29話 手当
血溜りにうつ伏せで沈む女性を周りにいる者達は大騒ぎをするだけで誰1人行動を起こすものはいなかった。
ちっ、どうしてどいつも動かないんだ!あのままじゃ死ぬぞ!
「すみません!通して下さい!私は[治癒魔法]が使えます!」
と声を張り上げて集まっている者達を押しのけながらその女性の近くまで寄って行くリート。
その声を聞いた者達はゆっくりと道を空け、近くまで来た時には綺麗に人垣が割れていた。
女性の近くまで来て屈んで[アイテム]から杖を取り出した。
そして、
「ご協力ありがとうございます!
かの者を癒せ『ヒール』
」
と杖を女性に向け発動させた。
彼女の体が光に包まれるが、血はまだ止まらない。
リートは[アイテム]から清潔な布を取り出して患部に力強く押し当てながらもう一度、
「かの者を癒せ『ヒール』」
発動させた。
しかしじんわりと布に血が滲み続けている。
『ヒール』じゃ間に合わない!
それなら、
「かの者に救いの手を『ミドル・ヒール』」
『ミドル・ヒール』を傷口に向けて発動させると布の血の滲みの面積はそれ以上広がらなくなった。
そしてリートはさらに、
「かの者に強靭な活力を『エンチャント・エネルギー』」
と[付与魔法]のスキルの一つでHP,MPの最大値を増加させる効果がある魔法を使う。
ちなみにこの魔法は最大値だけを増やす魔法ではなく、HP,MPそのものを増やす魔法である。
つまり残りHPが3割の者にこの魔法を使うと、最大HPの3割がその者の残りHPとなる。
だからリートはこの方法を使って生命力を底上げしようと考えたのだ。
またリートが使う[治癒魔法]では失った血液まで生成できるものではないため、このような方法をとるしかなかった。
そしてリートは失った血液の回復方法として"造血剤"を所持しておりそれを女性に飲ませた。
この"造血剤"は流石ファンタジーといった代物で、飲ませた者の血液を複製し文字通り即座に血を造り出すのだ。
その薬のお陰か血の気が顔に戻り始め、下がっていた体温も少しづつ上がり始めてきたのを確認すると、リートは一つ息をついた。
これで峠は越えたというような表情である。
その1連の流れを見ていた者達もまた息を付いていた。
そしてリートは周りの者達に、
「誰かこの女性の事情を知るものはいませんか?」
と呼びかけ周りにいる者達に目を向けた。
その目を受けると皆目を背け、誰ひとりとして答える者はいなかった。
その様子からこの女性は一目散に冒険者ギルドを目指して来たのではないかという推論をリートは立てた。
そして周りの者達に、
「この女性は冒険者ギルドを目指してきた様子に見えるので、中に運び入れます。なにかご意見のある方はいらっしゃいますか?」
といって周りに問いかけても何も答えが帰ってこないので、女性の膝裏と肩に手を差し込んでお姫様抱っこで中へと運び入れた。
そして冒険者ギルド内部から外の騒ぎを気にしていた者達は女性を運ぶリートを見て、騒ぎの原因は十中八九こいつらだと確信を持って目を向けた。
リートはそんな者達の視線に構わずまっすぐと受付まで近づき、
「彼女はこのギルドの前に彼女自身の血でまみれて倒れていたので[治癒魔法]と"造血剤"を使って手当をしておきました。目を覚ましていないので何も事情は聞けていないのですが、彼女を安静に寝かせておいてやることのできる場所はありませんか?」
と受付嬢に問いかけた。
すると受付嬢はしどろもどろになって使い物にならなかったので、隣の男性の受付をしていたものに同じことを説明すると、
「わかりました。そのような場所がありますので案内します。すまないが受付を変わってくれ!俺はこの人たちを安静室へ案内してくる!...それではこちらです。」
と奥で何かしらの作業をしていた職員にそう声をかけてからリート達を安静室とやらに案内した。
安静室はベットが4床置いてあるだけの殺風景なものであった。
