#2『伯爵邸での有閑』
書く→添削→書く→添削→30回目の正直で執筆中……どんどん端折っていこう…
領主ヴァルフレア伯爵邸に到着しました。とても大きなお屋敷です。
ダグラスさんが馬車を降りると、恰好からしてメイドさんでしょうか?その人が近づいてきてお辞儀をしています。私はダグラスさんに呼ばれ馬車を降りメイドさんの前まで行きました。
「あらダグラス様、本日はまた綺麗な方をお連れですね」
メイドさんはにこやかに「初めまして、わたくしヴァルフレア伯爵にお仕えしております侍女のベルと申します。以後お見知りおきを」と自己紹介してくれました。私も自己紹介をしようと思ったのですがダグラスさんに止められてしまいました。ベルさんも不思議がっていましたがダグラスさんが「周りに人が居る」とだけ言いました。ベルさんはその一言で納得したようで案内を始めました。
ベルさんに案内され、屋敷の二階にある応接室へと通されました。ベルさんは「レナード様をお呼びして参りますので、しばらくお待ちください」と言って応接室を後にしました。伯爵様のお屋敷なのでさぞ贅の限りを尽くしているのだろうと思っていましたが、この部屋に入るまで絵画だとか鎧だとかそんなものは殆どなく、応接室はそれなりに気を使ってなのか絵画や観葉植物などが置かれていました。
数分程してベルさんと一人の男性が部屋に入ってきました。この男性がヴァルフレア伯爵なのでしょう。ベルさんに人数分の紅茶を用意してもらい伯爵が一口飲んでから口を開きました。
「それで、ダグラス。そちらのお嬢さんは誰かな?今日は我が領の新兵の訓練についての話だと聞いていたのだが」
ヴァルフレア伯爵は私を物珍しそうにみながらそう聞いてきました。
「こちらの娘は昨夜我が家の前で倒れているのを保護いたしました。それで、私では判断に困るお方だと思い今回この席にお連れした次第です」
「ダグラスが判断に困る娘か……ははは、面白いではないかテルシオの荒熊と恐れられた貴殿が困るとは、一体その娘はなんなのだ?」
まるで子供のような屈託のない笑顔をしながらヴァルフレア伯爵はそう尋ねてきました。
「――ルーフェミア・エスカ・フローネ、それがこの方のお名前です」
ダグラスがそう言うと、先ほどまで笑っていた伯爵は「証拠はあるのか?」と真面目な顔をして聞き返してきました。
「これが証拠になるかは分かりませんが、保護する際に首からペンダントが落ちまして、それが…これです」
ダグラスはポケットからペンダントを取り出しテーブルの上へ置いた。中央に黄色い宝石のようなものがはめ込まれており、裏には鍵に刻まれていた紋章と同じものと私の名前が刻まれていた。
「判断に困るね。フローネ大公の紋章だけでは彼女を認めることは出来ない」
あぁ、やっぱり少し面倒なことになってきました。不法入国に関しては触れられていないので良いんですけどね。でもこのままだと埒があかないのでとりあえず昨日手に入った鍵を見せてみよう。何か反応があればいいのだけど……
「あの、証拠になるかわからないのですが……」
と言って私は鍵を取り出しました。
「鍵か……」
鍵を見て伯爵は何か考え事をし「暫し待たれよ」と言って部屋を出て行ってしまいました。時間にして10分程でしょうか伯爵が何やら紙の束を持って戻って来ました。
「ダグラス、帝都にジェネヴァ公国…いや、フローネ大公の別邸がある。公国の滅亡後、我が帝国が別邸を管理するようになったのだが、宮廷魔術師が何人かかっても開けることのできない部屋があるのは知っているか?」
「いいえ、存じ上げません……まさか、この鍵がそれだと言うのですか」
「もし、この鍵でその扉が開けば公国に関しての新たな情報が出てくるかも知れない。他の部屋は文官共が粗方調べつくしているし、ルーフェミア嬢に関する情報は今のところ一つとして出てはいない」
何やらいい感じに話が進んでいるようです。口を出さずにもうしばらく聞いていましょう。
「ダグラス、悪いが俺は明日からしばらく帝都に行く。別邸は陛下の許可が下りなければどうにもならん。明後日から予定されている新兵の訓練は貴殿に一任しておく」
「明日からとは、随分と急ですな。」
「陛下と大公殿は旧知の仲だと聞いていたのでな。その娘が生きているのがわかれば陛下も喜ばれるだろう?」
「あなたも抜け目のない人ですな」
「そう言うな、あぁそうだ、ルーフェミア嬢は今日からこの屋敷に泊まっていくといい。部屋は余るほど空いているからな」
はっはっはと、笑いながら部屋を後にする伯爵を見届けました。その後、ダグラスさんは一旦家の方に戻るそうなのでお別れをし、私はベルさんに連れられて客室へと案内されました。
「ルーフェミア様、御用がありましたら私めに何なりとお申し付けください」
