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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

美形モンスターに飼われまして

作者: 雪りんご

「な……に、これ…………」



 突然の爆音に驚き、教室のカーテンを開けた私は呆然と呟いた。

 眼前に広がる光景。

 それはあまりに衝撃的かつ残虐的で、理解するのに多大なる時間を要した。

 だって、いきなり街は廃れていて見たことのない化け物が辺りを闊歩しているんだよ?

 目を凝らさなくても見える赤い液体とバラバラになった死体。

 そして途切れることのない悲鳴の数々。

 思わず吐きそうになりその場に蹲ると他の生徒も私と似たような行動をしていた。



「んだよあれはっ!?」

「なんで化け物がいるの!?」



 錯乱したかのような様子で声を荒げる生徒に理解が追いついていない先生。

 数分経って鳴り響いた非常ベルの音に恐慌状態に陥った私たちは大袈裟なほどに驚いた。



『緊急事態発生、緊急事態発生。外に何らかの異常が発生しました。これより学校の出入り口を封鎖します。窓、玄関付近にいる生徒、並びに教師は直ちに鍵を閉めて周りの安全を確保してください。繰り返します……』



 動揺しきった震え声で発せられたその放送にいよいよ逃げ場はなく緊急事態であるという事が現実味を帯び始める。

 なんとか震えながら近くの窓の鍵を確認しカーテンを閉めた私はヘナヘナとその場に座り込み、顔を手のひらで覆った。

 ああもう夢なら覚めて……!

 切にそう願った瞬間、頭に無機質なアナウンスが響いた。



__ストレス耐性LV.1獲得

__恐怖耐性LV.1獲得



「え……?」



 突然の出来事に一瞬、状況を忘れて周りを見回す。

 しかしいくら見回しても答えなど見つかるはずもなく分からないままで……。

 今のは気のせいか、と現実逃避も兼ねて目を閉じた私の耳に今度はクラスメイトの声が聞こえてきた。



「ス、ステータスオープン!……おぉっ!?」



 マジかよっ!?という声とともに騒ぎ出した男子に何事かと視線を向けると彼は私たちにステータスオープンと言うように促した。

 そうして次々と聞こえてくるその単語とクラスメイトの驚きの声。

 彼らは一様に何もない空間を見つめ何故か興奮している。

 いったいどうなってるの?

 いきなり楽しそうに何もない空中をスクロールし始めた彼らに私は困惑し同じ言葉を紡ぐ。



「ステータス、オープン……?っ!?」



 突如として現れた薄水色の画面に息を飲む。

 そこには私の名前や年齢などが白文字で書かれている。

 まるでRPGみたいな……とそこまで思い至ってある事に気がついた。

 そう、何故クラスメイトの殆どが突然興奮しだしたのか。

 それは……。



「ゲームや小説の世界みたいに魔法とかが使えるかもしれないから……?」



 ある一つの可能性を口にした瞬間、鳥肌が立った。

 もしこの狂った異常事態の中でそう考えているのだとしたら……?

 現に人だって無残に殺されて喰い散らかされているというのに……。

 まだそうと決まった訳ではないのに何故かその仮定が頭から離れない。

 無意識の内に座りながらも後ろに後退していた私に最初にステータスに気づいた男子が話しかけてきた。



「なぁ、斉藤はどんな職業にするんだ?」

「え……?」

「なんだよ?話聞いてなかったのか?しょうがないなぁ……。ステータスの下の方にJPってないか?そこから職業を選べるんだけど」

「あ、あぁ……ごめん0って書いてある」

「はぁ?0ってマジかよ……。じゃあ斉藤は足手まといだな」



 嫌な予感がして咄嗟に嘘をついた私はよくやったと思う。

 だって職業なるものが選べないと分かった時点で切り捨ててくるような奴に従うだなんて真っ平ごめんだ。

 そっと顔を下に伏せ小さく謝った私に彼、鈴木輝(すずき あきら)は用は済んだと言わんばかりに違う子に話しかけた。

 どうやら私以外のクラスメイトは全員何かしらの職につけたらしい。

 殆どのクラスメイトが私を見下し、見下さなかった子達はホッと安堵の息を吐いている。



「よし。とりあえず最初にやるべきはレべリングだな!みんな外にモンスターを狩りに行くぞ!!」



 鈴木君がみんなに号令をかけると全員で教室を出て行く。

 正気なの?とちらりと彼らを見遣れば私の視線に気づいた常盤杏奈(ときわ あんな)が鼻で笑った。



「斉藤さんは足手まといだからここで惨めに震えてれば?気が向いたら食料くらいは持ってきてあげる」



 人はこんなにも変わるのか。

 当時の彼女を思い出してそう思う。

 あまりの言い草に言葉を失っていると、時間の無駄だと言わんばかりにクラスメイトは悠々と歩きだした。



「イかれてるよ……」



 誰もいなくなった教室にポツリと響く。

 生徒を導くはずの先生でさえ彼らについて行ってしまった。

 死ぬかもしれないのにわざわざ外に出向くだなんて……。

 それも作戦もなしに出て行くだなんて考えられない、と目元に浮かんだ涙を袖で拭う。

 どうやら他の教室の人達も外に出たらしい。

 ただ遠くからやる気に満ちた声が聞こえるだけ。

 怖い……。

 その内、恐怖に彩られた叫び声までもが聞こえ始めてきた。

 きっと誰かが犠牲になり始めたのだろうと予想して私は慌ててステータス画面に目をやった。




斉藤(さいとう) 雪音(ゆきね) 18歳 ♀


LV.1

HP 100/100

MP 200/200

筋力 1

魔力 3

敏捷 2

防御 1

命中 1

JP 10p

SP 10p


【職業】 女子高生

【固有スキル】 魔力促進・幸運(大)

【獲得スキル】 ストレス耐性LV.1・恐怖耐性LV.1




 職業ってもうすでに女子高生で埋まってるんだけどどうやって決めるんだろう?

