第71話 闇夜に落とされる爆弾発言
一方その頃。
ステイン達もまた、同じく焚火の前で野宿の準備をしていた。
「本当に、誰も襲ってこなかったね」
今日一日、ステイン達は森の中を歩き回ったが、誰も襲ってこなかった。わざわざ奇襲がしやすいように姿をさらしていたのだが、誰とも戦わなかったどころか、一人とも出会うことがなかった。
「こりゃ、完全にこっちの動きを読んでるな。ちっ。面倒な」
そうでなければ、流石にこの状況はおかしい。
これは、誰かが意図的に二人と戦わせないようにしているとみるしかない。
……まぁ、恐らくはそれだけではなく、ただ単に、最強最恐コンビと戦いたくないというだけの連中もいるであろうが。
「これからどうする?」
「焦っても仕方ねぇだろ。とりあえず、今日はこのまま野宿だ」
その反応はシルヴィアにとって、少々意外なものであった。
「……冷静なんだね、ステイン。てっきり夜も活動するかと思ってた」
「あぁ? 馬鹿かテメェは。サバイバルにおいて重要なのは体力だぞ。夜の森の中を探し回るとか、愚策にも程がある」
夜の中での活動とは、それほどまでに危険な行為だ。
ただ見えない……それだけのことで、人間は本来の力を十二分に発揮することができなくなってしまう。ならば、明るくすればいい、という単純な話でもない。周りを照らす魔術を使えば、今度は自分の居場所を教えてしまうことになるのだから。
「でも、普通はそんなに余裕にはなれない。この選抜戦の形式からして」
「まぁな。こいつは自分だけが勝てばいいって話じゃねぇ。どれだけ強かろうと、相方がやられればそれまで。だから、安心できずに焦る奴がいるのは間違いない」
魔術師とは、基本的に自己中な生き物。自分は強いと思っている連中が多い。
だからこそ、他人に自分の命運がかかっているこの状況は、そんな連中にとってみれば不安の種以外の何物でもない。
こうしているうちに、次の瞬間、自分の負けが確定してしまえば……そんな疑心暗鬼になって、焦りが出てしまう。
ならばどうするか。
自分が敵を倒し、相方が倒される確率を下げること。
これは相手を慮っての行動ではない。ただ、自分の敗退する可能性を無くさせるためである。
そんな中、ステインは焦りも不安もない。ただいつも通りにしている。
その理由は、ただ一つ。
「ステインは、ルクアを信じてるだね」
「別に。ただ、アレがこの程度のことで足元をすくわれるとは思ってねぇってだけの話だ」
「それを信頼してるっていうんじゃないの?」
「……、」
指摘され、ステインは口を閉ざした。
別に何も言い返せなくなったから、ではない。目の前の少女に何を言っても無駄だと判断したためである。
「ステインって、分かり易い性格してるよね」
「そんなこと言ったのは、お前が初めてだ。逆にテメェは何考えてるのか分からねぇな」
「え? そうなの? それにしては、ステイン、私の考えてること、よく当てるよね。皆からは表情動かないから、何考えてるのか分からないって言われるのに」
シルヴィアはステインに鉄仮面と言われる程、常日頃が無表情。そんな彼女が何を想っているのか、それを理解できない者が多いことは仕方ないことだろう。
けれど、ステインはシルヴィアがどんな感情なのか、言い当てることができる。
それは何故か。
「別に。何となくで言ってることがたまたま当たっただけだ。別に分かってるわけじゃあない」
「そうだとしても、私の考えを当てられるのは、ルクア以外だとステインだけだよ」
途端、シルヴィアは何かを思い出したかのように、はっとなった。
そして、少し俯きながら、彼女は別のことを話しだした。
「……あのさ。ずっと言おうと思ってたんだけど……この前はルクアを助けてくれて、ありがとう」
この前のこと……それが、以前、ルクアを狙った事件であることはすぐさま理解できた。
「別にテメェに礼を言われる筋合いはねぇよ」
「うん。ステインならそう言うよね。でも、私は貴方にお礼が言いたい。だって……私は、何もできなかったから」
シルヴィアは己の手をみながら、話を続ける。
「あの日、異変があったのは私もすぐに理解した。それにルクアが巻き込まれているのも。だから、私も現場に向かおうとしたんだけど……やっぱり身体が言うことを聞いてくれなかった」
彼女は、父親に『ルクア・ヨークアンに近づくな』という魔術をかけられている。そんな彼女が、ルクアを助けるためにかけつける、なんてことはできない。やろうとしても、彼女が言ったように身体が動かなくなってしまう。
「仕方ねぇだろ。そういう魔術、かけられてんだろ」
「でも、好きな人が危ない目にあってるっていうのに、自分が何もできないっていうのは……悔しいし、情けない」
先ほど、シルヴィアはステインが自分の考えを言い当てることができる、と言っていたが、やはりそれは間違いだとステインは思う。
何故なら、今、彼女がどれだけ悔しい想いをしたのか、それを推しはかることは彼にはできないし、してはいけない。
彼女の苦しみは彼女のもの。それを分かった気になるというのは、あまりにも驕りが過ぎるというもの。
「あっ……ごめん。何か、暗い雰囲気にさせちゃって。そうだ。私、ステインに聞いておきたいことがあったんだ」
「あ? 何だ改まって」
この期に及んでシルヴィアがステインに聞きたいこととは一体何なのか。
……いや、考えるまでもなく、ルクアのことだろう。
シルヴィアはルクアに会いたくて仕方ないが、直接顔すら見せあうことができない状況。近くにいるのに、何もできない彼女からしてみれば、ルクアのことを聞き出すことができるのは、ステインくらいだ。
故に、彼からルクアの今について聞こうとするのは無理からぬこと。
その点はステインも理解できるため、答えられる範囲でなら答えてやるのも吝かではない。
そう、思っていたのだが。
「ステインとミアって、いつから恋人同士なの?」
その言葉を聞いて、ステインは改めて思った。
やはり、自分はこの少女が何を考えているのか、さっぱり分からない、と。




