表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/24

05

 最初はね、行きつけの薬屋さんの人が変わったのよ。

 それまではおばあさんが薬の買い取りをしてたんだけど、あるときから若い女の人に変わったの。

 おばあさんの孫って言ってたかしら?

 若いっていっても、わたしよりも年上の人よ。20才くらいかな?

 長くて綺麗な黒髪で、細身だけど出るところは出ていて、右目の目尻のところにほくろがあって、それがもう色っぽいの。

 何で薬屋さんで働いているのか不思議なくらいよ。

 あの人なら、もっと良い働き口があったと思うわ。

 でも、そのお姉さんが働くようになってから、薬屋さんはすごい繁盛するようになったの。

 美人って得よね? ああ、もちろん、わたしも美人だからお得よ?


 そんな薬屋は知らない?


 そうね、今はいないわよ。大分前のことだから。

 騎士様だって、街のことを何でも知っているわけじゃないでしょう?

 美人は、すぐに結婚しちゃうからね。ひょっとして、そのお姉さんのことが気になったの?

 残念ね。


 で、ある日薬屋に行ったら、そのお姉さんに言われたの。


「いつもありがとう、ルナちゃん」って。


 蕩けるような笑顔でね、

 びっくりしたわよ。

 名乗ったって、次の日には護符の効果で、わたしの名前なんて忘れちゃうはずなんだから。

 でも、今までは何となくしか人に覚えられなかったから、嬉しかったわ。

 師匠以外で、初めてこの街にわたしを知っている人ができたのよ。


 何で護符が効かなかったか?


 魔術に対する抵抗力が高かったからじゃない?

 この護符程度だと魔法使いには効かないし、魔法使いでない人にも稀にそういう人はいるわ。

 まあ、そんなことはどうでもいいのよ。

 わたしにドロシー以来の友達ができたんだからね。そっちのほうが重要。

 わたしが友達と思ったんだから友達よ? こういうのは言った者勝ちなんだからね。


 そのお姉さんはルシアナっていう人でね、よく話すようになったわ。

 別に大した話はしないんだけど、街の噂話とか、流行しているものとか、街の人たちの人間関係とか、まあ色々よ。

「ああいう男は良い」とか「こんな男は駄目だ」なんてことも教えてくれたわ。

 ルシアナとお喋りをしていると、ちょっと大人になった気分になれるの。そういう話をしてくれる相手が他にいなかったから。

 わたしにとっては、ルシアナと話すことが一番の楽しみになったわ。

 師匠となんか、魔法のことくらいしか話さないしね。あの人には「お喋りを楽しむ」って発想が根本的に無いの。

 食事のときも、一言も話さないんだから困ったものよ。

 その師匠には、ルシアナのことは内緒にしたの。

 護符が効かない相手がいると知ったら、もっと強力な魔道具を持たされるかもしれないし、ひょっとしたら、街への買い物を禁止されるかもしれなかったから。

 そんなのって、つまらないでしょ?

 

 ルシアナにはどこまで師匠の話をしたか?


