5話:ダンジョンに出かける授業っていいですね。
「変身――ッ!」
昼休み。
俺は変身をこっそり行っていた。
「やっぱ夢ではないよな」
全身から強力な力を放つ最強の戦士。
ヒーローと呼ばれる存在がそこにはいた。
「この力を借りるしかないな」
勇学の先生方。お二人に俺は自分の力を証明しようと考えていた。
サラと同じステージに並び立ちたい。
彼女のような凄い人間に俺もなりたい、俺もいるんだと、この村にはサラ=ウィンフィールドだけではなく、ルーク=ウィンフィールドもいるんだと、先生方に証明したかった。
「ま、そのためにはサラに報告か」
朝は焦って隠してしまったが、実際に冒険学の授業で使うと決めたのであれば隠し事をしておくのはよくない。
フェアじゃないだろう。
俺は別にサラを蹴落として王都に行きたいわけじゃない。二人で協力して一緒に王都に行って勇者候補生に選ばれたいのだ。
「さて、時間制限あるから早いこと解除して……」
と、俺は変身解除ボタンを押そうとすると、後ろから奇妙な視線を感じた。
――"視られている"。
感応能力が強化されているせいだろうか、振り向くとそこには黒色のツインテールがひょこひょこと生えていた。
「……レイちゃん?」
「ルークお兄ちゃん! その姿は何なのんっ!?」
「え、ええと……」
し、しまった見られたか!?
い、いや隠してないから別にいいんだけど……。
「すっごい強そうなん、どうしたん!?」
「え、ええと……実は最近この力に目覚めたんだよ」
「おおーーっ!」
やべぇ超興味持たれてる!
「触らせて、触らせて欲しいん!」
「え、ええと……」
どうしよう。別にいいんだけど、そろそろ変身解除しないと時間が……。
「ダメのんな……?」
レイちゃんの瞳に悲しそうな光が。
「ちょ、ちょっとだけだからね……」
「おおーーー!」
大喜びのレイちゃんはペタペタと俺の身体を触っては、両目をキラキラと光らせる。
「は、はいっ、これでおしまい!」
「すごい! カチンコチンなのん! 皆に教えないといけないんっ!」
レイちゃんは大慌てで教室に戻っていった。
……しまったな。
ま、どーせバレることだからいいんだけど、何だか出鼻をくじかれた気分だ。
「みんなー大変なのんっ! ルークお兄ちゃんが校舎裏でカチンコチンになってたん!」
「待ってレイちゃん! それ凄く語弊あるから!?」
「うちも触らせてもらったん! すごく硬くて熱かったん!」
「レイちゃんストォォォップ! ストォォォォォォッッップ!!」
やめてそれ百パー誤解されるから、絶対に俺が変態扱いされて社会的に死ぬやつだから!
だが、教室に戻る頃には、俺は9歳児相手に自身の身体の硬化した部分を触らせた変態になっていた。
「お兄ちゃんのばか」
「違うんだサラ! これはスキルの確認をしてて」
「ルークあんたモテないからってそんな……」
「ちげーって、タマちゃん、新スキルだよ! 俺が新しいスキルを身に着けたからその試しをしてたんだよ!」
必死に弁解するが、サラのブリザードみたいな瞳は溶けそうになかった。
「へー新スキルね。どんなエッチなスキルなの?」
「だから違うって。変身ってスキルでな。すげー強く姿に変わるんだよ!」
「変態?」
「違うって、変身」
「ねぇ、ルーク。サラちゃんも大事な時期なんだよ。兄貴のアンタが迷惑かけるようなことはやめなよ」
「やめろマジトーンの説教するのやめろ、違うって! レイちゃんも何か言ってくれよ!」
レイちゃんに助け舟を出して彼女を見つめると、レイちゃんは少しだけ顔を赤らめて、
「ルークお兄ちゃん、強くてギンギンでちょっと怖かったけど……スゴかったん」
「ちょっと語彙の選択! おかしいこの子、言葉の使い方間違ってる!」
「お兄ちゃん今日はもう私に話しかけないでね」
「あーーもうっ!」
この場で変身することも考えたが、本番で変身する時間がなくなってしまう。
サラの邪魔をすることもできないため、俺は自席に離れるのであった。
「はぁ……」
「ドンマイなのんな」
肩に手を置いてくるレイちゃんに、俺は「がぉーーっ!」と吠えて追い払うのであった。
☆
「そんじゃーお前ら、これからグリムの森を目指すからなー!」
「「おおーっ!」」
午後になり、俺たちはグリムの森へと進軍を開始した。
冒険学の授業での遠征では、極力全員が戦えるようにカズヤ先生が配慮してくれる。
初等科組を省いた12歳から18歳までのメンバーで編成された総勢8名のパーティ。
それにカズヤ先生と、勇学のお二人を合わせて、11名で進んでいく。
隊列を組んでおり、カズヤ先生の許可がないかぎり、無断でのアイテム取得やモンスターとの戦闘は厳禁。
カズヤ先生は、教師であると同時にあちこちのダンジョンを巡る本物の冒険者でもある。
そのため、ダンジョン攻略ではチームワークが何よりも重要であることをこの場にいる誰よりも理解している。
「いいかー決して無理はするなー。つねに最悪のケースを考える。それがダンジョンの鉄則だー。特に視察の方々にいいところ見せようとして張り切りすぎんなよ……特にルーク=フィールド!」
「お、俺っすか?」
「ああ、そうだ。てめぇ何か新しいスキル身に付けたみたいだろ。そういう時は一番アブねぇんだ。気をつけろよー」
「は、はいっ!」
