42話 イロモノ
それぞれ準備を済ませ、南門へと集まった俺たちはモンスター討伐のためにローニッツから出て行ったわけなのであるが、
「意外と近くまで押し寄せてきているみたいだな。」
「せやな。ほんで結構な勢いで消えてってるな。」
「当然。」
「この程度ならこの都市の冒険者連中でも十分に倒せる範囲内だ。」
「けどここで狩っているのはほとんどが初心者みたい☆当然だけどやっぱり山の奥が本番だろうね☆」
南門からでてすぐのところで繰り広げられている戦闘の様子を見ての言葉だったが、この辺りに出現しているモンスターは比較的弱く、戦闘職でもない俺でも十分に倒せる範囲内の強さだ。
確かにゲーム的には防衛拠点の近くには最初の方は弱いモンスターを配置するのは正しいことなのだろうが、ここの運営のやることだからと少し疑ってしまうのは先入観か?
とそれはさておき、丁度おあつらえ向きな弱いモンスターをこれだけ大量に設置してくれているんだ。
「この辺で体を慣らしていこうか。ゲルマに取っちゃ相手が不足しているだろうが、俺とペグの戦闘力を測る一つの指針にでもしてくれ。」
「ん?なんややるんか?」
「この辺りのモンスターには遅れを取らないだろ?」
「もちろん。」
「というわけで今回は自由に動いてくれ。とりあえず俺は先に行ってるぞ。」
そう宣言してアビリティの[俊足]を最大限に活用して駆け出し、近くにいた見知った相手のコロコロと丸いマリットという鳥を模したモンスターに対して、
「ボールを相手のゴールにシュゥゥゥーッ!!」
「ヌピャッ?!」
思いっきり蹴り飛ばす。
超エキサイティン!!
とまあ、ネタはここまでにして宙に浮いたマリットに向かって、[アイテム]から取り出したナイフを投擲、蹴った段階でHPバーが3割ほど削られていた上に、ナイフはマリットの胴体に深々と刺さって5割ほどのダメージを与える。
なんとなく蹴ったほうが威力は高そうなのに、実際にはナイフの投擲の方がダメージが大きいというのは戦闘中に回収困難な使い捨て武器だという判定があるという理由らしいが、助かる仕様で嬉しい。
そしてナイフが刺さって地上へと落ちてこようとしているマリットの落下予測点に走りこむと、
「オラァ!」
胴体に刺さったナイフ目掛けて蹴りを放ち、更に奥の方まで押し込む。
「ヌピャアア!」
奇声の断末魔をあげてHPバーが全損、光の粒子となって消える。
『You win!』
『経験値を入手しました。アイテムを獲得しました。』
うん、割りと美味しい肉だからこそ数多く狩ってきただけあってパターンは記憶しているからな。
正直マレットは素手でも倒せるんだが、一応戦い方を見せるという意味で[投擲術]を発動してみたなんだが、
「…笑顔?」
「うわぁ、なんかあいつ笑ってたで。」
「ほう、容赦が無い。」
「キャー☆リーちゃん残忍でかっこいい☆」
…どこと無く引かれているような感じがする。
「まあ他にも色々と手はあるけど、あんな感じで戦ってる。」
「…なあリート、その服教会に寄付してこい。そんでお前はボロボロの皮の服でも着てバーサーカーみたいに返り血でも浴びて喜んどけ。」
「さすがに言いすぎじゃねえ?!」
俺をなんだと思ってやがるんだこいつは!
「モンスターを蹴り上げて、ナイフを投擲、落ちてきたところでナイフの柄頭目掛けて押し込むように蹴りこむ、この間終始笑顔。少なくとも見てるこっちとしてはまともな人間やとは思えへんで。」
「笑ったつもりはないけどな。」
「せめて自覚があってくれ!自覚ないって言うんならお願いやから自覚してくれ。怖いわ。」
へぇ。
ペタペタ
笑ってる…みたいだな。
うわぁ。
「…正直今の自分に引いてる。」
「えーっと、頑張れ?」
ラナに小首を傾げられてそう言われるのが一番来る。
「ま、まあ?次はペグの戦いを見させてもらおうか。」
「気まずなったからって俺に振るなや。まあやるけどな。あー、アイツでええわ。STR極振りでも速いモンスターも倒せるんやってところ見てたる。」
そう言って指を指した方向にいるモンスターは虎のような大柄のモンスターでしなやかな筋肉が皮越しに見て分かるほどに付いていた。
あれは明らかに速そうで強そうだ。
少なくとも俺はちょっと時間がかかりそうだな。
「ほな行ってくるわ。」
そう言って気負いなく歩いて近付いてゆくペグ。
まああそこまで言うのならなにか手があるんだろうが、傍から見ると自らモンスターに食われに行こうとしている馬鹿にしか見えないな。
そして近付いてきているペグに気が付いたのかその虎もどきは首を持ち上げて目を見開くと、
「GRUUU!!」
と唸り声を上げて威嚇してくる。
ペグはそんな威嚇など意にも介さず距離が5mを切ったところで、
「GRAAA!!」
虎もどきが地面に爪痕を残すほどに強く踏み込んで跳ねるように一気に距離を詰めると、
「ニャン公が調子乗ってんなや!」
腰の剣ではなく新たに[アイテム]から具現化させた大剣を強く握りしめると大きく身体を弓なりに反らし、噛み付いてこようと突き出された顔に向かって、
「ぅらあああ!」
思いっ切り叩きつける。
体重差を考えてもペグの体重はあって70kg、対して虎もどきは200kg程度だろう。