 魔法使いってことは話したわ。薬を納めている以上、そういう人だってことぐらい、向こうも勘づいているしね。

 ああ、薬師とは扱っている薬が違うの。加工に際して魔法が必要になる薬をわたしは納めていたのよ。

 だから、魔法使いってことがわかったの。

 でも、死霊魔術を使うことは秘密よ。

 うちの使用人は骸骨だ、なんてことを知られたら、きっと不気味に思われちゃうから。

 向こうだって突っ込んだことは聞いてこないしね。わたしくらいの年の子が、魔法使いの弟子になっているんですもの、色々あることくらいわかるわよ。

 そういう余計なことを聞いてこないことも、ルシアナの良いところね。


 あと、向こうは薬屋だからなのか、化粧にも詳しくてね。

 時々、わたしに化粧をしてくれるの。


「ルナちゃんには、こういう紅が似合うと思うわ」


 って時々、口にさしてくれた。

 わたしも一応お年頃になっていたから、正直嬉しかったわ。

 道行く同じくらいの女の子たちが綺麗な恰好しているのを見ると、やっぱりちょっと羨ましかったしね。

 でもね、師匠ときたら、わたしが口に紅をさしていても、ちっとも気付かないの。

 別に気付いて欲しいわけじゃないんだけど、何て言うか「残念な人だ」って思ったわ。

 結婚できない人には、やっぱり相応の理由があるわけよ。

 そういうことに気付かない人は駄目なのよね。

 騎士様はそういうことに目ざとく気付きそうだけど。

 あ、断っておくけど、わたしは化粧してもしなくても、よく男の人から視線を向けられていたからね。美人だから。

 護符のせいで男の人が寄ってこなかっただけで、本当はとてももてたはずなんだから。

 わかってる? わかっているならいいわ。


 あと、この頃には、わたしも死霊魔術を教わるようになっていたわ。

 初めはネズミとかでやるの。いきなり人は無理よ? やっぱり大きければ大きいほど難しいもの。


 ドラゴンの骨に術を施す?


 そんなの才能があって、すごい師匠について、50年は修行しないと無理よ。才能がなかったら、50年かけても無理。

 若い頃から魔術に打ち込んで、老人になって、ようやくできるかどうかってところね。

 そもそも骨は難しいのよ。時間が経てば経つほど術がかかりにくいの。

 最初は死んで間もない死体が望ましいわ。

 わたしだって、死にたてのネズミで練習したもの。

 ネズミなんて小さいし知能も低いから役に立たないんだけど、そこから犬とか猫とかで試すようになって、最後にようやく人の死体に術を施すようになるの。

 まあ、そこまでいくのに20年はかかるわね。

 スケルトンを操っている師匠は、かなり凄い死霊魔術師ってわけ。

 わたしも魔法を習うまで、師匠がどれくらいの魔法使いなのか、よくわかっていなかったけど、魔法を学べば学ぶほど、師匠の偉大さってものが理解できるようになったわ。


 師匠はドラゴンの骨を操れるか?


 わからないわ。

 そもそもドラゴンの骨自体、簡単に手に入るようなものじゃないでしょ?

 やってみたことがないのよ。

 でも、師匠だってそこまでの年じゃないから厳しいと思うけどね。

 いくら才能があっても、結局は修行した歳月が物を言うのよ。

 騎士様が探している死霊魔術師は、ドラゴンの骨が操れるの?

 それは相当な腕前よ。大魔導士ってレベルね。

 よっぽど長生きしないと到達できない領域よ。


 で、どこまで話したっけ?

 わたしがネズミで一生懸命死霊魔術の特訓していたときの話ね。

 あれはね、実際にはネズミを操っているわけじゃないのよ。死体に精霊を招き入れて使役していたの。

 精霊といっても低級のものよ。使役できる精霊の格が上がってくると、段々大きな死体に招き入れることができるってことなの。

 これが初歩の死霊魔術。霊魂じゃなくて精霊を扱うから、ちょっと楽なの。

 もっと高度なものになってくると、残っている死者の霊魂をその死体に束縛にして扱うこともできるわ。

 魔物となっているグールとかスケルトンはこっちね。

 術としては高度なんだけど、わざわざ精霊を招き入れる手間がないから、扱えるようになれば、一度に大量のアンデッドを使役することができるようになるわ。


 師匠がアンデッドを何体扱えるかって?


 グールとかだったら、かなりたくさん使役できると思うけど、数はわからないわ。

 あんまりいっぱい扱うことに意味はないのよ。

 魔法使いの目指すところは、そういうものじゃないから。

 とにかく魔法を極めたいの。それ以外に目的なんかないわ。

 でも人ってそういうものでしょう?

 絵を描く人だって、詩を書く人だって、学者だって同じよ。

 その道を究めたいから頑張るの。そこに意味なんかないわ。それ自体が目的なんだから。

 わたしも自分の意志じゃないけど、魔法の道に足を踏み入れたのだから、一生懸命進んでいくつもりよ?

 最近はちょっと大きな動物の死体も使役できるようになったしね。

 努力してるのよ、これでも。


 まあ、わたしの魔法の腕はそんなところだわ。

 それでね、ルシアナと仲良くなって、しばらく経って、また護符が効かない人が現れたのよ。

 今度はわたしと同じくらいの男の子だったわ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