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紫緋のエテロクロミーア  作者: 柚姫みなと
序章 転生世界
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#4『その手に掴むモノ』

 帝都アースガルズは帝国の首都にして政治や経済の中心である。帝都には二つの学校があり一つはお嬢様専用の学校でもう一つは、貴族や平民が武芸や魔法を勉強する学校である。その両方の学校には図書館があり、アトラス学院にはセントアーク学園よりも多くの本が置かれているらしい。だが、伯爵邸にもそこそこ本はあり、ある程度必要な知識は身に着けることに成功した。しかも一度読んだ本の内容や剣技など一言一句一挙一動忘れず覚えているのでいろいろ便利である。それはさておき私は今伯爵と一緒に帝都に向かっている。


 事の始まりは、伯爵が屋敷に帰ってきた五分後に起こった。



「ルーフェミア嬢、明日俺と一緒に帝都に来てもらうから!」


 いやいや、意味が分かりませんよ!帰って来て早々に帝都に出戻りですか?大変ですね。あと、なんで私も一緒になのでしょうか?


「え、どういうことか説明をお願いします」


 混乱しながらも私は口を開きました


「いや、実はね陛下と謁見した時にペンダントと鍵を見せたんだけどね、あのペンダントに付いていた宝石がなんでも陛下がフローネ公に贈ったものみたいなんだよね?」

「えぇぇ!本当ですか?」

「本当だよ、それと鍵も見てもらったんだけど……この鍵が別邸の開かずの扉を開けてしまってね。その部屋に魔晶石があったんだけど、その魔晶石はフローネ家の者でなければ反応しないものらしいんだよ。それでその魔晶石が反応するか確認するために君を連れて来いって、陛下からの勅命を受けちゃったのさ」


 鍵を渡したのは正解だったようですね。これで魔晶石が反応すれば私がルーフェミア・エスカ・フローネであるとわか……そこで一時思考を停止させました。

 魔晶石が反応してしまうと私が大公令嬢確定となる。

 そんな人が帝国に居る。

 フローネ大公は陛下と親しい仲であった。

 結論、目立つどころの騒ぎではない。


「あの、絶対に行かなくてはいけないのですか?」


 私はそんなことを口走っていました。


「陛下から直々の命だからね、拒否は出来ないかな?」

「もし、魔晶石が反応したら陛下はどうなさるおつもりでしょうか?」

「陛下の友人であり更に亡国のお姫様、しかも勇者フローネ公の娘ともなれば……軽く国を挙げてのお祭りくらいはしそうだね」

「私は平凡に普通にそこそこ裕福に暮らしたいだけなのに……」

「その辺は陛下に相談してみるといい」


 どうやら帝都域は免れないようだ。私は重い足取りのまま自室へと戻っていくのであった。


――

―――


 翌朝、私はまだ日の上り切っていない時間に目覚めた。

 今日は伯爵に連れられ帝都にドナドナされる日だ。この屋敷に来てから約二週間、気づけば早いものだ。ダグラスさんには昨日のうちに伯爵から私を帝都に連れていく旨が伝えられていた。ダグラスさんや新兵の人たちとは割と仲良くできていたと思う。訓練のある日は毎回新兵の人たちと試合をしていたし、負けた人たちは次は勝つと意気込んでいただけに急にお別れするのは寂しいです。大の大人が鼻水を垂らしながら泣くのを見たのは初めてでした。ダグラスさんは、たまには顔を見せてほしいと一言言って新兵の人たちに喝を入れに行っていました。

 ベルさんをはじめとするメイドさん、いや侍女の方たちとも昨夜お別れを済ませました。



 帝都までは片道で四日ほど掛かるそうです。所どころ町などがあるので基本的にその町で休憩をとるそうです。ですが今回は時間がないので野営しながら三日の日没前に帝都に到着するそうです。

