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駅にまつわる5つの怪異夜話  作者: 風吹(かざふ)流人(るじん)
5/5

夜への最終電車

人間の感覚を小説にこめるのが苦手な自分は、練習として選んだ題材が『怪談』でした。

しかも、最初からおどろおどろしい雰囲気ではなく、普通の人間の普通の日常の最後の最後に訪れる非科学的、非日常的な事象に恐怖を感じても貰いたいと思って書きました。

その日常から非日常への転換が、どのように行われているか、キレ良く展開したか、そこに注視してご批判いただければ幸いです。

(1)

ああ、寒い。夜の風が冷たい。


今日は柄にもなく飲みすぎてしまった。


仲間たちに抱えられるように駅まで送ってもらって、でも改札ではちゃんと手を振ってみんなと別れた。


「大丈夫?」


そう心配する子もいたけど、


「平気、平気、ほらっ!」としゃんと背を伸ばして改札を通る。


「途中、吐くなよ」とか、


「無事着いたら連絡しろよ」と言う仲間の声を背に、軽く手を上げてホームへの階段を上がった。


でも、本当は頭がボーッとして、すぐにでも倒れ込みたい気分だった。


階段の途中からどうも怪しくなる足取りを励まして、手すりにすがりながら、階段を上がりきったホームの椅子に座り込んだ。そして、ガクンと頭を垂れたところで記憶が飛んだ。


夜気が染み込んできたのか、私は寒さに震えて目を覚ました。どれくらい寝てしまったのだろう。時計を見たら深夜の1時を指していた。どうやら、酒に飲まれて眠りこんでいるうちに、最終電車にも置き去りにされたらしい。


始発までは、あと4時間以上か。


どこか近くに宿を取ろうか。それとも、タクシーを捕まえて家まで帰ろうか。


でも、若い女が一人で夜明かしをするのを頓着しない郊外の無人駅の近くに、宿泊所があったり、タクシーが止まっているはずがない。


・・・


今日は高校の同窓会だった。


卒業してもう10年。ちょうどいい節目だからと、母校近くの郊外の店に、クラスのみんなで集まることになった。


可もなく不可もなく、平凡な女子高生だった私は、そのまま可もなく不可もない短大へと進み、そして、そのまま可もなく不可もなく都会で就職した。


そして10年ぶりに、いろんなところに散り散りになった同級生たちが、また集まってくる。でも、取り立てて仕事で頑張っているわけでなく、また結婚もぜず、これと言った彼氏もいない私は、何を誇れるわけでなく、ただそのまま歳を積み重ねてしまった。それを確認するだけの場所だった。


(2)

そんな場所に、なぜ足を運ぼうと思ったか。


あれから10年、浮き沈みもなく、平凡に過ぎてしまった。ひょっとしたら、あと10年もこんな感じで過ぎてしまうのかも知れない。


10年目の同窓会の案内を受け取った途端、そんなうそ寒い思いに襲われた。


確かに、少しは人のためになったこともあったし、誰かから好かれたこともあったけど、気がつけば、また一人、周りに誰も残っていない。あとは、打算と都合でつながった他人ばかり、心通わせる相手なんてどこにもいやしない。こんな社会の中で、人間はゆっくりと孤独死に追い込まれていくんだろうな。でも、そんな流れに絡めとられて、生きたまま心を殺されてゆくのは嫌だった。


だから、ほんの少し、流れを変えたかった。同窓のメンバーは、10年前、私の出発点にいた人たちである。もちろん、そこからやり直せるなんて考えてやしなかった。それでも、今の生活に少し変化が生まれたなら。人生にわずかな彩りが戻ったなら、と、そんな期待があった。


10年後の同級生たちは、顔に10年間の時間を張り付けて、男子はかなり丸みを帯びていたり、女子は結婚してすっかり落ち着いていたり、出世してそれなりのポストを任されている自信が顔に現れいたりとか、知らない人たちに会っているみたいですっかり気後れをしてしまった。


