第82話 転移と弱点と逆転
反撃開始。
その言葉通り、そこからはステイン優勢の攻防が始まった。
「ふんっ」
ステインの拳がリューネの肩を捉える。
しかし、リューネは即座に瞬間移動を発動。ステインの背後を取った。
人間、攻撃している時が一番無防備になる。今、ステインは攻撃を肩透かしされてしまった。そこには驚きという隙がどうしてもできてしまう。だからこそ、リューネにとっては好機。
……そのはずなのだが。
「ごっ……!?」
まるで分かっていたかのように、ステインの回し蹴りがリューネの脇腹に直撃。そのまま、リューネは数メートル程吹っ飛ばされてしまう。
地面に倒れながら、痛みに耐える彼女を見ながら、ステインは告げる。
「曰く、転移魔術には集中力が必要らしいな。そこに少しでも揺らぎがあれば、まともに発動することができない。だからこそ、転移魔術を使う人間は傷つけられることを嫌う。痛みのせいで集中できないからな。まぁ魔術を使う度にボロボロになっていくお前はある程度耐性があるんだろうが……他人からの攻撃に対しては、また別だろう?」
当たっていた。
リューネは魔術を使えば身体にダメージが入る。だが、それは想定している範囲のもの。だからこそ、耐えられるし、魔術を使ったところで問題はない。
一方で他人からの攻撃は予想だにしたいものであり、だからこそ集中力が切れてしまう。
結果、今のようにモロに攻撃を受けてしまうとその瞬間は転移魔術が使えなくなってしまう。
加えてもう一つ。厄介なことがあった。
「どうして……」
「攻撃が簡単に避けられているのか、か? 言っただろ。お前の攻撃は素直過ぎる。まぁ、それに慣れるまで少々時間はかかったが」
「まさか……この短時間で、ボクの攻撃パターンを見切ったって言うのか……!?」
その言葉に、ステインは不敵な笑みを返す。
これが、ステインが反撃開始と宣言した理由。
彼はリューネとの戦いの中でずっと彼女の攻撃を観察していた。相手の行動を予測し、対策する。これは生身の戦いだろうが魔術の戦いだろうが同じこと。
転移魔術は確かに厄介だ。だが、転移する場所と攻撃方法さえ分かっていれば防ぐことは簡単であり、逆に転移した瞬間に攻撃を叩き込むことも難しい話ではない。
無論、それは相手がどこに移動するのか、分かっていればの話だが。
「はぁ……はぁ……かはは。ああ、やっぱりキミは凄いなぁ」
「はっ。テメェこそ、そんなボロボロの状態で良く言う」
見ると、リューネの身体のところどころから血が流れていた。魔術を使った反動が痛みだけではなく、身体にまで出ているのだろう。先ほどの吐血といい、やはり生半可なダメージではないようだった。
「そんな状態で俺の蹴りを受けてもまだ意識を保ってるとはな。大した奴だ。その上で聞く……その状態でまだ続けるのか?」
たった一撃。蹴りを入れただけでその発言は、一見調子に乗っていると思われるかもしれない。
だが、ステインはそんなつもりは全くない。リューネは転移魔術を何度も使い、既に相当なダメージが入っていた。そこにステインの蹴り。恐らく骨は折れていないだろうが、ひびくらいは入っているかもしれない。
加えて、ステインはリューネの攻撃パターンを予測可能な状態にある。完全に把握したわけではないが、少なくとも身体から血を流した状態の彼女が万全な動きができるとは思えない。確実に動きに影響は出るし、そうなればますますリューネの攻撃はステインには届かない。
それらの点を踏まえての質問。
そんなステインの問いに対し、リューネは。
「逆に聞くけど……キミがボクの立場なら、諦めるのかな」
笑みを浮かべながら、そんな言葉を告げる。
そこにあるのは余裕ではない。
そこにあるのは虚飾ではない。
ただ、目の前の敵に勝ちたいが故の意思。
その表情を見て、ステインは思う。
ああ―――まだ、この学校にこんな奴がいたのかと。
「はっ、悪い。野暮なこと聞いたな」
未だ勝負を諦めていない。そんな人間に対し、最早言葉は不要であった。
「それに……こんな状態だからこそ、できることもあるのさ」
「そうかい……なら、それを見せてみろよっ」
戦闘再開。
そこから先もまた、ステイン優勢の戦いであった。
脅威的な拳。一度でも当たれば、確実に意識が飛びそうなそれをリューネは転移魔術で回避していく。だが、それは彼女にとって諸刃の剣の剣。使えば使う程、身体から血が流れ出していく。そして、ステインの予想通り、どんどんリューネの動きは悪くなっていく。
けれど、リューネの顔は死んでいない。
いや……むしろ、ようやくと言わんばかりの表情になっていた。
そして。
「そこだ」
もう何度目か分からない瞬間移動を見切り、『瞬放』を使ったステインの拳がリューネの胸中に叩き込まれる。
違和感。
リューネを確実に倒すために、ステインは今、高速移動である『瞬放』を使った一撃を放った。その判断に間違いはないと思いつつ、何かがおかしいと思い始めていた。
しかし時すでに遅し。
「ああ―――この瞬間を、待ってたよ」
放たれたステインの拳を叩き込まれながら、その腕を掴み。
「【チェンジリング】」
言い終わと同時に、ステインの全身から鮮血が飛び散ったのであった。