 途中で野盗に襲われたときは護衛の兵士さんが数人怪我をしてしまいましたが、無事に撃退していました。私だけ何もしていないのは申し訳なかったので、回復魔法のヒーリングを怪我をした兵士の皆さんに施しました。皆さんビックリしていましたね。伯爵に至っては「この歳でヒーリングが使えるのか、これは将来が楽しみだなはっはっは」と笑っていました。オーク本に書かれていた中級魔法なんですけど。

 そんな感じで、野盗や魔獣と時々遭遇し、兵士の皆さんに回復魔法を掛けたり空から襲ってきた大きな鳥に雷の魔法を使って兵士の皆さんだけではなく伯爵まで唖然とさせながら帝都に到着しました。



 帝都の伯爵別邸に着いた私はとりあえずお風呂に入りました。伯爵は魔法を使っていつも体を清潔にしているようなのでお風呂には入らないようです。帝都までの移動中、私にもその魔法をかてくれていましたが、汗でべとべとしていたり臭かったりはしないのですけど、日本人として生まれたからには、もう死んでるんですけど、命の洗濯はしたいです。お風呂最高!

 お風呂から上がると侍女の方が夕食の準備が出来ておりますと言って私を食堂へ案内してくれました。そして食堂に入るとそこには伯爵と数人の侍女の方々そして


「おぉ、待っていたよ。ルーフェミア・エスカ・フローネ姫」


 長い髭を生やした男性が一人いました。

 ここで二つの疑問があがります。まず一つ目は私の名前をこの人は知っていて、おまけに姫なんて敬称をつけていること。もう一つは、伯爵含め侍女の皆さんが委縮していること。まさかとは思いますがこの人がこの帝国を統べる皇帝…なんてことないですよね?


「そうだ自己紹介がまだだったね、私の名はジェニアス・ルウナ・ガイアス。この国の皇帝だ」


 ですよねー。なんとなくわかっていました。そして察するに突然押しかけてきたのでしょう。そういえば、私が生まれた時も仕事投げ出して公国に行ったって本に書いてあったような……


「そんな所に立っていないでもっと近くに来なさい。そして、顔を見せてもらえるかな?」

 私は「はい」と言って皇帝の前に歩いて行きました。私の顔を見た皇帝はなにか懐かしいような悲しいような複雑な表情をして口を開きました。


「まだ若いというのにアイリスとよく似た顔立ちをしておる。目元はエイジスに似たのか……」

「陛下、私は両親の顔を覚えていません。陛下にそんな顔をさせてしまうほど二人に似ているのですか?」

「あぁ、似ている。あの二人の子であると私は断言できる」


 私の両親って帝国皇帝からこんなにも信頼されているんですね。ちょっと驚きです。


「しかし、顔を覚えていないという事はヴァルフレアよ、あの話は本当のようだな」

「はい、彼女は我が領の騎士爵ダグラス・ブラッツが保護するまでの間の記憶がございません」

「陛下、聞いての通り私は保護される前の記憶はありません。ヴァルフレア伯爵から公国が滅亡したと聞いてもです」


 陛下は少し顔に影を落としたがすぐに語り始めた。


「ジェネヴァ公国は魔族に滅ぼされた」


「あれは二年前、魔族領の監視からの連絡が途絶え、その後神殿の封印が解かれたのだ。封印が解かれたばかりの魔王は力が弱く、再封印も容易なはずだった。だが、魔王はこちらの予想をはるかに超えた力を得ていた。各国から討伐隊を編成し再封印に臨んだのだが……結果は全滅。その後、魔王は姿を見せなくなり一時の平穏を得たのだが、再び魔王が現れたのだ、ジェネヴァ公国に。魔王の一撃によって公国は焦土と化した。生き残った者たちもいたのだが……」


 そこまで聞くと私は陛下の話を止めました。恐らくこれ以上聞いても気分のいい話にはなりそうになかったから。いえ、多分聞くのが怖いんでしょうね、両親の事……


「私には伝えなければならないことがある。魔王が全力で放った魔法を公国は五分持ちこたえさせた。並の攻撃ではなかったはずだ、そのわずかな時間で恐らく君を転移させたのだろう、転移魔法はアイリスの得意分野だったからな」

