第3話 波乱
「最終試験合格、おめでとうございます魔王様」
「よっしゃあ!!!」
俺は、現在自室にてこの世界における常識、文字のテストを行い無事に合格することが出来た。
「流石魔王様です」
「いやいや!アリアの教え方が上手かったんだよ!」
「勿体なきお言葉…感謝致します」
「それで?これから俺のするべき事を教えてくれ」
「まず、私とコルル、ユナの3人でこれからの方針をまとめた資料を作りましたのでご覧下さい」
俺はアリアから3枚ほどの書類を受け取り、目を通す。
「…今日から三日後にある全魔族の種族長を集める族長会議って…なんだこれ?」
「この世界に存在する全魔族の族長をこの城まで呼び、魔王様と共に魔族の未来等を話す会議です」
「成程…」
「(俺の元いた会社で言う所のスタッフミーティングみたいなもんか)」
「各種族長には伝えてあるのか?」
「沈黙の音声を使用し各種族長へと伝達済みです」
「沈黙の音声ってなんだ?」
「遠方の者や特定の者にのみ伝わる魔族特有の連絡手段です」
「(スマホで連絡するあの感じに似てるのか?)」
「それどうやるんだ?」
「連絡したい相手をイメージし、魔法を発動します」
「では、試して見ましょう」
「沈黙の音声」
アリアは自身の右手を、右耳に当てた。
直後、俺の頭の中には声が響いた。
『聞こえますか?魔王様』
「あ、あぁ…」
『これが沈黙の音声です』
「成程…こりゃすげぇな…」
「沈黙の音声解除」
「右手を外してそれを言えば解除ってことか?」
「はい、その通りです」
「俺も試してみたいな…」
「見て真似るのはかなり難しいと思いますが…」
「やって見なきゃわからねぇだろ?」
「えっと…連絡したい相手をイメージして…」
「沈黙の音声」
『あー、ララ?聞こえるか?』
「ひゃわ!?ゆ、ユーリさまのおこえ!?」
『今どこに居るんだ?』
「え、えと…おしろのよこのかだんでおはなたちにおみずをあげてました」
『あ、ならそれ終わったらダイヤの花を1輪摘んできてくれないか?』
「わ、わかりました!」
『それじゃあ部屋で待ってるぞ』
「沈黙の音声解除」
「え?ほ、本当にできたのですか?」
「あぁ、ララにおつかいを頼んだよ」
「(あ、ありえません…見ただけで魔法を真似るなど…)」
「ま、魔王様…少しお体に触れてもよろしいでしょうか」
「お、おう…いいけど…」
俺に近付いてきたアリアは俺の首筋へと手を伸ばし、触れてきた。
「魔力探知」
「(魔王様の魔力に波がある…魔力仕様の証拠ですね…)」
「(沈黙の音声は消費魔力が少ないですが魔王様の魔力の波は殆ど変わらない…)」
「(魔王様の魔力量は私やコルルを軽く凌ぐのでしょうか…)」
「(近い近い近い近い!当たってる!可愛い!いい匂い!)」
「(胸元あと少しで見えちまう!!)」
「あ、あの…アリアさん…見えちゃいそうなんですが…」
「はっ…お、お見苦しい物を…も、申し訳ありませんでした魔王様!!」
「い、いやいいけどさ…それより気になることはもういいのか?」
「はい…大変ご迷惑をおかけしました…」
「怒ってないから!そんなしゅんとしないでくれ!」
「海より深き慈悲に感謝の言葉を…」
「あー、そういう堅苦しいのはいいから!」
「わかりました…では、最終試験も終えたので本日はこれで終わりとし魔王様には明日以降から本格的な業務をお任せ致します」
「あぁ、任せてくれ!」
「…頼もしいですね、それでは失礼致します」
俺に一礼をし、アリアは部屋から出ていった。
「さて…この書類は机の上に置いておいて…」
俺は書類を机の上に置き、ベットの下に隠されていた本を取りだした。
「最終試験が終わったら見ようと思ってたんだよなこれ…」
緑の丸が描かれている本と赤いバツ印が描かれている本を手に持ち見比べる。
それぞれの表紙には秘術と禁術と書かれている。
「さてさて…どんなものなのか楽しみだ…」
そう思い俺は秘術の本から読み始めた。
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「よし、2つとも読み終わったな…」
立ち上がり背伸びをすると辺りは薄暗く長い時間読み続けていた事を示していた。
「秘術と禁術…使い方を間違えれば兵器だが正しい使い方をすれば魔族を助ける為の武器になるな…」
「ま、これらもそのうち使う事になるか…」
「ってかそういえばララ遅いな…連絡してみるか」
「沈黙の音声」
『ララ?聞こえるか?ララ?』
『あれ?おかしいな…返事がねぇ…』
『この魔法にもスマホの電波障害みたいなのがあるのか?』
「沈黙の音声解除」
「少し見に行ってみるか…もしかしたら向こうで寝てるのかもしれないしな」
そう思い、俺は部屋を出てダイヤの花畑へと向かった。
途中、ユナと出会ったので事情を話すと着いてきてくれることになった。
「いやぁ…この時間になると城の裏でも結構怖いな…」
「そうですか?アタシは慣れてるのでそんな感じませんけど」