最初に会った時とは打って変わってお仕事モードのようです。正直、やりにくいので「そんなに畏まらないで下さい」と言ったのですが「それは出来ません、ルーフェミア様はすでにレナード様のお客様となっておりますので」と言われてしまった。
私はこの有り余る時間で何かできることはないか考え、取りあえずこの世界について知ることにしました。調べ物がしたければ図書館などに行けばいいのではないかと思い、ベルさんに図書館があるかどうか聞きました。
「図書館でございますか?図書館でしたら帝都にあるアトラス学院かセントアーク学園みございます」
「このお屋敷にはないのでしょうか?」
「図書館のように沢山の書物はありませんが、一般教養程度の書物でしたらレナード様が趣味で集めになられた本がいくつかございますが、如何いたしましょうかん?」
私が「それで構いませんので」と 言うとベルさんは「それでは只今お持ち致しますので、少々お待ちください」と言い部屋を出ていきました。出来れば本の置かれている部屋まで連れて行ってほしかったのですが、仕方ないですね。待つとしましょう。それにしても、この世界では本が貴重なものなのでしょうか?図書館なんて街に一つはあっても良さそうなものなのに帝都の学校にしか無いなんて、私がビブロフィリアなら発狂していたことでしょう。まぁ、私は人並みに本を読む程度の人間なのでそんなことにはならないんですけどね。
「ルーフェミア様お待たせいたしました」
ベルさんと数人のメイドさんが大小様々な本を持ってきてくれました。20冊ほど……
「あ、有難うございます」私はもっと少ない量なのかと思っていたので、目の前に山のように積み上げられた本の山に唖然としながらお礼を言いました。
「いえいえ、これも従者としての務めです。それでは何かほかに御用がございましたら何なりとお申し付けください」と言ってベルさんと他のメイドさんたちは部屋を出ていきました。気づけば時計の針は10時を過ぎていました。
机の上に山積みされた本を一冊手に取ってみます。鍵に刻まれていた名前の時もそうでしたが、見たこともない文字なのに何故か読めてしまいました。「魔導方程式?」魔法に関する本のようですね。次の本を手に取ってタイトルを見ると「戦技指南書(極)……」なんでしょう?中を読んでみると剣術や槍術に関する手引書でした。他の本も魔法や戦技に関するものが半数近くあります。他にも礼儀のすゝめ、学問書、などがありました。その中でもひときわ大きい本「帝国史」に目が留まりました。どうやらこの帝国で起こったことなどが書かれている歴史書のようでした。私は何となくその本を読み始めました。
速読は得意でしたので、およそ500ページ程度あった本は2時間かからず読み終えることが出来ました。最初のページは殆どが戦争の歴史のような感じでした。数百年に渡り国同士が争い、併合され、数百以上あった国が数十程度の大小さまざまな国になる。北方に存在したダルマス帝国が突如滅亡しその土地に魔族が巣くうようになる。そして今から30年前、魔族との大規模戦争に勝利し魔王を旧ダルマス神殿に封印。当時魔王を封印した勇者が私の父エイジスであり随伴していた魔法使いが現帝国皇帝ジェニアスであった。10年前にはフローネ大公夫妻に念願の第一子が誕生し、当時皇帝をしていたジェニアスが感動のあまり職務を放棄してジェネヴァ公国に足を運んだという。
「10年前に第一子……性別すら書かれていないのはどうなんだろうか?」
せめて性別や特徴などが書いてあれば自分と比較して検証できたのだが、それすら出来ない。溜息を吐き、椅子に寄り掛かかっていると扉をノックする音が聞こえた。
「ルーフェミア様、昼食の準備が整いました。」
声はベルさんのようです。私は「わかりました、今行きます」と返事をしました。
ベルさんに連れられて一階にある食堂へやってきました。伯爵も居るのかと思いましたが居ません。ベルさんによると明日の準備の為に部屋に籠るそうで、食事は自室でとるそうです。
食事をとり終えた後も特にすることはないので本を読みます。学問書は後回しでもいいかなと思い魔法関係の書物を漁ります。その中にオークでも分かる魔法大全というなんだか胡散臭い本があったのでそれを読んでみることにしました。オークが何かは知りませんが、見るからに子供向けの本だったので漫画を読むような感じで読んでみましょう。
読み終えました。基礎的なことから子供向けじゃないだろうと言いたくなるような難しい魔法まで載っていました。これがわかるオークというのは一体何なのだろう?いや、そんな事よりもっと大事なことがあるのではないか!なんで私サラッと読んだ魔法暗記してるの?さっき読んだ帝国史もだけど!
「こんなに記憶力いいはずないんだけどな私……」
この内容前日譚なんです。本編まだなんです。本編に早く入りたい。本編5話か6話からスタート予定…