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第27話 最恐の意外な一面

 ステイン・ソウルウッドは野蛮な男である。


 それが、レーナが彼に抱く評価だ。

 彼が危険だという噂は一年の中でも広がっており、そしてそれがあながち間違っていないのは先日の一件からみても明らか。


 口は悪い。態度が悪い。戦う相手に容赦がない。

 正直言って、ルクアのパートナーとしては本当に色々と不安である。


 けれど、その強さは本物。

 一年後輩とはいえ、多人数の魔術師相手に一方的に勝ったり、魔力量で言うのなら歴代最高のレオン・オルフォウスを無傷で倒した。それだけで、彼が強いことは証明されている。


 加えて言うのなら、野蛮ではあるが、むやみやたらに喧嘩をふかっける人間ではない。売られた喧嘩は買う。けれど、自分から何かすることはない。そういうスタンスななのだろう。実際、ステインがルクアに不条理な暴言や暴力を振るったことは一度もない。


 悪い人間ではない……のだろう。それはレーナも理解しているつもりだ。

 けれど、その言動や性格はやはり気に入らないものなので、お世辞にも「良い人」とは決して言えないし、言いたくない。


 そんな、そんな彼が、だ。


「くそっ。ジャガイモは特売時間で何とか激安で買えたが、玉ねぎの方は五か所回って一割引きか……いや、安く変えたことには変わりねぇ。そこはよしとするか……うん? おいちょっと待て。あそこでニンジンの袋詰めやってんじゃねぇか。確か、ニンジンも切れかけてたな。よし。おい、チビ女。お前も袋詰め手伝え。袋詰めは一人一袋って決まってるからな」


 買い物に精を出す姿は、何とも奇妙であった。


 レーナ達はコロッケの材料を買いに来ただけのはずだった。しかし、「ここは高い」「もう少し安いところがあるはず」「確かに安いがあそこならもう少し……」などと呟きながら、中々材料を買わず、店を回るはめになった。


 しかも、ただ回るだけじゃない。品薄になってたから、安くなってたからと、コロッケの材料ではないものを買っていく始末。

 結果。


「……どう見ても買い込みすぎでしょう、これ」


 食材の山を抱え込んだステインに対し、思わずレーナは呟く。


「何言ってやがる。安い時に買い込んどくべきだろうが」

「いや、そうかもしれませんけど……大体、何で貴方が寮の買い物してるんですか」

「何でって、寮の買い出しは俺の仕事だからだよ。何せ、婆は学校から出られねぇからな。学校側に言えば確かに材料は届けてくれるが、そうすると値段が馬鹿みてぇに高いし、届くのが遅い。だから、こうして俺が買いに来てんだよ」

「そうなんですかっ!? い、意外すぎる……どうみても、他人に買い物やら料理を任せて、いざ食べるとなると、まずっ、とか言っている風貌なのに……」

「どんな偏見だよ。最悪すぎるだろ」


 散々怖いと言われてきたステインだが、真正面からそこまで風貌が悪いと言われたのはこれが初めてである。


 ……まぁ、実際のところ、初対面の人間からしてみれば、そういう風に見られても致し方のない程、怖い顔つきではあるが。


「っというか、今の発言で気になったんですけど、クセンさんが学校から出られないってどういう意味ですか?」

「そのままの意味だ。婆は何かの契約で、学校からほとんど出られない状態なんだよ。一応、手続きすれば出られるには出られるが、許可が出るまで時間がかかるし、一時的なもんだ。そんなのを買い出しの時に一々するのは面倒だからな」

「だから貴方が代わりに買い物に行っている、と」

「そういうことだよ」


 嘘はついていない、というのはレーナにも分かった。

 少なくとも、ステインが買い出しに慣れているのは、今日の一件で明らかだ。


 それでも、それでも、だ。

 この、どうみても見た目がチンピラとしか思えない男が、買い物に慣れているという姿が未だに違和感しか覚えなかった。


「ちなみになんですけど、クセンさんっておいくつなんですか?」

「さぁな。聞く話によると、学校ができた当初からいるとか」

「学校ができた当初って……千年ってことですか!?」

「校長が言ってただけだ。本当かどうかは知らねぇ。何せ、本人に聞いてもはぐらかされるだけだからな。答えねぇ奴にいくら聞いても時間の無駄だろ」


 言われて、「ああ……」とレーナは納得する。


 クセンについては、未だ謎なことが多すぎる。特にあの容姿。どうみても童女でしかないというのに、口調や態度は大人……いや、老婆のそれだ。一体彼女は何者なのか、いくつなのか、どうして廃棄寮の寮監をしているのか。聞きたいことは山のようにあるが、しかしまともに答えてくれそうにないのは明白である。


