『気になるアイツ!』
「ヨォ、日上!オッハヨー!元気か?この間さぁ、青森産の林檎食べたんだけど、
すっげぇ旨かった!君もよく林檎食べんの?」
「…………。」
東北から転向して来たばかりの中学2年生の日上雄三は、転校初日から今日に
かけて一度も返事をしないどころか、挨拶の「あ」の字も発したことが無い。
「ちょっと…いや、だいぶ変わり者、ひねくれ屋なのかなぁ、彼は?」
太郎のクラスで唯一無口で誰とも会話をしょうとしない彼はいつも教室で一人
ぼっち。誰彼と絡むことも無く教室の片隅でひとり読書に没頭し回りの友達からは完全に無視されている状態。そんな彼を太郎はいたく不憫に思い、4校時の道徳の授業で持ち前の正義感とおせっかいが空回りしてつい大声を出してしまい、こう叫ぶことに…。
「おい、おい、ちょっと君たち!今回のテーマは『個性を尊重するとは?』であってこれじゃまるで一人の人間に対する公開処刑みたいじゃないか!彼一人仲間外れでいいのか?友達ならもっと温かく包んであげたらどうだ?日上だってまだ転校して来たばっかりで周囲に対しての不安や恥ずかしさもある。何をやるにしても元から居る君たちの方から誘って上げたら…」このクラスの担任である太郎が最後まで言い終わらないうちに、すかさずとばかり学級委員長の織田真理(おだまり←通称:
仕切り屋番長)がこう反論する。
「だってぇ、先生!日上君たら全然誰とも口を聞いてくれないどころか、
ろくに返事さえしてくれないんですよ。挨拶だって一緒。一切返って来ない。
私たち女子の間じゃ『扱いにくい男子No.1』なんですぅ!」
「そうだ、そうだ!こんなひねくれ野郎、そっちから頼まれたって誰が友達になってやるもんか? なぁ、みんな!そうだろ?」
クラスのほぼ全員が、クラスいち常に先生のご機嫌取りで有名な学級副委員長の
恵利糸正(エリイトタダシ通称:チクリ屋カメレオン)の一言に同意するかの如く
うなずいた。
「ま、待て、待て、みんな!そこまで言う必要ないだろ?
彼だって決してそんな悪い奴じゃないんだし、第一…。」
そう言って太郎はふと日上の方へ視線向けると彼は物凄い形相で太郎をじっと睨んでいた。
「余計なこと言いやがって…!」
きっと彼はそう思ったに違いない。太郎は慌てて
「おい、ちょっと日上!待てよ、待ってたら…?」
と声を掛けるも足早に教室を出て行く彼を尻目に道徳の授業は消化不良のまま終わりをつげる。
そしてその日の放課後自分の教室へ向かう太郎はドアの閉まった教室の中から聞こえて来るひそひそ話しにそっと耳を傾けていると廊下でひとり一瞬我を忘れるかの如くその場にずっと立ち尽くしてしまった。 つづく…と思う、多分