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15:賞金!?

 しがみついて離れないクローバーを抱え、エスカは二人に手を振ると部屋に戻って行った。

 ワイルディが眠る隣で、ヤクルとニールはベッドに寝そべりただただ天井を眺めていた。

 

「あんな話を子どもにして、何をどうしたかったんだろな」

「さあな。誰かに言わなきゃ本人も不安だったか、どうしても伝えとかなきゃいけない事態になったか」

 

 生贄の話に村の成り立ち。

 自分達がどうしてここに連れてこられたか、子ども達に聞かせるにはあまりに残酷な内容だった。

 まだ幸いだったと言えるのは、あの場にワイルディが居らず、クローバーが早々に耳を塞いだ事だろう。

 

「国境の集落かぁ。王都、人間の領土のど真ん中だぞ……。元気に世界の四分の一も転移したのかよ味噌っかす」

「お、久し振りに聞いたなそれ」

 

 味噌っかすと呼ばれニシシっと歯を見せ笑うニールに、ヤクルも歯を見せて笑う。

 ヤクル達の居た国はほぼ人間の領土の中央に位置した、長年対魔族の研究を行っていた強国。

 なり振り構わず転移したが、まさかそこまで遠くまで来ていたとは思わなかった。

 

「それにしては、王都の噂が届くのが早かったな」

 

 ヤクル達が姿を消した翌日には、国境沿いまで噂が広がった事になる。

 

「あぁ、教会にある伝達の鏡のせいだろうな。でかい街には置いてあるから、そこから人を伝って改ざんされたのがここまで来たんだろ」

 

 伝達魔法の施された鏡の存在を思い出したのか、ヤクルはああと小さく声をもらす。

 そのまましばらく天井を眺めたまま、二人は押し黙ってしまった。

 

「コリウス、グラス」

 

 突然もぞりとワイルディが起き上がり、二人を呼ぶ。

 反射的にワイルディの顔を覗き込むと、まだ目を閉じたままずぅずぅと寝息を立てている。

 ワイルディの肩を揺すり呼びかけてみると、一言二言寝言を溢すと、また毛布の中へと潜って行ってしまった。

 一呼吸置くと毛布の中から健やかなイビキが聞こえてきた。

 

「寝言で呼ばれるの、恥ずかしいな」


 ワイルディを覗き込んだままどちらともなく同じ事を口走り、どちらともなく小さく笑う。

 

「なぁ、勇者が魔族に攫われたって噂と、今日街の奴がしつこく食い下がってたのって、やっぱりそういう事だよな?」

「噂を聞いてまた生贄を出そうって? タイミング的にそうだよなぁ」

 

 ニールの言葉に、ヤクルも頷く。

 集落の成り立ちと噂と突如来た街の人間。

 そこまで深く考えなくとも、全ては驚く程分かりやすく一本の線で結ばれる。

 

「俺達が王都を抜け出さなきゃこんな事には、とか思ってるだろ。まぁ、俺達が我慢して飼い殺しにされるか、馬鹿丁寧に息抜きしたいですって言ってれば、こんな噂はたたなかったよな」

 

 ニールはヤクルに話し掛けているようにみえ、答えは望んでいないらしく、一人でつらつらと話し続ける。

 

「そこは考えようだって。どうにか俺達がこの悪習を変えれるかも知れないだろ? ほらあれだ、善意に付け込んだ罪滅ぼし」

「どうやって?」

「それは知らん」

 

 ヤクルの問いに即答するニールは、自分のベッドに潜り込んで行く。

 

「いきなり『はい、今日から魔族と人間は棲み分ける事にしましたー。これで平和になりましたー』って、突貫も良いところだからな。何処かに絶対綻びが出ると思って、国境の街巡りしたのになぁ……って、もう寝るのかよ」

 

 ニールに習い自分のベッドに戻ったヤクルが振り返ると、ニールはすでに寝る体勢に入っていた。

 

「ん? さすがに酒って気分じゃないだろ。それとも、この辺りの探索に行くか? 行くなら狼に変えてやるぞー」

 

 天井を指差し空中に法陣を書き始めたニールの手を押さえ込んだものの、ヤクルはうーんと考え込んでしまった。

 『嘘だよ馬鹿。寝ろ』と、ヤクルを押し飛ばしニールが毛布に包まると、ヤクルはまだ腑に落ちないといった態度ながらも、自分の毛布に潜り込んで行った。

 

 翌朝、昨日あの後街へ行ったらしいメリッサが、戻るなりどうにも困ったように朝食を取っていたレイの元へ駆け寄って来た。

 

「勇者を連れ戻した者に賞金?」

「んぐっふ……!」

 

 耳打ちされたレイは、その内容に顔を顰めると、耳打ちの意味が全くない大きな声で聞き返す。

 たまたま同じテーブルで朝食を取っていたヤクルは、その言葉に遠慮無くスープを吹き出しボタボタと垂らしながら、咳き込んでしまった。

 ヤクルの背中を撫でるエスカと、テーブルを拭くニールは、話の続きが気になるとあからさまにメリッサに視線を送る。

 

「はい。情報提供者には賞金。勇者様を見付けた者には賞金。勇者様を攫った魔族を討った者には賞金など、色んな噂が飛び交っていました。本当かどうか分かりませんが、既に昨日その魔族の討伐隊が王都を出発したと言う噂も」

 

 必死に喉に水を流し込むヤクルの隣で、他の四人は神妙に顔を見合わせる。

 何処までが本当で何処までが嘘か。

 いや、最初の噂自体間違ったものであり、そもそもそんな魔族など存在しないのにと、エスカは頭を抱えてしまった。

 

「今日の勉強はこの村の成り立ちと魔族の話にした方が良いでしょうか。言って聞かせれば、子ども達もやんちゃが過ぎなく――」

 

 メリッサの言葉を遮るように、ヤクルがメリッサの腕を掴む。

 それだけで理解したのか、メリッサは小さく『そうよね』と溢すと、愛おしそうにヤクルの頭を撫で回した。

 

「いつも通り勉強はしましょう。今日は計算ですよ。……賞金も街の人も関係ありません。私達の日常は変わりないものですからね」

 

 メリッサに続きヤクルの頭を無遠慮に撫で回しながら、レイは綺麗な笑顔を見せる。

 賞金も街の人間も関係ない。

 辺境にある小さな集落としては、それが正しい事なのだろう。

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