やべぇバレてやがる。
レイちゃんが言ってのかそれとも俺の表情に出てたのか。
「ばか兄……」
後ろを歩いているサラがぼそっとそう言った気がした。
うるせぇ余計なお世話だ。
俺らのその様子を見て隣のタマちゃんが笑う。
「よーっし、そろそろだな」
俺たちはグリムの森の前に到着した。ちなみにレイちゃんたち初等科の生徒は、超低級ダンジョンのランラン花畑でスライム狩りだ。
帰ったらひんやり美味しいスライムゼリーが沢山食べられることだろう。
「もう何度も来たことのある連中もいるだろうが一応説明しておく。――グリムの森。ダンジョン難易度はレベル17。初心者脱却の足ががりとなる中級者向けダンジョンだ。主なモンスターは、キラースネーク、ブンブンビート、水ナメクジ、こうもり猫、ブチシメジってところだ。状態異常を与えてくる敵が多く、回復アイテムをきちんと揃えておくことが大事だ。未鑑定アイテムも落ちてるから勝手に拾わないこと。――よし、行くぞ」
グリムの森に足を踏み入れると、湿度が一気にむわっと上がった。
足場は悪く、生い茂る木々は視界を悪くしている。
「うわー……一昨日雨だったせいか熱気がヤバイな。どうしてこのダンジョンをわざわざ選んだんだろう」
「この前、カズヤ先生、、ブチシメジのソテーが食いてえなって漏らしてたぜ」
「おら、ポーラにグリッド! 余計な口を挟むな!」
「「はーい……」」
俺の前を歩く男子生徒たちがしゃーねぇな、って口調でそう答えた。
ちなみに今回進軍してるメンバー。先頭から順番に紹介するとこんな感じだ。
1列目:カズヤ先生
2列目:ミーニャ
3列目:ポーラ、グリッド
4列目:ルーク、タマ
5列目:サラ、ピッチ
6列目:コットン
7列目、スクルド、ヴァルゴ
先頭は言わずもがな、カズヤ先生。
2列目の女の子はミーニャ。最年長の17歳で赤毛の委員長だ。
職業は鑑定士で、索敵能力に優れている。
3列目はポーラとグリッド。どちらも16歳の少年で、ポーラはブロンドヘアのイケメンで、グリッド背が高く力持ちだ。
なお、ポーラの職業は戦士、グリッドは斧使いだ。
4列目はいわずもがな、この俺ルーク。職業は拳闘士。隣のタマちゃんの職業は槍術士だ。
5列目はサラと、今回の冒険で最年少のピッチちゃんだ。白い髪の可愛らしいお嬢さんで職業は人形遣い。なお、サラの職業はもちろん魔法使いだ。
6列目にいるのは副委員長のコットン。ミーニャと同い年で職業は回復術士。
噂によるとミーニャと付き合ってるかなんとか。
基本的には年齢順で並んでいるが、戦闘要員と索敵係を前方に据えて、サポート役を後衛に配置するというまあベタな陣形だ。
そもそもこれは授業なんだから、当たり前の話だけど。
「よーっしてめぇら……止まれ、止まるんだ」
と、俺たちが歩き始めて五分。
カズヤ先生は右手を上げて、俺たちの動きを静止させた。
モンスターが出たのだろうか?
じっと息を潜めると、巨大な蜂が襲ってきた。
「BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB――――ッッ!」
「おおー来たぜ、ブンブンビート。激しいリズムを刻みながら針の一撃を加えるモンスター。タイミングに合わせて良ければ攻撃は避けやすいが、逆にタイミングに合わねぇと酷い一撃を喰らう……要はリズムに乗れねぇ奴は殺す、ってモンスターだ」
ブンブンビートは四方八方に激しく動いている。
確かにリズムは刻んでいるが、タイミングを掴むのは難しそうだ。
「先生……レベルは12。特に補助効果ははいってません」
「ありがとミーニャ。おい、グリッド! お前試しにやってみろ、リズムに乗れれば斧攻撃も当たるぜ」
「げっ! オレっすか。もっと熊とかでかい相手の方がオレ向きなんすが」
「ばぁーか、大物相手にその斧が強いのは知ってんだよ。ブンブンビートはタイミングゲーだ。ノロイ攻撃でもうまくハマればノーダメージで倒せる」
「マジっすか。よし……」
と、グリッドは銀色に輝く斧を構える。
ゆっくりと身体を上下に揺らして、蜂の懐に入るタイミングを伺っているようだ。
ブンブン、ブンブン、ブンブ――。
「今だッ!」
「BBBBBBッッ!」
ブンブンビートが前に出るタイミングに合わせて、強烈な一閃が入る。
スパンッ!
と気持ちいいくらいに音が響いて、ブンブンビートが真っ二つに両断される。
「おっしゃ! いいぞ、腕上げたなお前!」
「押忍っ!」
気合の入った返事に俺たちは思わず拍手をする。
うわーかっけぇ。デカくてなかなか決まりにくいグリッドの斧であるが、命中した時の一撃の気持ちよさは見てるこっちも興奮してくる。
「あのカズヤとかいう教員、なかなかやりますね」
「ああ……王都に連れていきたいくらいだ」
そして後方で勇学の二人が褒めている声が聞こえてくる。
普段ぐーたらな先生だが、冒険者としての腕は一流なのだ。
「おーっし、次行くぞー!」
そう言って、俺たちはその後も続々と進軍を進めて、敵をやっつけていった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回でお話が大きく転覆します。
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