4話:才能ある人が努力すると最強ですよね。
※2017/08/15 4話の前半部を分かりにくかったので修正
サラが本領発揮をしたのは、魔法学の授業が始まってからだった。
「魔法詠唱時間の削減、これは魔法使いの単独戦闘を実現する上で必要不可欠な課題です」
その日の授業は先生からの講座形式ではなく、自分たちで各々の意見を交わすディベート形式のものであった。
テーマは『これからの魔法運用について』
これはもちろん戦闘での魔法だけではなく、インフラや産業に使われている魔法のあり方も含め、古代から存在している魔法という概念のあり方を今後の未来に向けて話ていくという――まあ、ちょっと授業っぽいと言えば授業っぽいけど、面白いテーマであった。
「魔法使いの単独戦闘か。確かに詠唱時間が長いとその隙に倒されちゃうもんな」
50分ある授業時間のうち、テーマとして話す勘所は二転三転していき、
今は『魔法使いの戦い方について』という話に移っていた。
うちの学校の生徒は、多かれ少なかれダンジョンに潜って遊んだりしてるから、魔法使いという職業についてなくとも、このテーマは知見が深く語るものも多い。
その中で、特にサラは朗々と今後の魔法使いのあり方について説明をしていた。
そしてそれを後ろから、勇者学校の先生方が興味深そうに聞いている。
「魔法詠唱を減らす一番簡単な方法は、事前によく使う魔法については仕込みを行っておくことです」
「仕込み?」
「はい。例えば、特定の土魔法と風魔法、この二つはそれぞれ約20パターンの詠唱を行う必要があるのですが、この内の4パターンは同じ詠唱になってるんです」
「その4つ分を事前に魔法として記録しておくということ?」
「そうです。あるいは潜るダンジョンや、術師の魔法総量に合わせて、事前にどういった魔法をするかを、杖に仕込むという準備が必要になります」
「うわぁ大変そうだねぇ」
そうですね、とサラは言う。
そこで、と彼女は自分の魔法の杖を取り出した。
教室の後ろでスクルド先生とヴァルゴ先生が身を乗り出すのに気がつく。
「これは最近私が開発した新しい魔法の杖です。モンスターとの戦いで経験を積んで、杖自体が学習をして、それらの敵にあった詠唱の術式のモデルを作成し、次に戦う時は自動的に詠唱時間を短くしてくれます」
「……? どういうこと?」
俺の隣でタマちゃんが小首を傾げた。彼女は槍術士であり、どちらかと言うと前線や中距離で戦うのを得意とするタイプだ。
「例えば氷魔法に弱い敵がいるとします。その敵を倒すためにどの詠唱を記録しておけばいいか。例えば、氷魔法ではありますが、魔力消費の多い魔法を優先的に記録していたら無駄だったりします。何度も馬鹿打ちできません。魔法使いとして日の長い人であれば、どう準備したらいいのかすぐ分かりますが、初心者にはどう組めばいいのか分かりません」
「そうなんだよなー、だから魔法使いって希少なんだよ」
クラスの男子の一人がそう言った。
確かに魔法量や詠唱だけでなく、実戦でどう魔法を使ったらいいかなんて長い経験がないと成せない技だ。
「で、この魔法の杖を使えば、おおよそどんな魔法詠唱、魔法をぶつければモンスターを効率良く倒してくれるか自動算出してくれるのです」
「え、それめっちゃ便利じゃない?」
要は雑魚モンスターにエクルプロージョン無駄打ちするようなことがなくなるってことだろ。
――と、その話をしていたところで、勇者学校の女性の先生、スクルド先生が議論に入ってきた。
「……この杖は貴方が作ったの?」
「はい、参考にした文献はいくつかありますが、実際に開発して十分な検証を行っている事例が見つからなかったため実際に作って試してみました。この村はダンジョンが豊富ですし……」
「確かにグインガードの大学で自動化する魔法の杖の講演があったのは知ってるけど、まだ試作段階で実戦投入はされてないはず……」
「先に作っちまったってことだろ。末恐ろしい」
と、今度は男の先生――ヴァルゴ先生がそう言った。
「スゲェじゃねえか。要は経験の浅い魔法使いでも、一流の魔法使いと同じ詠唱の組み合わせを使えるってことじゃねぇか。俺は好きだぜ。そういうの」
「あ、ありがとうございますっ!」