でも、二言、三言言葉を交わすと、そんなことはどうでもよくなって、気持ちは10年前の高校生に戻っていた。だから、私も柄にもなく、黄色い声を出して会話に加わった。


ゆずるってさあ、あの有名な会社に勤めてるんだよね」


そう、話を振ってくる旧友に思わず、苦笑いで返す。


たしかに、私の会社の名前は有名かも知れない。でも、本当はあの世界的企業と名前が似ているだけである。実態は、自社ビルも持たない、地元の10人余りの小さな会社に過ぎない。それをどこでどう間違って伝わったか、私が大手企業の社員ということになっている。私の知らないところで、ずいぶん羨ましく思われたかと思うとお尻がむず痒かった。


「ねえ、ゆずるは何やってんの?」


「ん?ああ、マ、マーケティングかな・・・」


「へえぇ、すごおい。エリートじゃん!」


それは、嘘ではない。一応、私の仕事は『マーケティング』ということになっている。でも、実際は、ライバル会社がどんなものをいくらで取り扱っているか、ネットで調べて、まとめて報告するだけである。それで、ライバルのやっていることの少しだけ上を行けば、地元ナンバーワンになれるというのが社長の方針である。でも、それでナンバーワンになれるなら、会社はとっくにもっと大きくなっているはずである。


しかし、あえて訂正するのも面倒くさくて、勘違いのままほっておくことにした。


(3)

「じゃあ、ゆかりは?」


「私?私は全然ダメだなあ。だって、結婚してうちに入って、こもりっきりだもん」


いいじゃない。こもりっきりで、過ぎで行ける結婚生活なら出来過ぎよ。


でも、社交辞令で一応聞いてみる。


ゆかりの旦那さんってどんな人?」


「うん、まあ、それなり・・・かな」


口では謙遜しながら、ムズムズと小鼻を動かしている。本当は自慢したくてしょうがないないんだ。とてもわかりやすい。


「そう言えば、ゆかりって、看護学校に進んだんだっけ?」


「う、うん。そう・・・」


「それで、そのまま病院に就職して、あ、そうか、旦那さんはひょっとしてお医者さま?」


「んー、ちょっと違うかな。お医者さんじゃなくて、救急救命士」


「999・・・?」


「救急救命士!救急車に乗ってる人!」


「ああ、消防署から緊急出動する人だ」


「そうよ、とってもかっこいいんだから」


「そう、でも、看護士を辞めて家に入らなくても良かったんじゃない?」


「う〜ん」


そこで、ゆかりは少し複雑な顔をした。もしかしたら、家に入った理由は結婚だけじゃなくて、あまり病院の仕事が好きじゃなかったのかも知れない。


でも、ゆかりは、


「でもね、彼って消防署に詰めっきりでね、私が家にいて、彼が安心して帰れるところを守らなくちゃいけないの。それに、彼にそうして欲しいって言われたし」と、さも当然のように答えた。


いろいろあったのは想像できたし、何より今のゆかりが幸せなら、これ以上何も言うことはなかった。


ただ、生涯の伴侶を見つけたゆかりに比べて、未だにそう呼べる人のいない私の寂しさが身に沁みた。そして、周りの女子を見渡せば、どの子も彼女たちなりの生活感を漂わせていた。


(ああ、しまった。こんなところ、来るんじゃなかった。結局、私が空っぽで何もない、って分かっただけじゃない)


そして、気がつけば、アルコールを過ごしていた。ここに居て、普通に騒いでいれば、空っぽの自分を知られなくても済むかも知れない。そして、ちゃんと何者かになっている自分を演じて、そう思われたまま、ここを立ち去ったら、もう二度とあなたたちとは会わない。そうしたら、皆んなの記憶の私は、同じ時間で同じように過ごしてきたあなたたちの仲間の一人になれる。

あえて大きな声で笑って、あえて明るく振る舞って、そしてアルコールに口をつけた。そうしたら、部屋の隅で一人酔い潰れて、皆んなの輪から取り残されていた。


そして、「お開き」を告げる幹事の声が遠くから聞こえた。


(4)

何やってんだろう、私。無理して酔い潰れて、きっと皆んなに迷惑をかけた。そして、朦朧としたまま、駅まで運んでもらって、ホームの椅子で真夜中まで意識を失っているなんて。


最悪・・・。


身体が冷え切っているし、このまま始発まで4時間も待つなんて耐えられない。コンビニでもいいし、ファーストフードの店でも構わない。どこか電気のついている店で時間を過ごそう。


