22話 鍛治師
スミナがロッソ商会の会頭と判明してから数十分後。
スミナとリートの姿は北区画にあるこじんまりとした1軒の建物の前にあった。
「ここです。」
「ここにスミナ会頭が懇意にされている鍛治師の方がいらっしゃるのですか?」
「ええ、そうですわ。あと、今まで通りの呼び方でお願いします。それに敬語はやめてください。」
「宜しいので?」
「はい。」
「なら、お言葉に甘えさせてもらうとするか。スミナさんも角張った話し方じゃなくいいけど?」
「そうね。そうさせてもらうわ。」
「おう。にしても鍛治師ってのはどんな方なんだ?」
「そうね。豪快な方...かな?」
「なんとなくわかった気がする。」
なんとなく俺のイメージ通りな鍛治師な気がしてきた。
「いつまでもここにいる訳にも行かないし、入ろっか。」
「了解。」
と店内へ足を進めるスミナに追従していくリート。
店内に入ると、剣や槍、鎧や包丁といったような物が壁や棚に所狭しと並べてある光景が広がっていた。
スミナは店に入ると、店の奥に向かって声を上げた。
「"ロッソ商会"より参りましたスミナです。誰かいらっしゃいますか?」
すると、
「なんだぁ!って、バークん所のガキか、それも男なんか連れて。一体何の用だ?」
と店の奥から身長が小さくて、濡羽色でクセの強い短い髪の女性が出てきた。
「ジルさん、こんにちは。この人はリート君と言って私の友人です。今日は彼に鍛治師を紹介してくれと頼まれて連れてきました。」
とリートを手で指し示しながら紹介するスミナ。
「リート君。こちらは"ロッソ商会"と私生活の公私共にお世話になっている鍛治師のジルさんです。」
と鍛冶師の女性-ジル-を手で指し示して紹介するスミナ。
「初めまして、ジルさん。スミナさんに紹介していただきましたリートです。よろしくお願いします。」
といって、手を差し出すリート。
「ふん、そうか。俺はジルだ。」
というジル。
行き場を無くした差し出していた手を引っ込めてリートは、
「ジルさん、お願いしたいことがあります。私に「お断りだ。」え?」
「お断りだと言った。」
「まだ何も言って「どうせ武器や防具を打ってくれって話だろ?だから返事はお断りだ。」......。」
要求を口に出す前に断られたリート。
あれ?この人思った以上に取り付く島がないぞ?
想像通りの鍛治師って感じだな。まあ、性別は想定外だったけど。
「どうしてもですか?」
「ああ。」
「そうですか。意志は変わりませんか?」
「変わらないな。」
「どうしてですか?」
「お前には打ちたいと俺が思えるような魅力がない。」
「魅力ですか。」
「ああ。」
「困りました。」
「知らねぇよ。俺は打たねぇ。」
「そうですか。と言って引き下がる訳にも行かないのですよね。」
「なんでだ?」
「私はあなたに打って欲しいという魅力を感じているからです。」
「よく言うぜ。」
「そうですか?初めて言ったのですが?」
「なんかムカつくな?」
「申し訳ありません。ですが、魅力を感じているということに嘘はありませんよ。」
「何処に魅力を感じたってんだ?」
「そうですね。店で使っているのと同じだからですかね。」
「店?」
「はい。私は"灯"で働いているのですが、そこで使っている包丁やボウル、フライパンといった物たちと同じ匂いがします。」
「"灯"って事はアンネか。確かにあいつん所のもんは俺が作ってるが、『同じ匂い』ってなんだ?」
「そうですね。使い手のことを考えて作られてあるって事でしょうか。数打ちの品ではなく一つ一つ丁寧に作り上げられた物という事がこの飾られた品々からも感じられます。店で使っているものと同じように。」
「......。」
「それにこの飾られている品々に、銘が無いのもそういった理由なのでは?」
「......。はぁ、正解だ。」
「恐縮です。」
「にしてもアンネんとこで働くってお前何した?場合によっちゃ潰すぞ?」
と何処からか取り出した彼女と同じくらいの大きさの金槌を肩に担いで、今すぐにでも振り下ろさんとばかりに構えているジル。
その姿に恐怖し、慌ててアンネの店で働くことになった経緯を駆け足気味に語ったリート。
それを聞いて、金槌を置き、
ドォオオオン!
