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8:必殺技はかっこいい

 ワイルディの掛け声が響く中、各班思い思いに活動を開始する。

 

「この草は腹痛で、こっちは擦り傷に効くの。混ぜたらきっと凄い事になると思うの!」

 

 木のうろから乾燥した草を取り出しながら、クローバーは嬉々としてエスカに説明していく。

 

「腹痛と擦り傷……。え~、混ぜたらすっごく苦そうだよー」

 

 草を手に、エスカはクローバーの顔を見上げる。

 腹痛と擦り傷の薬草を混ぜそのまま効果が出ればまだ良いが、そもそもこの二つは単純に煎じただけでは苦すぎて大人すら吐き出してしまう。

 そんなエスカの思いも虚しく、クローバーは実験実験と、次々に木のうろから茶碗と木の棒を取りだし、二つの草をごんごんと粉々にし始める。

 

「こ、粉薬?」

「水に入れて溶かすの」

 

 きっと溶けない。

 その言葉を辛うじて飲み込んだエスカは、腹を括りこのままクローバーのやりたいよう実験させる事にした。

 

 ぎこちないエスカの笑みを横目に、ニールはうんうんとバジルとチコリの話しに相槌を打っていた。

 

「やっぱり戦いになったら必要だと思う」

「絶対必要だよ」

 

 なめした木の皮にびっしりと書かれたメモを辿りながら、二人は交互に口を開く。

 

「ここまでは出来た」

「次はここから」

「な、に? 何が出来た?」

 

 聞いていただけでは理解が出来ずメモに視線を落とすも、そこに書かれた方陣と思われる図は、ニールが見ても何が何だか分からない。

 ニールとしては、良く法陣の存在を知っていたなと半ば感心する思いだが、それはさておき何処をどう解読しても何の魔法かさっぱりだ。

 

「このぉ矢印はぁどぉこに向け作用して……んん? 矢印? なんの魔法作ってんだ?」

 

 辛うじて読み取れた矢印の向きに、ニールはぐるぐると頭をフル回転させ考え込む。

 そもそも法陣に矢印は使わない。

 使う場合もあるが、それは『こっちに向けて魔法打ちますよー』というメモのような物。

 ぐるりとメモの周りを一周し、観念したように二人に聞いてみると、バジルとチコリは良く聞いてくれたと満面の笑みを浮かべる。

 

「「空飛ぶ豚小屋!」」

「天才かよ!」

 

 二人の言葉にニールは即讃頌の言葉を贈り、二人の手を掴む。

 戦いになったらどう必要なのか分からないが、発想の方向性はニールの大好物とする所だった。

 

「空から豚が落ちて来たらきっと敵なんかイチコロだと思うんだよね」

「そうそう。小屋ごと飛べば、いっぱい落とせるしさ」

 

 ニールに褒められ嬉しそうに二人抱き合い、自分達の考えを口にする。

 

「良いな~それ。飛ばすだけだったらまぁ何とかなるが、どうやって動かすよ?」

「馬にひかせる!」

 

 ちゃっかりメモの矢印を修正しながらニールが問えば、直ぐさま答えが返ってきた。

 

「んん? 馬はどうやって空で動くんだ? 何も無いとこバタバタしたって進まねぇぞ? 馬に小屋がひけるか……と言うか馬車じゃ駄目なのかよ~」

「空を蹴って進むの! 小屋なら豚を馬車に移動させなくて良いじゃん」

 

 ニールが問えばどちらかが即意見を返してくる。

 思いの外楽しみはじめたニールは、気を抜くと普段通りの口調になりそうな自分に笑みが零れる。

 

「じゃあ馬と小屋はただ浮いてるだけで、移動は馬の脚力次第か~。浮かせて空の一部を固めて……馬怖がって暴れそうだなぁ」

 

 メモの空いた場所に小さく方陣を書いてはぐしゃぐしゃと消し、うーんと唸り声を上げる。

 

「怖がらないように馬を眠らせる!」

「寝てる馬の体を魔法で動かせば良いんだ!」

 

 それだ! と、バジルとチコリはニールを押し退かし今思い付いた事をメモしていく。

 ぐりぐりと落書き帳の様に埋まっていくメモに、ニールは吹き出してしまった。

 

 薬班と魔法班から楽しそうな会話が聞こえて来る中、子どもの遊びとは思えない訓練量の剣術班は、言い出したワイルディさえ息も絶え絶え腕も上がらずと言った様子。

 

「にひゃく、さんじゅう、に……」

「ワイルディー、きゅうけいしようよー……」

 

 たまらずゼラニウムが悲鳴を上げると、ワイルディはぴたりと素振りをやめた。

 どうやら素振りをはじめてゼラニウムが止めるまでがセットらしく、ワイルディ自身も早くやめたかったようだ。

 ワイルディの『そこまで!』の声に、ゼラニウムとローリエは棒きれをうろに投げ入れると、足を放り出して座る。

 

「コリウス。おまえには特別なとっくんをあたえる」

 

