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辻ヒーラーさんは今日も歩く  作者: Luce
第2章 辻ヒーラーさんと初イベント。
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38話 準備


朝食を済ませて食休み、静かに精神統一をしていると、


ドンドンドン


「俺や、ペグや。おはようさん。朝飯でも食いにいかんか?」


ああ、来たか。


テーブルにぐてーっと顔を伏せているラナは応対するつもりは無しと、へいへい、あっしが応対させていただきやすよ。


「へえ、旦那。おはようございやす。こんなに朝早くからお仕事ですかい?」

「朝一発目からボケかましてくんな!」


スパンッ


「痛っ、ナイスツッコミ。よっ、日本一!」

「ええ、そうですか?どうもどうも~、とはならんぞ?」

「いいや、むしろ関西一!よいしょ~」

「"よいしょ"ってそのまま言うものやないからな?それと何で範囲狭まってん。ってまた話続かんな。朝食のお誘いや。どないする?」

「いや、悪い。こっちはもう済ませた。」

「あちゃ~、そうか。ほな俺は適当になんか食べてくるわ。パーティーの会議はお前の部屋でええか?」

「おう。」

「ほな食べ終わったらこっち来るわ。」

「了解。」


そう言うと後ろ手に手を振りながら魔術エレベーターとは名ばかりの実質、転移装置の魔法陣の上に乗るペグに手を振りながら、


「…次どうボケようか。」

「聞こえt」


シュン


…言葉の途中で転移が作動するってあいつも大分と間が悪いな。


とりあえず大分と下の階から「るからな?!」というような怒鳴り声か聞こえてきたような気もするが、おそらくは気のせいだろう。


まあアホは放っておいても問題ないだろうから、今日から始まると思われるイベントについて色々と考えてよう。


俺らのパーティーが一番気にするべきなのはパーティーメンバーの募集と南を担当する他のプレイヤーやこの世界に住む者たちとの連合軍との歩調の合わせ方なんだが、後者については今は考えても仕方がない。


もちろんラナやペグの意見も聞かなければならないだろうが、個人的にはこのパーティーに足りていないのは敵を通さないように最前線で耐えてくれるようなタンクと、ペグはまだ未知数としても、決定力に欠ける今の編成では攻撃魔法使いが欲しい。


という訳で、


「ラナさん、ソロの冒険者に渡りつけてくんない?」


Bランク冒険者の顔の広さを最大限に活用させていただきます。


…正直、今のラナの現状では下手なプレイヤーをパーティーに招き入れるのはごめんこうむりたい。


「良いけど。」

「よしっ。じゃあペグが帰って来たら早速行こう。ソロの冒険者も数時間もしないうちにどこかしらのパーティーに加入するだろうからな。時間との勝負だ。」

「おそらく朝一番にギルドマスターから発表がある。」

「だな。冒険者ギルドが開くまで後三十分。その時間を待っていると思われる冒険者たちの中に混ざれたら声もかけ易いし、パーティーの募集を待っているソロの冒険者もいるだろう。」


くくくっ。

早く行けばそれだけパーティーを組みたいと思っている腕のいい冒険者も選び放題、選択権も我が手の内。

情報の入手の速さと人脈は現実世界でもこっちの世界でも重要ですね。


「…リート、悪い顔してる。」


おっと、顔に出てしまったか。

反省反省。


とそれは置いておいて、


「ちょっとキッチンで色々と準備してくるから、ペグが来たら対応頼む。鍵はこれで、一人って言えばいい。ラナは昨晩正式に同部屋にするってミンクに伝えたからな。」

「了解。」


そう、色々と、ね。


ただその…食事って大切だよねえ?

くくくっ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ゴンゴンゴン


「アホ、アホのリート!開けろ!新しい情報手に入ったで!ってラナちゃんかいな。あのアホは何処や?」


えっと、ここでマンドラゴラをすりつぶしたものをイベントの始まる前から用意しておいた特製のスッポンの血液や内臓などを煮詰めておいた鍋に入れてグツグツと煮詰め、


「おお、こっちかい。あのアホはなにしとん?料理?あいつが?全然するように見えんのに意外やわ。」


もう少しニンニクを入れておいたほうが良さそうだな。


「ケケケッ、良い出来だあ。あ、もう少しマンドラゴラを入れておいたほうが良さそうだな」

「ってお前、なにしとんねん!」


スパンッ!


