10話 お礼
「ところで、食べられないもの、苦手なもの、食べたいものはあるかい?作れるものなら作るけど。」
その質問に対して、
「俺はないな。おまかせで。」
「私もリートと同じですわ。」
と答えた。
「そうかい。それは作りがいがあるね。それじゃあ、あたし一押しの一品からだそうかね。ちょっと待ってな。」
といってとろ火で温め続けられている鍋の蓋を開ける。
するとたちまちえも言われぬ香りが鼻腔をくすぐる。
「はぁ。」
「ふぅ。」
2人揃って口から溜息が漏れる。
アンネはそんな2人の様子など気にせず、さっと2人分スープを器に注ぐ。
そうして、スプーンを添え2人の前に差し出す。
「お待たせ。これがうちの自慢のコンソメスープだよ。さぁ、食べな。」
器に注がれたコンソメスープは琥珀色に輝いた具は一切入っていないシンプル、言い方が悪ければ貧相なものであったが、それゆえにごまかしの一切効かない。こういったところにアンネさんの味への自信が窺える。
「「いただきます。」」
そういって、コンソメスープを一掬いし、口へと運ぶ。
「「!?」」
これが『旨さ』か!
琥珀色のスープの中には様々な材料の『旨さ』が溶け込んでいて、具が入っていないのに、1口食べると鮮明に何が入っているのがわかる。
「あんた。もうそれなくなってるよ。」
そして、気が付けばいつの間にやら中身のなくなった皿に虚空のスープを掬って飲もうとしていた。
「え!気が付かなかった!!」
「呆れたよ。まぁ、それだけ美味しく頂いてくれたってのは嬉しいけどね。」
「ああ。とても美味しかった。」
「ええ。今まで食べた中で1番でしたわ。」
そう満足げにいう俺とどこからか取り出したナプキンの端で口元を拭いて隠れてしまっているが隠しきれていないリリィの頬は確かに緩んでいるのが見えた。
「嬉しいねぇ。そういう顔を見たくて料理しているからね。それじゃあ、次は肉かね。っと、あくまでこれはコース料理じゃないからね。順番なんて考えてないからね。自慢の品々を出していくだけだからね。」
そういって、肉料理の準備に入るアンネ。
壁に埋め込められているような直方体の保管庫からとりだす。
そして、室温程度になるまで肉を置いてから、片栗粉をまぶして軽く叩き、素早く油の引いた鉄板にのせて、両面に焼き目をつけたあと、火を調節し、金属製の蓋を被せて少し待った。
そうして出来上がったお肉を切り分けて器に盛り、上から何かをかける。
そして、完成した料理を俺達の前に差し出した。
「さて、お待ちどうさま。冷めないうちに食べな。」
「「いただきます。」」
そうして1切れ口の中に入れると、肉本来の味が口の中に広がった。
塩味などは一切なく、ただ焼いただけなのにしっかり肉の味というものがあり、外はカリッと中にはギュッと肉汁が閉じ込められていて、噛めば噛むほど味が出てくる。
そして、さっき上からかけられた物が清涼感をあたえ、脂身が多い肉の脂っぽさを打ち消すことに成功している。
「これは美味しいな。上にかけられたものはレモンに紫蘇かな?」
「それに加えてごく微量の山椒かしら?」
「かな。後これ、多分デトックスウォーターじゃないかな?」
「デトックスウォーター?」
「ああ。野菜や果物をビンなんかに入れてそこに水を入れて置いておくと、その入れたものの味が水に移るんだよ。」
「知りませんでしたわ。」
「けど、どうしてここまで濃いものになっているのかはわからん。」
味の秘密に思考を巡らす。
「あんた達なかなか味がわかるじゃないか。まぁ、そのデトックスウォーターの秘訣は教えられないけどね。」
といってからから笑っている。
「ふぅ。満足……だな。」
「ええ、満足ですわ。」
そういう2人に、
「そうかい。まだいろいろ出そうと思ってたのにねぇ。」
といって残念そうにいうアンネ。
「いえいえ。十二分に食べたさ。」
「ええ。満足ですわ。」
と返す。
