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2話:急に強くなったら逆に焦りますよね。

 どうしようこれ。


 俺が変身ベルトを使って全く新しい存在に進化して最初に思ったのは、そんな小市民的なことであった。


 いや、でも仕方がない。


 何だこれは。見間違いか? 見間違いなのか。


 ここでクールに反応できればいいのだが、俺は普通に目を見開いてフリーズしてビビった。


 ……ふぅ。

 呼吸を整えて改めてステータスを見る。



 名前:ルーク=ウィンフィールド

 レベル:72

 職業:孤高のヒーロー

 体力:1800

 魔力:322

 攻撃力:740

 防御力:690

 素早さ:844

 魔法抵抗力:483

 主技能1:孤高の戦士(一人で戦う際に全能力に補正がかかる)

 主技能2:歴戦の騎乗兵(あらゆる乗り物を操作可能となる)

 主技能3:異形の両眼(広い視野と暗視能力が付与される)

 秘技:ヒーローキック



「見間違いではないな……」


 声に出してそうつぶやく。

 さて、どうしたものか。

 どうしたものかどうしたものか。

 脳内では平静を努めているが両手はガタガタと震えている。


「両手?」


 そこで俺はあることに気づいた。

 いや、本来であれば最初に気づくべきことだったかもしれない。

 だが、あまりにステータスが強くなりすぎて、反応が遅れた。


「腕が、腕じゃない……?」


 何言ってんだこいつって感じだが、そうだ。

 俺は両手を見る。両腕を見る。肩を腰を、胸元を、両脚を見る。


「なんだこりゃ……」


 それは――"人ならざる"形をしていた。

 言ってしまえば金属。

 言ってしまえばシルバーと黒の入り混じった奇妙な形状に俺の身体が変化していた。


「……」


 思わず片方の腕で、もう片方の腕を叩く。


 カンカンッ


「っ!」


 金属を金槌で叩いたような音がした。


「なんだよこれロボじゃん」


 海を渡った別の大陸には俺らとは違う機械の肉体を持った人々がいると聞いたことがある。

 俺は彼らと同じになってしまったのだろうか。


「にしても、これはどうしよう」


 困った。

 純粋に困ったことになった。

 嬉しい、嬉しい……? が、これじゃ、強すぎる(・・・・)――――!


 レベルはいくつだ? ……72?

 72なんて見たことがない。レベルというものは上昇するたびに上がりにくくなり、どんな達人であっても50くらいが相場といったところだ。

 それこそ伝説の魔王を倒した勇者様や、人間よりも長命な種族が永き時を経て辿り着く境地だ。


「単にステータスのバグか?」


 そう思い俺は家の塀を軽く殴ってみる。



 ドゴォッ!



「~~~~~~~~~ッッッ!?」


 クッキーみたいにコンクリートの壁が粉々に砕け散った。


「ま、まずっ、直さないと直さないと……」


 焦って破片をつなぎ合わせてそれっぽい形に戻すが、後で間違いなくお説教されるだろう。


「やべぇよやべぇよ強い戦士っていうよりも只のモンスターじゃねぇか……」


 焦っていると、さらに俺を焦らせる事態が発生した。


「いってきまーす」

「やば」


 サラが準備を終えて玄関を出ようとしてる。

 マズいマズいマズい。

 この姿を見られるのは、自慢するどころか逆にビビらせてしまう。

 しかも問答無用で攻撃してくるかもしれない。

 ちょっと一旦逃げよう。変身を解除しよう。


「どうするんだこれ解除は」


 分からない。なら、隠れなくては。


 俺はキョロキョロとあたりを見渡して、うちの庭にある大樹を発見する。

 これであったら人一人くらいは隠れられる。

 木登りするには時間はないが、この状態ならジャンプして飛び移るくらいできる。


「よしっ」


 時間はねぇ!

