2話 アビリティ
「着きましたよ。リート。」
ちょっと待ってください。何であなたそんなに余裕なんですか。なんか視界がぐにゃんってなったかと思えばどっちが上でどっちが下かも分からないような感じで更になんだか肌にまとわりつくような感覚もあったし!なんだありゃ!スゲェ気持ち悪かったのになんでそんなにピンピンしているんですか?やっぱり慣れてるんですか?
と思ったら色白で綺麗なスラリとした足がじっと見なければわからないほど震えてた。
...あなたも平気ではなかったのですね。
「リート!ほら見てください!これがWSOですよ!」
揺すらないでリリエル!出る!出ちゃいますから!あれ?そういえばVRでも出ちゃうものは出ちゃうのかな?あー、自分で検証するハメになりそうだ。
「リリ、エル...。ちょっと、タンマ。分かったか、ら、揺らさないで、くれ。」
「あっ!すみません。でも見てくださいよリート。この景色を見ればそんなものどこかへ飛んでいってしまいますから!」
「景、色?」
そういえばまだ俺リリエルの美脚しか見てねぇ。にしても綺麗だな、リリエルの足。余は満足である。
っと、景色か。まあ、綺麗なんだろうよ。
「っ!!」
息を呑んだ。
余りにも美しかった。
『この光景は言葉にできないです!』なんてテレビではよく言っているけど、その意味がわかる気がする。
ああ、言葉にできないって言うのはこういうことなんだ。
吸い込まれそうなくらい蒼い空。
どこまでも広がっているような緑の大地。
遠くに見える大きな大きな不動の大山。
耳を澄ませば風に揺られる草木が心地よいメロディを奏で、歌い上げるような鳥のさえずり。
肌を撫でる風が気持ちいい。
仄かに薫る土の香り。
なんだか空気が美味しいような気もする。
「はぁ〜。」
不意に漏れる吐息。
それには満足感であったり、今までこういった自然に出会えなかった不満といった感情が含まれていた。
「リリエル。これは見事だな。感動した。」
気が付けばリリエルに話しかけていた。
「ええ。リート。これがWSOです。どうです?お気に召しましたか?」
と微笑みながら聞いてくるリリアン。
一瞬見惚れてしまい、なんだか恥ずかしくなり顔を逸らした。
「ああ。これは一生忘れないな。」
「そうですか。そうでしょう。」
そう言ってリリエルはまた微笑んだ。
そうして、和やかな時間が流れる。
《 Welcome to WSO!! 》
突然響いた声にざわつく周囲。
あっ、プレイヤー周りにいたんだ。気が付かなかったな。
《さてさて、この場にお集まりの皆様。改めましてようこそWSOの世界へ!私はWSO運営代表の大澤大吾。こっちではカルカタという名前を使っている。え?どこにいる?姿が見えないぞ?って?ああ、すまない。忘れていた。それでは皆様上を向いてください。》
どこが抜けているような声で上を向くように要請した。
上を見ろ?あれか?3Dホログラムか!
一回見てみたかったんだよな〜。なんだか凄そうだ。
《あー、テステス。映ってる?あ、遠い?ごめんごめん。これくらいでどう?丁度いい大きさになってる?なってるか。良かった良かった。それじゃあ改めましてカルカタだ。》
くそぅ!3Dホログラムじゃなかった!期待してたのに!大きなウィンドウを開いて映像を流すタイプか!
