6:新生活スタート
「何だっけ、ワイルドベリーベリーストロベリー君?」
教会で昼食をとりながら、ニールが思い出したようにそう呟くと、エスカとヤクルが揃って吹き出した。
「いや、確かワイルディストロングベリー君だよ」
「ああそれだ。ワイルディベリーベリーストロングストロベリー君」
「早口言葉かしら」
吹き出したスープを拭いながら、エスカがほとほと呆れたように会話を終わらせる。
「孤児はみんな植物の名前ってのは分かったが、男にストロベリーはどうかと思うのは俺だけか?」
「うーん。メリッサさんの好みなのか、この辺りの風習なのか……。まぁ、本人も気にしてる様子だったし、名前をとやかく言うのは人としてアレだ」
子どもの姿になり食が細くなったのか、ヤクルの皿に自分の昼食を移しながら、ニールは軽い笑い声を上げる。
「ワイルディの印象が強すぎて、他の子が覚えられなかった」
同じくヤクルの皿に移しながら、エスカがため息をつく。
「眼鏡がクローバーで前髪が長い根暗そうなのがローリエ。ゼラニウムは背が高いひょろっとした奴で、バジルとチコリは双子なのか見分けはつかん」
「え? あんた、ちゃんと聞いてたの?」
さらっと全員の特徴と名前を言ってのけたニールに、エスカはフォークからサラダを取り落とした。
冗談とは言え、全員の容姿と名前を覚えられる人間が、ワイルディの名前を何だっけといじっていたのかと思うと、心底性格がひん曲がっているなと、ヤクルは笑いながらニールの口にサラダを詰めていく。
「誰も食堂に来てないな」
食堂にはヤクル達三人以外誰も居ない。
バジルとチコリは神殿に戻り、ローリエとゼラニウムは集落に消えたが、クローバーとワイルディの二人は我先にと教会へ走り込んでいったはずだ。
エスカの口にパンを詰め込みながら、ヤクルは首を伸ばしもう一度ぐるりと確認してみるも、ワイルディ達どころか、メリッサの姿も確認出来ない。
訝しがりつつも、そのうちワイルディにそれとなく聞いてみようと結論づけ、三人は食器を返しに行く。
「ワイルディは良いな。ああ言うリーダーが一人居ると馴染みやすい。これからの予定も決まったし一先ずは順調順調」
どこか嬉しそうに話すヤクルに、ニールとエスカも釣られるように口角が上がる。
子どもになって無事集落に入り込んだは良いが、街から逃げたい一心で逃げた先で何をするか全く考えていなかった。
しかし幸いにも初日からやる事が出来、三人にとっては願っても無い事だった。
眠そうに目を擦るニールを引き摺り神殿前に戻ると、既にワイルディの姿があった。
腕を組みふんぞり返り、神殿の入り口の階段にどっかりと腰を降ろしているが、口の周りや服にパンの食べかすが大量についたまま。
リーダーとして偉そうに見せているのだろうが、急いで昼食をとり誰かが来るまでこうしていたのかと思うと、微笑ましく顔が緩みそうになる。
「ワイルディ、ちゃんとご飯食べた?」
可愛らしく後ろで手を組みエスカがそう訪ねれば、小鼻を膨らませぷいっとそっぽを向く。
分かり易くエスカを意識しているらしく、そっぽを向くもちらちらとエスカを横目で見ようとしている。
「やった俺にばーん」
ニールが飄々とした口調でワイルディの隣に腰掛けると、ヤクルとエスカが競うようにワイルディの隣に尻をねじ込ませる。
「俺が! さんばん!」
「私がさんばん!」
ワイルディを押しのける勢いで争う二人に、ワイルディは頬を染め鼻息を荒くしている。
リーダーとして偉ぶっては居るが、やはりこうしてがやがや騒いで遊ぶのは好きなようだ。
最初に仕掛けたニールは純粋にゲラゲラと大笑いし、ヤクルとエスカは本気で三番の座を狙い合う。
「リーダー! どっちが三番か決めて!」
力では分が悪いエスカがワイルディを巻き込むと、ワイルディは顔をまん丸にし気分も最高潮。
三人が静まりかえり真剣にワイルディを見つめると、ワイルディは重々しく頷き立ち上がると三人に向き直った。
「三番は……マリー!」
「やった!」
「それはずるい!」
「だーっはっはっはっ! ゲホッ! ゴホゴホグッ、うえぇ」
分かりきっていた結果だが、大喜びするエスカと、本気で悔しがるヤクルに、ニールは笑いすぎて危うく吐きそうになる。
全力で子どもを演じるつもりだったが、三人ともほぼほぼ普段通りな自分達が今さらおかしく、階段に転がるや腹を抱えて笑い出す。
そんな四人の元に、バジルとチコリが駆け寄って来た。
「一番は俺、二番はマリーで三番グラス。四番がコリウスでバジル五番チコリ六番!」
「俺が二番じゃ無いのかよ!?」
意気揚々とバジルとチコリを指差し声を上げるも、ちゃっかりエスカを二番にしている。
そのワイルディとニールのやり取りがまた面白く、四人はゲラゲラと階段を笑い転げる。
何の事かと顔を見合わせるバジルとチコリだったが、笑い転げる四人が面白かったのか、徐々ににやけだすと一緒になって階段を転がりはじめる。
その後もローリエ、ゼラニウム、クローバーが来る度にそのカウントは続き、その度に全員で大盛り上がりとなった。