 俺はトテトテと歩いてくる足音を後方で聞きながら、両足に力を込め――飛び出す。


「――――ッ!」


 一気に、飛び出す。


「おまたせ……あれ?」


 サラの声を後ろで聞いた。彼女の声がどんどん遠ざかった。

 俺はずっと声が聞こえない場所に到達していた。



「う、う、わ、わ……」



 俺は――空にいた。

 上空に。

 標高何メートルなのか分からない。

 ルーラの村中が一望できた。


「と、飛びすぎだろ」


 何だよこのジャンプ力は――。

 俺は空中で数秒間静止し、そして――落ちていった。


「う、うわわわわわわ……っっ!?」


 流石に重力には勝てない。

 俺は必死に足掻くも足掻くもそれすら無駄で一気に地上に落下していく。


「し、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅっ~~~~!?」


 悲鳴あげつつも俺はせめて、先ほど飛び移れなかった大樹の上に落ちようと身体を調整する。

 不思議だ。普通であれば常人であれば落下時なんて身体を動かくことはできないだろう。


 それこそ鳥の亜人や飛行魔法を付与した魔法使いでなければできない芸当だ。

 いや、彼らとて、急速落下での方向転換など勇気と技術のいる高難度のアクションだろう。



 だが、今の俺にはできている。



 正確に目的地を補足。庭の大樹。そこに向けて泳ぐように身体を捻る。

 その動作に負荷はない。

 身体が軽い。

 思うがまま、願うままに、イメージが身体に追いつく。

 位置が決まり、そのまま後は自然に身を委ねる。


 先ほど二階からの落下でも焦っていたのが嘘みたいだ。


 俺は余裕をもって受け身をとり、そして後は怪我ないことを祈りながら俺は大樹に落下する。



「――――――ッ」



 落ちた。

 俺は不思議とダメージはなかった。いや、当然だったのかもしれない。

 木に落ちて、俺は着地を決める。

  

 ――――【ヒーロー着地】に成功しました。攻撃ステータスに補正がかかります。


 ……何か変なメッセージが聞こえてきたな。

 主技能以外にも、常時発動可能なサブ技能があるのか?

 普段俺らが見ているステータスはあくまで能力の一部の抜粋であり、詳細を確認すれば分かることだけど、


「……そっか、変身スキルの詳細を見れば」


 俺はステータスの細かい詳細画面を開いて変身について確認する。

 変身ポーズの種類や変身可能時間に関する詳細が長々とあるがそれらは飛ばして……、


「えーっとあった、変身解除の方法」


 俺は自分のベルトの横にある解除スイッチを押下する。

 すると、俺の身体は機械のものから、柔らかい人間のものへと元通りになる。


「よしこれで大丈夫だな」


 大丈夫だよな、本当に。実はまだとんでもない力を保ってるとか。

 そう思ってると先ほど落下した時に枝を折ったのだろう。デカイ枝が俺の後頭部を直撃する。


「あだッ!」


 あまりに痛みにモンスターみたいに倒される。地面に顔をつけながらも痛みがあることから無事に戻れたことを確認する。


「……ふぅ、よかった……はは、元に戻った」


 そう笑ってると可愛い声が聞こえた。


「何笑ってるのお兄ちゃん?」


 見上げるとピンク色のパンツ……じゃなかった、制服姿のサラがこちらに冷たい目線を送っていた。


「っ!」


 鼻先を思いっきり蹴られた。

 やっば、パンツ見たことを気づかれたか。

 サラは顔を真っ赤にして睨んでるが、俺は痛みがあることに安堵していた。


「お兄ちゃんキモいよ……」


 妹はドン引きしていた。

 まあ、蹴られて興奮する兄がいたら確かに気持ち悪いだろう。


「木登りで遊んでないでいくよお兄ちゃん、今日は大事な日なんだから」


 そう言ってスタスタと行ってしまう妹。

 俺はもとに戻ったことに安心しつつも、何か大切な人間の尊厳の一部を失っているような気もしていた。



 その日、俺は登校するまで「ドMのお兄ちゃん」と呼ばれながら生活することになった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

ひとまず1章分はストックあるので適宜あげてこうかと思います。

よければ、評価・ブックマーク・感想などで応援いただければ幸いです。

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