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24:それから?

「こんのクソガキどもぉ! 今すぐ直せや!」

 

 神殿の廊下にニールの怒声と足音が響く。

 

「やだよ! 折角作ったんだから!」

「それに父さんだって好きだろ! そういうの!」

「大好物だよこんちくしょう!」

 

 怒っているのか褒めているのか良く分からないこのやり取りは、今や当たり前の日常だ。

 あの出来事から五年。

 十三歳になったバジルとチコリは、誰に似たのか健やかに魔法馬鹿な悪戯っ子に成長していた。

 十二歳しか変わらないニールを父と呼び、集落に家を構えたものの、結局変わらず神殿に暮らしている。

 今は、教会の天使像を全て子豚像に変えて、ニールに追い回されている所だ。

  

「教会は止めろっていつも言ってんだろ! やるならリリック神官! 喜ぶのはあいつだけ! またメリッサにねっとり怒られてぇのか!」

「うわぁ! 何コレ、父さんずるくない!?」

「何子どもに本気になってんのさー!」

 

 止まらない二人に業を煮やしたニールが、廊下に敷かれた長い絨毯に魔法をかける。

 すると絨毯はぐわんぐわんと波打ち、上に乗る二人の足止めをする。

 バランスを崩した二人の元に転移魔法で飛び付くも、二人も負けじと近くの花瓶の花に魔法をかけニールを縛り上げる。

 

「っこの、いい加減にしろクソガキどもがー!」

 

 本気で怒ったニールが本気で魔法をぶちかまし、こてんぱんに二人を捕まえるまでが、今や神殿の日常である。

 

「さて、クローバー、バケツ持って来てー」

「はーい! ちょっと待ってー」

 

 その声が鐘代わりと、エスカとクローバーは毎日朝の掃除をはじめる。

 教会に修道院が併設され人数も増えた今、エスカとクローバーがやらずとも良いことだ。

 しかし、メリッサに厳しくしつけられたクローバーは、毎朝掃除をしないと気持ちが悪いらしく、今はエスカまでと仲良く朝の掃除をするのが日課だ。

 十四歳になったクローバーは、未だに思い切りの良さが残るものの、修道院が似合う優しい少女へと成長した。

 エスカに引き取られてすぐ『マリーみたいな大人になりたい!』と言い放ったクローバーに、ヤクルとニールが顔を顰めた。

 代わる代わる『せめてメリッサにしろ』『聖女の肩書きに騙されるな』と洗脳をはじめた二人に、怒り出したのは意外にもエスカでは無く、メリッサとたまたま居合わせたリリックだった。

 メリッサは烈火の如く怒りヤクル達を黙らせると、リリックと二人でいかに勇者一行が凄いか、クローバーの志は正しいのだと言い聞かせた。 

 そんなメリッサも、教会内ではそれなりの立場となり、掃除などしようものなら他の修道女達が卒倒する。

 しかし、私もシスターですからと、メリッサは倒れる修道女達を無視し、図太く掃除を続ける毎日。

 エスカは聖女として、日々修道女達を従え祈りや結界、治癒魔法や薬作りを教えている。

 エスカの養女となったクローバーだが、弟子といった形でエスカの仕事を手伝い、知識を集めている。

 この集落に来て、子ども達と勉強をしたのが良かったのか、ニールもエスカも人に教えるのが格段と上手くなった。

 ニールも基本的な法陣の書き方や、新しい魔法を作る時のコツなどを丁寧に教えるようになり、教えを請う魔法使いが後を絶たない。

 教えか方が上達したせいで、バジルとチコリから可愛げが無くなってしまったのだと、よくヤクルにからかわれている。

 

「あ、コリウス、もう薪が無くなりそうだ」

「あー本当だ。この前割ったばかりなのになー。じゃあ、いつも通り午後からな」 

 