......重すぎねぇ?
ジルは、
「事情はわかった。だが、アンネに聞いてそれが嘘だったらその時は分かるな?」
と言い、一度下ろした金槌をまた構えるジル。
それに慌てて何度も頷くリート。
「打つかどうかはアンネから話を聞いてから決める。それでいいか?」
「ええ。お願いします。」
「お願いって言われてもまだ打つと決めたわけじゃねぇ。」
「それでもお願いします。」
「はぁ、わかった。それじゃあ、3日後また来い。」
「分かりました。」
打たないから打つかもしれないに大きく変わった事で安心し、了承の意を示すリート。
「それじゃあ、俺は仕事に戻る。あとスミナ。」
「はい。」
「細工用の金属の精錬は終わった。また誰か寄越せ。」
「分かりました。今日中には寄越します。」
「ああ。」
「それではジルさん。私はここで失礼します。」
「ああ。」
「それでは私も失礼します。3日後伺います。」
「ああ。」
と言って二人揃って帰る旨を示した。
それにおざなりな返事を返して、見送るでもなく店の奥へと消えていった。
「出ようか。」
「はい。」
と店を出る。
「凄いねリート君。」
「何がだ?」
「お父さんは1ヵ月足繁く通ってやっとジルさんに打ってもらえたそうだよ。」
「そうなのか。けど俺にはアンネさんというジルさんの知り合いがいたから一考ぐらいはしてくれるって事だろ。」
「それでも凄いよ。」
「まぁ、アンネさんと知り合いで良かったって事だな。」
「そういうもの?」
「そういうものだ。」
「そう。所でリート君、この後用事はある?」
「特に決まった用事はないよ。アルバイトの時間まで図書館にでも行って時間を潰そうと思っていたところだ。」
「そう。それではお昼御飯ご一緒しない?」
「昼飯ね。確かにそんな時間か。」
現在時刻は12:20。
ちょうど昼飯時である。
「ええ。」
「それじゃあ、お誘いに乗らせていただきますよ、スミナさん。」
「そう。それじゃ私の行きつけのカフェでいい?」
「任せるよ。」
「それじゃこっちね。」
と言って歩き出したスミナ。
それを追うリート。
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「「ご馳走様でした。」」
と合掌する二人。
「いかがでした?」
「美味しかったよ。流石スミナさんのオススメだ。」
といって、紅茶を飲むリート。
食べたものはBLTサンドとポタージュスープのセットだ。
レタスのシャキシャキ感やトマトの瑞々しさがベーコンの脂身をくどくならないように流していく。
ポタージュスープは優しい味で、クルトンが浮かんでいてサクサクと心地の良い食感と音を演出していた。
そして、食後の紅茶を味わっているのが今という訳である。
「お口にあったようで何よりね。」
「美味しかったし、それにこんなカフェテラスで食べるなんて経験が無かったから新鮮で楽しいよ。ありがとう、スミナさん。」
「どういたしまして。ここ美味しい店だから色々な人に紹介してるの。」
「そうか。」
「リート君も美味しいお店紹介してくれたら嬉しいな。例えば"灯"とか?」
と微笑みながらも真剣な眼差しで見つめてくるスミナ。
「ああ。アンネさんに聞いておくよ。」
「ほんとにお願いね?」
「ああ。約束だ。」
「きっとよ?っと、そろそろ店に戻るわ。今日は楽しかったわリート君。また誘ってね?」
「そうか。こちらこそいろいろ助かった、また誘うよ。ここは支払いを持たせてくれ。美味しいお店を紹介してくれたらお礼だ。」
「そう?それじゃお言葉に甘えさせてもらうね。また会いましょうね。」
「ああ、また会いに行くよ。」
と手を振ってわかれる二人。
リートはスミナの姿が見えなくなるまで手を振り姿が人ごみにまぎれて見えなくなった後、少し冷めた紅茶を一気に飲み干した。
「さて、俺も行くか。」
と言って会計を済ませて歩き出すリート。
さて、そしてWSO最初のイベントはもうすぐ始まる。
次の話からやっとイベントです。
リートは武器や防具を作ってもらえたのか。
それもまたイベント編でお楽しみください。




