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第8話 押し掛け妹

 突然の出来事に、ステインは反応に困っていた。

 そして、困惑しているのは、ステインだけではない。


「レーナ!? どうしてここに!?」

「そりゃあ勿論、お兄様を追ってきました。いつでもどこでもお兄様の傍にいる。それが私の存在理由ですから!!」

「いやそういう問題じゃなくて……っていうか、何で僕がここにやってくるって分かったんだ? 僕がこの寮にやってくるのは今日の昼に決まったことなのに……」

「妹の力です」

「全く答えになってないんだけど!?」


 ツッコミを入れるルクアを見て、ステインは状況を整理していた。

 その言動と態度からして、レーナという少女はどうやらルクアの妹らしい。よく見れば、確かに容姿はとても似ている。

 と、そこで一つの疑問が生まれる。


「おいクソ婆。何で部外者入れてんだよ」

「おやまぁ。部外者と申しましても、ルクア様の妹君と言われまして。特に敵意もなかったのでお通しした次第でございます」


 それでいいのか寮監……色々と文句を言いたいステインだったが、しかしクセンの言葉を前にして黙った。

 クセンが敵意がないとそう言い切った。ならばそれは事実で、何よりも彼女がいれば問題はないのだから。


「すみません先輩。紹介しますね。彼女は双子の妹のレーナです。レーナ。この人は……」

「知っています。貴方がお兄様のパートナーの……すて、すて……捨て犬?」


 瞬間、ステインの額に青筋が入った。


「よし殺す」

「すみません!! 本当にすみません!! 気持ちは分かりますけどどうか抑えてください!! レーナは、その、男の人の名前を覚えるのが苦手というかなんというか……」

「当然です。お兄様以外の男の名前を覚える必要なんてありませんから」


 言い切った。

 こうもはっきりと言われると、逆に清々しいと思うのは何故だろうか。


「ほっほっほ。ステイン様に対し、そのような発言をする方がいるとは。いやはや、怖いもの知らずとは面白いものですなぁ」


 ステインのことを知っているのは、基本的に二、三年生のみ。一年生である彼女はその実態は無論知らないはず。だからこそのこの態度なのかもしれない。


「というか、レーナ。本当に何でここにいるの? 君は別の寮にいるはずだろう?」

「ご安心を。私も今日からここに住みますから」

「はぁ!? そんなの許されるはずが……」

「いえ。別に構いませんよ? というか、校長から直々にお話しがあり、レーナ様も今日からここに住むことになっております故」


 さらり、と。

 唐突にとんでもないことを口にしたクセンに、思わずステインは眉をひそめた。


「……俺は一切聞かされてないんだが?」

「申し訳ございません。婆ゆえ、最近物忘れが激しくて。今の今まで忘れていました」


 どの口が言うんだか。

 しかし成程。元々、ここに来ることを前提としていたがために、クセンはレーナを寮に入れたというわけか。


(……あの校長。俺が提案を受け入れると分かり切った上で誘いをかけやがったな)


 そうでなければこんなにもスムーズにことが運ぶわけがない。

 疑問なのは、何故妹もわざわざこの寮へこさせたのかにあるわけだが……。


「ごほん……それで、話は戻しますけど。貴方がお兄様のパートナーというのは理解しています。ですが、納得しているわけではありません」

「あ?」


 いきなりの発言に、思わずステインは怪訝な声を上げる。

 だが、それはステインに限った話ではなかった。


「レーナ、何を―――」

「貴方の噂は聞いています。曰く、この学校の一番の問題児であると。一年の頃から素行不良が絶えず、他の生徒との問題も多く、何十人も病室送りにした挙句、退学に追い込んだとか。そんな人をお兄様のパートナーにするのは私は不安なんです」


 レーナの言葉に、ステインは反論しない。

 それはよくあるただの噂話……などではなく、嘘偽りのない事実なのだから。


「一方で貴方が強いというのも聞き及んでいます。この学校で三本の指に入る程の実力者だと。ですが、私は見たことしか信用できない質でして。故に、自分の目で確かめさせてもらいます」

「……それはつまり、俺と勝負したいってことか?」

「そういうことです」


 これまたきっぱりと言い切る。

 今までステインに勝負を挑んできた者は数多い。そのほとんどがステインを舐めており、一種の度胸試しの一つとしか考えていなかった。無論、そんな連中は全て返り討ちにし、叩き潰したわけなのだが。

 彼女もまた、こちらを舐めている……わけではない。ただ、純粋に兄の相棒の実力を知りたいがために、勝負をしかけているだけに過ぎないのだろう。

 とはいえ、勝負を持ちかけられたのなら、ステインがやることは決まっている。


「いいだろう。その勝負、受けてやる」

「先輩まで何を……!?」

「口を挟むな。俺は筋の通った勝負は受けることにしてる。お前の妹は俺が実力不足じゃないかどうかを危惧して俺に勝負を持ちかけてる。それは何もおかしなことじゃねぇし、理解もできる。だから受ける。それだけだ」


 少なくとも、他人の話を鵜呑みにしたままの奴よりは断然マシな理由だ。

 しかし、だ。


「最初に言っとくが、俺は女が相手だろうと容赦しねぇぞ。後でその顔面がズタボロになってても文句言うなよ」

「望むところです。それくらいの覚悟がなくて、どうしてお兄様の妹でいられましょうか」

「いや、妹にそんな覚悟を求めてないから!! っていうか、先輩もやる気にならないで―――」


 瞬間。

 寮の外で何かがはじけた音がした。

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