プロローグ:それは運命の出会いでした。
世の中には才能に溢れた人間と、そうじゃない凡人の二種類がいる。
例えば俺の妹と、俺がそうだ。
サラ=ウィンフィールド。
金髪碧眼の美少女にして魔術の天才。
将来は俺たちの村をでて王都で活躍することを期待されている。
兄貴の俺から見ても可愛らしいどこに出しても恥ずかしくない女の子だ。
一方の俺。
ルーク=ウィンフィールド。
平々凡々にして特徴なし。
職業は拳闘士でそれだけ聞くと強そうだがその実力は極めて微妙。
剣の腕もなく魔術の才能もないが故に拳での戦いを選んだ人間だ。
何も持たずに生まれてきてしまった人間と、有り余る才能を持って生まれた人間。
天上の神々は不条理で不平等な人生という名のゲームを与えてくる。
それでもまあ、頑張って生きるしかないのだが、少しは希望も欲しかった。
だから俺は、学校が終わった放課後、近場のダンジョンによく出向いた。
クルートの洞窟。
そう呼ばれる名前のダンジョンは、何もレベル上げの効率の良いモンスターがいるだとか、レアアイテムのドロップ率が高いだとか、そういうことは一切ないのだが、そこには、ちょっと変わったモンスターが一体生息していた。
変化魔獣ペロゴン。
まるっこい体躯におデブさんなお腹をした二足歩行のモンスター。
一見するとどこにでもいる中級モンスターだが、彼には変わった特性があった。
それは食べたアイテムを――別のアイテムに変化させる、といったものであった。
例えばペロゴンに薬草を投げる。
そして食べさせる。
ペロゴンを倒す。
すると、ペロゴンに食べさせたはずの薬草が、銅の剣になってドロップアイテムとして入手できるのだ。
これは面白い。一攫千金、お金の香りがする。
勘の良い人間なら気づくだろう。ペロゴンにゴミアイテムを投げまくって、アイテムを落としまくればそのうちレアイテムを落とす可能性があるんじゃないか、ということに。
俺はこれを"ペロゴンガチャ"と呼んでいる。
もちろん人生そう甘い話はない。
俺以外にも色んな人が、ペロゴンの可能性を信じて彼にアイテムを投げてドロップアイテムを期待してきた。
だが、多くの人間は途中で挫折した。
何故なら世の中には俺たちの想像する以上にゴミアイテムはたくさんあり、当たり前だがペロゴンの吐き出すアイテムの大半はそうしたゴミアイテムであったからだ。
だが、俺の叔父さんなんかは、ペロゴンに皮の盾を投げてラピスラズリ(宝石)を手に入れたことがあると自慢していたし、可能性はゼロじゃない。
ゼロじゃないってことはいつかは叶うということだ。
俺の目標は"黄金色のグローブ"と呼ばれる王都の闘技場で拳闘士達が使っている装備アイテムを入手することだ。
希少な装備品が手に入れば、基礎ステータスの低い俺でも、この村で最強の拳闘士になれる。
最強の拳闘士になれば、妹を見返すこともできる。
天才の妹は思春期になるしたがって段々と俺を小馬鹿にすることを覚えはじめ、
子供の頃は、
「お兄ちゃんコボルトやっつけたの、スゴいスゴいっ!」
「一緒に冒険来て、お兄ちゃんに守って欲しいの」
「えへへ……一緒に寝てもいいかな」
と甘えてきたものだが、最近だと――
「え、お兄ちゃんまだオーク一匹も満足に倒せないの(笑)」
「大丈夫、お兄ちゃんは私が守るから」
「ねぇ、勉強の邪魔だから部屋に入らないで???」
俺は強くならなきゃならない!
年を経るごとに失われていった兄の威厳を、妹の好感度を、サラ(妹)の好感度を! 俺は取り戻さなくちゃいけない!
「よっしゃ行くぞペロゴン! これが324回目の挑戦だ!」
「ペロォォォォ~~~ン!」
クルート洞窟 8階層。
間抜けな叫びをあげるペロゴンに俺は立ち向かい石を投擲する。
びゅん、と風切音。
真直ぐ飛んだ石はペロゴンの口に入り、彼の体皮は赤褐色に変化する。
アイテム変化のシグナルだ。
「喰らえッ! ……地龍低脚ッ!」
ぐるん、と地面を這う蹴りがペロゴンの鈍重な体躯を崩す。
龍が尾を振るう動きをトレースしたこの技は俺の得意な先制技だ。
妹からは「それはただの足払いでしょ、お兄ちゃん?」と言われてるがこういうのはイメージが大事なのだ。
故に。
「ペロッ!?」
ペロゴンはきちんと動きを封じられてる。
「続けて……鳳翔両掌ッ!」
怯むペロゴンを掬い上げる掌底でふわりと飛ばす。
両手を用いた一撃は、まさしく不死鳥の舞い上がる瞬間の様だ。
妹からは「何その気持ち悪いアッパー」と若干引かれ気味の技だが、強いんだから仕方ない。
「よし、トドメだ!」
「ペロゥ……?」
宙に浮いたペロゴンに視点を定める。
右腕をきゅ、っと引く。
放つ。
「――――絶対の貫く拳!」
空気を割った超高速の拳がペロゴンの腹部を貫き通す。
この技は妹からも「うん、その正拳突きは強いと思うよ」と褒めれている俺の秘技だ。
「ふぅ、さてさて今回は何かな?」
息を吐いて俺はワクワクした気持ちでペロゴンに近づく。
この瞬間がペロゴンガチャの一番楽しみな時間だ。
ここ最近のアイテムは、
・木の矢
・10ゴールド
・じゃがいも
・カナブン
とゴミアイテムを通り越して只のゴミしか落としてないので、そろそろ当たりが来ても良い頃合いだ。
「こい、こいっ……!」
倒されたペロゴンは光りだし、ドロップアイテムを落とす。
そこには見たことのない、銀色のベルトが落ちていた。
「やった、まともなアイテムじゃないか!?」
しかも装備品!
ちゃんとしたアイテムが来るのなんて何回ぶりだ!
俺は嬉しさを抑えきれずすぐさま近づき、アイテム名を確認する。
変身ベルト
と、アイテムには書かれていた。
未鑑定のため、俺は手持ちの鑑定の魔術書を使用して変身ベルトの説明を確認する。
名前:変身ベルト
種類:装備品
効果1:防御力+5。
効果2:スキル『変身』を使用可能になる。本スキル使用者は職業が『ヒーロー』に変化する。なお、スキルの使用は1日に10分間まで可能となる。
「おおー……強い、のか?」
よく分からない。
ヒーロー、ヒーロー……か。
俺は残念ながらヒーローという職業はどういったものか分からなかった。
だが、特殊効果付きのアイテムなら間違いなくレアだ。
きっと強いだろう。
「それに横文字の職業ってだいたい強いしな」
パラディンとか、アークウィザートとか、上級職の雰囲気がした。
「よっしゃ、これで妹に自慢できるぜ!」
その時の俺はそんな風に軽く考えていた。
本当に、ものすごく、ものすご~~く、軽い気持ちで考えていたのだった。
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