 んーと悩みながらJPをタップした瞬間、色んな職業が説明と一緒に一覧となって目の前に出てきた。



「な、何を選べば……」



 莫大な文字量と項目の多さに焦り、またもや泣きそうになる。

 それでもめげずにスクロールしていくと不意にある職業に目が止まった。

 それは……。



「けっかい……し?」



【結界師】

 防御特化の補助職業

 あらゆる攻撃の軽減、無力化、モンスターの足止めなど活用方法は多岐にわたる

 ただし相手の攻撃力が自身の防御力よりも極めて高い場合、軽減率は低下

 防御補正 +5%

 獲得スキル 結界 他(LV.上昇につれ解放)

 獲得条件:JP 10p



 少しでも身を守る事ができるのであれば……。

 少しでも痛い思いをしないのであればこの職が欲しい。

 そう思い至った私は悩む事なく結界師を職業として選択し、早速結界を発動させた。

 これで少しは心の負担がマシになったかもしれない。

 ほぅ……っと息を吐き震える体を抱きしめた瞬間、頭の中でガラスが割れる音が響いた。



「なっ……いっ!?」



 驚いた私の体がものすごい勢いで地面に叩きつけられる。

 痛い……。

 ジワリと浮かんできた涙をそのままに私の体を押さえつけている何かを確認する。



「や……は、離して…………たすけて」



 目の前にいたのは全身血塗れの美形。

 そのモンスターを見て私は本能から助けを乞うた。

 せっかく取った結界師なんて手も足も出ないほどの強者が目の前にいる。

 ただその事実が恐ろしくて私は無様にも泣いて縋った。



「お願い……たすけてぐだざい……ひっ」



 殺されるのが怖くて目元を手で覆い隠そうとした私に目の前のモンスターは本を差し出してきた。

 そして無表情のままに私を抱き起こし、本を押し付けてくる。

 読めって事……?

 グズグズと鼻水を啜りながら本を開いて彼を見上げれば最初の文字に細い指が触れ、そのまま下へと滑っていく。



「それ、は……と、遠い昔、とある国の……ひゃっ……!?」



 彼の指示に従うように後から文字を読み上げれば、本が見づらかったのか私を持ち上げ片足の上に乗せられた。

 そして後ろから覗き込まれる。

 血の匂いがより一層濃くなった。

 怖い……無理……助けて。

 心臓が更なる恐怖で激しく脈打って痛い。

 それでもなんとか声に出して読んでいると後ろのモンスターは飽きたのか本を投げ捨てた。



「もういいよ。だいぶ言葉は分かったから」



 熱い吐息が耳にかかり、恐ろしいまでの美声が私の鼓膜を揺らす。

 ぞわりと体が震えたのは感じた事のない感覚が背中を通り過ぎたからか。

 あるいはこの危険なモンスターに知識を与えてしまった事による本能からの怯えか。

 カプリと甘噛みされた耳朶がいつ食いちぎられるのかが怖くてまともに考えられない。



「助けて、ね……。そんなに助けて欲しいの?」



 唇が動く度に濡れた舌が触れ、歯が強弱をつけて耳朶を食む。

 弱者を嬲り反応を見ているようなその行為に目を瞑り耐えながらも小さく頷けば眦からまたもや涙が溢れた。



「僕が君を助けた所で、君はどうせすぐに死ぬよ?大勢のモンスターに嬲り殺されて。それでも?」

「あ……」

「それでもいいなら僕から逃げたらいいよ。所詮は僕に一瞬で殺されるか、時間をかけて他のモノに殺されるかの違いでしかないだろうからね」

「やっ……たすけ、て……ておねが、した…………ヒック」

「……君は随分とワガママだね。……ん」



 死にたくない一心で口を動かせば、後ろのモンスターは容赦なく私の耳に噛み付いてきた。

 ブツッという音と共に血を啜る音が直に頭に響いてくる。

 あまりの痛みに声も出せず目を限界まで見開けば、かの者は楽しげに喉を鳴らした。



「でも……そうだね。僕の非常食になるのであれば今は助けてあげてもいいよ?」



 ペロリと最後に耳全体を舐め上げ、どうすると再度、問うてきたモンスターに私はただ頷くことしかできなかった。

 だってこのモンスターにはどう抗ったって勝てない。

 それならば……と痛む耳を手で押さえて目を擦る。

 そうして呼吸を落ち着けていると、またもや体が浮き今度は彼の片腕に乗せられた。



「ああ、そうだ。僕はノアネート。モンスターの中でも珍しいネーム持ちで種族はグールノーブルだよ。君の名前は?」

「……さ、さいとう……ゆき、ねです」

「そう、ユキネね。じゃあユキと呼ぼう。僕もノアで構わないからね」



 そう言って恐ろしいまでに美しいモンスターは青い瞳を細めると私を抱いたまま窓から飛び降りたのだった。

 そしてこの日、私はノアの非常食となった。


皆さまハッピーハロウィンです!

そして最後までお読み頂きありがとうございます(*^^*)

中途半端に終わってしまいましたが、またこのお話の続きが思い浮かんだら書いていきたいと思います。

また今回は、ハロウィンだしいいよね?とこのような作品が生まれた訳ですが、作者自身モンスターに詳しい訳ではないので勝手にノアさんの種族は作らせて頂きました。

なんだこれ?と思われた方も多くいらっしゃると思いますが、お許し頂ければと思いますm(_ _)m

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