9話 事後処理
「あなたは?」
と尋ねるリッツ。
「あたしはこの店の店長のアンネさ。」
といって親指で後ろの店を指さした。
「なるほど。それではアンネさん、私がここに到着するまでの経緯をご説明いただいてもよろしいですか?」
「ああ、構わないよ。」
といって説明を始めるアンネ。
「まず、その男は酔っ払ってうちの店にやってきたのさ。時間はたしか16時を回って少しといった頃だったね。うちは酒を提供しない店なんだけど、酒を出せって言ってきたから、うちでは扱ってないよ、っ酔っぱらいは帰んなって言ったら、自分は平和を守ってやってるんだから言う事を聞けって殴りかかってきたのさ。」
「!?本当ですか!?」
「ああ。その…アンネさんでしたか?」
「ああそうだよ。」
「アンネさんが殴られそうになっているのは私たちも見ていました。な、リリィ?」
「ええ。そうですねリート。」
「本当……なんですね。すみません。こいつに言いたい事はあるでしょうが、先に話を聞かせていただいてもよろしいですか?」
アンネが殴られそうになったところを見ていたと俺とリリィが証言すると、信じざるを得なかったのか疲れた様子で話を進めるよう促した。
「そして殴られそうになったところをいま喋ったその坊主が石を投げて気をそらしてくれたのさ。」
「石…ですか?」
「はい。石です。咄嗟のことでしたので他に投げるものを探している暇がなくて投げれるものを投げました。アンネさん、咄嗟のこととはいえ、店の中に石を放り投げてしまって申し訳ありませんでした。」
「いや、いいよ。あれのおかげで殴られずに済んだんだ。怒りはしないよ。」
「ありがとうございます。」
「続けるよ。そしてその男が今石を投げたのは誰だって怒鳴ったらそこの坊主が名乗り出たわけだ。こっからは坊主、あんたが喋んな。」
「リートと呼んでください。それではアンネさんから話を引き継がせていただきます。私にはその男が正気に見えなかったので、少しいらつかせることによって店の外に連れ出そうとしました。すると自分から外に出ていってくれたので我々もその男を追いかけました。」
「君にも迷惑をかけたようだね。同僚が迷惑をかけた。すまない。」
といって頭を下げるリッツ。
「頭をお上げください。私もいらつかせる目論見ではあったのですが、警備兵の皆様を軽視するような発言をしました。こちらからも謝らせてください。申し訳ありませんでした。」
といって俺も頭を下げる。
「君のいう軽視した発言があったとしても君のおかげでけが人も出なかったようだ。誤ってもらう必要はない。だから頭を上げてくれ。」
そういってお互いに顔を上げる。
誠実な人なのかな?リッツさんは。
「それでは話を進めさせていただきますね。そして誰かがおそらく警備隊に通報しに行っているだろうと思い、周りに被害が出ないように戦うことにしました。と言っても我々からは手を出していません。」
「それはあたしが保証するよ。」
「ありがとうございます。そして、拳を躱し続けていると苛立ったのか、剣を抜き、切りかかってきました。その時に服と薄皮1枚が切られました。そして、もう一度きりかかろうとしてきた時に、リッツさんの姿が見えたので、解毒魔法をかけて酔いを覚まさせました。以上が経緯となります。」
と話を締めくくった。
あっ、そうだ。血は止まってるとはいえ、
「すみません。少し[治癒魔法]をかけさせてください。
「かの者を癒せ。『ヒール』」
っと完了。」
自分に向けて『ヒール』を発動させた。
すげぇ、傷跡まで消えた。
「そうか。この一連の騒ぎを見ていたみなさんに質問します!今のこの方々の話に異論はありませんが?」
と周りの騒ぎを見ていた人々に問いかける。
「……異論はないようですね。それでは、この私。リッツの名をもってこの方々の証言は真実であると認めます。」
自分の名をもってアンネとリートの証言の正当性を保証するリッツ。
「それでは、私はこいつを本部へと責任を持って連れていきますが、アンネさん、そしてリートくん。何かこいつに対して要求はありますか?」
「あたしはないよ。」
「私もありません。」
「そうですか。それでは失礼します。あと、アンネさん。後日こいつの処分に関しまして詳しい内容のご説明に上がります。リートくんは処分について聞きたいですか?」
「いえ、結構です。」
「そうですか。もし、聞きたくなれば警備隊本部までお越しください。本部の場所はこの通りをまっすぐ進んで突き当たりを右にずっと進めば着きます。それでは失礼します。」
といって、ライアンを連れて歩いていくリッツ。
「アンネさん。私たちはこれで失礼いたします。さて、リリィ。続きと参りましょうか。」
「そうですね。リート。エスコートは任せますよ?」
「それは難しいですね。まあ、頑張ってみますよ。」
差し出すリリィの手をとって、歩きだそうとするリートに、
