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3:第一歩

 三人が思い切り投げ出されたのは砂利交じりの地面の上。

 いつもならばもう少し丁寧に転位出来るのだが、今回は距離を優先するあまり着地を考えていなかった。

 盛大に顔面から地面に激突したヤクルが、反射的に側に居るだろうエスカを探すと、ここ最近で一番焦った顔をしたニールが地面に激突すれすれのエスカの首根っこを掴んでいた。

 

「ここどこだ?」

「分からん。一応国内からは出てないはずだが……」


 転位した本人でも分からないいい加減さ。

 三人は国境は問わず、それなり各所を巡り魔物退治をしていたが、その三人でさえさっぱり検討もつかない場所。

 小高い山がいくつか連なった、小さな馬車なら通れるであろう山道。

 山道を道なりに目で追えばゆるゆると下った坂はどこまでも真っ直ぐで、その先で大きく緩く右に曲がり再び山を上り始めるのが見える。

 上り方面に視線を向けても目に飛び込んでくる情報はほぼ一緒。山の間を縫う道しかない。

 確かに三人を知る人はいなそうだが、どうにもエスカは不満そうにしている。

 

「確かに人は居ないし街から出れたけどー……。まさかニールにハイキングに誘われるなんて思わなかった」

「まぁ、ハイキングで良いなら良いけど……。少し飛んで人の居そうなとこ探すか」

 

 一通り周囲に何も無いと判断した三人は、ニールの魔法を圧縮して作った宝石を使い一先ず山の上を目指し飛ぶ。

 勿論、堂々とそのまま飛ぶわけにもいかず、光の屈折の魔法で三人の姿が見えないようにする。

 一度空に舞い上がって確認しうっすらとわかってはいたが、国境沿いかと思われる程どこまでも山が広がるばかり。

 遠目に川や滝、朽ち果てた山小屋らしき物はちらほらと確認出来たが、人が住んでいるような街や村などは見当たらない。

 ようようニールも魔法に疲れて来た頃、ようやく山間に集落のような物を発見した。

 三人は顔を見合わせ頷くと、一先ず集落から少し離れた場所に着地した。

 

「で、賢者様。これからどうするのでしょうか?」

 

 盛大なため息をつき地面に転がったニールを休ませる気が無いのか、ヤクルは容赦なくニールの腕を引く。

 朝から細々と魔法を使い続けて来たニールは、さすがに休憩させてくれと断固として立とうとしない。

 

「とりあえず服と顔よね……。服は絶対だけど、山奥とは言え念の為顔も変えないと」

 

 三人ともそれぞれの職場でさえ一目で分かるほど絢爛豪華な装いのまま。

 そんな格好でいきなり集落に顔を出せば、勇者と知らずとも何か特別な一団だとバレてしまう。

 

「あー……。じゃあちっとガキにでもなるか」

「何? なんて?」

 

 地面に頬ずりでもしそうな体勢だったニールがそうぽつりと溢すと、指で小さな法陣を地面に刻んでいく。

 どんな大魔法も力業で即決めるスタイルのニールが法陣を刻むのが珍しく、二人はニールの邪魔にならないよう少し距離をとり繁々と眺める。

 その性格に反し書かれた法陣は、小さい円の中に精密な紋様がぎっしりと織り込まれ、魔法を知らない者もそれが大魔法だと分かる。

 更にニールはその法陣の横に沿うように二つ目の法陣、三つ目の法陣と書き進め、出来上がった物は国宝の絨毯と言ってもおかしくない、壮大で緻密な物だった。

 

「え、嘘、何これ。ニール、世界壊す気……?」

「ガキになる魔法だつってんだろ。なんで『でかい法陣=攻撃魔法』なんだよ。賢者だって速攻バレるわ」

 

 立ち上がり服についた土埃を払いながら、ニールは心底呆れたように声を裏返させる。

 

「攻撃魔法より厄介な法陣だな。そんな高度な魔法なのか……そんな高度な魔法使ってまで逃げたかったのかよ」

 

 疲れたと言いつつ大魔法を使う余裕があったのかと、ヤクルは呆れ乾いた笑いをもらす。

 

「毎日暇で暇で暇でよ、なーーんか新しい魔法ねーかと思って考えてたんだよ。野良猫をヤギに変えたり修道院の花壇に酒場まで直通の扉置いたり」

「待って修道院うちの花壇に何してくれてんのよ」

 

 楽しそうに指折り数えるニールの胸倉を掴みながら、エスカも言葉に反し顔は締まりが無い。

 

「まさか野良猫をヤギに変える魔法作る感覚で、子どもになる魔法作ったのか」

「おお。体の作りを丸ごと変えつつ頭だけはそのままでって考えたら、単なる範囲指定した時間退行魔法じゃ駄目だなって。そんで色々考えた結果がコレ」

 

 なんとも簡単な事のように法陣を指さしニールは笑う。

 実際に使う事の出来る魔法を一つ作るのに生涯をかける人も居る。

 元々独学で魔法を覚えたニールは、最初の魔法からずっと自分で作っていたような物で、それが当たり前のように語る。

 その才能だけ見れば賢者に相応しい天才だと思う反面、新しい魔法使いを育てなければならない賢者としては本当にポンコツだなと、エスカはそっと両手を合わせた。

 

「孤児かなんかって事で一ヶ月くらいあの集落の厄介になろうぜー。服はまぁ、俺のローブ千切って汚してみすぼらしく体に巻け」

 

 法陣に状態固定と不可視の魔法をかけると、ニールは楽しそうにローブを脱ぎ去りシャツとズボン姿になる。

 そのまま見るからに汚してはいけないであろうローブを地面に擦り付け、適当に三等分に切り裂く。

 先程立ち上がった際に丁寧に土埃を払い除けていたと言うのに、一度決めたら後先考えないのはさすがと言った所。

 

「集落に孤児院が無かったらどうするのよ。と言うか多分無いわよ」

「そん時ゃさっさと移動移動」

 

 エスカは遠くに見える集落を眺めながら、手渡されたローブを受け取り、思い切りため息をつく。

 法陣に魔力を込めると、端から灯りが灯るように赤々と光り輝いていく。

 

「思考は今のままで、それ以外はまるっきり子どもなんだよな?」

「あー、いや。法陣書くのが面倒になって適当な所でやめたからそこまで退行はしねぇかもな。よく分かんねぇ」

「え? 子どもだけど力と知能は今のまま? 何それ、怪力少年ヤクルの誕生じゃない」

「まぁそうしなきゃ味噌っかすが魔法が維持出来ないのか」

 

 法陣から飛び出した光が三人の体に貼り付いていく。

 不満を溢しつつも、エスカとヤクルはどこか楽しそうに身を任せる。

 それぞれ大層な立場に有り、文句は言いつつも、結局は乗りかかった船。どんな状況も楽しんでこそと生きてきて世界を救った程だ。

 

「今さら悔いは無いよな二人とも」

「悔いね……二人と出会った事かしら」

「よーしやるぞー。はじめて使うから痛かったらゴメーン」

 

 ニールの言葉に二人が何か言いかけたとき、それを遮るように魔法が発動した。

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