第80話 真正面からの挑戦
唐突に現れた第三者の声。
それは木の上に立っていたリューネ・ロミネンスだった。
「テメェは……」
「こうして面と向かって会うのは久しぶり……って言っても分からないか。キミは、ボクになんて興味なかっただろうし、覚えてないはずだ」
飄々とした態度。まるで友人にでも話しかけるような雰囲気。
だがしかし、ステインは拳を解かない。むしろ逆に強く警戒していた。
「(ステイン。この子……)」
「(ああ。かなりできるな)」
先ほど、ステインもシルヴィアも周りに敵がいないことを確認した。だが、リューネはどこからともなく現れたのだ。それだけ気配を殺すことに長けているのか、あるいは何らかの魔術なのか……どちらにしろ、最強と最恐に気づかれずにここまで距離を近づけたのだ。ただ者でない。
「とはいえ、ボクは君と戦わなくちゃいけない。何せ、そのために彼女と手を組んで、邪魔な連中を排除してきたんだから」
その笑みの奥にある闘志。それは今か今かと待ちわびた獣のそれ。ずっとお預けをくらいながら、ようやく自由になったと言わんばかりの瞳。
ステインは知っていた。
こういう輩は、とにかく『戦いたい』という気持ちが強いことを。
一方でシルヴィアはリューネの言葉に疑問を抱いていた。
「排除してきた……?」
「おや? 気づいてないかい? もうこの選抜戦の参加者はボクらだけだ。他の連中は全員ボクが倒してきたからね」
「それは……」
流石にあり得ない、と心の中で呟くシルヴィア。
試験はまだ二日目。だというのに、残りが三組しかいないというのは、あまりにも早すぎる。
そんな彼女の心中を察してか、リューネは苦笑した。
「信じられないって顔だね。無理もない。ボクもこんなにはやく片付くとは思っていなかったから。だってそうだろう? 参加者の半分以上がボクらの側についてたっていうのに、それをキミたちはあっさりたおしちゃうなんて」
それはリューネ達の予想を遥かに凌駕する成果であり、痛手でもあった。数で押し切れば勝てる、なんて甘い考えをリューネは持っていなかった。しかし、選抜戦が始まってまだ半分を過ぎたという時点で手駒が全て無くなるなど、誰が予想できようか。
「加えて、『向こう』側……キミたちの相棒たちにもかなりやられちゃったよ。とはいえ、それもこれも杜撰なボクの相方の作戦のせいってのもあるけれど」
あきれ果てたような声音。つくづく度し難いと言わんばかりの溜息。どうやら自分の相方とやらにかなり思うところがあったようだ。
その点については敢えて聞かない。聞いたところで、ステインには関係のない話なのだから。
彼が指摘したい点は別にあった。
「その話が本当なら、どうして俺らを止めた? 俺らがやりあって、どちらかが脱落すれば、その時点でお前の勝利だっただろうが」
リューネの話が真実であれば、残りは三組。もしもさっき、ステインとシルヴィアが戦っていればどちらかが敗北し、選抜戦から退場する。とするのなら、リューネが取るべき行動は一つ。邪魔をしないこと。なにせ、何もしなければ勝手に潰しあい、勝利を手にすることができたのだから。
故に、リューネが介入してきたことは、悪手以外の何者でもない。
だが、それは一般的常識での話、だ。
「だから言っただろ? ボクはキミと戦うために選抜戦に参加したんだ。キミらが潰しあうなんて、それこそ本末転倒だ」
彼女の目的はステインと戦うこと。だからこそ、ここで彼がシルヴィアと戦うことは彼女にとって困ることなのだ。ステインが勝つにせよ負けるにせよ、リューネの目的は果たされないのだから。
そんな彼女の言い分にステインは不敵な笑みを零す。
「物好きなやつだ。そんなに俺のことを恨んでるのか?」
こんな状況になりながらも、ステインに敢えて挑むなど、余程の理由があると見える。それは怨恨か、はたまた別の目的か。
しかし、どうやらリューネはそれに答えるつもりはないらしい。
「さてね。そんなことはどうでもいいだろ? っというか、キミはそういうことを気にしない男のはずだ。違うかい?」
「ああそうだ」
ご尤も。
どんな理由があるにせよ、戦いを挑まれたのならば、ステインが取る行動はただ一つのみ。
「悪いな、鉄仮面」
「私は構わない。ステインの好きにするといい」
既に勝負は譲ると言わんばかりにシルヴィアは後ろへと下がっていく。
正直、彼女とやりあいたかった、という気持ちが無かったと言えば嘘になる。
一方でステインは少し驚いていたのだ。
こんな自分に真正面から戦いを挑んでくる奴がまだこの学校にいたのか、と。
そのことにどこか妙な嬉しさを感じながら、拳を鳴らす。
「さて。お望み通り、相手になってやるよ。覚悟はいいか?」
「ああ。当然さ。そんなもの―――キミに挑むと決めた時から、しているよっ!!」
そして次の瞬間。
最恐と挑戦者の戦いの火蓋が切って落とされたのであった。




