表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
跡地  作者: 陸奥こはる
第1章―国外追放、選びました。―
2/15

1話:牢屋にぶち込まれました。


「お、お嬢様……」

「どうかしたのかしら?」


 ヴァルジャンは、ズレそうになった自らの眼鏡をかけ直した。

 外出の為に着替えた、お嬢様の服装が、変だったからだ。

 ピンクと紫のシマシマ模様のタイツを穿き、変なキャラの絵が描いてある上着を羽織っている。それは、小さな女の子が好む着合わせであって、16歳にもなろうというお嬢様がして良い服装では無かった。


「このヴァルジャン……とても悲しみでございます」

「な、なんでよ」

「お嬢様、その服はご自分で用意されたのでしょう?」

「……どうして分かったのかしら?」

「そんなファッションセンス皆無の服を、侍女が用意するとは思え――」


 ――パァン!

 手のひらの痕がつくほどの勢いで、ヴァルジャンの頬を、お嬢様がぶった。


「どうしてそんなヒドいことを言うの⁉」

「い、いえ別に酷い事を言おうとしたワケでは……」

「言ったじゃない! ファッションセンス皆無って!」

「申し訳ございません……」


 ヴァルジャンはゆっくりと頭を下げる。

 確かに、些か気分を悪くしそうな事を言ってしまった。

 自覚はあった。だから謝った。

 だが、お嬢様はぷぅと頬を膨らませた。


「重ねてお詫び申し上げます」


 追撃で謝ると、なぜか、お嬢様は更に面白くないような表情となる。

 どうして、更に不機嫌になるのだろうか……。

 ヴァルジャンにはそれが分からなかった。困惑する。すると、それを見たお嬢様が溜め息を吐く。


「……ねぇヴァルジャン、国王と相対した時、そう、あの時の惚れ惚れする力強さは、一体どこへと消えたのかしら。……私は、あの時のあなたのような、堂々と真っすぐ立つ男が好きよ」

「ええっと……その……突然何を?」

「だから、あなたにもっとシャキっとして欲しいの」

「は、はぁ……」


 お嬢様が何を言いたいのか、ヴァルジャンにはよく分からず、空返事をした。

 それが気に入らなかったらしい。

 お嬢様は眉間に皺を寄せ、膨れた頬をもっと膨らませてカエルのような顔を作った。


「――出てお行きなさい!」


 突然の退室命令に、ヴァルジャンは瞬きを繰り返した。


「で、ですが……」

「――出なさいったら出なさい! 私は今から着替えます! この服はダサイのでしょう! ならば着替えます! それとも私の下着姿を見たいのですか!?」

「別に見たくないですが」


 ヴァルジャンが言い終わると同時に、お嬢様は、壁に飾ってある細剣を乱暴に手にすると、勢いに任せて鞘から引き抜いた。


「しねしねしねしねしね! ヴァルジャンのバーカ!」


 これ以上怒らせると、大変なことになりそうだ。

 ヴァルジャンは急いで退室しようとして――扉が、勝手に開いた。中に入って来たのは、国お抱えの憲兵と、そして暫定的に新国王となった元大臣の男だった。


 お嬢様とヴァルジャンの二人は、きょとん、と目を丸くする。

 侍女たちからは、事前の連絡も無かったので、つまり電撃的な来訪だ。


「ひっ捕えい」


 新国王は、憲兵に命令する。お嬢様とヴァルジャンは、状況が呑み込めず、戸惑いのままに捕縛された。


「えっ……? は、話が見えないのですが――」

「な、なにをするのよ! 放して――」


 二人が、ようやく抗議の声を上げると、新国王は言った。


「――前国王殺しの罪により、裁判が開かれる事となった」


 その言葉に、ヴァルジャンとお嬢様の二人は、揃って仲良くあんぐりと口を開いた。


 前国王との一件についての話であるならば、それは全て、終わっている事として処理されているハズだ。

 前国王の圧政と変わり果てた姿の事もあって、お嬢様とヴァルジャンは何らの罪にも問われない、と秘密裏に決定されたという話になっていたのだが……。

 市民と国民には、前国王は病死したと伝え、何もかもは闇に葬られると言う話もされた。


 なのに、今になって、一体どうして……。


 二人の困惑は、見事に表情に現れていた。だが、そんな事もお構いなしに、新国王は二人を牢屋へぶち込むようにと指示を出した。


 屋敷の侍女たちが見守る中、ヴァルジャンとお嬢様の二人は、連行されて行った。


※※※※


 お嬢様とヴァルジャンは、二人仲良く揃って、同じ牢屋の中に入れられている。ここで、続報が来るまでの間、待てと言われたのだ。


「ねぇヴァルジャン」

「なんでしょうか、お嬢様」

「どうして、このような事態になっているのかしら」

「さぁ、私にも分かり兼ねております」

「確か国王殺しの件は、不問のハズ……よね?」

「そのように私も話は聞いております」

「じゃあどうして?」

「ですから、それは分かり兼ねます」

「あなたの”魔術”で、この牢屋を、ぶち壊せないかしら?」


 アルマが物騒な事を言う。だが、それは出来ない相談であった。ヴァルジャンは太腿のホルスターを叩く。そこには、銃が入ってはいなかった。


「”魔術”は発動体ありきです。私の発動体は銃であり、それが無ければ、”魔術”は使えません」

「そんな……」


 がくり、とアルマが肩を落とす。しかし、そんな様子を見せられても、ヴァルジャンにはどうする事も出来ない。肩を竦めて、「仕方ありません。待ちましょう」とだけ述べた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