サラは顔を真っ赤にしてそう返して、もじもじと言った。
「今はすでに戦ったモンスターとの記録があれば、最適な魔法詠唱を放てるようになっています。今後は未知のモンスターに対しても同じことができるように研究中なのですが」
「いえ、これだけでも十分すぎるわ。ねぇ、ヴァルゴ。貴方あそこの大学の教授とは知り合いだったでしょ?」
「あー、話を聞かせてやるくらいはできるぜ。ただ個人的にはあの連中は理論はしっかりしてても実戦で活かせるような作りにしてこねぇからな。俺は彼女の方がよっぽど優れてると思う」
褒められているのに気づいたのかサラはハリネズミみたいに縮こまっている。
「あ、ありがとうございます……魔法使いって、他の職業に比べてなるのが難しいから、こういうの作ったら誰でも戦いやすいかなって、私も楽だし……」
「その通りだ。よく分かってるじゃねぇか。育成が難しく実戦投入が難しい――だが、一度活躍すれば1個小隊を壊滅に追いやれるほどの戦闘能力を有した恐るべき職業――それが魔法使いだ。その本質をよく分かってるじゃねぇか、すげぇなおい……」
ヴァルゴ先生が戦慄した口調でそう言った。
「いえ、まだまだ勉強中の浅学の身です。この村では入手の難しい論文がいくつもあり、潰していかなければいけない課題も山ほどありますが」
「そんなことは王都に行ってからでも十分間に合うわ。大丈夫よ」
スクルド先生がそんなことを言った。
王都、というキーワードにサラが目を輝かせた。
「まったくこれだけの知識がありながらもモンスターの討伐経験も豊富ときたもんだ。信じがたいぜ……」
「い、いえ、単純に我が家には本がいっぱいありまして、それにダンジョンにはお兄……兄や友人とよく出かけていたので」
「やはり鍛え抜かれた勇者候補生はこういうところまで出向いたほうがいいな。ダイヤの原石はこうした秘境にこそ眠っている」
「い、いえっ、私はそんな……」
サラは真っ赤になって反応に困っている。
一方のスクルド先生とヴァルゴ先生は、とんでもない才能の持ち主に出会ったと大喜びだ。
「…………俺のフォロー全然いらなかったな」
「だねぇ」
タマちゃんが頷いてくれた。
授業が終わり、休み時間になっても、サラは勇者学校の先生方と仲良さそうに話していた。
サラが困ったらフォローしてやろうなんて、完全に杞憂だった。
「サラちゃん一生懸命勉強したもんね。レベルも19になったんだってよ。知ってた?」
「マジか……」
知らなかった。少し前までは17とかだったはずだ。もうすぐ20レベルになるじゃないか。
「ルークに隠れてこっそりね。驚かせてやるんだーって。おかげで私も経験値のおこぼれを貰っちゃったけどね。……サラちゃんはスゴいよ。まだ13歳なのに。私たちより2つも下なのに、あんなに努力家で才能にあふれてて、やっぱ応援したくなっちゃう」
「俺もだよ……」
「ルークは頑張りなよ、あんたは才能はないかもだけど……努力はサラちゃんに負けてないからさっ!」
そう言って俺の背中を叩く。
努力、努力か。
確かにこれまで俺はいろいろなトレーニングを試し、強くなるための鍛錬を積んできた。
朝の筋トレはかかしたことがないし、ダンジョンに潜っての戦闘も繰り返してきた。
だが、妹との差は開く一方であった。
正直悔しさはあった。
同じ努力をしているのなら、当然才能がある方に軍配が上がる。
ならばその差を埋めるのは何が必要だ。さらなる努力か? それとも運か?
「午後の冒険学も期待しているわね」
「ま、そのレベルであれば楽勝だろう」
「あ、ありがとうございますっ!」
ちょっとは一矢報いてみたい。
サラと一緒に並んで立てるような男になるために。
いつまでも彼女を助けてあげられるような格好いい自分であるために。
「そのための力か……」
俺は制服の裏側にこっそり隠していた、銀色のベルトを優しく撫でたのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
4話ちょっと短めです。サラちゃんの説明が難しかったらごめんなさい。(少しだけ直しました)
次回はダンジョンに潜ります! 本日の夜くらいに更新するので、評価・ブックマーク・感想いただけたら嬉しいです!