「まぁ、妙な奴だが色々と任せられるのは事実だ。だが、何でもかんでも押し付けたりすんなよ。あの婆、怒ると面倒だからな」

「そんなことするつもりは毛頭ありませんよ。大体、そういうのは貴方がしそうなんですけど」

「この期に及んで人をまだ見かけで判断するか。まぁ、別に構わ―――」

「……あれ、ステイン?」


 ふと名前を呼ばれ、背後を振り返る。

 そこには、ステインと同じように両手に荷物を抱えたシルヴィアが立っていた。


 ……その抱えている荷物の八割がパスタなのは、気になるところだが。


「鉄仮面。お前も買い出しか」

「うん。買ってたパスタが全部なくなったから、新しいのを補充しにきた」

「補充って……いや、パスタについてどうこういうつもりはねぇけど、それは流石に買いすぎだろ」

「ステインは自分の両手を見てからそういうことを言うべきだと思う」

「俺はちゃんとした考えをもって買ってんだよ。お前みたいに偏ってねぇだろうが」

「問題ない。パスタは栄養がいい。それにバリエーションも豊富。ナポリタンやミート、カルボナーラにオイル系、あとは野菜を混ぜたり、海藻や魚介を混ぜることだってできる。まさに無敵」

「それだけ作れるんなら、普通の料理も作れよ……」


 確かにパスタは美味しいけれども。種類はたくさんあるけれども。


 色々とツッコミを入れたいステインであったが、しかしこれ以上指摘しても意味がないと理解し、追及しなかった。


「けど、珍しい。ステインが誰かと買い物に来てるなんて―――」


 その瞬間。

 無表情が常のシルヴィアの目が見開いたのをステインは見逃さなかった。


 その視線にいるのが誰かなどとは、言うまでもないだろう。


「……どうも。お久しぶりです」


 明らかに不機嫌そうな口調で挨拶をするレーナ。

 その有り様は、ステインの相手をする時と同じ……いや、それ以上の不快感を露わにしていた。


「驚いた。えっと、久しぶりだね、レーナ。元気にしてた?」

「はい。お陰様で。そちらも無駄にご壮健のようで」

「うん。良かった。レーナの方も変わってなくて、安心した」


 レーナの嫌味に、しかしシルヴィアは嬉しそうな返答をする。


 彼女の態度はどうみても悪い。まるでこの世で一番会いたくない相手に邂逅してしまったかのような具合だ。だというのに、一方のシルヴィアはというと、久しぶりに親しい友人にあったような、そんな感じ。


 一方は毛嫌いし、一方は懐かしんでいる。

 そんな奇妙な関係性が二人の間にはあった。

 

「でも、本当にビックリ」

「何がです? 私がお兄様と一緒に魔術学校に来たことですか? それともお兄様と同じ寮にいることですか?」


 自分が兄と一緒にいることを暗に伝えることで、マウントを取ろうとするレーナ。あまりにも感じが悪すぎる。

 しかし、シルヴィアは首を横に振った。


「そうじゃなくて……レーナがルクア以外の男の人と二人っきりでいるところなんて初めてみたから」

「っ!? べ、別に、大した意味はありません。ただ、私はお兄様のために行動してるだけですっ。この人といるのだって、仕方なくで……」

「でもそれって、『仕方なく』でもレーナが一緒にいてもいいと思える程、ステインを信頼してるってことだよね?」

「だから何でそういうことになるんですっ!?」


 レーナの言葉をまるで揚げ足をとるかのように解釈するシルヴィア。


 レーナの反応を見て面白がってる……わけではない。ただ純粋に思っていることを口にしているだけなのだろう。


 目の前にいる少女が、そういう女であることは、ステインも良く知っている。


「ああもうっ!! 相変わらず、ああいえばこう言う……そういうところが、昔から嫌いなんですっ!!」

「うん。知ってる。でも、私はレーナの事、好きだよ?」

「そういうことを真正面から言うのも嫌いですっ!! もういいです。私達は用事があるので、ここでします!! ほら、早く行きますよ!!」

「おいこら。ちょっと待て」


 制止するも、怒りながら去っていくレーナは止まらずそのまま歩いていく。

 そんな彼女の後を追い変えようとした時。


「ステイン。レーナをお願いね」


 後ろからそんな言葉が聞こえてくる。


「はぁ? そりゃどういう……っていねぇし」


 謎の言葉を発したシルヴィアの姿はもうそこにはなかった。

 その場に残されたステインは、ただただ大きなため息を吐くのであった。


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