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9:大人の時間(パンツ会)

「おい、起きろヤクル」

 

 真夜中、ベッドを抜け出したニールがヤクルの体を揺さぶる。

 

「……んだよ。しょんべんなら一人で行けよ」

「ぶん殴んぞてめぇ」

 

 のろのろと起き上がったヤクルは目を擦りながら、寝惚けた頭で軽口を叩く。

 何度か目を擦りようやく顔を上げたヤクルの目に飛び込んで来たのは、大人のニールが腕を組みこめかみに青筋を立て立っている姿だった。

 一瞬、違和感に気付かなかったヤクルだが、徐々に目を見開くと、自分の体を確認する。

 想像通り、ヤクルの体も元の体に戻っていた。

 

「大人の時間といこうぜ」


 弓なりに口を歪め笑うニールの手には、出発の時酒場の親父から貰った酒瓶が握られていた。

 寝巻きは子どものままのせいで、白いワンピースがチュニックのようになり、ニールの下着は丸見えの状態。

 ヤクルに至ってはワンピースが苦しく、少しでも動けば引きちぎれてしまいそうだ。

 ニールは不格好にゆっくりと動くヤクルのワンピースを鷲掴みにすると、器用にすっぽりと脱がせ、無造作にシーツを放り投げる。

 

「エスカは?」

 

 すぐ隣のベッドで寝ているワイルディを起こさないよう小声で話すヤクルは、シーツを体に巻き付けながらエスカの姿を探す。

 

「女部屋はクローバーとメリッサの二人がエスカにくっついて寝てて無理だ。あいつは子どものままスヤスヤ寝てる」

 

 ニールが指で輪を作り覗き込むと、指の周りが赤く光った。

 どうやら魔法でエスカ達の部屋を見ているらしい。


「覗きの魔法かよ。犯罪も許されんのかよ魔法使いってよ」

「自分で作った魔法だからなぁ。一般の魔法使い連中は禁止されてっかもな」

 

 さらりと言ってのけたニールは、ヤクル命名覗き魔法を解除するや、ヤクルの腕を掴む。

 するともぞりとワイルディが寝返りをうち、可愛く寝言をしゃべり出す。

 ヤクルとニールはお互い口元に人差し指を立てシーッと小声で言うと、ワイルディの様子を十分確認してから転移する。

 一度神殿の屋根の上に転移し、集落の灯りが全て消えているのを確認し、崖の上へと転移する。

 

「うぉっ。春先とは言えやっぱり夜は冷えるな」

 

 シーツと薄いワンピース(パンツ)姿の二人は、ぶるりと一度身震いすると、体を丸め座り込む。

 ちゃっかり酒瓶の他にグラスも二つ持ってきたニールは、座り込むとすぐに酒を注ぎヤクルに手渡す。

 

「火、なんて熾したらさすがにマズいよなぁ」

「便所が外にある家はマズいな」

 

 温もりを求めるように酒を口に運ぶも、冷や酒が喉を通る度にぶるりと震える。

 寒い寒いと交互に酒を継ぎ足し飲みすすめていくと、ようやく酒が回ってきたのか体が暖かくなって来た。

 

「最低の暖のとり方だと思う」

「俺達らしくて最高じゃねぇか。どうだ、街を抜けて子ども生活一日目の感想はよ?」

 

 酒が入りすっかりリラックスしたのか、ヤクルのグラスに酒を注ぎながらニールがにやりと口角をあげる。

 

「抜け出してこっそり酒を飲むのは何処に行っても変わんねぇな」

「うはは!」

 

 にやりと笑うヤクルの隣で、いつも以上に笑い上戸なニールがどさりと地面に横たわる。

 決して子ども生活の感想では無いが、あながち間違っていない言葉にニールは遠慮無く声を上げて笑い転げる。

 

「あんまり声を上げるなよ。見付かるだろ」

「なんだそれ、夜這いでもしてんのかよ。一気に酒が抜けたわ」

 

 すっと真顔になって座り直したニールを見つめていたヤクルだったが、にやっと笑うと腰を浮かせる。

 

「なぁんだー気付かなくて悪かったなぁ。襲って欲しいなら早く言えよー」

「やめろ気持ち悪ぃ! 放せ馬鹿力が!」

 

 ヤクルは力尽くでニールを押し倒すと、そのままニールの腹の上に跨がる。

 ニールが思いきり暴れヤクルの背を膝で蹴っても、圧倒的な体格差筋力差を前にヤクルはびくともしない。

 ようよう我慢の限界に来たニールが自身の体の下に巨大な法陣を出現させると、ようやくヤクルは体を離した。

 

「えーこわーい。賢者様それマジじゃーん」

「おう。絶賛全魔力をつぎ込み中」

「マジかよ。生身でそれはキツい」

 

 最初茶化していたヤクルだが、直ぐさまぱっと飛び退くと、急いで足で法陣を消し始める。

 生身じゃ無ければ受ける自信があるのかと呆れるも、渋々といった表情でニールは法陣を解いた。

 

「全魔力って、エスカは」

「そこは抜かりなし」

 

 体についた土を払い除けると、ニールは忌々しそうに瓶に口をつけ一気にあおる。

 

「無事潜入に成功し、住むところも決まった。色々教えてくれそうなリーダーもいるし、楽しい一ヶ月になりそうだな」

 

 シーツをまき直しながら崖下の集落を見つめ、ヤクルはぽつりと独り言ちる。

 未だ不満そうに胡座に頬杖をつくニールは、返事を返すことも無くただふんっと鼻で笑う。

 清々しくどこか格好付けて立つヤクルだが、崖から吹き上がる風にシーツが翻り、後ろに座るニールからは下着が丸見えだ。

 勇者と賢者のパンツでの酒盛りは、意外にも早く切り上げられた。

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