『理想と現実の狭間で』
「ちぇっ!ツカレタロウの奴、いっつも日上の肩持つんだよな、本当腹立つ!」
「新米のくせにイイ子ぶりやがってよ!」
「そう、そう!‟三流大学卒の世間知らず”ってうちのママが言ってたもん!」
「何したって絶対怒らない社会科のエンマメ(本名:遠藤豆太郎)の方が
絶対イイって…何せベテランだもんね!」
「あ~ぁ、早く1年過ぎねぇかなぁ?担任代えて欲しいよ、全く…!」
「そうだ、そうだ!」
「早くこの学校から居なくなっちまえ!って…。」
太郎はこの日ほど深く傷つき落ち込んだ日は無く、アパートに戻り、普段あまり飲まない酒を何杯も飲んでひとりビデオを点けたまま、畳の上で大の字になって横になっていた。彼は大好きなビデオのケースをじっと握り締めたまま額から大粒の涙が流れ落ちるのを拭おうとせず、ひたすら天井を仰いでは時折何度も嗚咽を漏らし、やがてそのまま眠ってしまうことに…。 一人暮らしのアパートで食べかけのポテトチップスやカップラーメンの殻が所狭しと彼を取り囲むように散らばっていた。
それからふと目が覚めて気を取り直しネット動画でも見て気を紛らわそうとする
彼が見たものは何と!素人参加型自主製作動画配信サイト!
題して『君でもなれる!ナルシスト選手権1990』
「うあ~、どローカルな番組だなぁ!えっ?誰が出てんの?
の、『のがみつかさ』?だ、誰だよ、そいつ?知らねえし、それにしても
ド下手っくそな歌と演奏だこと?(←ほっとけ!) 」
“ S.S.W ”
歌/曲/詞:のがみつかさ
♪ギター手にした15の俺 歪んだ‟反抗期、喧嘩”、傷だらけの心♪
♪覚えたてメロディー 慣れぬ指の震え 声を張り上げて 歌う愛の歌♪
♪続かない‟弾き語りの夢″薄れる 誇り塗れ 10代の頃のギター♪…。
太郎も実は、以前学生時代にギターを覚え、本気で歌手を目指そうとした時期があり、重なる部分があったが、今日の一件が彼に重く圧し掛かった関係で
何をしても全てネガティブ志向で考えてしまう結果に…!
「この曲のタイトルのS.S.Wって一体何だ?最初のSってつまり
『損?素っ気ない?それでも先生?』
じゃあ2番目のSは?『そばに寄るな?そっとしといてくれよ?白々しい奴?』
Wだとつまり…
『分かったふりして?わざとらしい?笑っちゃうよ、ド三流センセイ!』
…ってこと?…??? お、俺って…も、もしかして…俺の正体は“Wish!”で
一世風靡したアノ人???え―――っ?」
「止めた、止めた!もういい!いいって…!ほっといてくれよ!ち、ちきしょう!誰がやるもんか、教師なんか!俺みたいな頭の悪い人間がどうやってあの子たちの気持ちまで推し量れるっていうんだよ!超能力者じゃないんだぞ、こっちは… 『凡人、普通、その日暮らしの風来坊』で何が悪い?
『個性を…尊重しろ!』って?…しねえよ、そんなもん!今後一切、各自が勝手に生きていきゃいいじゃねぇか?所詮人間なんて“孤独な生き物”なんだから…!
他人を当てにして何が楽しいんだよ?」
天井に向かってひたすら弱音を吐く彼の言葉は空しく木霊して全て自分へと跳ね
返ってゆく!ただそれは泣き崩れた駄々っ子をすっぽりと覆い隠す母親の愛情
みたいにそっと全身優しく包み込んで…。
つづく…のでしょうか?それとも…?(←何勿体ぶってんだよ⁈)