「俺も慣れれば怖く無くなるのかね…」
そんな雑談をしながらダイヤの花畑へと訪れると違和感があった。
「あれ…昨日キラキラ光ってたダイヤの花畑が…」
「おかしいですね…1輪も咲いてないなんて…」
「あれ?この足跡…誰のだ?」
「え?どれですか?」
「これだよ、どう見ても男の足跡な気がするんだけど…」
「まさか…沈黙の音声!」
『アリア!コルル!』
「はい、どうしましたか?ユナ」
「五月蝿いですねぇ…そんな大きな声を…」
『呑気な事言ってる場合じゃないわ!今すぐ城の裏の花畑に来なさい!』
「わ、分かりました」
「…緊急事態ですか?」
『人間がダイヤの花畑荒らした』
『最悪を考えるならララも攫われたか、殺された可能性もあるわ』
「すぐに向かいます」
「沈黙の音声解除」
「終わったか?行くぞユナ」
「ど、どこに行くんですか?」
「足跡を辿る」
「こ、こんな薄暗い中で足跡を辿ることなんてできるんですか!?」
「任せろ」
「確かこういう時は…猫目」
「(暗いものを見るにはこの秘術だな)」
「行くぞユナ」
「はい!」
俺達は足跡を辿り、森の奥へと進んだ。
「ここら辺で足跡が…あ!なんかあるぞ!」
近付き姿を確認するとそこには……。
「うわあああああああ!?」
「酷い…」
顔だけがないララの死体だった
「うぷ…おえぇ…」
俺は近くに倒れ込み嘔吐し、涙ながらにララの体を見つめた。
「な…なんで…顔は…」
「分かりません…少なくとも辺りに生物の気配はなく持ち去られた可能性があります…」
「なんで持ち帰るんだよ…!」
「さぁ……そもそも誰の仕業か分からない以上何とも……」
「そもそもなんでそんな冷静なんだよ!!仲間が死んでるんだぞ!!」
「冷静に見えるのであればアタシも成長したってことですね」
ユナの顔は怒りに満ち、拳からは血が流れていた。
「(そうか…ユナも…)」
「悪い…」
「いえ、気にしてません」
「それより、今は一刻も早くここから逃げるべきでしょう」
「逃げる?何から?」
「ララを殺した何かから…ですかね」
「…いや、迎え撃つぞ」
「は?」
「ララの仇を討つ」
「ちょ、ちょっと!何考えてるんですか!」
「敵の狙いが魔王様なら逃げなきゃ殺されますよ!?」
俺は立ち上がり体だけになったララの体を抱きしめた。
「冷たい…時間が経ったんだな…」
「この手にあるのって…ダイヤの花か…」
ララの手にはぎゅっと握りしめられているダイヤの花。
俺が昼頃に頼んだものだった。
「ごめんな…俺のせいで…」
後ろから2人の足音が聞こえてきた。
コルルとアリアだった。
「魔王様!ユナ!」
「大丈夫ですか2人共!」
「大丈夫じゃないわ…少なくとも、ララは死んで魔王様は心に傷を負われたわ」
「あの抱きしめているのは…」
「そんな…!」
「おい、3人のうち誰か」
「ここら一帯を照らせるか?」
「私がやりましょう」
「頼むぞコルル」
「さて…猫目解除」
「閃光」
コルルがそう唱えると辺り一帯が明るくなった。
「アリア、探知の魔法が使えるか?」
「はい、お任せ下さい」
「探知」
「10km圏内に生体反応ありません」
「(もうここに用済みと見て居なくなったのか…?)」
「ユナ、ララの体をどう見る」
「…服に傷がないから戦った感じでは無いわね…首から上を剣で斬り落とした感じだから…少なくとも即死ね」
「ユナ、魔王様に失礼ですよ」
「あ!す、すみません!」
「構わんよ」
俺の頭の中は怒りや悲しみより先に、後悔と殺意で満ち満ちていた。
「(今の俺には秘術と禁術もあるしここは日本じゃないから殺しても罪には問われない…)」
「(躊躇う理由はないよな……?)」
「くそ…犯人が分かれば殺せるのに…」
「犯人なら分かるかもしれませんよ」
「どういう事だ?」
「私の使用出来る魔法に再上演という魔法がございます」
「生物や物に、直接又は間接的に触れた者を映し出す魔法です」
「やってくれ」
俺はララの体をコルルへと渡した。
「では…再上演」
ララの体の上には俺やアリア、コルルやユナといった俺の仲間達の顔が映し出され最後に出てきたのは片目に傷を負った茶色のバンダナを巻く男だった。
「こいつがララを…」
「見た事のない人物ですね…」
「…この目にある傷の男、どこかで見た気が……」
「気の所為じゃない?アタシだって見た事ないし」
「そうですかねぇ…」
「とにかく、顔は分かったんだ」
「今はララの体を埋葬してやりたい」
「お待ちください、魔王様」
「なんだ?アリア」
「その体は冷凍保存させて頂きたいのですが…」
「は?いや、お前…正気か?何に使うんだ?」
「不死鳥の血がその体に触れることによって、再び息を取り戻すことができます」
「それはどこにあるんだ?」
「隣国の聖王国ジギルにそれがあると、情報を掴んでおります」
「……分かった」
「取り敢えず、城に戻るぞ」
俺やアリア達は、体のみになったララを連れダイヤの花畑を後にした。
日本での人間の価値を忘れ人間への完全なる敵意が芽生えた日でもあった。