思いついた単語を並べていっただけなので、名前に意味はまったくありません(´▽`;)ゞ
無我夢中膳後藤膝栗毛無問題近衛兵長丸はげんなりしていた。
主君の長曾我部長谷平兼家近松門左衛門之介より娘の長曾我部長谷平姫野綾加辺美琴沙羅双樹万野巫女姫乃の護衛を仰せつかったからだ。
長曾我部長谷平姫野綾加辺美琴沙羅双樹万野巫女姫乃といえば松平天翔女人森羅万象氏家之美琴徳平万待遇比良比丘尼大明神の再来とも言われるほどの見目麗しい姫君であるのだが、その気性は荒く、まるで猿飛佐助十二神将破壊大明神鬼面菅原道真南無阿弥陀仏のごとき怪力を誇っている。
それゆえ、民人たちはこの美しい姫君を松平天翔女人森羅万象氏家之美琴徳平万待遇比良比丘尼大明神猿飛佐助十二神将破壊大明神鬼面菅原道真南無阿弥陀仏姫と呼んでいる。もちろん、当の本人は知る由もない。
ちなみにこの長曾我部長谷平姫野綾加辺美琴沙羅双樹万野巫女姫乃、かの有名な長曾我部長谷平兼家遠縁梅桜門外右衛門之介種吉の孫で、長谷川泰三門外不出乃神義行五右衛門太宰府天屋椀屋太郎実吉羽左衛門之介秀吉の遠縁にあたる。その家柄の良さも相まってか、長曾我部長谷平姫野綾加辺美琴沙羅双樹万野巫女姫乃には絶えず縁談話が舞い込んでくる。
先だっては、隣国の大名・後醍醐楊書院法華経丸五重塔六右衛門米吉泰吉将兵末吉大吉将兵千手観音業平がわざわざひと月もかけてこの姫に会いに来たほどである。
しかし長曾我部長谷平姫野綾加辺美琴沙羅双樹万野巫女姫乃は、この後醍醐楊書院法華経丸五重塔六右衛門米吉泰吉将兵末吉大吉将兵千手観音業平を「気障な男」と一蹴し、地面に叩きつけた。
青くなったのは父の長曾我部長谷平兼家近松門左衛門之介だ。
いくら後醍醐楊書院法華経丸五重塔六右衛門米吉泰吉将兵末吉大吉将兵千手観音業平が長曾我部長谷平姫野綾加辺美琴沙羅双樹万野巫女姫乃に夢中とはいえ、投げ飛ばされたとあってはただではすまされない。
案の定、後醍醐楊書院法華経丸五重塔六右衛門米吉泰吉将兵末吉大吉将兵千手観音業平は、長曾我部長谷平兼家近松門左衛門之介の治める加賀八万石十州信濃高山由緒丸善光寺八公渋谷池袋新宿太宰府天満宮を敵国とみなし、宣戦布告をしたのだった。
そういうこともあり、長曾我部長谷平姫野綾加辺美琴沙羅双樹万野巫女姫乃は常に命の危険にさらされ、出かけるときは無我夢中膳後藤膝栗毛無問題近衛兵長丸ら側近の護衛が必要となったのである。
「無我夢中膳後藤膝栗毛無問題近衛兵長丸よ」
「は!」
「長曾我部長谷平姫野綾加辺美琴沙羅双樹万野巫女姫乃の護衛、しかと頼むぞ」
「御意」
無我夢中膳後藤膝栗毛無問題近衛兵長丸は答えながらも長曾我部長谷平兼家近松門左衛門之介の言わんとしていることはわかっていた。
それはすなわち、
「長曾我部長谷平姫野綾加辺美琴沙羅双樹万野巫女姫乃の面倒を頼む」
ということである。
長曾我部長谷平姫野綾加辺美琴沙羅双樹万野巫女姫乃は自由奔放な姫君で、どこで何をしでかすか予測がつかない。
さらには好奇心旺盛で厄介ごとを見つけては我先にと首を突っ込みたがる性分だから質が悪い。
それゆえ、長曾我部長谷平姫野綾加辺美琴沙羅双樹万野巫女姫乃の護衛を担当する者はみな、その日の終わりには疲れ果てて屍人のようになってしまうというのが護衛仲間の間では常識となっていた。
無我夢中膳後藤膝栗毛無問題近衛兵長丸は………
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「あのー……、あやめ先輩?」
僕はそっと本を閉じて目の前にいるあやめ先輩に声をかけた。
当の本人、あやめ先輩は違う本を読みながらこちらを見ることもなく
「なんだ?」
と言い放った。
「これ、めちゃくちゃ読みづらいんですけど……」
「『呪術陰陽道中無我夢中膳後藤膝栗毛無問題近衛兵長丸列伝三四門会五郎絵巻~猿飛佐助十二神将破壊大明神鬼面菅原道真南無阿弥陀仏烈級章~』のことか?」
「……そう、それ」
すげえ、本も見ずにタイトル丸暗記してるよ。
さすがは文芸部部長。
「人名とか地名が長すぎて内容が全然頭に入ってこないんですけど」
「それは貴様に覚える気がないからだ」
貴様って……。
「慣れてしまえばどうということはない。その本は面白いぞ。夢枕夏目御上院芥川天満鴎外岐宿葛飾暁流零式満願夢枕幕府先生の大作だからな」
長い!
長いよ、作者名も!
しかも「夢枕」2回使ってるし!
「あのー……、全然知らない人なんですけど……」
「なに?」
「その……ゆめなんとかって人。初めて聞きました」
「……」
その日、初めてあやめ先輩は僕を見た。
夕日に反射する黒髪美女のあやめ先輩。
放課後の教室で本を読む姿がこんなにぴったりくる人は他にいないだろう。
僕はあやめ先輩に目を向けられてちょっとドキドキしてしまった。
「貴様、夢枕夏目御上院芥川天満鴎外岐宿葛飾暁流零式満願夢枕幕府先生を知らないのか」
「し、知りません……」
知ってたら逆に覚えてると思う。
名前が強烈すぎて。
「夢枕夏目御上院芥川天満鴎外岐宿葛飾暁流零式満願夢枕幕府先生を有名にした『暁流鳳凰白虎獅子身中八卦蚊取線香青龍朱雀七転八倒天中殺』もか?」
……なんで長いの? この人の作品。
「聞いたこともないです」
言い終わらないうちに、あやめ先輩は持っていた本をパンッと閉じた。それはもう、いい音色を立てて。
「貴様、それでも文芸部の人間か!」
「文芸部には昨日、入部したばかりですけど……」
そう、高校の入学式は1週間前。
そして僕がこの文芸部の敷居をまたいだのも昨日のこと。
つまりはペーペーのヒヨッコだ。
もともと本が好きだったけど家が貧乏だったためあまり本は買ってもらえず、高校生になったら文芸部に入ってめちゃくちゃ本を読むと決めていたのだ。
今日は文芸部に入部して2日めになる。
っていうか文芸部の部員があやめ先輩しかいないというのを今日初めて知ったんだけど。
「新入部員?」
「そうです、新入部員です」
「そうか、それは失礼した」
あやめ先輩はスラっと立ち上がって僕の前に立った。
こうして目の前に立つとやっぱりすごい美人だ。
「私は最上あやめ。文芸部の部長だ」
「1年C組の後藤平八陣内勒江菊八助左衛門佐助雄介龍之介です。って、昨日も挨拶しましたよね?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………すまんが、もう一度言ってくれるか?」
「1年C組の後藤平八陣内勒江菊八助左衛門佐助雄介龍之介です」
「名前長っ。覚えるの面倒臭っ」
ええー……。
おしまい