実際、あれほど美味しいものがまだまだ出てきたら確実に箸が止まらなくなる。
「残念だね。それじゃあ、デザートだけでも食べていきな。コーヒーと紅茶どっちがいい?」
といって最後の一品を勧められた。
「じゃあ、紅茶で。」
「それではそれだけ頂いてお暇致しましょうか?リート。私も紅茶でお願いしますわ。」
「ああ、そうだな。というわけでアンネさん、頼む。」
「はいよ。すぐ用意するから待ってな。」
そうして、あらかじめ温めておいた2組のティーセットを取り出し手馴れた様子で準備していく。
沸騰したお湯を勢いよく注ぎ、じっくりと蒸らす。
蒸らしている間に、冷蔵庫らしきところからケーキを取り出し、切り分ける。
そして、3分程度蒸らした後ひと混ぜし、茶こしで漉しながら、最後の1滴までしっかり注いだ。
「はいよ。 お待ちどうさま。紅茶とベイクドチーズケーキだよ。」
そういって紅茶とベイクドチーズケーキが目の前に置かれる。
「「いただきます。」」
そういって、まずは紅茶から頂く。
口に近づけたところで、マスカットフレーバーと呼ばれる強く甘い香りがした。
ダージリン・ティーかな?
口に含むと、やや渋みがあるが、甘い香りと相まって非常に飲みやすいものであることが感じられた。
「美味しい。」
「美味しいですわ。」
そして、ティーカップをソーサーに戻し、フォークを持ってチーズケーキを頂く。
口に運ぶと、しっとりと濃厚な味が口中に広がる。
「これも美味しい。」
「そうですわね。」
そして次々と口に運んでいるとすぐになくなってしまった。
「「ごちそうさまでした。」」
そうして、もう一度用意してもらった紅茶を飲みながら談笑していた。
「そうなのかい。このあたりにくるのは初めてなのかい。」
「ああ。だからこっちの土地勘がなくて、そして資金も心許ない。だから、とりあえず土地勘を養ったり、資金を稼ぐために今、いろいろ店を見て回っているところだ。」
「私は今日1日リートのサポートをしているのですわ。」
時刻は17時半頃、まだ俺達は談笑していた。
「そうかい。それじゃあ、今は職探ししてるってことかい?さっきの動きができるなら冒険者にでもなればいいんじゃないかい?」
「ああ。それも考えたけど先にいろいろこの街の様子を知っておきたいと思ってな。」
「そうかい。なら、うちで働くかい?」
と雇ってくれるような発言をするアンネ。
「もうお礼は受け取ったぞ?」
「たしかに今お礼は済んださ。けど、あんたの人と為りを知って、そのうえであんたは雇ってもよさそうだと思ったのさ。もちろん押しつけはしないけどね。どうだい?」
そう言ってもらえるのは確かに嬉しい。
けど、これに頼ってもいいものか?
「俺は身元不明だし、いついなくなるかもわからないぞ?」
「構いやしないよ。いつ辞めてもらっても構わないし、ウェイターがいやならキッチンで仕事をしてもらってもいいし、なんなら、材料の調達をやってもらっても構わない。いってくれればいくらでもあんたに合う仕事を作ってやるさ。」
といって笑うアンネ。
「本当にいいのか?」
「ああ。やってくれるかい?」
「俺でよければ手伝わせてくれ。」
そういって握手を交わす俺とアンネ。
そしてこの日、俺は"灯"の臨時従業員になった。
あ、味の表現がこんなに難しいとは思ってもみなかった……。
更新遅れました。
こぼれ話 WSOの世界観※今回は物語風ではありません。
プレイヤーとWSOの世界の者達は少し違う。
プレイヤーは生き返れるが、WSOの者達は生き返れない。
そして、プレイヤーのことをWSOの者達は頑丈で不思議な発想や術をもった遠くからきた者達と思っている。
彼らはプレイヤーがいう現実の世界もしくはリアルからきたということを、そういった地域から来たものだと認識している。
プレイヤーが目の前で死んでも、生きているが重症を負って不思議な術が発動して傷が消えた状態でまた会えるものと受け入れられている。




