7話 キルトの街
いろいろステータスについて見直しましたので、ご注意ください。
うぷっ。気持ち悪い。
あの移動方法以外になにか無いのか。うぷっ。
あー、気持ち悪い。
「リート。着きましたよ。ここが始まりの街キルトです!ほら起きてください。」
「揺らさないでくれリリエル。俺は今迫り来る嘔吐感と必死に戦っているのです。だから少し待ってください。「早く行きましょうよ、リート。」いやほんとに、揺らさないでぇぇぇえええ!」
ガクガクと揺さぶられる体。どんどん迫り来る嘔吐感。
「待て待て。自分のタイミングで動かせてくれ。じゃないと、吐く。」
割と本気で。
「分かりました。それでは少しここで休憩としましょうか。なにか質問はありますか?」
「そういえば、今現実では何時だ?」
「16時を回ったところですね。ちなみに現実時間はオプションから操作すると、メニューを開いた時に[アイテム]の項目の上あたりに時間が表示されます。」
へぇ。それは必要だな。えっと、メニューを思念操作で操作で開い…って、いまこの状況で思念操作なんてなれてないことをするとぜってぇ吐くな。
というわけで、
「メニュー」
そういって腕を上から下に振り下ろして、[オプション]の項目から現実時間表示を有効化する。
おお。いま7分くらいか。
「表示できたぞっと。そういえば、今日1日は一緒って言ってたけどなにかしなければならない事は他にあるのか?」
「いえ。私たちが率先して動かなければならないのはチュートリアルまでですので。あとは、戦闘に行くなら危なくなった時には回復したり、例えば生産職を希望している人がいるならば工房に案内したりといったことをするように命じられています。」
「そうか。っと、体調も少しは戻ったし少々移動しようか。」
「承知いたしました。それではどちらへ?」
「そうだな…。いまの俺でもお金を稼ぐことの出来る施設はどういったものがある?」
「そうですね。例えば、冒険者になってお金を稼ぐという方法がありますね。他には街の食堂などでアルバイトみたいな方法もありますね。」
「アルバイトか、面白そうだな。」
この世界ではどんなアルバイトがあるのかも少し興味があるしな。
「アルバイトに惹かれますか、リートは。」
「ああ。たくさんの人と交流するのも楽しいしな。そうだな。それじゃあ、街並みでも眺めながら興味の惹かれるところでアルバイトを申し出てみるか。」
「リートのお好きなようになさってください。しかし、私がいる意味が問われますね。」
「ごめんな。けど、付き合ってくれたら嬉しいな。」
「そう言われると断れませんね。ふふふ。」
「ところで今俺達がいる場所はどこなんだ?」
「ここは街の中心にあるセントラルパークという公園です。どんな街でも中心にはセントラルパークがあります。まぁ、セントラルパークの景観は街によって様々ですが。こういったセントラルパークがリスポーンした時や、このキルトの街へ転移したときのプレイヤーの出現位置になります。」
へ〜、キルトの街のセントラルパークは公園というよりは、ローマにあるスペイン広場みたいだな。真ん中に噴水もあるしな。まぁ、舟型ではないけどね。
ジェラート売ってないかな?
あっ、売ってるのね。スペイン広場では今では食べられないようになっているらしいけど。
また、時間とお金の都合が付けば食べに来るとしようかな。
けど、やっぱり何をするにもお金は必要だな。
「なにをするにもお金は必要だよな。やっぱり。」
「そうですね。それではどちらへ向かわれますか?」
「そうだな。食堂街はどっちだ?」
「食堂街ですね。こちらです。ついてきてください。」
そういって歩き出すリリエルに少し遅れて歩き出す。
セントラルパークから出るように歩き出すとやがて町並みが見え始める。
イメージとしては中世のヨーロッパの町並みであろうか。
カラフルな家々が立ち並び、道には石畳が綺麗に並べられており、一定間隔で街路樹が植えられている。
テレビでは何度も見たことのある光景でも、実際に見ると圧巻の1言に尽きた。
「どうしました?まだ具合が悪いのですか?」
立ち止まって問いかけて来るリリエル。
ええ子やぁ。
「いや。町並みがあまりにも見事だったものでな。圧倒されていた。」
「そうですか。やはりこういった町並みは綺麗ですよね。」
「ああ。なんだか、この世界に来てから感動してばかりだ。」
「そういっていただけると<お母さん>もお喜びになると思います。」
「<お母さん>?」