そう思って、腰を浮かしかけた時、ホームの向こうから光が線路を照らしながら近づいてきた。


こんな時間に電車なんて、線路の整備をする保守列車だろうか。もし、こんな時間にホームにいるところを見つかったら、かなり気まずいことになる。早くここを離れなきゃ。


しかし、その真夜中の電車は意外に早い速度で、ホームに滑り込んで、夜の闇に暗く光る車体を私の前に横たえた。


それは普通の客車だった。しかも、どの車両にも煌々と灯がともされ、何人もの乗客の姿があった。


(大晦日でもあるまいし、臨時列車が走ってくるなんて。それとも、どこかでイベントでもあったのかしら)


でも、これでうちの近くの駅まで乗せていってもらえたら、とても助かる。


そして、夜気に冷え切った身体を自らの腕で抱えて、ホームの椅子から立ち上がった。長い間同じ姿勢をとっていた所為で、少し腿の裏側が引き攣ってふらついた。


闇の中の暗い電車は、プシュウゥと音を立てて、大きく口を解放した。すかさず、車内に足を踏み入れた私は、その瞬間に、なんとも言えない不快な気持ちに襲われた。


なんだろう?これは、本来来てはいけない場所へ脚を踏み入れたような、落ち着かない気持ちになった。


思わず、入り口付近に立ち止まると、またプシュウゥと圧縮空気の音がして、後ろで電車の扉が閉まった。


鈍くドルドルドルと唸り続けるモーター音が回転を上げて、電車を前へ前へと押し出した。


線路が曲がりくねっているのか、電車はしきりと右に左に揺れた。思わず、座席横の握り棒に身体を預けた。そして、その不安定な態勢を維持しきれずに、空いている席に腰を下ろそうとした。


すると、乗客の一人が虚な目を向けて、低い声でこう言った。


「そこは、座れないよ。もう、いっぱいなんだ」


え?


彼は、グレーのコートの背中を丸めた小男だった。この車両の乗客は彼一人しか認められないと言うのに、まさか一人で全てを占領しているとでも言うの?


その私の心を読んだように彼は、小さな背中を小刻みに揺らして笑った。


「お嬢ちゃんよ、そこじゃない。上を見てみな」


そう言われて、私は電車の天井を見上げた。


そして、


そこは、びっしりと、


人間の足が生えていた。


つり革の上あたりに、男女様々の脛から下の部分が、様々の形や色の靴を履いてぶら下がっていたのである。


なぜ、最初からこれに気がつかなかったのか。それとも、あまりに不自然な光景に意識の方が認識を拒絶したのだろうか。そして、落ち着かない、なんとも不快な気持ちになって心に沈み込んだのか。


それを見ている私は、声を失い、握り棒を握ったままの形で凝固した。それでも、心のうちのどこかで、駅のホームで見ている夢が続いていると思いこもうとする自分がいた。


電車が揺れるたびに、ひしめき合った足たちは右に左に揺れた。そのうち、何本かはズルリと音を立てて落下し、へそから下までを露わにした。


目の前に垂れ下がったそれは、若い女性の半身だった。膝丈のスカートから生々しい足が垂れ下がり、そこに無数に綻びの入ったストッキングがまとわりついていた。そのストッキングの破れ目から見える素足には、不自然なほど大きい青黒い痣が広がっていた。その生々しい肢体が、意思を持たない骸のように電車の動きに合わせてクルクルと動いた。


「嬢ちゃん、あんたが座ろうとした席は、その娘さんの場所だ。あんたが席を取ろうとしたんで、怒って降りてきたんだよ」


くどくどと説明をする小男に私はやっと、これだけの声を絞りだした。


「こ、ここはなんなの・・・。こ、これはなんなの・・・」


ニヤリと嫌な笑いを浮かべた小男は言った。


「この電車は、夜行きの最終電車だよ。気の毒だが、帰る電車はない。そして、な・・・」


そこで、彼は一拍溜めて、ギョロッと目を剥いた。


「街から街へ、今日死んだ人間の死体を回収してるのさ。なんで、そこにあんたみたいな生きた人間が乗っちまったかは知らんが、まあ、役所にだって手違いはあるし、そこは諦めるんだな」


書き終えて思うのは、構成の甘さです。

徐々に雰囲気を盛り上がるとか、場面を展開させるための伏線を張るとか、まだまだ勉強すべき課題は山積みです。

これからも研鑽を重ねて、少しは読めるものをお届けしたいと思います。

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