の攻防が始まったのであった。

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