28話 散策
「それじゃあここら辺で失礼するニャ。ごゆっくりニャ〜。」
「ああ、またな。」
「おう。」
と言ってミンクは二人を残して部屋を出ていった。
「ところでこれからどないする?」
「俺は都市をあっちこっち見て回ることにする。」
「そうかいな。俺も色々見て回ろう思うけど、先に壁の外の地形やらなんやら見てくるわ。」
「そうか。ここからは別行動か。ペグ、後で外の様子を教えてくれないか?」
「ええで。ほなリートは中の様子頼むで?」
「ああ、分かった。」
「ほな行こか。」
「ああ。」
といって二人一緒に部屋から出る。
そして、魔術エレベーターを起動し1階まで降りて外へ出る。
「どこで情報交換する?」
「俺らのどっちかの部屋でええやろ。」
「それじゃあ、先に帰っていた方の部屋にしようか。帰ってきたら受付で伝言を頼んでおこう。」
「賛成や。ほな時間はどないする?あと、飯も。」
「時間は門が確か8時に閉まるはずだからそれくらいを目安にしておこうか。飯は俺が適当に見繕っておこうか?」
「了解や。飯頼むな。特に苦手なもんもあらへんし、任せるわ。あ、けどこの都市の名物的なんを1品くらい欲しいな。頼めるか?」
「頼まれた。まあ任せてくれ。」
と言っている間に宿を守るような門から外にでた。
門番のフトとフツの会釈に軽く一礼を返しておいた。
「こっからやと東の双子門が近いな。そっから出てくわ。昼飯は適当に済ますか。」
「もうそんな時間か。俺も何か食べておこう。」
「ほな行くわ。報告待っとるで。」
「よろしくな。情報収集は任せとけ。」
現在時刻は12:15。
ここでリートとペグは一旦別れた。
"モンスター・カーニバル"まであと3時間足らず。
異変は既に噂となって都市中に流れ始めていた。
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リートの姿は"東区画"のあるよろずやにあった。
そこでリートは、
「店主、防寒具を売ってくれ。」
と店主のナイスミドルの男性に言った。
ここローニッツ都市はWSOの世界の北の方に位置しており結構寒い。
この都市に住む者達は外に出る時は防寒具を十分に装備している。
その備えがないととてもじゃないが長時間外に居ることは出来ない。
そのため服や防具などを扱う店にはほぼ確実に防寒具が置いてあるのであった。
「あいよ。どんなのが欲しい?種類としてはコートやマフラーと言ったものがあるが、あんたは外套を着ているからな。となると魔術具がいいか?えーっと、確かこの辺にしまっておいたっと、あったあった。」
といって、カウンターの下から取り出した木箱の中には、ネックレスタイプや腕輪タイプにバックルタイプなどといった種類のものが多く詰められていた。
「さぁ、手に取って好きなのを選んでくれ。」
と言われたのでリートは手に取って色々試してみる。
そのあいだに店主は魔術具の説明をしていく。
「まぁ試しながら聞いてくんな。その魔術具は防寒用の魔術が掛けられている。魔術具を使う長所は単純に動きを阻害しない事だな。コートを着て戦うよりも戦いやすいだろ?短所は魔力の補給が必要だ。目安として1日に1度の補給だな。専用の魔術具で魔力を注ぐ必要があるから気を付けろ。まあ最近はどこにでも補充用の魔術具は置かれてあるからすぐに補充できるとは思うがな。あんたは冒険者に見えるから戦闘用にと思って魔術具を勧めたが、普段使いの防寒具が必要なら服屋が外套の中でも着れるようになっているやつを売っているからそこで買いな。」
と説明しているのを聞きながら、指輪タイプなどを試していった。
そして最終的に、
「これに決めた。店主、これくれ。」
といってリートが選んだのはブレスレットタイプのものだった。
「これでいいのか?」
「ああ。」
「250セルだ。あと、魔力の補給は1回20セルだ。」
という店主に[ステータス]から250セルを取り出して支払った。
「確かに250セル受け取った。またなにかあったら来い。」
「ああ。」
と言って少しばかり世間話をした後店をでて、昼飯を食べるため屋台を巡った。
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結局昼飯は、ナルという近くの湖で獲れる魚をマリネしたものに玉ねぎやレタスなどをパンで挟んだ手軽に食べられるようになったもので済ませた。
ガーリックが効いていて美味しかった。
そして、その後露店街を巡っているといくつかの噂を耳にした。
その内容は、
「東の森がいつもより静かである。」
「西の川には魚の死骸が何十匹と浮かんでいた。」
「南の山では何かがぶつかるような音が響いてきた。」
「北の平野では地鳴りがしている。」
「商人隊や旅人達が今日はあまり入って来ない。」
と言ったような噂のものであった。
ちなみにその中に、セントラルパークから明らかに入った人数よりも出た人数の方が多いというものもあった。
プレイヤー、早速死に戻ってるな。
とまあ、このような噂が錯綜し、話のネタになっていた。
どうやら既にいつもと違うということは何となく伝わっている様である。
しかし、特に焦っているような者も見受けられなかった。
リートはその様子から、一種の危うさを感じていた。
即ち、都市に住む者達の危機感が余りにも希薄であるという状況にだ。
明らかに異常事態だと断定できるような噂が飛び交っているのに街の人々からは焦りの色は見えない。
これだけなら異常事態に慣れているのかという推論も成り立つのだが、道行く人に話を聞くとこの都市は1度も魔物の襲撃を受けたことがなかったらしい。
つまり、"モンスター・カーニバル"という名前は知っているが、結局他人事だと捉えられているようで自分たちには関係の無いことだと思っている者がほとんどだということらしい。
(これは思った以上に壁の中が荒れるかもしれないな。少なくとも恐慌に陥る者達が大量に出るだろう。いや、これは一部の者による暴徒化も起きうるかもしれない。となるとこの都市の上層部がどれほどまでの力を持っているかが鍵になるな。上層部が期待出来ないのであれば俺たちプレイヤーの出番になるかな。)
などと周りの様子から判断して頭の中で考えを巡らせているリート。
そして、懸案点の都市の上層部の評判についての情報を集めていると驚くべきことがわかった。
"西区画"と"東区画"は緊急時に連携を取るための機関が無いという事だ。
というのも"西区画"に住む者達は"西区画"の上層部の指示に従って行動し、"東区画"に住む者達は"東区画"の上層部の指示に従って行動するらしい。
はっきり言って頭が悪い。
そのせいで一々"東区画"と"西区画"の考えをまとめた使者が行ったり来たりして対応に遅れが出る。
どうやらこの都市の上層部の者達は緊急時というものが無かったために、そういった機関の設置をしていなかったらしい。
つまり、
(うわぁ、これ不味いな。混乱を収める役が必要になる。まあ悪い人達じゃないみたいだからそういう機関の設置も実行されるだろうけど、それまでのまとめ役が必要になるだろうな。はぁ〜、運営性悪過ぎないか?)
そういうことらしい。
そんなことを考えながら歩いていると、冒険者ギルド前に人だかりが出来ているのが見えてきた。
何事かと思って近付いてみるとそこには酷い怪我を負った'兎人族'の女性が血溜まりに倒れていた。
現在時刻は15:00。
異変は起きた。




