BLACK DOG 1章 1
第一章 1
誰もが子供の頃に戦隊ヒーローや魔法少女などのいわゆる正義の味方に憧れを抱くことがあるだろう。
私こと柊木鈴音もその一人である。今でもなることができるのならなってみたいといつも考えている。正義の味方になって誰かの役に立ちたいと数多くの本で語られような英雄になってみたいと想像しているのだ。
しかし、現実というものにはフィクションに出てくるような怪人や怪物なんておらず、自分のこれまでの人生を本にしようとしたとて一ページにも満たないほど自分は凡人である。
現実とは残酷なのだ。
今年で三十路になるというのにそんな妄想を抱えて今日も仕事に向かうのだ。
こんなことをあと何回続ければ人生は終わるだろうか?
これから自分は何を残せるのだろうか?
そんなネガティブなことを考えながらいつも通り通勤をする。
いつも通り歩いて駅へと向かい、いつも通り電車に乗る。
いつも通り、虚な目をしながら会社へと向かう。
だが、今日は違った。少し変わったことが今目の前で起きている。
偶然入ったコンビニで銀行強盗が銃を持ち金銭の要求をしているところであった。
「全員手を挙げろ!!」
強盗は威嚇する様に天井に向けて発砲した。
私は指示通り手を挙げた。今日はなんて最悪な日なんだ。
「大人しく金目の物を出せば殺しはいない」
強盗は一人一人から財布やスマホなどを強奪していく。次が自分の番というところまで強盗が近づいて来た時。どこかからか赤子の泣き声が聞こえる。周りを見渡すと泣き喚く赤子をあやす女性が目についた。
「うるせぇな!!早く黙らせろ!!」
「すみませんすみません……」
女性は懸命にあやすが一向に泣き止むことがない。段々と苛立つ強盗は赤子に銃口を向けた。
「もういい!ガキごと死ね!!」
女性は赤子を守ろうと赤子に覆い被さるように赤子を抱いた。
強盗が引き金に指をかけた瞬間────。
『また、そうやって誰かを見殺しにするんだ』
それはとても懐かしく、私の胸に突き刺さる。
過去に私が救えなかった友人の幻聴であった。
その幻聴に突き動かされたのか私は全力で強盗の方へ走っていった。
「うわあああああああああ!!!!」
自分を鼓舞するかのように大声をあげ、必死で犯人の腕を掴んだ。
掴んだ反動なのか、バンッと天井に弾が撃たれた。
「クソ!?離せクソ女!!!!」
強盗は私を振り払おうと腕を強く振る。その反動でまた数発発砲した。
必死に誰かを助けてようとしがみついていたが、これまで鍛えてなかったのがたたったのか私は腕から剥がれ落ち地面へと打ち付けられた。
「痛たたた……」
そう言いながら顔を上げるのと同時に鼓膜が破れんばかりの轟音がなり、そこから私の意識は途絶えた。最期に見たのは重く黒光する銃口と殺意に満ちた強盗の顔だった。
こうして私の物語は幕を閉じたのである。