 そんなヤクルはワイルディと至って普通の生活をしている。

 朝起きて食事を済ませると『縄張りの確認』と称し異常が無いか見て回り、ついでに山で動物を仕留め持ち帰る。

 その後はワイルディに剣を教えたり、仕留めた獲物を街へ売りに行ったり、たまに勇者らしく王都の子ども達とふれあいの時間を設けたりの、自由気ままに生活している。

 週末にはニールが作った『伝達の鏡・改』を使って皆でゼラニウムとローリエの元を訪れる。

 二人は今王都で普通の学校に通い、孤児だったのが嘘のように明るく元気な好青年へと成長した。

 王都に移ってすぐ、ゼラニウムのおねしょ癖が治ったのも驚いたが、ヤクル達が一番驚いたのはローリエが話せる様になった事だ。

 それはあまりにも突然で、いつも通りヤクル達が伝達の鏡・改をくぐり、二人の元を訪れた際『いらっしゃい』とあまりにも自然に話したのが最初だ。

 その日は感動した養母が夜遅くまでパーティーを開き、全員でローリエを質問攻めにした。

 あまりにもいきなり話しすぎて、翌日声が枯れたローリエは、それはそれで嬉しそうに笑っていた。

 それともう一つ驚いたことは、噂を聞きつけたワイルディの母親が、本当にワイルディを迎えに来た事だ。

 泣き崩れる母を前に、ワイルディはそっぽを向いたまま、言葉を発したと思えば『俺は、コリウスの息子だ!』と言い残し、教会へと走って行ってしまった。

 どうやら平和になったから迎えに来たと言う母の言い分が気にくわなかったらしい。

 あのままヤクル達が来なければ、この集落は変わる事も無く何年何十年と過ぎただろう。

 平和じゃなきゃ迎えに来ないのか、ここが一番平和じゃ無いのにと憤慨し、クローバーにネチネチと愚痴をこぼしていたらしい。

 そんな母親もワイルディが戻らないと分かるや、食い下がることもせず呆気なく帰っていった所を見ると、ワイルディの決断は正しかったのだと皆が賞賛した。

 

 みんな、生活は何一つ変わらずのどかなもの。

 せっせと聖典を書き加え続けたリリックが、地道に布教した結果、今は王都にまでYNE教団は進出した。

 総本山と言われるこの集落には、毎日のように話を聞きに人が訪れ、街からの道も綺麗に整備された。

 人が増え多少賑やかになったものの、大きく変わったのは神殿と教会の周りのみで、それ以外はあの当時のままほぼ変わりない。

 風の噂で隣国の王子との結婚式をローズ姫が逃げ出したと聞き、ここに来るのでは無いかと皆でドキドキしたのは今となっては良い思い出だ。

 結局連れ戻され、別の意中の相手と結婚し子宝に恵まれたが、未だにヤクルはローズ姫の事でからかわれる。

 今度王都から集落の周りに壁を作るからと、人が大勢押し掛けてくるらしい。

 ヤクル達は時折神殿の屋上に集まり酒を酌み交わしつつ、そんな小さな噂話に花を咲かせている。

 

 もう二年も経つと、この集落に面白い呼び名がつく。

 『辺境の最強集落』

 設備も人口も集落の域を出ないが、そこは世界一安全な最強集落だと、人々は口を揃える。

 

 *

 

 ワイルディが成人ししばらく経ったある日。

 早朝、ヤクルがふらふらと覚束ない足取りで教会へやって来た。

 

「なに? まさか飲み過ぎ?」

 

 ヤクルが来たという知らせにエスカが顔を出すと、ヤクルは頭を擦りながら呆れたように顔を上げた。

 

「違ぇって。ワイルディのやっ――」

「おい、馬鹿バジル来たか?」

 

 ヤクルは口を開いたものの、真上に転移して来たニールに踏み潰され、床に叩きつけられた。

 気付いてないはずは無いが、ニールはヤクルを見もせず一枚の紙をエスカに突き付けた。

 

【ちょっとワイルディと旅に出ます。探さないで下さい。マリーに聖水を貰うから大丈夫です】

 

 紙には癖の強いバジルの文字で不信なことが書かれていた。

 紙に目を通したエスカは、身に覚えが無いのか、大きく首を振り知らないと目を見張る。

 

「うちの馬鹿ワイルディは『魔王と結婚するんだ!』って、俺の頭を薪で殴って飛び出して行きました。うちの馬鹿と一緒なら、今頃バジルも国境を越えたかと……。あの、エスカさん、そろそろ治癒魔法お願いします……」

 

 ヤクルの言葉に、二人はきょとんと顔を見合わせる。

 そして、床に倒れ込んだままのヤクルに視線を戻すと、見る見る顔色が変わっていった。

 

「ばっっっかじゃねぇの!?」

「どうしたらそうなんのよ!!」

 

 バジルを連れ、ワイルディは魔王に求婚すべく国境を越えた。

 三人がワイルディの後を追って再び国境を越えるという話は、瞬く間に集落中に広がり、自分もついて行くと言って聞かない者も現れ大混乱になった。

 

「あんの馬鹿野郎がぁあ!」

 

 約十年ぶりとなる装備を身に纏った三人は、盛大に眉間に青筋を立て出発した。

 

 リリック神官はこの事を『勇者の新たな冒険』とし、後世に書き残した。

 冒険に出るはめとなったこの事件の事を書き残さなかったのは、リリック神官なりの優しさか、それともただの美談にしたかったのか、今となっては知るすべも無い。

最後までお付き合い頂きありがとうございます!!

これにて本編完結です。

もう少し大事に文字数もたっぷりと使い書いた方が良いシーンや設定が何カ所かありましたが、味噌っかす達のテンポ的にはあまり深く書かずさらりとしようかとこうなりました。


この後は作者の気まぐれで番外編を更新するかもしないかもです。

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