《・・・なんだかよく分からないけど項垂れてる人がいるけど進めるよ?さぁ、皆様。これから気になっているであろう[アビリティ]について説明するよ。》
所々から歓声が上がる。
[アビリティ]の説明か。聞いておこう。
項垂れていた体勢を戻し、立ち上がって話を聞く。
《ホームページにも動画を上げていたからどういったものかは分かってもらえてるかもしれないが、実際に見てもらおうと思う。まずは[魔法アビリティ]からだね。》
そう言って杖を構えるカルカタ。
そして、
《まずは[火魔法]を選択した時点で発動可能となる『ファイヤー・バレット』だよ。
「我が敵を穿て『ファイヤー・バレット』」》
杖からの火の弾丸が出来上がり、目にも止まらぬ速さで飛んでいく。
これが魔法か....。物凄く心が惹かれるものがあるな。うん。
魔法が実際に使えるようになるという期待からかさっきから歓声がとまらない。
《今のが[火魔法]だよ。これは攻撃魔法に分類されている。他には[水魔法][土魔法][風魔法]といったような魔法がある。更に[火魔法]の上位アビリティの[炎魔法]や、複合魔法の[雷魔法]もある。まあ、今挙げたのも1例だね。他にもいろいろあるけど自分で調べてよ。あと、攻撃魔法の他に補助魔法があるけど、これはあまりデモンストレーションに向いてないから実演は止めておくよ。[治癒魔法]や[付与魔法][生活魔法][幻惑魔法]と言ったものがある。ちなみに攻撃魔法にも少しは補助魔法のような魔法もあるし、補助魔法にも攻撃魔法みたいなものもあるけど、さすがに攻撃魔法の中の補助魔法は同じような効果の補助魔法よりも弱い効果しかでないけどね。まあ、あったら嬉しい魔法程度に考えて。》
へぇ。なかなか面白いな。
《それじゃあ、次。[武術アビリティ]だ。これは体を使ったアビリティで例えば[剣術]を取れば、剣を使ったアビリティが発動出来るだけでなく、剣を扱った時にシステム的に補正が付く。ちなみにこの補正は切ることも出来るから。元から剣を扱える人は煩わしく感じるかも知れないからね。他には[槍術][棍棒術][鞭術]といったものがある。他にもあるけどさっきと同様自分で調べてね。》
補正か。扱ったことない武器も使えるようになりそうだな。
《つぎに[補助アビリティ]だね。例えば[高速詠唱]を取れば[魔法アビリティ]の発動時間が短くなったり、[型]を取れば[武術アビリティ]の[剣術]のスキル同士を繋げて硬直時間を無くしてスムーズにスキルを発動できたりするようになる。これも実演は止めておくよ。皆様にはアビリティをじっくりと悩んで決めて欲しいからね。》
色々あるんだな。これは悩むな。
《つぎにお待たせ生産職希望の皆様。[生産アビリティ]の紹介だ。一応アビリティがなくても生産はできるけど、どれほど頑張ってもレア度4までのものしか作れない。しかし、[生産アビリティ]を取ればレア度をどんどん高めて行くことが出来る。また、材料の採取も[生産アビリティ]のレベルが高いものほど、レア度の高い材料を取ることが出来るようになっている。[鍛冶][細工][裁縫]などがある。ちなみにゲーム開始後でも各工房の親方に弟子入りするとアビリティは所得できるけど時間がかかるから生産職を視野に入れているはここで先にとっておくことをオススメするよ。あと、言うのを忘れてたけど、後天的にアビリティ所得は然るべき方法で可能だけど、[生産アビリティ]だけは所得できないので、最初の選択で[生産アビリティ]を所得しなかったら弟子入りしかないからね。》
なるほど、あとから[生産アビリティ]以外は取ることは出来るのか。
《そして最後に、[パッシブアビリティ]だね。これは常時発動することが出来るアビリティで比較的アビリティレベルは上がりやすいよ。[〇〇耐性]といったものはこれに当たる。他には[〇〇増加]といった、ステータスの数値に関わるものもこれに当たるね。これは控えに入れてもその効果は発動するけど、アビリティレベルは上がらないから気を付けて。とこんなものかな。まぁ、分からないことがあったら隣にいるサポートAIの面々に質問して答えてもらってね。それじゃあ説明終わり。あとは皆様が楽しく、そして、己の道を歩んでいって欲しい。それではまた、イベントなどの時はまたこういった形で皆様に会うことになるだろうね。その時までさようならだ。是非とも楽しんでくれ!》
そして、ウィンドウが閉じ、カルカタの姿が消えて、ただただ蒼い空だけが残った。
アビリティか。なかなか悩ましいな。リリエルにいろいろ聞いて決めるか。
「リート。アビリティの説明はご理解頂けましたか?分からないことがあればお答えしますけど。」
「ああ。大体は理解した。それじゃあ、これからアビリティを決めていくから相談に乗ってくれるか?」
というか相談しないと決めきれない気がする。
「はい。何でもご相談ください!」
《 ごめんごめん。忘れてた。私達WSO運営の人間も遊んでいるから縁があれば共に遊ぼう。もちろん、運営にしか使えない武器を使ったりはしないけどね。まあ、ポーションをお裾分けすることもあるかもしれないけどね。それじゃあ、改めてまた会えることを願ってるよ。》
...運営の人間も遊ぶんだ。一緒に遊んでみたいな。
リート君のスキルは次の話でやっと決まります。
こぼれ話 カルカタ
「ふう、人前は緊張するね。」
「そうですね。緊張して3Dホログラムで登場する予定のところを普通にテレビ電話みたいになってましたもんね。」
「....そういえばそんな予定だったね。」
「ええ。『ファイヤー・バレット』見切れてましたよ。」
...。
......。
「......。ごめんね。次からは気を付けるよ。」
「ほんと次は気を付けて下さいね。」