30話 報告
「...もう1度言ってくれるかな?Bランク冒険者のラナさん?」
とゆっくりと冷静にもう一度聞き返すバジル。
すると、"兎人族"の彼女はもう一度深呼吸をしてから言った。
「"モンスター・カーニバル"の...発生です。」
ギリッ。
と彼女は歯をきしませ、悔しいや悲しいとも表現出来ないような表情で、それでいながら多分の怒気が含まれていた声で絞り出すように言った。
「...そうなんだね。1から状況を説明して欲しい。君には悪いけど感傷に浸らせてあげる余裕は無い。」
とキッパリと断定してバジルは告げた。
「はい...分かっています。」
と彼女は怒気はそのままに肯定した。。
「さて、説明してもらう前に君はどうするリート君?聞いていくかい?」
と問い掛けてくるバジルにリートは、
「聞かせていただけるのであれば。」
と言った。
すると、
「わかった。聞いていくといいよ。それではラナ、説明して欲しい。」
バジルがそう言うとラナは頷き、説明を開始した。
「私は今朝から南の山に6人パーティーを組んで入りました。クエストはワルトの討伐。そして私達はワルトを捜索しましたが、山から異音が聞こえてきたためその原因を探ることに目的を切り替えました。そして、一つ山を越えた所にある谷底に得体の知れない魔物を発見しました。」
ワルトは岩に隠れて近くを通った生物を襲い、生きたまま頭から丸かじりしていく残虐性をもった大猿である。
「得体の知れない魔物かい?」
「はい。我々のパーティーの最高ランクのAランク冒険者も含めて誰も知らない魔物でした。」
「Aランクでもかい?」
Aランク冒険者ともなると魔物の知識は下手な学校の講師よりも造詣が深い。
Aランクともなると『知らない』が死に直結することが分かっているからである。
そんなAランク冒険者が知らないとなると、
「新種か変異種かな。」
「拳で岩を粉々に砕いていた事が異音の原因でした。その拳の強烈な威力や独特のフォルムからマンティス・シュリンプの変異種と我々は推論を立てました。」
「普段は海に棲んでいるとかいうやつか。」
「そうだね。マンティス・シュリンプはAランクながら厳戒指定種だ。彼らがいる海域には即座に強力な冒険者が集められて討伐を行うのが対処法だからね。その討伐にSSランク冒険者が駆り出されることも少なくないよ。」
推論を聞いたリートはマンティス・シュリンプの朧気な記憶を思い出して呟くと、バジルは詳細な説明をしてくれた。
「続けます。その姿を捉えた我々は即座に離脱することを決め、山を降り始めました。そして、一つ目の山の中腹辺りで奴らに出逢いました。」
ギリッ。
『奴ら』の姿を思い出したのか、怒りと悲しみで肩が揺れているラナ。
その様子を見て次の言葉を待つ2人。
すると、ゆっくりと口を開いた。
「マンティスです。キラー・マンティス。奴等が突然上空から降って来る最中にまず2人の首を撥ねました。そしてその突然の出来事で動けなくなった着地した奴等にまた1人の首が落ちました。1匹のマンティスに3人殺されました。その様子を見て残りの3人で全力で攻撃を叩き込みそいつを殺しました。そして彼らの冒険者カードを回収すると走り出し、山の麓まで辿り着くとそこには夥しい数のキラー・マンティスがいました。辺り一面がキラー・マンティスばかりという状況で我々の全員の帰還は望めないと判断し、一番足の速い私を2人が庇って死んでいきました。」
肩を震わせ、先程から目からは涙が溢れ頬を伝い次々と流れ出していた。
リートとバジルは何も言えずただ彼女の言葉を待った。
「私もキラー・マンティスの鎌に腹を貫かれましたが...、さ、最後のち、力を振り絞った1人が...魔力暴走を起こして......。」
ついに下を向き言葉が紡げなくなった。
きつく握る手からは爪が食い込み、血がぽたぽたと流れ出ていた。
魔力暴走は魔法を使う者の最後の手段である。
要するに自爆。
習得している魔法の種類や数によって威力は異なるが、魔法攻撃力が直接ない付与魔法使いの魔力暴走でさえ半径200mのクレーターを作るほどである。
そして魔力暴走には意思が強く反映されて、任意の敵だけを消し飛ばすということが可能だ。
また、プレイヤーには使えない。
おそらくそれを使ってラナを救ったのだろう。そいつは。
異常事態の知らせを都市の皆に伝える役目を託して。
自分の命を武器に変えて。
そいつは守りたかったんだろう。このローニッツを。
「事情は分かった。ありがとう。君の仲間達が君に託したモノ。確かにこの私、ローニッツ都市の冒険者ギルドマスター、バジル・ワードルが受け取った。」
と立ち上がり深々とラナ、いやラナに託して逝った仲間達にも向けて頭を下げ、感謝の言葉を述べた。
「......。託しましたよ。ギルドマスター。」
バタッ。
それだけいうとふらりと体を揺らし倒れた。
リートは急いで彼女の元に駆け寄り、脈を確認した。
トクン。トクン。
心臓は動いていた。
恐らく緊張が切れて気を失ったのであろう。
伝えたかった事を伝えて倒れた彼女の顔には達成感や安心感などの色は一切見えず、悔しさや悲しみ、そして怒りの色だけが表に出ていた。
彼女の手はまだ強く握られたまま、血は今なお流れ続けている。
その表情を見てリートはやるせなさを感じていた。
魔物と戦って死ぬことは珍しくないが、仲間に生かされて残された者の気持ちは想像を絶するようなものであるのだろうと思ったからだ。
リートは彼女の強く握られたままの手を優しく解し、[治癒魔法]で傷口を塞いだ。
「大変な事になったよ。けど僕達に託して死んで行った者達を無駄死だなんて絶対に言わせてやらないよ。」
バジルはそう言って前を見た。
口に出してその思いを強くして。
「託されたものは大きいです。ですが託された以上はやるしかないですね。」
とリートも前を見た。
逝った者達に宣言するように。
「「彼ら勇敢なる者に安らぎを。」」
と2人は目を瞑り、手を合わせ祈った。
神にではなく、彼らに。
彼らの次がきっといいものであるようにと。
そうして暫く黙祷を捧げた後、
「さて、僕は動くよ。君はどうする?リート君。」
「私に出来ることを精一杯やりますよっと。」
と言葉を交わし、リートはラナを抱き抱えた。
「バジルさん。この恩ある方はどうしますか?」
「リート君。君に頼んでもいいかな?彼女は恐らく"モンスター・カーニバル"が始まったら一直線に群れに突撃して死ぬ。確実にね。」
「でしょうね。意識が無いのにまた手がきつく握られつつある。」
ラナの無意識のうちに握られつつある手を見て言ったリート。
「相当悔しかったんだろうね。」
「でしょうね。」
「「......。」」
「分かりました。私が見ます。」
「ありがとうね。僕はこれから会議を開いて対策を練るよ。恐らく冒険者だけでなく戦闘力がある者達は全て駆り出される壁を利用した防衛戦になるだろう。厳しい戦いになるね。」
とバジルは言った。
「だとしても、俺達はやるしかない。でしょう?」
「そうだね。じゃないとローニッツは崩壊する。リート君、健闘を祈るよ」
「バジルさんも。」
とお互いの無事を祈ってリートとバジルは別れた。