「ちょっとあんた達待ちな!」
と静止する声が掛かる。
「何でしょうかアンネさん。」
「何でしょうかじゃないよ!まだ、お礼が出来てないよ!」
「お礼ならさっき頂きましたよ?」
「あれじゃ足りないって言ってんのさ!折角だからうちの店に寄ってきな!お礼にごちそうさせてもらうよ。まあ、時間は少し早いけどね。」
と、誘われるリートとリリィ。
「どうしますかリート?」
「せっかくの好意を断るのも失礼だから、頂いていこうか。リリィ。エスコートはまた後でね。」
「ふふふ。楽しみにしていますよ。」
「そうかい。それじゃあ、入んな!」
といって店に招き入れられる。
そういえば、さっきはあのライアンとかいう男にばっかり意識を向けていたから店内の様子はあんまり見てなかったな。
そして店に入ると、内装は木で出来ていて、入ってすぐのところには温かみのある木製のテーブルとイスが所狭しと並んでいて、その間を縫うようにウェイトレスさんがあっちこっちに動き回っている。
そして、店の奥の方にはキッチンに向かってカウンター席が並んでいた。
ほのかに香る肉の焼ける匂いが店内を漂っている。
そして、壁に取り付けられたキャンドルランタンや、各テーブルにおかれているキャンドルランタンやの火がゆらゆらと揺れて店内を照らしていた。
「こ、これはまた見事ですね。なんだか落ち着きます。」
「ええ。本当に素敵ですね。リート。」
「ハハハッ、嬉しいこと言ってくれるじゃないか!ほら、そこのカウンター席に座んな。」
といってカウンター席を指さして言うアンネ。
俺とリリィは横並びでカウンター席に座った。
「いいお店ですね。どういう名前なのですか?」
「“灯”っていう名前さ。あと、あんたその喋り方やめてもいいよ。なんだかしんどそうだ。」
「……しんどそうな顔してたか?」
「ああ。してたね。あんたよりも長く生きているからね。それくらい気付くさ。まぁ、あんたの場合そこそこうまく隠せてるから普通に接客するくらいならバレやしないよ。」
「そうかい。にしてもいいの店だ。」
「ええ。そうですね。店のイメージにもあっていますね。」
「ありがとよ。あと、さっきのはそちらのお嬢ちゃんにも言ってるんだよ?」
とリリィの口調を指摘するアンネ。
「な、何のことですか?」
「お嬢ちゃんがその話し方の方が都合がいいならいいけどね。それにあたしも最初はわからなかったしね。そこの坊主が怪我をした時に素の口調が出てたよ。」
やっぱりあれが素の口調か。
次に話した時には戻ってたからイマイチ自信はなかったけど。
「バレてしまいましたわね。アンネさんの言う通りさっきまでの口調は作ってましたわ。こちらが素の口調ですわ。……にしても、いくら慌てていたとはいえ、口調まで意識が回っていないとは不覚ですわ。リートはどちらの方が好みですの?」
口調が徹底できていなかったことに落胆したような様子で、こちらに問いかける。
「俺はそっちの素の口調の方がいいな。」
「そうですか。それではこちらの口調の方でこれからは話していくことにしますわ。」
「ねぇ、あんた達。あたしを助けてくれた時から思ってたけどその息の合い方はなんなんだい?なんだかよそよそしいのに息が合ってるってどうなったらそうなるのさ。」
「初対面だけどな?俺達。」
「そうですわね。けど、なんだか息が合いますわ。」
「なんだか不思議な関係だね。あんた達。」
そういって諦めたような表情をしていた。
なんでこの主人公一向に戦わないのだろうか(困惑)
こぼれ話 "灯"の開店作業
"灯"の開店業務はなかなか忙しい。
お酒を提供しない方針のために味を濃くしてしまうとそれほど料理が食べれなくなるため、なるべく調味料で味付けをせず、いい塩梅が求められるのだ。
その為、仕込みはほかの店よりも時間が掛かる。
塩などの調味料を一切使わずに魚や鶏ガラなどをじっくりコトコト煮込んだ出汁をベースに様々な料理を作り上げていく。
そうした手間暇をかけて作り出される料理は繊細なのに濃厚な『旨さ』というものが確かにあり、キルトの街のみならず、各地で有名な店として名を轟かせている。
そして、その店の設立者かつ料理長のアンネは様々な商人から果ては王族にまで専属料理人としてスカウトされるが、その一切を拒否し、キルトの街の1角で営業している。
そんなうまさの秘訣の仕込みに加え、この店独特の開店業務の忙しさの一員となっているものがある。
それはキャンドルランタンだ。
たかがキャンドルランタンじゃないかと思われるかもしれないが、店中至るところにあり、溶けたロウの掃除、交換、そして着火といった作業が必要なものが両手両足の指の数ではまるで足らないほどあるのだ。
そうして、これほどの激務を終え、やっと開店なのだ。
そうして、時間をかけて準備した"灯"は開店する。
美味しいといってくれる客の笑顔を見るために。