 久し振りの素振りに腕を揉んでいると、ワイルディが鷹揚にヤクルに話し掛けてきた。

 バジル達が使っているのと同じメモ帳をとりだすと、ヤクルの隣に広げどかりと座り込む。

 

「ひっさつわざを考えてる」

「おー良いな必殺技!」

 

 ごちゃごちゃと書かれたメモは読めないが、ヤクルは腰を浮かせると、説明を求めるようにワイルディの顔を覗き込む。

 注目されて嬉しいのか、やはり頬を少し染めゆっくりと頷くと、メモの一点を指差した。

 

「燃える剣で攻撃だ」

「燃える剣で攻撃だ?」

 

 思い切り聞き返すと、ワイルディは咳払いをし、んっんっと苛立たしげにメモを指差す。

 

「火で出来た剣で攻撃だ」

 

 指差された先には刀身がゆらゆらと揺れる剣の絵が描かれていた。

 ようやくワイルディの言いたい事が分かったヤクルは、おーと大きな声を出し何度も頷いて見せた。

 

「カッコいいな!」

「カッコいいだろ!?」

 

 ヤクルの言葉に、ワイルディはリーダーとしてでは無く、一人の少年として目を輝かせる。

 

「剣を燃やして攻撃するのか? 油でも塗る?」

 

 やはりこちらもメモに描かれた絵だけでは詳細が分からない。

 ヤクルは浮き浮きとワイルディに質問しながら、メモの端から端まで視線を泳がせる。

 

「バジル達が魔法で剣を燃やす!」

「良いなぁ! 魔法との合体技だ!」

 

 きゃっきゃっと女子のようにはしゃぐワイルディとヤクルの姿に、他の班は手を止め集まって来る。

 

「バジル達との合体技! ふぁいあーぶれーどっ!」

「ぶれーどっ!」

 

 ワイルディの掛け声に合わせバジルとチコリがポーズを決める。

 ゲラゲラ笑うニールの隣で、明らかに感情のこもってない拍手を送るエスカを尻目に、ヤクルは思いの外乗り気らしい。

 

「ポーズはこうのがカッコイイんじゃないか!?」


 ワイルディの腕をグイグイと押しポーズを修正させると、次はバジルとチコリのポーズの修正をはじめる。

 

「誰よりもノリノリ……」

 

 ゼラニウムとローリエも加わりあれこれポーズを決める面々から視線を外したエスカが、笑いすぎてぜぇぜぇと肩で息をするニールに耳打ちをする。

 

「あいつは昔っから魔法剣を使ってみたいって騒いでたんだよ。無視してやったけどな!」

「あら意外。一回くらいやってあげても良かったじゃ無い」

 

 座り直したニールは意外なことを口走る。

 そう言ったオモシロ技はてっきり男の子全員が一度は憧れる物だと思っていたエスカは、しゃがみ込み心底不思議そうにニールの顔を覗き込む。

 

「あいつの馬鹿でけぇ剣でぶった切られたら、火傷しようが凍ろうが毒に犯されようが気付く前に絶命すんだろ。火を飛ばして視界を潰すにしても、わざわざ剣に付加させなくても良くね? 意味ねぇ事に労力さくなら普通に俺が攻撃魔法ぶちかました方が手っ取り早い。魔力の無駄使いだってようやく言い聞かせた所だったんだよなぁ」

「え!? まさか最近まで言ってたの!?」

 

 驚くエスカにニールは満面の笑みで頷いた。

 現実的なのか、補助魔法を使うより単騎で戦った方が良い二人だからなのか、ニールの考えは思ったより現実的だった。


「まぁ、子どもの遊び程度なら実現させても良いかもなぁ」

 

 真剣にポーズを決める子ども達を眺めながら、ニールは地面に小さく単純な法陣を描く。

 

「こら! あなた達!」

 

 法陣を書き終えニールが立ち上がろうとした瞬間、坂道の方からメリッサの声がした。

 咄嗟にニールが法陣を消すと、すぐ隣でやべぇっと俯くワイルディは、そろりそろりと後ろに下がって行った。

 

「待ちなさい! また崖の上に行ったでしょ!」

 

 しかし、駆け寄って来たメリッサはワイルディの首根っこを掴むと、子ども達に一喝する。

 どうやら集落の大人がメリッサに伝えたらしい。

 子どもだけで崖の上に行くのは禁止されているのか、全員バツが悪そうな顔でもじもじと俯いている。

 

「言いつけを守れなかった人は教会と神殿の廊下のお掃除です」

「せんせーい。掃除を罰にしたらいけないと思いまーす」

 

 ワイルディの首根っこを掴み他の子を引き連れ山を下り始めたメリッサを、茶化すようにニールが声を上げる。

 

「レモングラス君は食堂のお掃除もお願いね」


 振り返り一呼吸置くと、メリッサは満面の笑みでそうとだけ言うと、急かすように皆の背を押し歩いて行く。

 

「頑張れレモングラス君」

「頑張ってね、レモングラス君」

 

 面白く無さそうにため息をつくニールの両脇を、茶化すようにヤクルとエスカが駆け降りていく。

 まだまだ日は高いが、今日の秘密の特訓はここまでになってしまった。

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