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3話:俺の妹は学校の希望の星、田舎の空に輝く明けの明星です。

「ドMのお兄ちゃん、今日の授業は大切な日なんだからね」

「はいはい」


 ルーラの田舎村の学校は一つだ。

 全校生徒は20人ほど。

 当然ながらクラス分けや学年別という概念もなく、一つの教室に男女年齢様々な生徒が存在している。


「サラお姉ちゃん、ルーク兄ちゃんおはようのんなー」


 と、教室に入るとさっそく元気そうな女の子が俺たちに話しかけてきた。


「おはようレイちゃん」

「おはよー」


 彼女はレイちゃん。

 年齢は9歳か、10歳くらい。

 黒髪のツインテールの女の子で、俺たちのクラスメイトであった。


「二人とも今日は都会から先生が来るん! 来るんな!?」

「そうだね、王都からはるばるいらっしゃるね」

「おおーっ!」


 レイちゃんはそれを聞いて獣みたいな唸り声をあげた。

 うちのクラスでは有名な快活な子であったが、今日は一段と元気いっぱいのようであった。


「うちも頑張って都会行くん!」

「レイちゃんは都会行きたいんの?」

「うちはこんな田舎で終わるような女じゃないん」


 すげぇこと言い出したなこの幼女。


「絶対に都会に行ってデパートのアイスクリン食べるん!」

「アイスでいいの……? アイスならヒノデンにもあるけど」


 ヒノデンは学校の近所にある駄菓子屋だ。

 やたらガラの悪い女の人が店番をやってる。


「チッチッチッ、甘いのんサラお姉ちゃん、練乳をかけたアイスよりも甘いん」

「そうなの?」

「都会のデパートに出かけてぶてぃっくでお買い物してっ帰りにアイスクリンを食べる。これ都会のれでぃの嗜みなん! うちも都会の女になるん!」

「よく分からないけど、確かにデパートは行ってみたいなぁ」


 語るレイちゃんに頷くサラ。

 サラは都会に行ったことがない。俺も赤ちゃんだった頃は都会に行ったことはあるらしいが、正直記憶はほとんどない。


 親父や母さんの話ではたまに都会の話は出てきてイメージはできるし、物語の中で先生や村の人の話でも想像を膨らませることはできるが、ほとんど未知だ。


 そう考えると都会から来る先生方というのは、ある種異世界から異邦者に親しいのかもしれない。俺たちからすれば。


「おっはよー、サラちゃん、ルークっ!」


 と、自席に着こうとしたところで別の女の子に話しかけられた。

 タマちゃんと呼ばれる赤髪の女の子は、俺と同い年のこれまた元気のあふれた女子であった。


「ねぇねぇサラちゃん、今日の冒険額の授業どこに行くか聞いてる?」

「ううん、お父さんからは"えこひいき"になるからって聞いてない」

「そっかー……噂によると『グリムの森』に行くらしいよ」


 そう声を潜めて怪しげにお伝えしてくるタマちゃん。

 ちなみに冒険学の授業とは、装備を構えて近隣のダンジョンに出かける授業のことだ。

 今日は勇学の先生方が来るため、午後の授業を実力のわかりやすい冒険学の授業に変えたらしい。


「グリムか、そこそこ難度高いな。初等科の子はどうするんだ?」

「ランラン花畑でスライム狩りだって。あとで料理してゼリーにするらしいよ」


 グリムの森とは、うちの村にあるダンジョンに中では比較的難易度の高いダンジョンだ。

 特殊能力持ちのモンスターが多く生息しており、モンスターに対する豊富な知識とその対処法が試される。


「スライムゼリーか、懐かしいな。昔サラが作ってくれた時はまだ生きてて口の中で動き出したっけ」

「お兄ちゃん……」


 サラが睨んできた。可愛いが怒らせないようにしよう。


「あははっ、サラちゃんなら心配ないけどね。ただ、グリムは昆虫モンスターが多いから気をつけないとね。特にこの季節はヤバイから」

「虫……」


 と、サラはブルリと身体を震わせる。

 サラは昆虫が苦手だ。

 昔、蜘蛛モンスターに襲われて、身体を糸で縛られて連れて行かれそうになったことがあり、それ以来、虫モンスターを見つけると構わず上級魔法を連発するようになっている。


「大丈夫、いざとなればお兄ちゃんが守ってやるから」

「うん、期待してない……」


 すごくナチュラルに過小評価された。

 肩を落として寂しがるが、それも今日までのことだ。

 変身ベルトを使えば、サラだって俺を見返すに違いない。


「おーっし、お前らー授業をはじめっぞー」


 と、意気込んでいると若い男の先生が入ってきた。

 カズヤ先生という名前の先生で、レイちゃんのお兄さんでもあった。


「にぃにぃ! 都会の人は来てるん!?」

「あ? ああ、勇学の先生方か。さっそくだけどご紹介しようか」


 と教卓の前に立ってカズヤ先生は大きな声で言った。


「いいかーお前ら―、もう聞いてるとは思うが今日は王都ラスティーンの方から二名の先生がいらしている。先生方は勇者専門学園というこれも知ってるだろうが、魔人や魔物を倒す冒険者を育成する超有名学校から来てくださっている、失礼のないようにすんだぞー……それじゃ、お入りいただければと思います」