「どうして、そんな」

「子供と言うのは、希望なのだよ」

「私は、両親の顔も、声も、何一つ思い出せないのに……希望だなんて」

「今は思い出せなくてもいつか思い出せる、焦ってもいい結果は得られない」


 今にも泣きだしてしまいそうな私に陛下は一つの石を渡してきました。私がそれを受け取ると石は淡く光徐々に光り方を強めていきました。


「へ、陛下!それは持ち出し厳禁のフローネ邸の魔晶石ではないですか!」

「私が許可したなにも問題なかろう」


 陛下がそう言うと伯爵は「た、確かにそうですが……」と言いよどみました。


「確認は済んだ。このペンダントと鍵も君に返しておこう」


 陛下からペンダントと鍵を受け取りました。確認が済んだという事はこれで私はルーフェミア・エスカ・フローネと認められたのでしょう。


「君の身元は私が保証する。私にとって君は娘のようなものだ、何か困った事があれば遠慮なく言ってくれたまえ」

「それでしたら住む場所をください」

「住む場所か、皇城にと言いたいところだがそうではないのだろう?」

「はい、一人で生活していけるようなところがいいです」

「う~ん、しかし君の年齢で一人なのは危ないな。帝都はある程度の治安は維持されているが……」


 陛下が悩んでいると伯爵が余計な一言を言ってきました。


「陛下、ルーフェミア様は読書がお好きなようです。私の屋敷にあった本を二週間でほぼ全て読んでしまうお方です」

「本がお好きとは、そこもアイリスとそっくりではないか。本か……ならばセントアーク学園へ入学してしまえばいいのではないか?あそこは本も沢山あることだし」

「陛下、ルーフェミア様は武芸においても光るものがあります。昨日もガルーダに召雷を浴びせ倒していました」

「魔法までもか……ならアトラス学院がよい。あそこにも本はあるし何よりセントアーク学園よりはルーフェミア姫に向いていそうだ」

「あの、なぜ学院に通う流れになっているのでしょうか?」

「学院には寮があるから一人暮らしをするよりは安全であること、もう一つは君はまだ若い、友人などを作るのもいいだろう?」


 友人か…生前は友人と呼べる人は少なかった。中学生の時に転校して高校では友達を作るのが苦手で、大学時代は殆どバイトに時間を割いていた。友達か…欲しいな…

 私は入学してもいいけどあまり目立ちたくないので偽名を使いたい旨を陛下に相談しました。陛下はあっさり許可をし、名目上の後見人にヴァルフレア伯爵を指名しました。伯爵はこうなると予想していたのかあっさり引き受けてくれました。




 翌日、本来なら陛下への謁見があるはずだったのですが、昨日で事が済んでしまったので伯爵に連れられてフローネ別邸を訪れました。陛下からは「あの屋敷はフローネ家、つまり君の物だ好きに使ってくれて構わないよ。一応管理に何人かが常駐しているが、話は私がつけておくから気にしなくていいよ」と言われているので好きにさせてもらいましょう。


「……広い」


 外観もそうでしたが中も広いです。内装もいやらしくない程度に豪華に作られています。屋敷の大きさは伯爵の本邸と同じくらいでしょうか?


「今日からここに住むのか……やっぱり大きな家は落ち着かない」


 伯爵は明日領地に帰ってしまうようなので今日から一人暮らしです。厳密に言えば陛下から数名の侍女などを借り受けているので一人暮らしとは言えないのですが、学院に通うとなると帝都で買い物や、友達が出来たら遊びに行ったりするかもしれないので下調べの為に残りました。伯爵は別邸を使ってくれて構わないと言ってくれたのですが後見人になって頂けただけで有り難いし、そこまで迷惑をかけることも出来ないので、それは断ることにしました。とはいえ入学式まで半年近くあるので時間を持て余してニートになってしまいそうです。

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