「痛っ!何してくれてんだ!」

「こっちの台詞や!」

「見たら分かるだろ!」

「ただのマッドサイエンティストにしか見えんわ!」

「失礼な!俺はれっきとした料理をしてるんだよ!」

「あ?料理?」


赤がベースの鍋の中身を見つめてそんな声を出すペグ。


「そうだよ!れっきとした料理だ!…せっかく出先でみんなで食べれるように作っていたんだが。」

「そうやったんか。それは悪いことした。すまん。」


こいつ、結構素直で良い奴なんだよな、こういう風に自分が悪いと思ったら謝るし。


「ああ、良いよ。確かにこの鍋の色も中々だからな。勘違いするのも仕方が無い。っと丁度出来たみたいだ。んじゃ収納。」


『"狂人鍋"を[アイテム]に収納しました。』


まあペグの勘違いではないんだけどな。

間違いなのはサイエンティストって所で、マッドはこの鍋の効果を考えれば甘じて受け入れるしかない。


これは切り札だからなるべく使わなければいいな。

効果は保障するが、その…副作用がえげつない。


使うような状況になったということはラナが復讐に狂ったということに他ならない、出来れば使わない方向でお願いしたいんだが。


「…万が一に備えるのも必要か。」

「なんか言ったか?」

「何でもない。」


ちなみにこれを使わなければならない事態に陥った場合にはペグにも犠牲になってもらいますので。


「お前のそのやさしそうな目がえらい怖いねんけど?」

「気のせい。それよりお前がさっき言っていた新しい情報ってのは?」

「ごまかそうという魂胆が丸見えやけどまあそれはいったん置いとこ。その情報ちゅうのが聞いたところによると、すでにモンスターの大量発生が噂なっとって、冒険者から兵士まで戦いを生業としている者たちはそれぞれの所属しているところに大集合しているらしいで。」

「へえ、それは都合が良い。高ランクの冒険者ならその辺の情報は手に入れてるだろうから今がチャンスか。」

「やろうな。ほなさっさと行こ。」

「ああ。ラナも準備はいいか?」

「問題ない。」


ラナの賛同も頂いたわけですし、早いところ冒険者ギルドへ向かいましょう。


部屋からペグとラナを追い出して、自分も後を追って外に出て鍵が掛かるのを確認してから宿を出る。


昨日は色々と寄り道をして冒険者ギルドまでたどり着いたので、ラナの先導に従って歩いて行く。


歩きながら街の様子を伺ってみると、昨日よりも空気が僅かにピリッとしており、その様子から都市全体に既に"前触れ"が出たという情報は知れ渡っているということは容易に想像できた。


それを見て隣を歩くペグに小声で、


「これがあの責任者のカルカタが言ってた都市の雰囲気ってやつか?」

「やろな。えらい真に迫った感じやな。正直お前の関わってるラナちゃんの件といい、なかなかゲームって言うにはポップさがいまいち足りんな。」

「確かに。」

「次のイベントはもうちょいポップな感じにしてほしいな。まあまたここの運営やったら何かしらの意図があっての事のような気がすんねんけど。」

「意図?」

「うん。まあ根拠も何もないただの勘やけど。」

「へえ。」


確かにそう言われると何かしらの運営の意図が込められているようにも感じるが、とりあえず今はこのイベントを無事に乗り越える事が先決だろう。


というわけで1つ気合を入れ直していると、いつの間にか周りが見覚えのある景色になっており、


「到着。」


冒険者ギルドまでたどり着いていたようだ。


その冒険者ギルドの中からは多くの人が話している時の雑多な音が漏れ出してきており、その音の大きさから考えても中にいる者はそれ相応に多いことが分かった。


「っペグ!ラナが我が物顔で中に入って行った!」

「なっ!マジかい!俺らも入ろ。」


男2人、取り残されたことに気がつき情けなく慌てて中に入っていく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ローニッツ都市の一番高い建物の最上階。


そこにはこのゲームの運営の代表者の大澤大吾ことカルカタと数名の男女がおり、それぞれ空中に浮かべたウィンドウを見て何かしらの操作をしていた。


そしてカルカタは1通りの作業を終わらせ、その建物の窓からローニッツ都市を見下ろすと、いつもの彼らしさはどこへ行ったのか真面目な顔で、


「さあ、プレイヤー諸君。私は君たちを信用している。今回のイベントが酷なものだとは十分に理解している。しかし君たちには是非ともこのイベントを通じてこの世界の住民を自分たちとは変わらない生きている人間として扱ってくれ。それが私の、いや私たちの望みだ。偏見も特別扱いもいらない。ただ隣人として見てほしい。そうすればいつかこの世界は楽園となる。」


カルカタはそう言い切ると静かに屈託の無い笑顔を見せた。


その彼の後ろ姿をウィンドウを弄っていた者達も顔を上げてカルカタを見て静かに笑った。


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もう一つの連載作 テーマは邪道の王道。
「真実は迷宮の中」
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