更に虎もどきの方は十分に加速して速度を得ているのにも関わらず、どういう訳か押されることなく両足で踏ん張って、
「潰れろ!!」
あろう事か虎もどきの方を地面に叩き付ける。
その光景に、
「は?」
「え?」
「ほう、[重化]をそう使うか。」
「えー☆」
唖然とした様子や感心した様子を見せる一同。
今のペグの一撃で虎もどきのHPバーは一気に五割程削られ、怯んでいるいまなら止めを刺せるのだが、
「こっちじゃない方の戦い方も見せとかなあかんからさっさと立ちぃな。」
手に持った大剣を[アイテム]に仕舞い、距離を開ける。
トドメをさせる時に刺さないのは油断とも言えるが、ペグにしても決して油断をしているようには見えないから放っておこう。
…もしこれで怪我を負ったら笑ってやる。
「GU,GRUUU」
ゆっくりと立ち上がった虎もどきはペグに鋭い眼光を向けながら円を描くように周囲を歩き、どんどんと速度を上げてゆき、極振りであれば反応は出来ても体の動きが付いてこれないであろう速度まで加速すると、ペグの背後から爪を突き立てようと駆け出し、
「ホンマ、アビリティ発動する速度はAGIと関係なくて助かるわ。」
ペグが不自然に瞬間的に動き出したことで虎もどきの爪はかすることすら無く避けられ、
「大振りの攻撃は隙だらけや!」
今度は腰の剣を引き抜き、
「『ダブルスラッシュ』!!」
システムの補正を借りて素早い二連撃を叩き込んで、虎もどきのHPバーの残りをきれいさっぱりと消し飛ばした。
『You win!』
『経験値を入手しました。アイテムを獲得しました。』
戦闘には参加していないが、最低限の経験値とアイテムが分配される。
結局無傷であの面倒くさそうな虎もどきを極振りで倒すっていうことはこいつはプレイヤースキルが高いのだろう。
「てな訳で一丁上がりや。どや?」
「普通に強くて驚いた。」
「同じく驚いた。」
「[重化]と[軽化]か。」
「ぺーちゃんも強くてびっくり☆」
という反応なのだが、ペグはどうにも気に入らないらしく、
「驚いたって俺に期待指定無かったって言うことやんな!」
「端的に言うと?」
「疑問系にされても騙されへんで!」
「それはすまん。で、結局のところあの虎もどきの攻撃なんてどうやって避けたなんだよ。極振りじゃ避けきれないだろ?」
「普通は避け切れんな。」
もったいぶった顔がうっとうしい。
というわけで、
「話すつもりがあるならさっさと話せや!」
「うおッ!わ、ちょ!分かったから止めてや!AGIが足りてへんねん、こっちは!」
ちっ、そんな調子のいい事言っているくせに紙一重で蹴りをよけやがって。
「さっきゲルマの兄ちゃんが言ってた通りや。[重化]と[軽化]、そんで[縮地法]のあわせ技や。」
「知らないアビリティだ。」
「そうやろうな。全部リートみたいなヒーラーが覚えるようなもんちゃうからな。まあ、さっきの見たらお前をヒーラーって言いたくは無いけどな。」
「まあ邪道なのは知っている。で?」
「簡単に言えば[重化]で体重増やして一撃の威力を重くして、[軽化]で体重を軽くして擬似的にAGI上げとんねん。それに[縮地法]は面白いことにAGI依存じゃなくてSTR依存やから、瞬間的に動くにはこれが一番何や和。」
「うわぁ、イロモノ極振りプレイヤーかよ。」
「否定は出来へんけどイロモノという点に関してはお前も俺も同じやからな!!殴りヒーラーとか意味が分からん!」
イロモノという自覚は俺にもあるけど、さすがにペグ以上の物ではないと確信してるぞ?
極振りだけでも十分に変だってのに更に体重を自由自在に操って高機動を実現するとか意味が分からない。
「お前、とことん何かを縛らないと死ぬの?」
「そんな奇妙な縛りはしてないわ!」
「どうにもそうは思えない、なあ?」
俺だけじゃ何を言っても何も話が進まなさそうだから、ラナたちに話を振ってみたんだが、
「どっちも可笑しい。」
「まあペグの戦い方は可笑しい。もちろんルートも。」
「ペーちゃんが戦い方という意味じゃ可笑しいね☆リーちゃんの方はその…職業を大切にしようね☆」
意外と俺にもダメージが合った!?
「はあぁ。…だそうだ。」
「何でお前が落ちこんでんねん!」
いやだってさ?サラッとイロモノ認定されたらそりゃ落ち込みもするわ。
「その少し良いか?」
ゲルマのその声に全員の視線が集まると、
「あー、うん。そのリートとペグの力は良く分かったからもう少しだけ一緒に行動させて貰いたい。いいか?」
という今後の許可を求めてくるのに、ペグと顔を見合わせると、
「改めてよろしく頼む、ゲルマ。」
「こっちこそよろしく頼むわ。」
ゲルマを改めて仲間として迎え入れることになった。
そして、
「ペグと俺の戦闘力が分かったところで少し奥の方まで進もう。そこからが"レジスタント"の本当の戦闘開始だ。」
そう号令をかけると、天辺が雲に隠れて見えなくなっている山へと足を進めていく。
なんとなく最近書いた文章と連載当初の文書の書き方が大きく変わっているように感じるので、どこかしら違和感を覚えた方は感想をいただけたら嬉しいです。