「あっ、その、いえ。気にしないでください。そんなことよりも、ほら。あれが食堂街の入口ですよ。行きましょう。」
そういって先程よりも早い速度で歩き出すリリエル。
……なんだか、はぐらかそうとしてるみたいだな。
まぁ、リリエルがはぐらかそうとするようなものなんだから深く聞くのはやめておくか。
「置いていくなよー。っと、ここが入口か?」
リリエルに追いついてそう問いかけてみた。
「ええ。といってもここが食堂街っていう名前というわけではありませんが。この通りには食堂や酒場などの飲食店が数多く並んでいるから食堂街と呼んでいるだけなのですよ。」
「そうなのか。にしてもこんな時間なのにもう飲んでいる人もちらほらいるな。っとそういえば、この世界の時間と現実の時間は同じなのか?」
「はい。同じです。だからあの人たちは夕暮れ前からお酒を飲んでいる呑んべぇさんですね。」
「呑んべぇさんって。プッ、クククッ。可愛らしい呼び方だな。クククッ。そ、そういえばこの世界での飲酒年齢は?」
「そんなに笑わないでください。……15歳からです。」
「笑って悪かった。ごめんな。15歳か。それじゃあ、俺もギリギリ飲めるな。」
「いいですよ。別に飲むのはこの世界の設定上構いませんが、現実では飲まないでくださいよ?『ゲームの中でも飲んでるので現実でも飲みたいと思った。』なんていって未成年飲酒禁止法に抵触したら、それのせいでゲームは子供に悪影響を与えるなんて言われるようになったら未成年はこのゲームをプレイ出来なくなってしまいますから。」
「確かにそうなる可能性もあるよな。わかった。ちゃんと気をつけるよ。」
「お願いしますね?」
「ああ。っと意外ともうプレイヤーも食堂街に入ってきているようだな。」
「そうみたいですね。私たちもゆっくり見て回りましょうか。」
そういって、1件1件ゆっくり店の中の様子を伺っていく。
1件1件いちいちオシャレだな。
「どれもこれも魅力的すぎるな。悩む。」
「そうですね。ここにはずいぶんと力を注いだようです。」
<お母さん>情報かな?
まぁ、聞かないけどね。
「それじゃあ、次の店見てみようか。」
「そうですね。次は「おいおい。この店は客に酒も出せねぇってのか?」……何でしょうか?」
「多分厄介事なんだろ「だから、何回言ったらわかるんだい?ここはお酒は出さずに料理の味を売りにしている店なんだよ!酔っぱらいは帰んな!」ほらやっぱり厄介ご「あ?俺達はこの街を守ってやっている警備隊様だぞ?そんな態度でいいと思っているのか?」……。なぁ、リリエル?」
「ねぇ、リート」
「「あれをぶっ飛ばしに行ってもいいか(ですか)?」」
リリエルとリートはお互いの言いたいことが重なったことに驚き、しかし、顔を見合わすとお互い頷き、その騒ぎの中心へと向かっていった。
意外と似たもの同士の2人。
こぼれ話 キルトの街の食堂街についての話し合い
「やっぱり、食事処は街並みに合わせてバルを多く作ってはどうでしょうか。」
「ここは始まりの街なんだからこれからいろいろな国の名物料理を売る屋台は必要だと思います。」
「お酒を出さない味自慢の店も欲しいよねぇ。」
「冒険者という職業もあるということをわかってもらうためにも酒場もいっぱい欲しいところですねぇ。」
食事を提供する店について議論がヒートアップしていた。
「たしかにみんなの意見はどれもこれも魅力的だよな。」
「そうよね。どれかを選べっていわれても難しいわよね。」
「俺達がWSOの世界を楽しむ時には酒も一緒に楽しみたいしな。」
「「「「「「「「どうしよう。」」」」」」」
このように食事処についての議論に暗雲が立ち込めた。
「あれ?みんなどうしたの?部屋暗いよ?」
そういって姿を現したカルカタ。
「あ〜。代表」
「あっ、代表!実は……、
……ということなんですよ。」
とカルカタに説明する。
すると、
「別に全部やっちゃえば良くない?」
「「「「「「「え?」」」」」」」
「いや、別に全部やっちゃいけないこともないでしょ?」
「言われてみればたしかにそうだよな。」
「たしかに。」
「それなら、街の1角をそう言った食事処で埋めてしまうのはどうですか?」
「それいいな。」
「ちょっとやりすぎのような気もするけど、まぁ、ゲームだしね。」
「うんうん。食事処が多い方がプレイヤーの皆様にも楽しんでいただけるでしょうし。」
「決まりだな。」
カルカタの発言から構想を得たこの計画は議論を交わしていた面々の努力と多少の暴走のもと、後に食堂街としてWSOの世界に実装された。