 と、最後までめっちゃ丁寧な口調になってカズヤ先生は二名の先生を招き入れた。



「……おぉ」



 クラス内がざわついた。

 それもそのはずだ。

 二名の案内された先生が、俺たち田舎の学生でも分かるくらい。



「…………強い」



 明らかに強そうだったからだ。


「ラスティーンより来たヴァルゴ=ヴィンゴーンだ。職業は剣技闘士グラディエイター。学校では剣術や格闘術を教えている」


「ラスティーンより参りましたスクルド=エルルーンと申します。職業は聖魔道士(St.ウィザード)。学校では魔法学全般を教えています」


 巨大な火炎と、眩い光が俺たちの目の前にあった。


 まずヴァルゴ=ヴィンゴーンと名乗った先生。

 身長は2m近くありそうなひげもじゃの大男で、真っ赤な髪に頑健な肉体。

 練度の低い剣であれば叩き割ってっしまいそうな身体をしていた。


 次いでスクルド=エルルーン先生。

 静謐な雰囲気を漂わせて、銀色の長い髪にシルバーの瞳を輝かせる。

 彼女が経つだけでその場が荘厳な大聖堂に変わりそうな、そうした錯覚を起させる。


 二人とも俺が今まで見たことのない途方もない強さを持った人物であった。

 そしてビビる俺たちにカズヤ先生が話しかける。


「そして俺がルーラの村に暮らすキリュー=カズヤだ。職業は冒険者アドベンチャー、学校では一般教養全般と冒険学を教えている」


「にぃにぃは自己紹介しなくていいのん!」


 カズヤ先生はレイちゃんに怒られていた。

 確かにカズヤ先生も弱くはないだろうが、お二人に比べれば天と地の差があった。


「うう……俺だって格好良く自己紹介したいのに……で、だ。先生方は今日の授業を午前と午後の両方見学なさる予定だ。特に午後の冒険学、ダンジョン探検に行くから昼休みのうちに準備して校庭に集合するように!」


 俺は今日を授業割を確認する。


 一限目:数学

 二限目:魔法学

 三限目:魔物学

 四限目:社会学

 お昼休み

 五限目:冒険学


 となっている。

 魔法学は特にサラの得意分野のため、彼女にしてはここはアピールポイントとなるだろう。


「それじゃ、朝のHRは以上だー、気張らずいつも通りでいろよー」


 と、カズヤ先生は一通りの説明を終えてそう行って去っていった。


「やー、ヤバイ先生たちだったね」


 HRが終わって、ヴァルゴ先生とスクルド先生も去った後、タマちゃんはそんなことを話しかけてきた。


「そうだな。正直、都会の人があそこまで強いとは思わんかった」


 井の中の蛙とはまさにこの事だろうか。

 都会に出ればあんな人達がゴロゴロいるのだろうか。恐ろしい話であった。


「お、お兄ちゃん……」


 と、サラも不安そうな顔をしている。

 俺よりも才能にあふれる彼女は、より一層ヴァルゴ先生とスクルド先生の凄さを感じたのだろう。


 先ほどまでの自信が嘘のようだ。

 自分の実力が通用するのか不安がっている。


「大丈夫さ、お前は強いし賢いし美少女だ。魔術の腕も一流だし、勉強もよくしている。昨日も遅くまで頑張ってたんだろ。なら、あの二人だってお前のことを認めてくれるさ」

「う、うん、ありがと……そこまで言わなくてもいいけど」


 と、後半ごにょごにょと小声になっていたが、元気は多少とりもどせたようだった。


「大丈夫だよサラちゃん。いざとなったら、私もルークもフォローするし」

「そうだぜ、お前なら心配ないさ」


 タマちゃんと二人して応援する。

 そうだ。俺が王都に頑張っていくよりもまずはサラだ。

 こいつが頑張って王都に行けるよう俺は応援しなくちゃいけない。


(安心しろサラ、お兄ちゃんが全力でフォローしてやるからな……)


 だが、その思いは杞憂に終わるのであった。

3話読んでいただきありがとうございます。

評価、ブックマーク、感想くださった方々ありがとうございます! 次回もよろしくお願いします。

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