リート達がその部屋に案内された時には誰もおらず、適当なベットに彼女を横たわらせた。
そして案内してくれた男性は、
「私が彼女を見ておきますのでお手数かとは思われますが、もう一度受付まで行って私の上司のバジルに詳細な説明をしていただいてもよろしいですか?」
と申し訳なさそうな表情でお願いしてくるので、了承してもう一度来た道を通り受付まで戻ってきた。
そして適当な職員に話しかけてバジルさんに会わせて欲しいと頼むとさっきの出来事を見ていたらしく、二つ返事で奥に呼びに行ってくれた。
数分後に呼び出しを頼んだ職員が戻ってきてついてきて欲しいというので、案内に従ってあとをついていくと趣向を凝らした立派なドアがあった。
そして職員はドアを3回ノックした。
するとドアの向こうからどうぞという声が聞こえてきたので、失礼しますと言って中へと入った。
部屋の奥の椅子には線の細い儚げに見える美少年が座っていた。
そして職員が口を開こうとすると、美少年は、
「大体のことは把握しているからあとは僕に任せて仕事に戻って。あとその彼女の情報をまとめて持ってきて。」
といった。
すると職員はその美少年とリートに一礼してドアを閉めて出ていった。
そして、
「やあはじめまして。僕が君のお探しのバジルだよ。この冒険者ギルドのギルドマスターをしているよ。君は?」
と笑顔でそう尋ねてくるので、
「私はリートと申します。冒険者ランクはDです。」
とリートは返した。
冒険者ランクとは文字通り冒険者を実力でランク分けしたものである。ランクはF〜SSまででDで1人前といったところだ。もちろんSSなんていうランクの奴らは全員頭のおかしい戦闘力をしているらしい。現在で12名らしいがほぼ長命種族なんだとか。
閑話休題。
「リート君だね。それでは君の事情を聞かせてもらえるかい?」
と言われたのでリートは説明を始めた。
「はい。この都市をウロウロしているとこの冒険者ギルドの前に人だかりがあって・・・」
とリートは説明を始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「・・・ということです。」
と1通り説明を終えた。
するとバジルは顎に手を添え思案顔になって質問をしてきた。
「血まみれといったけどどれ位の出血量だった?」
「血溜まりができるくらいですね。あと彼女が歩いてきたと思われるところには血で線が出来ていたくらいですのでかなりの出血量かと。あと・・・」
「なんだい?」
「その血なのですが、魔物の返り血はもちろんついていたのですが後頭部には魔物とは違う血がついていました。」
「?自分の血じゃないのかい?」
「恐らく違います。彼女はうつ伏せで倒れていましたし、血の付き方も誰かが触って付いたものには見えませんでした。これは想像ですが、背を向けて走り出した彼女を誰かが庇った時に付着したものではないかと。」
「つまり君は彼女がなにかから逃げてきたと言いたいのk」
コンコン。
「失礼します。こちらが彼女の資料です。」
といってさっきの案内してくれた職員の人が入ってきて1枚の紙をバジルに渡した。
「ありがとう。そうかわかったよ。ありがとう、下がっていいよ。」
というと職員はすぐに部屋を出て行った。
「話の途中だったね。今持ってきてくれた資料によると彼女はBランクで平均ランクBのパーティーで今朝討伐依頼に出たそうだ。つまり君の推論を踏まえると、Bランクでも対処できない魔物に襲われた可能性も考えられるね。あまり考えたくない話だね。」
「同感です。」
「いい情報をありがとう。これから対策を取ることにするよ。他に気になる点は?」
「それはd バンッ!「も、"モンスター・カーニバル"です!」」
と話を遮ってドアを突き破るような勢いで開けた"兎人族"の女性が現れた。
凶報はついにローニッツ都市に齎された。




