宇宙
その後、いろいろなものを上に投げたが一定以上上に行くと戻ってくることはなかった。
ブラックホールさながらの吸引力を持つものが上にあるのか、はたまた重力が上にあるのか、それとも地球と同じで上に宇宙があるのか。
いろいろな想像はできるが、はっきりとすることはなかった。
「とりあえず、上に行ってみるか」
「そうね。ここにいても仕方ないものね」
そういうと僕を後ろから抱きかかえるようにした。
この体制は少し緊張する。なんというか、こんなに女の子と触れ合うことが今までの人生でなかったからだ。
柔らかい感触もあるし。
「なあ、この体勢で行くのか?」
「そうよ。この体勢じゃないと無理だもの」
そういうと躊躇なく僕を抱く力を強め、空へと飛んだ。
「おぉ」
足が地上からふわっと離れる。
当然だが、初めての感触だ。
無理やり例えるならエレベーターに乗っているときに近いかもしれない。
しかし、上にあがっている感じは全くしない。
景色が変わらなさすぎる。
足が浮いているから空にいることは確かではあると思うが。
「なあ、これって上にあがっているのか?」
「そのはずよ」
彼女の顔は見えないが少し焦っているような雰囲気が伝わってきた。
5分ほどたったが未だに景色は変わらない。変わったのは僕たちの焦りくらいだ。
これは失敗だったかな。なんて思い始めていた。
そんなとき彼女が唐突に質問をしてきた。
「あなたの名前を教えて」
なんで今名前なんだろう?
「これから一緒に生活していくなら名前は知らなきゃいけないでしょ」
僕の頭の中を読むように彼女は付け加える。
言わない理由もないので、答える。
「信彦だけど」
「……そう。信彦ね。わかったわ」
「私はエマ」
そういうと彼女はまた静かになった。
30分ほど経っただろうか。正確な時間はもうわからない。
しかし、変化があった。
周りの景色が少し暗くなっているのだ。
「なんか暗くないか?」
「そうね。今までとは明らかに違う色ね」
僕たちはこのまま上へと進んだ。
少しの希望が持てるようになった。
視界全体に暗い闇が襲い掛かる。
しかし、その闇にはぽつぽつと光があった。
「きれいだな」
「そうね」
心なしか酸素が薄いような気がする。
「準備してからもう一回来るか」
「そうしないと厳しいだろうし」
しかし、頭上にあるのは宇宙だったとは……。
星の名前もわからないし、地球から見る景色とは全然違うだろうし……。
いろいろ考えないといけないな。
でも何はともあれ、いい結果が得られてよかった。
「なんとかなりそうだな」
「まだよ。帰るまでが遠足って言うでしょ」
そうだな。安心するのは帰ってからだな。